迷宮都市トラモンヌ
「何だよ、あの大きさ」
トラモンヌを遠くに見ることができる丘で、アルフォンスの口から驚きの声が溢れる。
確かに今まで通って来たどの街よりも大きいことが遠目にも分かる。
その丘を下りて近づくにつれて、ますます街の大きさに驚く。
アルフォンスやミミたちは、自国ナンティア王国の王都ナンティーヌの大きさにも驚いていたくらいであり、それとも比べ物にならない都市には声を無くしている。
前世記憶があるルナリーナは、都市の大きさよりも城壁や城門の大きさに驚く。
現代日本では特に大きな城壁で都市を囲うイメージはなく、都心からずっとビルや家屋や広がり郊外になるにつれて少しずつまばらになっていくだけで、城門や城壁として思いつくものは無かったからである。
「流石のルナでも驚いているみたいだな」
「そういうアルたちだって」
「仕方ないだろう?ここに来るまで通ったいくつかの王都だってこんなに大きく無かったのだし」
「流石は帝国の副都というべきか」
「この辺りは帝都を含めて直轄領なのよね」
カルカーン帝国内でも、ナンティア王国やノーブリー王国のようにそれぞれの王家が治めている土地もあれば、皇帝が直に治めている直轄領もある。
江戸時代でも、江戸や大阪などの徳川家の直轄領と大名が治めている土地があった感じかと思ってしまうルナリーナ。ただその例の場合、天皇家と徳川家の関係があるので本当は同じではないのだが。
自分たちは南門からトラモンヌに入ろうとしているのだが、とても長い行列ができている。今はまだ昼間なのに、これが早朝や夕方だともっと大変なのかと思うと、この街の出入りの多さに気が滅入る。
「はぁ、何とか中には入れたわね。この調子だと宿を確保するのも大変だと思うから、衛兵に教わった宿屋のエリアに行ってみましょう」
「そうだな。馬を6頭も泊められる宿は少ないだろうし」
しかしそのような心配はする必要がないくらい、宿はたくさんあり、逆にどう選べば良いのか分からない。
「どうせ分からないのだし、長期滞在するわけではないのだから、適当に決めましょう」
割り切ったミミが何となくの感覚で選んだ宿は、見た感じそれほど高級に思えないのに、思ったより金額が高かった。
いつものように男女が3人ずつの部屋割りだったのだが、6人がそれぞれ銀貨を必要としたのである。しかも、食事はつかない素泊まりである。
「物価が高いのね。仕方ないわね」
「冒険者ギルドにも行きましょう」
宿屋の従業員に確認すると、迷宮都市の中心にダンジョンがあり、そこから魔物が溢れた時のために同心円での城壁が三重にあるのがこの都市の構造らしい。一番内側が一番頑丈でダンジョンを取り囲み、その次はもし溢れたときのための緩衝地帯になるため、腕に自信がある冒険者ギルドの拠点や剣術道場などが並び、一番外側の今の宿がある場所が通常のエリアであるとのこと。
ちなみに2番目の城壁にある城門は南側にしかなく、一番外側の北半分は貴族や豪商たちの高級エリアであるらしい。
冒険者ギルドは、そのダンジョンから出た南側にある本庁だけでなく、一般市街にもいくつか副庁があるらしい。ギルドを利用する者がこの迷宮都市には多いかららしい。
今から向かうのは、その最寄りの副庁の一つである建物である。
「え?これでも出先の一つなの?」
そうミミが言ってしまうほど大きな建物であり、中に入ってもそれだけの人が居た。
「ダンジョンから得た素材などは本庁で買取対応するのですが、その素材調達の依頼を職人や商人から受け付けたり、他の街への護衛依頼の対応をしたりするにはこちらが主になります」
受付嬢からの説明である。
道中で倒した魔物の素材納品や、6人分の登録変更などを行った上で、このダンジョンの概要を聞いてみる。
「そういう方が多いので、あちらで張り出してあります。受付では後ろがつかえてしまいますので、申し訳ありません」
「いえいえ、ありがとうございます」
確かに壁にこのトラモンスダンジョンの説明が書かれていた。
文字が読めない人には有料で説明するという声掛けをしている人もいるが、職員が咎めていないのでギルド公認の仕事なのかと思う。
幸いにしてこのパーティー6人は読み書きに不自由がないので、その張り紙を読む。
「へぇ。まだ踏破されたことがないんだ。でも、今までの最高到達階層は公表されないんだね」
「色々な思惑がありそうだな」
「で、これは便利な機能だな。入口から、行ったことがある階層に飛ぶことができるなんて」
「すごい仕組みだけれど、考えたら負け、どうせ誰にも分からないことなんだろうな」
詳しいことは、ダンジョンに近い方のギルドでの張り紙を読むようにと書かれているが、ここでも概要をつかむことができる。
最初はEランク魔物だけが出るような階層ばかりだが、だんだん深くなるにつれてDランク魔物、そしてさらにCランク魔物というように強い魔物になって行くとある。
そして、ダンジョンの入口で入手する魔水晶と呼ばれる物を個人個人に渡されて、それが自身の到達階層を記録することで、今までに行ったことのある階層にいきなり飛ぶことができるようである。
「これだと、たとえばこの前のジャイアントスコーピオンみたいに、そいつを倒すために途中を延々進み、帰り道も長い距離を歩くことなくいきなり倒しに行って帰ることができるんだろう?」
「素材の回収や訓練にはもってこいだね」
「だから帝国軍が強靭になったというのも理解できるね」
「雪国や海の階層があるならば、普通に平原や山岳地帯もあるのだろう?軍隊訓練には最適だな」
「魔物の素材で装備の強化もできるし、食糧も確保できるよね」
「みんなダメよ、行ってみたくなるかもしれないけれど、今日はそこで採れた海の幸を食べるのが目的よ」
ミミに注意されなければ、本庁の方に行ってもっと詳しい情報を知りたくなっていた仲間たち。
「そうね。まずは海の幸を食べられる店を探さないと」
「あと、そのダンジョン素材を使った武具や、魔導具の店を見てまわりたいわね」
「いや、満足できたよ」
「そうね。焼き魚だけでなく、こんな新鮮な生っぽいものまで食べられるなんて」
「生なんてワイヤックでも食べられなかったよ」
「腕のある調理人に頼まないと難しいらしいからな」
魚もそうであるが、貝、そして海藻など、育った孤児院では食べられなかったような料理に舌鼓をうつ仲間たち。
流石に王女や伯爵令息だったイグナシアナとジョフレッドは経験していたようであるが、それでも久しく食べていなかったことからの喜びは顔に出ている。
ルナリーナにすると、前世日本では普通にスーパーでも売られていたような魚介類がこの世界では食べることが難しいことを知ってから、ますます恋しくなったのでなおさらである。
また、誰かが伝えたのか醤油の文化もここにはあることに感謝でしかない。
「よし、海のものもしっかり食べられた。明日はもう少し色々な店を巡ってみたいな」
「そうね。これだけの規模の街に来たのならば、皆の強化につながる可能性もあるわよね。帝都に急ぎたい気持ちもあるけれど、そのくらいは」
イグナシアナも、特にルナリーナの魔法の強化に期待があるようである。
「でも、できればダンジョンものぞいてみたいよな」
「それは時間がかかりそうだし」
「そんなこと言わず、ちょっとだけ」
確かに今日はもう店も開いていない時間なので冒険者ギルド本庁の張り紙を見るだけならば、とミミも自身の好奇心に負けてしまう。
「なるほど。魔水晶には色がついているんだな。それで、Eランク魔物の1〜10階、Dランク魔物の11〜20階、Cランク魔物の21〜30階のそれぞれが木、鉄、銅に合わせた明るい茶色、黒色、濃い茶色か」
「冒険者の等級証明と同じで分かりやすいわね」
「それに、毎月満月の夜に階層の構造が変更されるなんてすごいわね」
「だから満月の夜にダンジョンから溢れてくる冒険者のために宿はたくさん空いていたんだな。今日はまだ20日だから」
「なぁ、ここまで来たんだし、その魔水晶も手に入れたいよな?」
「確かに今の時間なら空いているだろうし」
「ねぇ、ミミ。行ってみようよ」
ルナリーナも転移の仕組みは気になるので、魔水晶を入手したい。
皆がミミの方を見るので、ミミも根負けしてダンジョン入口に向かうことになる。




