#2
クラス分け試験は大きく分けて「勉学・基礎魔力・戦術」の3つに分かれている。
勉学は言わずもがな一般教養全般、基礎魔力についても魔力測定機に魔力を10秒間魔力を流し込むだけである。戦術に関しては自動人形相手に模擬戦をする形である。
まあそんなことはどうでもいい、どうでもよくなった。
なぜなら案内されたクラスには
(4人しかいないぞ⁉︎)
余裕で30人は入るであろう広い教室に机が横一列にしか並んでいなかった。
学院長に案内されたクラス、教札には「classS」と書いてある。
ここに来るまでに他のクラスを見たけど、各クラス10人はいた筈だ。それでさえスペースの無駄使いとか思っていたのに。さらに言えばクラスの呼称もclass1st、class2nd、class3rdと数字だったのになぜここにきてSなんだ?
などと教室の入り口で考えていると既に教室にいた内の1人が苛立った声が聞こえた。
「ちょっと、そんなとこに突っ立ってないで早く席に座ったら?」
そう言ったのは一番窓側の席に座っている女の子であった。指で机を叩き、俺に言っていたであろうにこちらを向かず窓の外を見ていることから相当怒ってらっしゃる。
なので俺はそそくさと唯一空いている席である真ん中の席に座った、真ん中って人気ないよね。
俺が席に座ったのを確認した学院長は、いつのまにか教壇に立っていて、黒板にコツコツと文字を書きはじめた。
「よし、これで全員揃ったな。それではこれからホームルームを始める」
教室が僅かにどよめく。すると窓側から2番目、つまり俺の左隣の女の子、先程の苛立ちガールとは打って変わって物静かそうな人である。その子がが恐る恐る手をあげる。
「学院長がこのクラスの担任なんです…」
「そんなわけがなかろう?貴様らの担任は演習場で準備中である」
食い気味に否定した学院長は黒板を指差した。
「まずは自己紹介からだ、左から順に自己紹介をしていくがよい」
あまりの展開の早さに唖然としていたが、学院長からみて一番左、廊下側の席の1人が立ち上がる。
「拙者はセツカ・キサラギというものだ。出身は王国から東に外れた所にあるシュンランという街になる。お見知り置き願おう」
あまり詳しくはないけれど、これが東方美人ってやつなのか。
それだけいうとセツカは背中にかかるほどの黒髪をまったく乱さずに礼をする。一挙一動にまったく無駄がない感じがするな。
キサラギ…なんか聞いたことがある気がするな、なんだっけ?
考えていると、右隣座っていた男が次は自分の番と悟ったのであろう。
「次は僕かな」
そういうと、さっとと立ち上がった。いかにも好青年みたいな顔立ちである。きっとモテるんだろうな。
「僕はライト・エングリル、王都の出身だ。せっかくの同じクラスになったんだ仲良くしてくれるとありがたいかな」
今までこの笑顔で何人を落としてきたんだろう?サラサラの金髪を手櫛で撫でる。あれ素でやってるんだろうか、恐ろしや。
てかこの顔なんかうっすら見覚えあるな?
ライトはこちらの視線に気づくと、俺が何を考えていたのか察したらしく
「そうそう苗字で気づいたかもしれないけど、入学式で挨拶していたレクト・エングリルは僕の兄になる。といってもあんまり似てないけどね」
と付け足した…スマイルで。
いや言われてみれば面影はあるけどあんまり似てない気がしなくもなきにしもあらず…ってか名前今知った、苦労性の人としか認識してなかったな。
とまあ順番でいったら次は俺か。
俺は立ち上がって簡単に自己紹介をする。
「俺の名前はゲン・ロックベル。え〜と、出身地は王国からだいぶ北の方にあるノグランって村だ……ぇーよろしくお願いします…」
だめだ、ライトみたいになんか言おうと思ったけど何も出てこない!だって俺の村ジジババしかいねぇんだもん!緊張しかないわ!
と、頭の中で言い訳をしつつ席に座る。
さて次は左の女の子が自己紹介をする番だがなかなか立ち上がらない。腹痛か?
俺が、大丈夫か?と小さく話しかけると
ガタッ「は、はい‼︎」
と勢いよく立ち上がった。その勢いで椅子が後ろに飛んだ、いくらなんでも緊張しすぎだろ?
栗色ショートの女の子は飛ばした椅子をわなわなしながら戻すと自己紹介を始めた。
「わ、わわわたしの名前はシャル・レーヴァテインでぇしゅ!」
…噛んだな、しかも盛大に。シャルは噛んだことへの恥ずかしさで真っ赤にした顔を両手で隠している…なんか可愛い。
それにしてもレーヴァテインか、かっこいい名前だな、と軽く考えていると右から
「レーヴァテインだって⁉︎」
先程の爽やかさは何処へ?ライトは驚きの声をあげた。ライトの奥の席をよく見てみると、セツカも目を見開いてシャルのことを見ていた。
そんなに有名なのかと学院長に目で訴えてみる。
学園長は俺の訴えに気づいたのか、呆れ混じりに
「まあ、知らない奴はいないと思うが、彼女は今や大陸全土に広がる聖樹ユグドラシル教会の出身だ。そしてレーヴァテイン等の聖剣の名はその教会の人間でも限られたものにしか与えられない」
「はあ…」
教会のことは知っていたけど、それは知らなかったな。
俺が関心しているとシャルは俯きながら両手を胸の前に組み、これまた恥ずかしそうに。しかし表情は少し長い前髪によって伺えない。
「そ、そんな大層なもんじゃないです…。名前を貰ったのだってたまたまです…」
そんな謙遜するもんでもないと思うけどな、シャルは両手を組んだまんま席にしずしずと座る。あれってお祈りのポーズが?
「最後はわたしね」
そう言って一番左の赤髪ポニーテールの女が立ち上がる。
「ロズよ、よろしく」
……え
「えっと…出身とかは…」
「別に強制じゃないでしょ?」
ライトが空気を汲み取って聞いてみるが一蹴された。あの笑顔にほだされないとは、やるなロズとやら、教室に入った時のあれは水に流してやろう。
ただまあ教室の空気が少し悪くなった気がする。学院長はその状況を知ってか、薄い笑みを浮かべている。あの人楽しんでるな。
俺も一応助け舟を出そうとするが
「まあ誰にでも言いたくないことの一つや二つあるだろう」
とのことだ。言いかけた口を閉じる。
当の本人、ロズはもう終わったでしょうと言わんばかりに席についている。
このクラスメンツが濃いな、こう考えるのは俺だけじゃないだろう。左右を見る。否、疑問に思っているのは俺だけかもしれないな。
自己紹介が全員終わったが、学院長は何も言わない。目を閉じ静かに佇んでいる。俺たちもどうしたらいいか分からず、学院長がはなしだすのを待つ。
僅かな静寂、その静寂を破ったのは廊下からの足音だった。
タッタッタッタッ……ガラッ
「お、お待たせしましたぁ…」ぜぇぜぇ…
入って来たのはメガネの女性、綺麗な長い銀髪は走って来たせいか乱れている。セツカと同じくらいの長さだな。
この人がclassSの教官と知ったのは演習場に移動してから間も無くであった。