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翌日の放課後、同じ面談室で恵とセリアを向き合っていた。今日もシャーリーは登校しなかった。噂では、まだミュールエスト領も出ていないと言う。

「セリア様。ご自分で何か出来そうなことを思いつきましたか」

「・・・申し訳ありません。折角、考える機会を頂きながら、良い考えは浮かびませんでした。時間もかけていられないのに不甲斐ないばかりです」

「・・・私から一つ提案があります。聞いて頂けますか?」

「はい。お願いいたします」

「ただし、この提案を受けると、セリア様の立場は大きく変わることになります。はっきり申し上げて、いままで思い描いていた人生は捨てることになり、後戻りも出来なくなります」

「・・・承知しました。先ずはお聞かせください」

「薄々、感じられていると思いますが、私には鑑定術のスキルがあります。失礼とは思いましたが、昨日のご相談の折に、ステータスを拝見しました」

「・・・お話し下さり、有難うございます。ステータスは国にも提出していますしメグ様のことは信用していますので構いません。それより、やはり鑑定術をお持ちだったのですね。次から次へと素晴らしい発明をされるので、何かお力を持っているとは考えていましたが、鑑定術でしたか。ですが、メグ様は鑑定持ちとして登録されていましたかしら?」

「ちょっとズルをしています。鑑定隠蔽のスキルがあるのです。お父様には鑑定を持っていることは伝えていますが、ステータスの石板にも表示されないので、申請書が作れない状態です。お父様に話しているので、王族の方もご存知かと思いますが、今のところ何も言ってきていません」

そう言って、恵はぺろりと舌を出して笑った。

「あの黒い石板で見破れなかったということですか?メグ様は結構悪い方だったのですね」

「はい、その通りです」

「それで何か、私のステータスで気が付いたことがありましたでしょうか?」

「えぇ。十分な訓練とレベル上げが必要になりますが、鑑定術を得ることが出来ると思います」

「えっ・・・鑑定術はギフトでは無いのですか」

「まだ、実践したことはないのですが、ギフト以外にも発現させることが出来そうです」

「でも鑑定術と言えば・・・」

「そうです、今話していた通り、特定スキル保護法により国の管理下に置かれますし、登録者のほぼ全員が王族または有力貴族に囲われています。逆に言えば、それだけ有用なスキルな訳です」

「人生を変えると仰った意味が分かりました・・・すこし怖いですね」

「このまま、魔法を学び魔術を発現し魔術師として進む道もあります。ですが希少性を考えると鑑定術が勝ります。恐れる気持ちはわかります。ですからここでもう一度セリア様のご意向を伺います。お話を進めますか」

「メグ様。私自身は良い打開案は浮かびませんでした。しかし、覚悟だけは出来たつもりです。どうぞ、お話を続けてください」

セリアは口元を引き締めて恵を見つめた。

(セリアちゃん健気だ)

「承知しました。これから話すお話には、他に漏れることが憚られることが含まれています。もし、今回セリア様が私の提案をお受けにならない場合も、しかるべき時までは胸の内にお留めください」

「承知しました」

「実は、私の鑑定術のランクは結構高く、いくつかのスキルについては、発現条件も推測することが出来ます。それによると、鑑定術の発現は、INTがある程度高いこと魔力操作術があり習熟したランクであることが前提となります。ところがMNDも上げてゆき魔術スキルを高くすると発現が遠のきます。チグハグでしょう。魔術師を目指せば魔力操作術と魔術スキルはセット高めますが、それをやると鑑定術は発現しないわけです」

「なるほど、それで鑑定術が発現する方がいらっしゃらなかったのですね」

「それに加え、対象物が何であろうかと観察する経験値が必要になります。経験値は、より集中すること必死になることが必要で、ただ繰り返して観察していてもなかなか上がりません。魔術師を目指す過程で、一時的に発現条件を満たすステータスとなっても、経験値を上げなけば発現しないのです。セリア様は、INTが高く学業がすぐれ、魔力科に属され魔力操作実に長けています。加えて、勤勉で努力家であますが、まだ魔術は発現していません。この状態で、鑑定術の元になる経験値を積めば発現すると思います」

「なるほど。でも勤勉で努力家などそのように、立派なものでは・・・」

「謙遜されずともよいですよ。ただし、圧倒的に必要レベルが不足しています」

「承知しています。幸運にも鑑定術が発現してもバランスよくスキルポイントを振ることが出来ないと、不幸なことが訪れると・・・」

「はい。実際には鑑定術には、本来の意味の神の祝福としてのギフトと偶然発現の条件を満たしてスキルを得た場合の二つがあります。前者の場合は、スキルを支える身体が出来ていませんので、更にスキルポイントを振ると簡単に精神を壊してしまいます。後者の場合は、発現の下地があるので、そこまで酷い状態には成らないようです。しかし、鑑定以外は子供並の能力しかないとなれば、それも問題だと思います」

「でも、そのように都合がよいことは・・・」

「解決するには、もっとレベルを上げてしまえば良いのです。そして、レベルを尤も効率的に上げる方法は・・・」

「私には、魔獣を討伐することは出来ませんが」

「私たちのレベル上げに一緒に行って頂きます。私が今回の事件で心を病み療養したことはご存知と思いますが、その一番の理由はアリスお姉様が私をかばい、足を痛めたことです。そのことに私は苛まれました・・・」

「メグ様の優しい気持ちがそうさせたのですね」

「いえ、そんなことではありません。アリスお姉様が傷つかずに済むような方法がありながら、それが出来なかった後悔からです・・・」

恵は目をつぶり何かに耐えるような表情になった。その拳は強く握りしめられている。軽いフラッシュバックがきた。

「・・・メグ様。大丈夫ですか」

セリアの声はかすれていた。

「ふう。もう大丈夫です。失礼しました」

恵は微笑んでセリアに言葉を返した。

「そこで、私は護衛を強くして、私の大切な方々を、そして護衛自身も、傷つかぬようにしようと計画しています。その最大の方法が魔獣討伐によるレベル上げです」

「それに、私も同行するのですね」

「はっきり言って、危険が伴います。最低限の訓練も行って頂きますが、万全とは言えません」

「私の価値を示し、当家がクロエ殿下の庇護を受けられるのであれば、私は厭いません」

セリアに真っ直ぐに見つめられて、恵は俯いてしまった。

「・・・私は狡いのです。本当は、その気概をお示しになれば、クロエ殿下はセリア様を庇護なさるでしょう。何も危険を冒すことはないのです。鑑定術のスキルを身に着けて頂くのは私の都合でもあるのです。断れない事情を抱えているの知りそれを利用しているのです・・・」

「本当にメグはずる方ですね、露悪的にそのようなことを仰られては、ますます断れないですよ」

「・・・セリア様」

「でも。それでいいのです。私は、メグ様から一方的に保護される者になりたいわけではありません。たとえ力の差があっても、友として在りたいのです」

「有難うございます」

「お礼を言うのは私の方です。両親は領地にいますので、この件は私に委ねられています。ミィシェーレ家の意向としてライアン様に派閥の移籍を、クロエ殿下に保護をお願い申し上げます」


今日はクロエから呼び出しがあり、昼食を王家専用の食堂で共にすることになっていた。恵は、この機会に疑問に思っていることや護衛のレベル上げ、セリアの保護の話をするつもりだ。

「お久しぶりでございます。クロエお姉さま。アクセル殿下」

食堂に入ると既にクロエとアクセルが席についており、恵はカーテシーをして挨拶する。

「大変な時に、側に付きいていてやれず済まなかったな」

「いえ、クロエお姉さまに手配して頂いた治療師のお蔭で助かりました。有難うございました」

「大したことではない。とにかく良かった。調査委員会のときは酷い顔色をしていたからな」

「気を失いクロエお姉さまの大立ち回りを拝見できなくて残念でした」

「言ってくれるな。さぁ、こっちにこい。まずは食事にしよう」

食事は、明るい雰囲気で進んだ。食事中クロエは、恵の回復を喜ぶ言葉を繰り返した。

「なにせ、メグの具合が悪いとなると、こいつも使い物にならなくなるからな。ははは・・・」

「姉上、なっ、何を仰られます」

「事実ではないか」

朗らかに笑っていたアクセルが焦ってクロエに抗議するが、彼女はどこ吹く風だ。

(姫様、危ない話をしないで。アクセル王子も赤い顔しないで。次は王子のファンの子たちに襲撃されるよ)

「そう言えば、クロエお姉さまが委員会で仰った私が付き人になるお話を父から言われました」

「そうだ。早々に準備にかかり、できれば来年早々からと考えている。私は、アカデミーを卒業するが、当然メグは通いながらで構わない。聞いての通り、今回の処置はお前の保護が目的だからな」

「私も、クロエお姉様の下に行くのは喜ばしい事なのですが、その前にお伺いしたいこと、お願いしたいことが幾つか御座います」

「ほう、何なりと申してみよ」

「一つ目は、ミュールエスト辺境伯夫人のことです。発表では事件の動機は、夫人の過去に関する個人的な逆恨みとされていますが、詳細には触れていません。お父様からも、妃候補の派閥争いでの当家へ逆恨みしたと簡単な説明しか受けていません。私の知る辺境伯の功績とこれまで耳にしたお人柄と今回の事件がどうしても結びつきませんし、このことについては、お父様が何処まで正直に話してくださるか疑問があります。発見された手記の閲覧は可能でしょうか。また、クロエお姉様が知ることをお話しいただけないでしょうか」

「なぜ、そこに拘る」

「シャーリー様は私の大切な友人ですし、フェリックス様は実際に私を助けるために従士を率いてこられました。きちんと向き合うために知っておきたく存じます」

「お前ならそう言うと思っていた。これは、私が入手した手記の写しだ。読んでみるとよい」

クロエは恵の問いかけを予想し用意していたらしい。護衛のアノックが羊皮紙の束をマジック・バッグから取り出し恵に渡した。

「・・・なんと言うことでしょう」

読み進めるに従い、恵の表情が硬くなる。

「裏を取ってみたが、書かれていることは事実と思われる。ただ、妃候補のときの派閥間での醜聞の応酬は、穏健派も強硬派も互いに行っていたので、それをもって一方的にスフォルレアン家を恨むのは筋違いと思う。最愛の妻を亡くしたことでノエの心も病んでおったのだろう」

「これは私の勝手な思い込みかもしれませんが、ミュールエスト辺境伯夫人は復讐を望んでいた訳でなく、だれもが周囲の都合や思惑による理不尽な力で虐げられない国になってほしいと願ったものと思います。聡明な辺境伯が、どうして復讐に走ったのか不思議でなりません」

「私もそう思うよ。逆に言えば、彼を狂わせるほど夫人の喪失感は大きかったのやもしれぬ。・・・して、これを聞いてどうするのだ」

「シャーリー様とフェリックス様とお会いして話をしたいと存じます。私に何ほどのことが出来るかは分かりませんが、虚しい憎しみの連鎖にだけはとらわれてほしくないと考えております」

「マルグリット。そなたは、優しくも強い女性なのだな」

アクセルが噛みしめるように呟き、クロエも頷いている。

「二つ目としては、クロエお姉さまも下へ行くにあたり、護衛部隊は解散せずとも良いと言われたのです。専属護衛として思い入れがあるのでそれは良いのですが、城勤めになる私には必要が無くなるはずです。何故かとお父様に伺ってもお答を頂けません。これではクロエお姉さまの下へ行くのは一時的な処置で、その次が既に決まっているようにしか見えません。何が自分の身に起こっているか知りたく存じます」

「・・・そうか・・・女性の王族など政略結婚の駒でしかない。お前だからいうが、既にルーフォン公爵家のカルロ殿との婚約の話が進んでいる。何れ王族から離れる身だ。これではだめか?」

「公爵家の後ろ盾でも十分のように思えますが?」

「さすがに無理があるか・・・ほれ、アクセルどうする」

(えっ、何でこのタイミングで王子様???)

「こういうのは、男から言うものだろ」

(なんで、王子様が真っ赤なの???)

「・・・まだ正式に決まったわけではないのだが・・・直轄地と決まったミュールエスト辺境伯領もいつまでもそのままとは行かぬ。・・・父上も御身体のこともあり、近く兄上が王権を譲り受ける。スペアとしての任は兄上に御子かお生まれになるまでだが、一応の区切りとはなる。そこで私を、辺境伯とする話があるのだ」

「それは、理解できる采配ですが・・・それと私が・・・」

「辺境伯となった時には、マルグリットも来てほしい」

「アクセル殿下に仕えよと・・・?」

「そうではない・・・私に・・・嫁いできてほしい・・・」

「・・・」

「マルグリット?」

「あっ、いえ、その・・・ああ、私急用がありました。大変失礼なことですが、下がらせて頂きます」

「どうした、まだ話すことがあったのではないか」

「お姉様・・・それは、また・・・とにかく急いでいますので。申し訳ございません。失礼いたします」

恵は、慌てて王室専用食堂を出て行った。

「あのようにあわてたメグを見たのは初めてだな。ふふふ、可愛らしいではないか」

「何を、仰っているのです。婚儀のことなのに、手順も踏まず、直接話すなど、非常識な事をしてしまった。あぁ、きっとマルグリットは呆れかえって愛想を尽かしたに違いない・・・どうしてくれるのです。姉上!」

「そうか?メグはこの手のことはダメだと思っていたが、あの様子・・・アクセル案外いけるかもしれぬぞ」

「何を訳の分からないことを・・・恨みますぞ、姉上」


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