王都へ 6
昼を過ぎるころになって、漸く出発することが出来た。二十七名の盗賊を一列に、その周囲を討伐隊の冒険者が警戒しながら獣道をぞろぞろと進んで行く。盗賊と言っても、そのほとんどは、食い詰めた農家の次三男やスラムの孤児上がりだ、なまじ強かった者は切り殺され、実力の違いを見せつけられて、反抗の気力があるものは殆どいなかった。恵たちが、歩きながら保存食のクッキーを口にするのを盗賊たちが切なそうな目で見ている。
カルに近づいた頃、列の前方が騒がしくなった。
「なんだい、なんだい、ぞろぞろと」
(アリスの声!)
見ると、狩人姿のアリスがいた。彼女は、恵と歩いているルシィを見て。
「ルーじゃないか。あんたまだ冒険者やっているの。危ない事ばっかしてないで、早く男見っけて落ち着きなって」
「あっ、いや」
アリスはルシィに寄ってきて、親しそうな笑顔を向ける。
「(合わせて)いや、仕事中だったかい。落ちついたら、遊びにきなよ。じゃぁね」
「あっ、はい」
そういうと、いかにも獲物探しに行きますといった、雰囲気でアリスは藪の中に入っていった。
(どっちかって言うと、ルシィさん硬い方だし、アドリブはダメね)
「これ、渡されました」
ルシィがこっそりとアリスからのメモを見せる。メモには”北門に従士団、ギルドのある南門に行け”とあった。
「ルシィさん、エリアス卿に伝えて。なんか理由付けて」
「えぇ、何て言えば・・・メグ様やってください」
「年齢的にルシィさんからの方が良いでしょう」
そこへ、何気ない風を装いクレーが寄ってくる。そして声を低めて。
「繋ぎから連絡かい?」
「・・・」
「だって、あんたたちここのもんじゃないじゃん。地元の狩人と親しいってのは、ちょっとね。私でも気付く方法しか取れなかったってことは、緊急事態だろ」
「・・・分かった。協力して。うまいこと言って、エリアス様に南門へ向かうよう進言して」
アリスのメモを見せながら、恵がクレーに頼む。
「任せて」
一言いうと、クレーはエリアスのもとに移動して行った。
「エリアス様、ちょっとよろしいですか」
「なんだね、クレー殿」
「私たちカルの者は、盗賊の被害を受けてきました。中には、家族を殺された者もいます」
エリアスは真剣な眼差しでクレーを見つめ頷く。
「これだけ多くの盗賊が、北門から入ってギルドのある南門まで町中を通ると、住民が怯えたり、騒いだりします。少し遠回りになりますが、南門から入っては如何かと思います」
凱旋して盗賊を退治したことを見せつけることは多いのだが・・・エリアスはちょっと考えたが、後ろにいる恵が頷くの見て。
「いや、これは配慮が足りなかった。進言感謝します。皆、聞こえたか。カルには南門から入る」
と大きな声で宣言し、進路を左にとった。
これより少し前に戻る。カルの領館の執務室にいるティラニーとアミンは慌てていた。
「なんだと、四倍近くいたのだろう!なんで、負けるのだ」
「すぐに、捕らえた者を連れて、カルに来ます」
「分かっている。どうするのだ」
「いや、流石にこうなってしまいますと」
「そうだ、従士団に命じて北門を固めさせ、町に入る前に賊も拠点から持ち出したものも、全て接収させろ」
「今回はギルドの案件です。それでは、ギルドと事を構えることになります」
「何のためにギヨムに金を握らせていたんだ。依頼の譲渡証明書を作らせて、門を固めさせる従士に渡せ。急げ、時間が無いぞ」
アミンは慌てて、従士団の詰所に向かった。
南門に近づくと、エリアスはニコラとマティアスにギルドマスターに出向いてもらえるよう先ぶれを命じた。ギヨムの妨害を考慮しての対応である。二人は、走り出して南門に向かう。言い含められている彼らは、何気ない顔で冒険者カードを示して門を通り、すぐ脇の冒険者ギルドに入ってゆく。
昼過ぎのギルドは閑散としていた。二人はそのまま受付に行き、依頼達成に関連して緊急の要件があるとしてギルドマスターのガハンを呼んでもらった。
しかし、出てきたのは副支部長のギヨムだった。彼は、二人の顔を見てハッとするが。表情を戻して。
「帰った、帰った。今回の依頼は領主様の案件となった。領館に行け」
と言って追い払うような、しぐさをする。
「そんなことは聞いていない。ギルマスに合わせてくれ」
マティアスが、叩きつけるように言い放つ。
「貴様、副支部長の私に逆らうのか」
「逆らっていない。納得できないと言っているんだ」
「分かった、お前はギルドの登録から抹消する。カードを置いてさっさと出て行け」
「横暴だ。登録抹消はギルドマスターの権限だ。お前が決めることではない」
「黙れ、黙れ」
そのとき、受付の後ろのドアが開き、温厚そうな中年男が顔を出した。
「黙るのはギヨム、あなたの方です。マティアス君の言う通り、登録抹消は私の権限です」
「ギルマス・・・」
「何の騒ぎです」
「無礼な冒険者が、暴れているだけです」
「何言ってんだ、俺は依頼完了報告のためにギルマスに面会を求めただけだろ」
「おぉ、調査は終了したのですか」
「調査に出向いたら、盗賊の待ち伏せにあった。だが、それを跳ね除けて討伐してきた。もうすぐエリアス様が、捕らえた盗賊を連れてここに来る」
「素晴らしい。で、何故揉めていたのですか」
「依頼は、領主様預りになったから立ち去れと言われた」
「ギヨム。どう言うことです」
「先ほど、領館よりティラニー殿の使者が来て、要請がありましたので私が取り計らいました」
「依頼の譲渡は、私の承認が必要なはずです。私は聞いていませんが」
「たいそう急がれている様子でしたので」
「私は、今日はギルドにずっといましたが」
「一刻も早くと仰られて」
「納得できませんね。その書類は無効です。私の許諾なくギルドの印を使ったのですか?それは越権行為です」
「今さら、戻せません」
「いえ、あなたがやったことです。あなたの責任で、ティラニー殿に謝罪し書類を取り戻してください」
ギヨムは青い顔をして立ちすくしている。
「エリアス様が、気になることがありギルマスにご足労願いたいとのことなんだが。出て来てもらう訳に行かないか」
「なんだね」
「それは・・・まぁ、エリアス様の口から聞いてくれ」
「そ、それなら、ギルマスがわざわざ出向くまでもない。副支部長の私が行く」
「エリアス様は、ギルマスにと仰られているし、あんたは譲渡証明書の件で忙しいだろ」
「いや、それは・・・」
「エリアス殿のご所望なら私が行きますよ」
「その前に、ちょっとお願いしたいことがある」
そう言って、マティアスがガハンに耳打ちすると、彼の表情が俄かに厳しくなる。
「少し待っていてください」
そういうとガハンはマティアスの元を離れ、執務室に入り数分でまた顔を出した。
「お待たせしました。さあ行きましょう」
何か言いたそうな顔をしているギヨムを残して、三人は冒険者ギルドを後にした。
南門を出ると、捕らえた盗賊を引きつれた一団がもう見えるところまで来ていた。マティアスとニコラが大きく手を振ると、エリアスが答えて手を振りかえした。突然、現れた集団に往来の人は何が起こったと注目し始め、足を止めて見ている者もいる。門番の衛兵も何事かと、門から出てきた。
「ガハン殿、お呼び立てして申し訳ない。調査であったが、盗賊団と遭遇してしまい、討伐を行ってしまいました。ここに討伐の証として、捕らえた盗賊二十七名と拠点より押収した品を持ってきました」
「それは、お疲れ様でした。さすがエリアス様、実に仕事が早い」
「先触れで知らせましたが、相談したいものを見つけてしまい・・・これがそうです」
エリアスは、例の封蝋のついた書状を差し出した。ガハンも懐から、封蝋のついた手紙を取り出し、二つを見比べる。
「確かに、同じ封蝋のようです」
ガハンが持参したものは、かつてオクシーヌ男爵が、ギルドマスターに送った手紙であった。
「書状の中身もご覧ください」
促されてガハンは渡された書状の宛名を先ず確認する。宛名は”アダン”となっている。更に中身を確認する。
「これは、由々しき内容ですな。それと、この筆跡、見覚えがあります」
手紙の日付は、昨日。内容は、ギルドの依頼でエリアスと二組の冒険が拠点近くに調査に向かうので、これを殺害し、その後、直ちに拠点を焼き放棄するよう指示したものだった。
「宛名のアダンは、盗賊団の首領で捕らえてきています。観念したのか従順で、副支部長のギヨム殿には渡さず、必ずガハン殿に伝えるよう忠告までしてくれました」
「ほう。それは、それは。エリアス殿のお人柄ゆえですね」
「いや、私ではないのですが・・・」
ガハンが厳しかった表情を少し緩める。それでは、依頼完了の手続きに入ろうかと話し始めていたところ、俄かに門が騒がしくなる。




