王都へ 5
皆がホッと一息つく。
カミーユとリュカが浅手を負っていたのでヒールを掛ける。見ると、先程の髭面の冒険者が脇を抑えてしゃがみこんでいた。
「おっちゃん、また刺されたの」
「面目ねぇ」
ヒールを掛けると。
「有難うな。だが、俺はおっちゃんじゃねぇ」
と言って先ほどと同じように恵の頭を乱暴に撫でた。
(だから、撫でるなって)
周囲を見回すと、林の隙間から盗賊の拠点と思える建物が見えた。まだまだ、余裕のあるエリアスとニコラが確認しに行く。残った者は、投降した者を縛り上げたり、怪我をした者には手当をする作業に掛かった。
恵は、大剣を握ったままだった左手を持って、座り込んでいるリーダー格の男の下へ向かう。
「さあ、治療するわよ。おとなしくしてなさいよ」
「俺はいい・・・」
「これからカルまで護送するのに、自分たちで歩いてもらうんだからね」
「大丈夫だ・・・」
「そんな青い顔して、何言ってんの。さっさと手ぇだして。くっ付けるわよ」
「血止めだけでいい・・・」
「なに拗ねてんの。左手が無くて不自由するあんたを介助しなきゃいけない人が必要になるのよ。あんたじゃない。その人が可哀そうでしょう」
「アダンだ」
「何?」
「俺はアダンだ。ここを仕切ってた」
「わかった。アダン、さぁ手をだして」
そういって恵は、巻いてあった左腕の包帯を取り、傷口を観察しながらクリーンを掛ける。
(さすがエリアス卿。刃筋が立っている。これなら何とかなりそう)
腕と手首を押しつけながら息を静かに吸って、詠唱を呟き。
「ヒール」
アダンの左手が、淡い光に包まれる。数秒経って光が消えると、キズの無い左手がそこにあった。
「うわっ、手がジンジンしやがる」
「血が通い始めたのよ。手を温めながら少しの間そのままにしておいて」
そう言って恵が、次の処置に行こうとすると。
「縛らなくていいのか」
「今、くっ付けたばかりでしょう」
「俺は、盗賊の頭目だぞ」
「さっき聞いた。今度やったらくっ付けてあげないよ。大事なとこ切られても知らないわよ」
「ばっ、馬鹿野郎。餓鬼がませたこと言ってんじゃねえ」
「何、赤くなってんの。じゃあね」
「ありが・・・」
「ん。聞こえない。男ならはっきり言う」
恵は、座り込むアダンの前に両手を腰に当てて言い放つ
「ありがとうな」
「よし」
恵がアダンの元を離れると。彼は、ひとり呟いた。
「こりゃ、完敗だ」
恵とルシィは、リュカを連れて、腱を切って戦闘不能にした待ち伏せ組の盗賊たちのもとで治療と護送の準備をしていた。
「ちょっとあんたたち」
そこに、クレーが怖い顔をして近づいてきた。
「な、なんですかクレーさん」
ルシィはクレーの顔付を見て、怯みながらの返事をした。
「詠唱破棄したわね。戦場で声出して詠唱するバカはいないけど、あのタイミングで撃てるのは、詠唱破棄しかない。どうなの」
「早口言葉が得意なんですよ。二人とも」
恵が、目を逸らしながら言うと。クレーにギロリと音が出そうな目付きで睨まれ、思わずルシィの後ろに隠れた。
「ズルいです。メグ様」
咄嗟にルシィは口を抑えたが、かえってそれが拙かった。
「メグ様・・・?」
「ごめんなさい。クレーさん。私たち訳ありなの。勘弁して」
クレーは、大きなため息を一つ付くと声をおとして答えた。
「いや、悪かったわ。あたしも大人げなかった。ただ・・」
「・・・なんだ?あっちが騒がしい・・・」
リュカの指摘に三人がマティアス達を見ると、指を指して叫んでいるのが聞こえた。
「煙が出てる。奴らアジトに火を放ちやがった」
「あっ、証拠隠滅される!」
恵が一目散に、指さす方に向かって走り出すと。三人も後を追う。
砦があった。先の尖った二メートルほどの丸太を並べた壁に覆われ、一辺が約三十メートルの小さな砦だ。砦の中にある二階建ての木造の建物から出ていた煙は、収まり始めていた。建物の周囲には、砦に残っていたと思われる数名の盗賊が倒れている。先に付いたエリアス達が倒したもののようだ。
建物に近づくと、中からエリアスとニコラが出てきた。二人とも煤だらけだ。
「何とか消し止めた。証拠を隠そうと火を掛けようとしていて難儀した。だが、証拠となりそうなものはしっかり持ちだしましたぞ」
エリアスの抱えている箱には、書状の類が乱雑に入っている。それなりの量がある。
「この封蝋は、たぶんオクシーヌ男爵の印だ。以前、領主の依頼を受けた時に見せてもらったものと同じだぜ」
証拠品を除き込んいた、マティアスが一通の書状を示した。
「畜生、やっぱり領主と盗賊はつるんでやがったのか」
髭面の冒険者が横から話しに入る。彼によれば以前から冒険者の間では、そんな噂があったそうだ。今回、討伐に冒険者が集まらなかったのは、領主に近い冒険者が圧力を掛けていたと証言した。
「まぁ、俺たちは真っ当な冒険者だしな。そんな脅しにも屈しない」
マティアスがドヤ顔をする。
「で、賊の頭目なんだが・・・」
「それなら、エリアス様がやっつけたあの大男が頭目だって」
「そうだったのか。教えてくれてありがとう。お嬢さん」
恵の報告に、エリアスは礼を言うとアダンのもとに向かった。
「お前が、盗賊団の頭目だったのだな」
「あぁ、そうだ」
エリアスの問いかけにアダンは素直に答える。
「頭目は、後ろでふんぞり返っているものかと思ったよ」
「そんな奴らには事欠かないんでね。俺は前へ出て剣を振り回しているんだ」
そういって、視線をエリアスの持つ証拠品に向ける。
「左手を直してもらったんだな」
「あぁ。全く大したもんだ。あんなに小っこいんだが、お袋にどやされた気分だ」
そういって今度は、盗賊たちの面倒を見ている恵に視線を移した。
「あの方らしい・・・」
「んん?」
「いや。何でもない」
「騎士さんよ。俺たちを突き出すなら、従士団はやめた方が良いぜ。証拠品も渡さねえ方が良い」
「もともとギルドの討伐案件だ。ギルドに引き渡す」
「それなら、ギルマスに直接だ、副支部長ギヨムはやめた方が良い。よく名前を聞いた」
「忠告、感謝する」
「やはりな」
マティアスが横で呟く。
捕らえたもの二十七名、死亡十一名、逃亡者の詳細は不明だが推定十五名となった。捕らえた賊の人数が多くロープが足りなくなり、盗賊の砦で探し回り漸く間に合わせた。
「やっと終わりましたね」
「もうへとへとだよ。ちょっとだるい、魔力切れになりそう」
ルシィの言葉に、やや大げさに疲れた声をだして恵が答えた。
「まだ何があるか分かりませんから、しっかり回復しておきましょう」
二人して、ポーチからポーションを出して飲み干して、ホッとした表情をする。それを見ていた、クレーは目を見開いて声をかける。
「そ、それ。ルアン・ポーションでしょう・・・。はっは~ん。訳ありってそうゆうこと」
何やら、納得顔のクレーに、二人は顔を見合わせる。
「あんた達、ガルドノールから盗賊討伐のために派遣された精鋭部隊なのね。身分を隠して冒険者と言うことにして。それなら、そのとんでもない実力も納得だわ。そりゃぁ、人様の領内で大手を振って討伐なんて出来ないものね。うんうん」
「いや、それは・・・」
「分かってる、分かってる。結果的には、町も救ってくれたんだし、文句なんか言わないわよ」
「はぁ・・・」
「あんたたちに楯突いたら、”成敗”ってバッサリ切られちゃいそうだし」
「そんなことしないし・・・」
「あたしは口が堅いんだけどさぁ・・・。一緒に盗賊を討伐した中っていうかさぁ・・・」
(うわっ、なんかやばい)
「ルアン・ポーション手に入らないかなぁって。ちゃんとお金も払うわよ」
(そっち)
「なに、驚いた顔してんの。あんたたち知らないの?ルアン・ポーションは全然手に入らなくて、幻のポーションなのよ。この辺の魔術師は、血眼になって取り合っているわ」
「そうなんですか」
「あたしも、一度だけ飲んだの。まだ出たての頃でみんな敬遠しててね。女性向けって言うのが気に入って、ちょっと高かったけどお金もあったし買ったのよ。それで、次の日の依頼のとき飲んでびっくり。帰ってすぐ店に行ったけど、その時はもう売り切れでね。それ以降お目にかかっていなかったわ。あれは、一度飲んだらイチコロね」
「ほぼ麻薬ですね。でも分かるわ」
ルシィの声には実感がにじんでいる。
「あれは、魔力酔いじゃなくて、魔力二日酔いだよね」
「その感じ凄く分かるけど・・・メグちゃん。その歳でお酒飲んでいるの?やめなさい。大変なお仕事かもしれないけど、そんな小さな時からお酒を飲んでいると体を壊すよ。お姉さんとここで“大人になるまで飲みません”と約束しなさい」
(えっ、私この体でお酒飲んでないよ、前世だよ・・・って、言える分けないかぁ)
「メグ様、いつそんなことを」
(わっ、ルシィさんまで)
「・・・分かりました。約束します」
「よし」
(なんだかんだ言って、クレーさんもいい人だよね)
「紹介状を書きます。明日ギルドに持ってゆきます。でも、私の知っている店だから、ルアンまで行かないといけないですよ」
「あんたたちが帰るとき、一緒じゃダメ?」
「いえ、私たちルアンへは行きませんよ」
「あぁ、各地廻って悪人退治するのね。あんたたちも大変ね」
「いや、違いますって」
「分かってる、分かってる。誰にも言わないから。了解。それで手を打つ。有難う。恩に着るわ」
クレーはすがすがしい笑顔で答えた。




