第29 話 エンディング
蔵五は車の時計を見る。
「タイムアップまであと22分か。普通に走って30分位だから、とばせばギリギリなんとかなるかな。課長、道は分かる?」
「大丈夫だ。バイパスを一気に南下する」
そこで、3人の脳内にアナウンスが始まる。
『ワーウルフキングが倒されました』
『ペナルティーが発生します』
『スキル使用禁止、です』
『ブー!ブー!』
『Warning!Warning!』
『ライオンキングがスポーンします』
『この世界では無敵の存在です』
『倒せません』
『では皆さん、引き続き頑張ってください』
「なに?ライオンキング?倒せない?」
「蔵五、どういう意味だ」
「分かんない。楠本は分かるか?」
「分かるわけないでしょ。とりあえず急ぐしかないってことじゃないの」
「そうだな」
車はバイパスに突入する。
そこに咆哮が響く。
蔵五が後ろを見る。
「やべえ…」
体長4メートルはあるライオンが走っている。
「ヤバい。デカくてめっちゃ速いぞ」
「村田さん、銃で撃って足止めとかは?」
「リリース!駄目だ、スキル禁止だからできない」
「ラストはカーチェイスってことね、課長、とばして!」
「分かった!しっかりつかまってろ」
エンジンが唸りスピートメーターが140を出す。
「課長、引き離してる」
「そうか。だが、カーブで減速するからまた距離を詰められるな。この調子で逃げ切りを目指したいが…バイパスを降りたら追いつかれるぞ。どうしたらいい?」
蔵五が楠本に言う。
「楠本、なんか使えるものはないか?」
「ないわよっ」
「そのリュックとか使えないかっ!」
「これは駄目!」
「何が入ってるんだ。ほれ、言ってみろ。ほれ」
「くっ!あんた絶対に分かってて言ってるでしょっ!?」
大鳥が言う。
「ふたりとも、あれを見ろ。うさぎの佐藤さんだ!少しずつ追いついて来てる」
「本当だ!背中に日本刀さしてる。タキシード、フルフェイスヘルメット、バイク!ギャグだな。楠本、ほれ佐藤さんを応援しろ」
「まかせて!フレーフレー、佐藤さーん!」
やがて幹線道路を降りる。
「お前たち、歯を食いしばれ!舌を噛むぞ」
一般道を爆走する。そしてすぐ目的地へ。
「見えた!松下商事!」
会社の前で車を横付けする。
「まだ一分ある。蔵五、走れ!」
「…だめだ」
天井から振動。そして、金属を引っ掻く音。
「ライオンキングだ。あと一歩なのに、ゲームオーバーかよ」
「俺が戦う!蔵五は走れ」
「課長、無理だって」
「村田さん!佐藤さんが追いついた!」
天井でウサギゾンビとライオンキングがぶつかる音。そして、フロントガラスを、組み合ったライオンキングとうさぎゾンビが転がり降りる。
大鳥が叫ぶ。
「よし、行け!」
蔵五と楠本は車を降りる。押しのけ合いながらインターホンに迫る。
同時にインターホンを鳴らす。
「ピンポーン」
『ラストチェックポイントに到達しました』
『ペナルティー、スキル禁止、が解除されました』
『ボーナス、隠しスキル看破、が付与されます』
『では、頑張って終末世界を生き延びてください』
蔵五と楠本が顔を見合わせる。
「…あれ?エンディングじゃないの?」
「だよな」
そこにうさぎゾンビの声が響く。
「逃げてください!」
片腕を失い跪くウサギゾンビと、その腕をくわえたライオンキングがいた。
「あ、これゲームオーバーだな」
大鳥が叫ぶ。
「蔵五、銃を」
「え?リリース!?」
大鳥が銃を受け取りライオンキングに撃つ。命中するが肌で弾かれる。ライオンキングは気にする様子もなく、唸りながら近づいてくる。
「お前たち、ここは俺に任せて逃げろ!」
「リリース!」
蔵五がショッピングカートをぶつける。ライオンキングの頭に落下するが全く効果はない。鬱陶しそうに首で払う程度だった。
「リリース!」
ワーウルフキングの脇差をリリースする。頭に突き刺さった。たてがみと血が舞い散る。ライオンキングが不快そうに叫ぶ。
「ぐぉぉぉ」
「…異世界の武器だから効くのか?」
ライオンが蔵五に襲いかかろうとする。
そこにうさぎゾンビが叫ぶ。
「ライオン!こっちを見ろ」
うさぎゾンビの挑発にライオンの動きが止まる。
振り返るライオンキングの頭に、うさぎゾンビの振るった日本刀が突き刺さる。たてがみと血が舞う。
「ぐぉぉ」
ウサギゾンビがライオンキングに飛びかかる。たてがみをつかむ。開いたフルフェイスヘルメットのすき間から、頭に噛みつく。
切れたたてがみがウサギの口に入った。
次の瞬間、うさぎゾンビの身体が金色に輝き出した。
楠本が言う。
「課長、看破して」
「え?看破。ライオンキング、新しい世界の神」
「神?…そうじゃなくて、佐藤さんをやって」
「分かった。看破!うさぎ佐藤、新しい世界の神」
蔵五が叫ぶ。
「おお!なんかすごい」
うさぎ佐藤がライオンの頭から刀を抜く。そして、首に突き立てる。
「グォォォォ」
ライオンキングが叫び、地響きを立てて崩れ落ちる。そして金色の煙となり、うさぎ佐藤の身体に吸い込まれる。
光は止んだ。
うさぎ佐藤が振り返り、言う。
「皆さん、無事ですか?」
3人はうさぎ佐藤に肉眼で見られてビクッとする。
「大丈夫です。皆さんを殺したりしませんよ。さて、やっと分かりました。私は神の種だったみたいです。たまたま生まれ落ちて、ウロウロとしていた。そして、たまたま神の種に至りました」
楠本が言う。
「神様、なんか鬼ごっこが終わっても元の世界に戻れないんだけど、わかる?」
うさぎ佐藤が首を横に振る。
「いえ、さっぱり」
「そっかぁ…」
大鳥が口を挟む。
「ボーナスの隠しスキル看破、とかアナウンスで言ってなかったか?」
蔵五が答える。
「あ、言ってた。課長、俺にやってみてよ」
「よし。隠しスキル看破。おお!元の世界への道、ってのが出ているぞ」
「やっぱりな。ねえ、課長。課長は体重が71キロじゃないか?」
「そうだが。なんで分かった?」
「亜空間ロッカーの容量が71でカンストしたんだ」
楠本が言う。
「私と課長、村田さんのスキルが、元の世界へ帰還するカギだったのね…胸アツの展開じゃない」
「じゃあ、課長どうする?早速帰る?」
「ん?ああ、そうだな。もう帰ろう。元の世界へ」
「私ももうこのクソゲーはうんざり。早く終わらせよう」
うさぎ佐藤が言う。
「そうですか。寂しいですが、皆さん、お元気で」
「色々あったけど、お世話になりました」
「佐藤さんも元気でな」
蔵五が大鳥と楠本に触れる。
「じゃあ、行くぞ。元の世界へ!ストレージ!ストレージ!」
楠本と大鳥の姿が消えた。
「さて、ラストは俺だけど、その前に…」
蔵五はリュックからウィルソンを取り出す。そして、うさぎ佐藤に渡す。
「俺の友達のウィルソンだ。神様、一緒にいてやってくれよ」
「ウィルソン?」
「そう。名前をつけて、話し相手になってもらっていたんだ」
「なるほど。分かりました。ウィルソンさんは大切にお預かりします」
「ありがとう。じゃあ、神様業を頑張って。元気でね」
「村田さんもお元気で」
「さよなら…ストレージ」




