第20話 大鳥は一佐ゾンビと引き継ぎをする
「ガン!」
「え?え?」
大鳥が叫ぶ。
「二人とも身をかがめろ」
「なに?え?」
「かがめと言っている!かがめっ!」
ふたりは身をかがめる。大鳥は周囲を警戒しながらギアをバックにしてアクセルを踏む。
「ガン!」
2発目の銃声。フロントガラスにヒビがはいる。
大鳥は左側を見て「看破」とつぶやく。そしてギアをドライブにいれ、玄関につっこむ。車が大きく揺れる。玄関の自動ドアが割れ、ガラスが舞い飛ぶ。
車ごと建屋に突入した。
大鳥が叫ぶ。
「お前たち、無事か?」
蔵五と楠本はブルブルと震えている。
「よし、無事だな。2人とも落ち着いて聞け。返事は?」
「…」
「返事っ」
蔵五が返事をする。
「はいっ!」
「よし!いいぞ蔵五。そこの受付カウンターのなかに隠れろ。ゆっくりでいい。射線から見て、狙撃手は外の監視塔にいると予測される。ここにいたら安全だ。返事は?」
「はいっ!」
蔵五の震えが止まった。
「リリース」
バナナを取り出し、皮を剥き食べ始める。
「いいぞ。甘味は落ち着くからな。どうだ、楠本を頼めるか」
楠本は下を向いてブツブツと何かを言っている。
蔵五が言う。
「ちょっとだめかな。身体がまだ震えてる。自分だけで限界かも」
「分かった。俺が楠本を連れて行く。ガラスに気をつけてな。」
「課長、楠本を頼んだ」
「頼まれた」
大鳥と蔵五が車から降りる。蔵五はゆっくりと受付けカウンターの裏に隠れる。
大鳥が助手席のドアを開ける。
「楠本、ゆっくりでいい。避難するぞ」
「…」
「聞こえないのか?大丈夫だ、俺が守るから安心しろ」
「…邪魔しないで。今、狙撃手にバナナトークしてる」
「…なに?」
「私をなめてんじゃないわよ。股間のバナナに針千本突き刺してやる」
大鳥がビクッと内股になる。
「と、とりあえず避難してくれないか」
「わかった!」
楠本がしっかりとした足取りで動く。
大鳥がつぶやく。
「楠本は頼もしいな…」
蔵五が言う。
「課長、俺たちは追い詰められてる?ここから動けないってこと?」
「それはそうなんだが…さっき看破したら、一佐ゾンビ、高杉新一ってなっていた」
「一佐ゾンビ?」
「ここのトップだな。けっこう有名な人物だ。正義感が強く高潔で、人望も厚い。とにかく頭がキレる。でも、運動神経は良くないんだ。狙撃の腕も最悪だ」
「…と言うことは」
「突撃でいけるかもしれん。動く的はなおさら当たりにくいからな。一気に監視塔まで走り、一佐の制圧を目指す。しかし、そんなギャンブルみたいな真似はできない。困ったな」
「とりあえず、バナナを食べる?」
「そうだな、貰おう」
大鳥と蔵五はバナナをかじる。落ち着いてくる。
そこで楠本が言う。
「さっきの無線機みたいなので、コンタクトは取れない?打開策が見つかるかも」
「なるほど。よし、やってみよう。蔵五、インカムを出してくれ。あと拳銃も頼む」
「分かった。リリース、リリース」
大鳥はまず、拳銃の安全装置を確認する。
そして、インカムのヘッドセットを装着し、本体のスイッチを入れる。
大鳥が話し始める。
「こちら大鳥三曹。こちら大鳥三曹。高杉一佐、聞こえますか」
『…』
「駄目か?」
『…こちら高杉。大鳥三曹、もしかして先ほどの車は、三曹が運転していたのか?』
「はい。そうです」
『そうか…射撃してしまい、すまない。なんとも情けない限りだ』
しばしの沈黙。そこで楠本が言う。
「課長、場所の確認をしてみて」
「え?ああ、そうか。一佐はいまどちらにいますか?」
『監視塔だ。三曹の先程の玄関突入は見事だったな。素晴らしい判断力だった』
「恐れ入ります」
少しの沈黙。
『さて、三曹はまだ正気を保っているか?』
「はい。こちらは正気を保っています」
『そうか。他の隊員たちは駄目だ。命令を聞けないゾンビになってしまった。装備を渡しても無駄だ。すぐに放り出してしまう。三曹はまだ人間か?』
「はい。ゾンビではありません。人間のままです」
『それは何よりだ。私はだめだな。実はな、私もゾンビになってしまった。身も心も侵されてしまっている。しかも、先ほどは恐ろしい呪いのような幻聴が聴こえてきた。呪いの声が言うには、私のバナナをナマス切りにして、油で揚げてバナナチップにしてやる、だそうだ。ふふふ、つい内股になってしまう』
大鳥が内股になる。
『さて、三曹。私は沸き上がる悪い感情に意思が飲み込まれる。結果、三曹に発砲をしてしまった。もはや自衛官としての職責など果たせない。そこで頼みがある。まだ人間である三曹にここを任せて、私は退任したいのだ。やってくれるな?』
「…分かりました」
『感謝する。隊員のゾンビはもう駐屯地内にいない。外に出ていってしまった。中は安全だ。電気も生きているし、衛生面も担保されている。もし生存している市民がいれば、受け入れて保護をしてほしい』
「了解しました」
『ありがとう。では、私はここで待っている。目を閉じておく。さあ、来てくれ』
「はい」
大鳥が蔵五と楠本に言う。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「どこに?」
「一佐からの引き継ぎだ。蔵五は楠本とバナナでも食べておいてくれ」
「俺も一緒に行こうか?」
「ありがとう。でもひとりで大丈夫だ」
拳銃を手に取り、大鳥は玄関に向かう。影から外の様子をうかがう。軽く屈伸をする。
「3、2、1…」
そして駆け出す。狙撃はない。全速力で走り、監視塔の下にたどり着く。
そして、休むまもなくそのままはしごを素早く登る。カンカンと音がする。少し息が切れてきた。そして鉄柱に支えられた小部屋に突入する。
そこには迷彩服の、白髪まじりの自衛官がいた。狙撃銃を横に置いて、向こうを向いて座っている。
大鳥がひとつ深呼吸をして、その背中に向けて言う。
「一佐、なぜこちらを向かないのですか」
「うむ。事情があってな」
「人をみると殺意が湧くのですか?」
「…国民の生命と財産を守る自衛官がこれではいかん。死んでわびたい気持ちだな」
「気に病みすぎです。一佐がいくら撃っても、どうせ当たりませんよ。皆が一佐のことを、首から上は幕僚長レベル、首から下は新兵レベルだと言っております」
一佐の背中が揺れる。
「くっくっく。知っている。情けない限りだ」
「違います。尊敬と親しみを込めて言っているのです。皆が一佐を敬愛しております。私も同じくです」
大鳥が小銃の撃鉄を引く。ガチャリと音が鳴る。一佐ゾンビは微動だにしない。
「三曹、手間をかける」
「いえ。では失礼」
「うむ。感謝する」
銃声が鳴り響く。火薬の匂いがする。
大鳥の頭にファンファーレが鳴り響いた。
『テレレテッテッレー』
『一佐ゾンビ撃破』
『おめでとうございます』
『スキル看破のレベルがアップしました』
『相手のスキルを看破する、を覚えました』
『では、頑張って終末世界を生き延びてください』
大鳥はため息をつき、つぶやく。
「さて、帰るか。ふたりが心配だ」
大鳥は高杉の狙撃銃を取り、肩にかけた。
監視塔のはしごを降り、小走りで蔵五達の元へ戻る。
「ふたりとも、大丈夫か?」
「大丈夫…」
蔵五の視線が銃に向いている。恐怖が混じった瞳だ。
それに気づき、大鳥が言う。
「蔵五、拳銃と狙撃銃を収納してくれ」
「了解。ストレージ、ストレージ…ふう」
「おい、楠本。大丈夫か?」
楠本はバナナ片手に答える。
「大丈夫。でも、ちょっと疲れたかな」
「そうか。ああそうだ、俺はレベルアップをしたぞ」
蔵五が目を輝かせる。
「え!?マジで」
「相手のスキルを看破する、を覚えたぞ」
「すげえ!課長、俺を看破してくれ下さい。お願いします」
「してくれ下さいってお前なぁ。よし、看破…スキル亜空間ロッカー容量71キロ、亜空間時間オンオフ、だな」
「すげえ!じゃあ楠本もやってよ。お願いします」
「ああ。看破…スキル腹話術、一度でも触った対象で腹話術をする能力、一度でも話をしたことがある対象で腹話術する能力」
「すげえ!これでゾンビのスキル丸わかりじゃん。なあ楠本、腹話術とかギャグスキルやってないで、ちょっとは課長を見習えよ」
「はあ?馬鹿にしてんの?」
大鳥が笑う。
「二人とも、喧嘩はよせ。それよりもここはすごいぞ。自衛隊駐屯地は小さな町だ。電気、ガス、水道、食料、全てがそろっている。高杉一佐いわく、中にゾンビはいないし、不衛生な物は処分されているらしい。もはやリゾートホテルだ」
「「パチパチ」」
蔵五と楠本が目を輝かせて拍手をする。
「さて、俺は門を閉めたり発電機の様子を見たり、色々としてくる。お前たちは好きに探検してきたらいい。そうだ、幹部用の宿舎を個室で使おうか」
「やったな楠本。抱き枕を気兼ねなく使えるぞ」
「うん、やったー…って村田さん、今なんて言った?」
「え?なに?」
「くっ!」
大鳥が笑って言う。
「とりあえず元気が出て何よりだ。念のためふたり行動でな。後で、向こうの食堂で集合だ」
「「はーい」」




