表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/30

第18話 楠本はエンディングに固執する

そして2人は自転車に乗り、笑いながらこぎ出す。東からの追い風でペダルが軽い。


「ところで腐ったヨーグルトと言えば部長ゾンビだよな」

「なにそれ?」

「部長ゾンビを倒したあと、タイムカードの腹いせに腐ったヨーグルトを掛けたんだ…そうだ、課長に腹話術で声掛けてよ。もうすぐ帰るって」

「オッケー…はい完了」

「ありがとう。服屋はもういいや」

「お腹も空いてきたしね」

「バナナ食べる?」

「うーん、やめとく」


やがて楠本の家に戻る。マンションの前に、軽自動車が止まっている。窓には遮光シートがつけられていて中は見えない。朝にはなかった車だ。


「課長の車じゃないか?」

「だよね。ちょっと腹話術で話しかけてみる」


少しして、車の遮光シートの隙間から人の目が見えた。

蔵五がつぶやく。


「課長だな。おーい。ストロングとサバ缶泥棒ー!」


ドアが開き、大鳥が出てくる。長身の細マッチョ。笑顔で手を振り近づいてくる。


「おう、お前たち。無事でよかった」

「課長も元気そうじゃん」

「まあな」


楠本が笑顔で言う。


「じゃあ、3人そろった所でご飯でも食べましょうか」


三人で騒がしく楠本の部屋に入る。


「課長、バナナと青汁があるけど」

「いいな。ありがたくいただくよ」

「ふたりとも、レトルトカレーで良い?」

「「はーい」」


楠本が鍋にレトルトカレーとパックご飯を放り込み、お湯を沸かし始める。そして、キッチンから部屋に戻る。三人でテーブルを囲む。


「で、課長は何してたの?」

「俺はだな、車に隠れて色々移動していた。蔵五の部屋にも行ったんだが、すれ違いだったな」

「そうそう、勝手にサバ缶とか食べるし」

「すまんな。レーションを車に積んでる。あとで食べさせてやるから許してくれ」

「レーション?」

「戦闘糧食だ。自衛隊の保存食だな」

「へえー。さすが元自衛官」

「あと、お前たちに衣類やら生活用品を取ってきてるから、それも後で渡すな」

「さすが課長。まめだわ」

「もう課長じゃないけどな。そういえば昨日の夜、お前の家にいたらウサギ人間がやってきた」


蔵五と楠本が目を見合わせる。


「すぐに出ていったけどな」

「ちょ、ちょっと課長、待ってくれ。質問なんだけど、それって顔が白ウサギ?」

「うん、そうだ。お前もあったことあるのか」

「うわぁ。お腹に刺しキズがあった?」

「ええと、なかったと思うけど、覚えていない」

「楠本分析してくれ」

「うん」


楠本が少し考え言う。


「…お腹の傷がないと言うことは別個体の可能性がある。でも、ゴリマッチョゾンビみたいに、HP回復型の可能性もある」

「賛成。続けてくれ」

「次に、ピンポイントで村田さんの部屋にやってきた件。予め村田さんの部屋を知っていた可能性がある。前にこっそりと観察していたとかね」

「そうだな」


ここで大鳥が口を挟む。


「お前たち、いつもの事だが頭がいいな。俺には何を言ってるかさっぱりだ」


大鳥は続ける。


「あと、うさぎの件だが、お前たちの名前を叫んでた。俺の名前も知ってたから驚いたな。そんで出社しろって言ってた。部長みたいだったな。そうそう、蔵五の家の前に部長のゾンビの死体があったけど、頭をかじられていた。何か関係あるかな」


楠本がハッとする。


「村田さん、確かホームセンターに頭がかじられたゾンビがいたとか」

「そうだな。ウサギゾンビは人の頭をかじって、人格とか記憶を取り込むんじゃ…」


大鳥が立ち上がり、キッチンからレトルトご飯とカレーを持ってくる。


「まあ、カレーでも食おう」

「そうね。紙皿と使い捨てスプーンがあるから待ってて」

そして3人で手を合わせる。

「「「…いただきます」」」


食べながら蔵五が言う。


「リリース。ほい課長、バナナ。楠本はいる?」

「じゃあ、もらうわ」


大鳥が言う。


「蔵五は物を取り出す力だな。楠本は遠くの人に話しかける力か。おれは看破だ」

「看破?」

「相手の名前がわかる。ゾンビを看破したら、名前が分かる。何の役に立たんがな。ウサギにも看破したが、なんか変だった」

「え!?課長、詳しく」

「ええと、じゃあ看破、看破⋯ほれ、村田蔵五、楠本稲穂って出た。ああ、お前らには見えないのか。俺にはスマホ画面みたいなのが見える」


蔵五が言う。


「鑑定スキルだ。課長、レベルアップはした?」

「レベルアップ?いや、よく分からん」

「ゾンビを倒すとスキルが強化されるんだよ。すげえ、楠本のギャグスキルとはえらい違いだ。レベルアップしたら楠本のギャグスキルなんかクソだよ。課長、すごい」

「うん?そうか」

「で、ウサギのステータスはどうだった?」

「ステータス?いや、なんか記号が出てきて、まとも看破できなかったんだが」


蔵五と楠本が顔を見合わせる。


「楠本、うさぎって、いわゆるバグキャラなんじゃないか?」

「賛成」


大鳥が言う。


「まあとりあえず、これからどうするかだな。まずは当面の食料と安全の確保だろう。最優先して生き残る手段を確立する。野菜を植えたり、狩猟したりだ。文明社会に近づけていかないと。お前たちはどう思う?」

「ごめん、反対。私の意見としてはエンディングを最優先としたい」


大鳥が首をかしげる。


「エンディング?なんだそれ」

「私と村田さんの立てた仮定なんだけど、この世界は神の箱庭みたいな物なんじゃないかって。私たちを演者にして神がゲームみたいに楽しんでいるのよ。根拠としては、とにかく世界が雑。少年ゾンビと会話したら設定がとにかく雑だったし、ゾンビの人数も少ないし、火災も起きてないし。そもそもスキルって時点でゲームみたいに遊んでるでしょ?ふざけるのは村田さんの顔だけにしてほしいわよ。だから、サバイバルとかよりもエンディングを目指してストーリーを進めないと。いい?」

「正直、よく分からん…お前たちに全部任せた方がよさそうだな」


3人はカレーを食べ終える。

蔵五が青汁を3人分作り、皆で飲む。

大鳥が言う。


「じゃあ、明るい話をしようか。そうだ、お前達は元の世界に戻ったら何をしたいんだ?」

「俺は特に何もないかな、しばらくニートする」

「私はまあ、趣味とか、おいしいパン食べたいとか」

「ふーん。俺はトラック運転手になろうかと思っている。自衛隊の時に大型免許は取ってるからな。日本各地を回って、きれいな景色をみたり、おいしい食べ物を食べたりするんだ」

「課長…仕事の話はやめてよ。落ち込むわ」

「マジそれ。空気読めよ」


大鳥が苦笑する。


「すまんな。しかし、お前たちくらい優秀なら、それこそどんな仕事でもできそうなんだがな」

「コミュニケーションスキルがマイナスの俺に一体どんな仕事ができると?仕事以前の問題だって」

「同じく!ニートが天職。前の会社も課長がいたから続けてただけだし」

「それな」

「仕方ない奴らだな…俺がお前らに紹介してやれる会社もないしなぁ。はあ。どうすっかなぁ」


楠本がにやりと笑う。


「じゃあ、私たちで会社を作りましょうよ」

「おっ!楠本ナイスアイデア」

「でしょ。とりあえず前の勤め先を労基に訴えて、未払いの給与を支払わせましょう。大丈夫、いざという時に備えて3人分の勤務時間のメモはとってる」

「さすが楠本!陰湿!陰険!性悪!」

「そんなに褒めないでよ。で、未払給与を分捕って当座の運転資金の足しにする。あと、ちなみに部長と村田さんのハラスメントも録音してまーす」

「え!?なに!?」

「村田さんはメモとかしてたの?」

「勝手に録音すんなよ。まあ、俺も勤務時間のメモは取ってる。自分の分だけだけどな。課長は?」

「いや、何もしてない…ていうか、俺はトラック運転手するって言ったよな。労基とかもややこしいし、なんで一緒に会社を作ることになっているんだ」

「オッケー。じゃあ運送会社にしましょう。ならいいでしょ?」

「決まりだな。課長は社長でいっとこう」

「お前らなあ。ていうか、お前らが勝手に起業したらいいだろ。俺を巻き込むなよ」

「俺は社長とかめんどくさいし」

「私も人に気を遣うとか嫌」

「…やれやれ。まあいいや、お前らが楽しいなら、今はそういう事にしておくか」


大鳥が笑う。

蔵五が楠本に言う。


「俺は法律の穴をついて利益を最大限にする作戦を立てる」

「私は業界を調べて5カ年計画を立てるかな。村田さんはそれに合わせて業務活動案を作ってよ。私も作るから擦り合わせましょ」

「オッケー、任せろ」


大鳥がふたりを穏やかに眺めて、言う。


「で、俺は何に何をしろって?」

「社長は好きにトラックを運転しとけばいいから。変に私たちに口を出されたら面倒くさいし。あ、でも営業とか外部窓口はやってもらわないと」

「それだな。俺とか楠本だと客と喧嘩しそうだし。あと社員の管理も嫌だ。嫌われまくる自信がある」

「はいはい、分かりました。仰せのままにいたしますよ」

「俺は平の役員でいいや。役員報酬だけ貰ってニートしとく」

「ずるい、私も」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ