S,16『金欠と飯』
木崎は保育室の扉を開けて中に入る。
「失礼しま~す。」
「キザキさん、どうしたんですか?」
エレナが読んでいる本から木崎に視点を移す。
「いや、久しぶりに来てみたくなって・・・」
木崎は時々に保育室に来てエレナの手伝いをしたりしているが、ここ最近忙しくて来ていなかったので久しぶりに保育室を訪れたのだ。まぁ、ここに来るのは手伝いだけじゃなく、時々愚痴も聞いて貰うためというのもある。
「皆、本を読んでるのか?」
「はい、メグちゃんのアイデアで読書の時間をつくったんです。最初は退屈がってちゃんと読まなかった子も今では大人しく読んでてくれて助かります。」
「そうですか。」
「ところで、お姉ちゃんから聞いたんですけど、マミヤが倒産しそうって本当ですか?」
「はい・・・、」
「やっぱり本当だったんですね・・・でも、きっと何とかなりますよ、だって何度も危機を乗り越えてきたんですから。」
そう言ってエレナは辞書並みに分厚い本の裏に潜ませた求人誌に視点を移す。
「エレナ、それは求人誌を読みながら言っていい台詞じゃないぞ・・・」
「あ、バレてました?」
「バレバレだ・・・」
「そう言えばキザキさん、前は助けに来てくれてありがとうございます。お姉ちゃんも言ってましたよ?「アイツはバカだけども優しいヤツだ。」って・・・私がこんなこと言ってたなんて内緒ですよ?お姉ちゃんから、恥ずかしいから言うなって口止めされてるんですから。」
ラルゴからバカ呼ばわりされる覚えはないが、感謝されるのはやはり嬉しい。
「分かりました。」
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エレナの手伝いが終わった頃には丁度昼休みだったので食堂に向かうと何やら騒がしかった。
中に入ると船長が机の上に立って何か話している。
「さっきも言ったように、この会社は今ピンチなんだ、だから皆にも協力してもらう!」
『「「BOOOOO!!!!」」』
その場の全員から盛大なブーイングが巻き起こる。
「何があったんだ?」
近くにいた船員に聞く。
「それがな、食堂の飯が有料になったんだ。」
「マジか・・・」
あまりの金欠状態に食事代という形で給料をチマチマ取り返す作戦に出たようだ。
「結構痛いな、この出費・・・」
昼飯だけならばともかく三食全てとなると厳しい。
「有料化を許すな!!」
「金巻き上げるな!!私達だってギリギリなのよ!!」
『「「反対!!、反対!!、反対!!」」』
反対コールが巻き起こり、いつの間にやら「有料化反対」と、描かれたプラカードを持った奴までいる。
「うるさい!うるさいっ!お前ら全員減給にするぞッ!!」
『「「BOOOO!!!!!!」」』
船長の言葉に、全員が親指を下に向けてブーイングを合唱させる。
-なんだかんだで結構楽しそうだな・・・-
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結局、昼飯を食えずに昼休みは終わった。
「腹減った・・・」
昼休みが終われば船の修理である。恐らくもう直したところで解体は免れないが、次の船が来るまでは全員達の家としての役目を果たす。
それと、もう船を直しても航海出来ないから新しく船を造ると言った時の全員達の反応は、「そうか、新しい船楽しみだな(笑)」と、船を変える事への反対はなく、ONE P●ECEのメ●ーゴの時のような感動は特にはなかった。
「はぁ・・・船長もチマチマ小遣い稼ぎして・・・何とも賢いお方だ。」
アールは甲板に板を打ち付けながら皮肉たっぷりで言う。
「ま、一食650ノク×3を毎日は苦しいな。」
「ああ、主に財布がな。」
毎日三食摂った場合の1ヶ月の食費は58500ノク・・・ヤバい、財布が。
「なぁキザキ、仕事終わったら飯食いにいかね?安くていい店知ってんだ。」
「分かった、その方が安上がりだしな。」
船の食堂で食べるより外食する方が安上がり、何という皮肉。
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木崎とアールはアルメリアの街を歩く、以前のネイヴ襲撃で破壊された部分もあるが、今では街を行く人々の姿は底抜けに明るく、酔っ払いやそれをなだめる者、仲間と盛り上がってる人、老若男女、種族も様々な者たちが行き交っている。
「この店だ。」
とある一軒の店の前でアールが手招きをした、看板には「跳ねる海豚亭」と書いてあった。
アールに誘われて店の中に足を踏み入れた。
雑踏よりもさらに五月蝿い人の喧噪が木崎を包む。
店内はわりかし広く、円や四角の形をしたテーブルが幾つも置かれ、店員が忙しそうに駆け回っている。
店の窓側のテーブルに座る。
「なぁ、この店のオススメとかあるか?」
木崎はこの店に来るのは初めてなので何がいいのか分からない。適当に選んで地雷を踏みたくないのでオススメを聞くことにした。
「この店は・・・・・・海藻100%スープがオススメだ。」
「何だよ、さっきの間は・・・」
海藻スープは普通に好きだがアールの答え方が気になる。
「あの、すいませ~ん」
アールが木崎の問を無視して店員を呼ぶ。
「ご注文はお決まりになりましたか?」
「海藻100%スープとマト肉のソース煮と大ガエルの唐揚げあと、ウィドーニャエール2つください。」
「かしこまりました、少々お待ち下さい。」
頭に猫の耳が生えた店員はメモを書き終えると、奥のカウンターに入っていった。
「なぁ、この世界では違う種族が一緒に生活するってのは当たり前なのか?」
周りを見渡すと、半人半鳥や猫人間などがいる。マミヤにも半狸のリナの他にも様々な種族がいた。これだけ種族がいて差別や偏見はないのだろうか?
「いや、この辺はまだマシだが他は結構えげつない所もある。」
「そうなのか・・・」
しばらく料理が来るのを待っていると、誰か近づいてきた。
「ああ、アンタらもここにきてたの?」
「奇遇ですね。」
「ん?アールもいたの。」
3人がそれぞれの反応を見せる、ラルゴとエレナ、もう一人はシルフィー・レムナンドといい、アールと仲がいいらしく直接話したことなはないが、彼女のことはアールから聞いている。
「何頼んだの?」
ラルゴが唐突に聞いてくる。
「えっと、海藻100%スープだけど、」
「え・・・そうなんだ・・・」
「チャレンジャーですね・・・」
「あれ食べるの?」
アールの方を見ると何故かクスクス笑っている。
「お待たせいたしました~海藻100%スープとマト肉のソース煮と大ガエルの唐揚げです。」
料理が来た。
-地雷踏ませやがって・・・-そう思った時にはもう、遅かった。




