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2話

 しばらく歩き、森を抜けるとそこには小さな村が。

 村人の表情は穏やかで、不満もなく暮らしているように颯斗の目には映った。


「さぁ! こちらです!」


 木造の家の扉を開けた少女は颯斗を連れて中へと入る。

 部屋の奥から少女の面影がある一人の美女が二人を迎えた。


「お帰りなさい。あら、そちらの方は?」

「えーっと……そう言えば名前聞いてませんでした」


 もう少し時間が経てば少女もこの女性のように綺麗になるだろうと思っていた颯斗は突然呼ばれて動揺する。


「え……あっ、颯斗……風早かざはや颯斗です」

「不思議な名前ですね。私はエリス=シューツと言います」

「母のアリス=シューツです」


 礼儀よく綺麗なお辞儀をされた颯斗は見習うように頭を下げた。

 とりあえず、濡れた服を乾かすためエリスから代わりの服を貸してもらった颯斗。

 着替えが終わるとエリスは母親に経緯を話す。


「お母さん! この人は湖から現れたの! きっと村を救ってくれるわ!」


 颯斗の時の丁寧口調とは違い、母親に甘える子供のように話すエリス。しかし、アリスの表情は曇る。


「エリス。村はもうーー」

「そんな事ない! 競争に勝てれば」


 何か訳ありのようだが颯斗に出来る事などあるはずもない。

 ボーッとしている颯斗を横に、親子の話は続く。


「エリス。いい加減にしなさい! もう村の人達も向こうの話を受けるつもりなの」

「そんな……長老と話してくる!」


 苦虫を噛んだような顔をするエリスは颯斗を引っ張っり、長老と呼ばれる人物が住む家に向かう。

 何が何だかわからない颯斗。今はエリスの気がすむまで付き合う事しか出来ない。


「長老!」


 長老宅まで行くと、ちょうど出てきた長老に話しかける。

 長老と護衛の二人が振り向く。


「エリス……どうかしたかの?」

「話を受けるって本当!?」


 エリスの対面する三人は同時にエリスの目から視線を逸らした。


「なんで!?」

「仕方ない。これも村を守るためじゃ」

「あんな所! ただ私達の土地が欲しいだけ! 私達の住む場所が奪われちゃう!」


 颯斗の背中を押して長老達の前へと突き出す。


「この人はアスタ湖に現れた英雄です。この人がいれば」


 しかし三人の顔色は変わらない。

 護衛の一人が長老に耳打ちされると誰かを呼びにその場を離れた。


「ならば……試してみよう。ついて来なさい」


 アスタ湖とは逆の森へ向かう長老の後ろを二人は黙ってついていく。

 これから自分が何をする事になるのかさえ分からない颯斗。

 すぐに森を抜け出すと、整地された広場のようなものがあった。

 しかし所々草が生えている事から最近は使われていないように思える。


「長老。連れてきました」


 一人の男性を引き連れて戻ってきた護衛が、長老に報告した。

 一度だけ頷くと、エリスと颯斗の目を交互に見た。


「今からこのアルビンと走ってもらう」


 アルビンと呼ばれる男性が、長老の前へと出る。

 無精髭を生やし、厳つい顔は今にも人を殺すのではないかと思うほどの恐怖を覚える颯斗。手脚は丸太のように太く、体もがっちりしている。


「距離は40エルズ。そしてあの場所で行う」

(エルズ?)


 長老が指さす先を見ると、そこには溝を白線代わりにした簡易的なトラックあった。

 エルズというのはこの世界の長さの単位であり、エラルドと呼ばれる最も多く繁殖している木を基にしている。芽が出てから一年間で2.5mまで成長し、これで1エルズと言う。つまり、この世界の40エルズとは颯斗の世界の100mを表す。


(見た感じ100mぐらいあるのかな)


 今度はアルビンを盗み見るが、体格からして足が速いとは到底思えなかった。安堵の表れから一息吐いた。

 全員は運動場に足を踏み入れ、線が引かれた簡易的なトラックへと集まる。

 トラックは直線で2レーンに分けられていた。

 アルビンと颯斗は自分のレーンの前に立つ。

 護衛の一人がスタート合図のため二人と残り、他はゴール地点で二人を待っている。


「エリス。いいな」

「はい!」


 エリスの返事に頷くと、長老は右腕を高く上げた。

 それを確認した護衛も右腕を高く上げる。


「二人共。準備はいいな」


 アルビンが首を縦に振り、後を追うように颯斗もアルビンと同様にそうした。


「よし……位置について」


 颯斗は構える。しかし、アルビンは棒立ちしたまま。


「ヨーイ」


 つま先に力が入る。一方のアルビンは依然として脱力していた。


「スタート!」


 腕が振り下ろされたと同時にロケットスタートをする颯斗。

 不思議といつも以上に体が軽く、あまり疲れを感じない。

 このままゴール。と思っていた颯斗だったが、この時のゴールで待つエリスの顔を突然視界に捉えた。

 その時の顔は颯斗にとっては印象的で忘れられないものとなる。

 期待を裏切られたような悲しい表情で颯斗の走りを見つめていた。


「ロックギア」


 後方でその言葉が聞こえた瞬間、颯斗の横を黒い影が通り過ぎる。

 颯斗は今起こっている現実が信じられない。

 前を走るアルビンの足場が隆起し、アルビンを押す。アルビンは鍛え上げられた脚がその足場を蹴ると、粉々に砕け、アルビンのスピードを増幅させた。

 レースの結果は最後まで見る必要がない。アルビンの圧勝だ。

 遅れてゴールした颯斗は地面に手をついて、せわしなく呼吸を続け、自分を落ち着かせる。

 疲れ切った颯斗をエリスは駆け寄ったが、かけられた言葉は慰めるものではなかった。


「なんで、魔法を使わないんですか!?」


 漫画でしか聞かれない単語に目を白黒させる。


「そんなの……あるわけないよ」


 食道あたりに痛みを感じながらも出した答えにエリスは呆然とした。


「あ、あの……エリスさーー」


 颯斗が呼び止める前に涙を溜めて何処かに行ってしまう。

 その姿を見た颯斗は怒りよりも胸の奥に突き刺さる痛みの方が大きかった。

 自分が何故痛みを感じるのかは分からない。

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