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サビオ商会

丸々一ヵ月もお待たせしてしまう形になり申し訳ありません。

第27話投稿です。

 本来なら既に店に入って朝食にありついている筈のレーヴェ達だったが、ある人物の招きで商家の屋敷に来ていた。正確には、朝食を出汁(だし)にされて強引に連れてこられた言うべきか。


「ご足労いたみいります。ヒルベルト様とその御連れ様」


 足を踏み入れた先でレーヴェ達を迎えたのは、赤のドレスに身を包んだ中年の婦人だった。ドレスと同じ色の深みの ある紅の長い髪が特徴的な細身の女性だ。

 女性の名は、ミラノ=サビオ。サビオ商会、当主の娘であり商家の財布を引き受けている金庫番でもある。レーヴェに取っては、お得意様と言った方が適切だろう。


「挨拶に上がらず申し訳ない。ご無沙汰しているミラノ嬢」

「『嬢』を付けられると自分が何時までも若い気になってしまいますから『ミラノ』で構いません。その言葉は娘たちに、掛けてあげてください」

「では、ミラノ様と呼ばせて頂きます」


 丁寧に腰を折るレーヴェに、苦笑を漏らしながら笑顔を向けるミラノ。

 隣でそのやり取りを見ていたローゼリアには、二人の関係がとても気安い関係であるように感じられた。


「相も変わらず丁寧な方、とても放浪者には見えませんよ。そちらの御連れ様のお名前を伺ってもよろしい?」


 問いかけに応じるようにローゼリアは前に出て礼をした。


「婚約者のローゼリア=ラ=エクラ=ヴァイスです」

「サビオ家長女、ミラノ=サビオです。ヒルベルト様とは、仕事で懇意にさせて頂いています」


 婚約者と言う単語に一瞬驚き目を見開くミラノだったが、二人の耳に対となる耳飾り(オーアリング)が輝くのを見て取ると嬉しそうに微笑んだ。


「お祝いを差し上げなくてはなりませんね」

「こちらの商家には良くして頂いている。これ以上の施しは過分です」

「貴方に支払っている物は、仕事の正当報酬であって『施し』などではありませんよ。私としては、素直に受け取って頂けると嬉しいのだけど……」


 お得意様であるサビオ商会の仕事は、非常に割りの良い仕事だった。グラスダールまでの道のりに護衛として同行をするだけで、金貨三枚という破格の料金を得られている。往復時は、こちらが割り引く所が増額を提示してくることがほとんどだ。

 その仕事を定期的に回して来たので、かなり稼がせて貰っていた。開業資金の半分以上がサビオ商会から得た収入と言っても過言ではない。


「私としては、新しく開く店への融資なんかどうかと思うのだけど。如何かしら?」

「ご冗談を。貴方ほどの方が、成功するかも分からない商売に融資するわけがない」


 警戒するレーヴェに苦笑しつつ話を進めるミラノ。


「もちろん無条件でとは言いませんよ。店の所有権を担保にすることが条件です」


 ミラノの言葉に、レーヴェは一気に血の気を失う。

 この言葉が出るという事は、街の水面下で発生している騒ぎの原因がレーヴェだと認識していることになる。つまり、レーヴェに対して非常に強力な手札を有していることを意味している。何故なら、ロプスにその情報を伝えるだけでレーヴェは境地に立たされることになるからだ。

 冷やりと背筋に嫌な汗が流れる。


「何のことでしょう?」

「隠しても駄目。確かな筋から情報を仕入れています。まさか、あのロプス氏が他人の家を売りに出しているとは思っていませんでしたけど」


 レーヴェは、内心で苦虫を噛み潰しながら牽制の言葉を返す。


「既に、先方には私が権利者であることは知れています」

「でも所在は掴んでいないし、貴方と言う人物を明確に知っている訳ではない」

「接触はしていますよ」

「そう、それは存じませんでした。こちらの予想より随分早い行動ですね。急いては事を仕損じますよ」

「私は、貴方達商人の情報網を甘く見ていませんので……」


 噂の流布にロプスへの接触に加え、情報攪乱。これらを僅か七日の間にやっている。レーヴェ自身、事を急いているのは分かっている。本来ならもっと腰を据えてじっくりやるべきだ。時間を掛けるほど相手は追い詰められる。着手も読みやすくなる。

 しかし、それは出来ない相談だった。それは、今レーヴェ自身が口にした通りだ。


「なるほど、我々の介入を嫌いましたか……」

「…………」


 沈黙は肯定を意味する。

 隠すべきかどうか悩んだが、ここでの否定をしたとしてもミラノは信じたりしないだろう。逆に、疑いの目を向けられるだけでなく不興を買うだけだ。だが、言葉で肯定したとしてもそれは同じ。弱腰と取られ良いように転がされる。

だからこその沈黙。警戒感を示した状態での無言の肯定こそ、今取ることができる最良の手段だ。


「商人は己の利に聡い。貴方が警戒されるのも道理と言うものでしょう。ですが、良い関係を築いてきた我が商家には、一報を届けて下さっても良いのでは?」

「義理を通すのであればお知らせするでしょうが、人の世で商人より強かな方はいないと考えているもので……。例え親兄弟であっても商人と言う立場なら情報を漏らしたりしませんよ」

「我々が義理人情よりも富を取ると?」


 冷静に言葉を返すレーヴェに対し、冷たい言葉を返すミラノ。


「全ての商人がそうとは言いませんが、少なくとも貴方は義理人情よりも富を取られる方だと思っています」

「手厳しいですね。ですが、確かに私ならば義理人情よりも富を取るでしょう。流石に、親子の情まで天秤に掛けると考えられるのは心外ですが……」

「それは、失礼いたしました」


 淡々とした口調と共に、頭を下げるレーヴェ。対してミラノは、柔らかな笑みを浮かべた。そして、肩の力を抜くと本来の目的を口にする。


「お互い腹の探り合いは、この辺にしましょう。当家は、貴方がロプス氏を除くのであればそれを支援する用意があります」


 取引ではなく支援と言うからには、本当にそのつもりなのだろう。レーヴェは、素早く頭を切り替えた。


「具体的には、何をして頂けるのでしょうか?」

「身を隠す場所の提供と必要な物資。こちらは主に食料の提供になります。そして、ある人物への引き合わせを確約いたします」


 もし本当なら迷わず申し出を受けるところだが、材料が何もない状態で信じるには些か上手すぎる話だ。何か裏があるように思えてならない。


「支援の理由はなんでしょうか?」

「そう警戒なさらないで下さい。決して損な話ではありませんよ」


 意図を見落とさないようミラノの言動に細心の注意を払う。


「真意を聞かなければ承服いたしかねますが……」

「貴方が損をするだけですから、私は構いませんよ。ただ、これから同じ街で商いをする者同士。良い関係を築きたいと思っています。父より面白い商いを始めると聞き及んでますし、何より当家は貴方の才を買っております」

「恩を売りたいと?最初に融資の話を持ちかけられたのは何故でしょうか?」


 恩を売りたいと言うのであれば、最初の融資の話は無駄だ。レーヴェに無用な警戒感を抱かせただけで悪手と言ってもいい。こちらの動向を把握していると言う意味であっても、なにか別の方法があったはずだ。


「確認されずとも貴方にはお分かりになるでしょう」


(オレと言う人物の品定めと手札の確認の為か……)


 角が立たないようにする為の敢えて口にしないミラノの(したた)かさに、内心で舌打ちをする。


「……お話は分かりました。繋ぎを付けて下さる方は、一体誰なのでしょうか?」


 聞いた途端、何故かミラノの顔が引きつるのが見て取れた。必死に取り繕うとしている様が、反って不自然さを助長していた。


「私の考えが間違っていなければ、貴方が今一番渡りを付けたいと思っている方だと思います。す、少なくとも有益な相手であることは保障いたします」


 最後に、どもりながらあからさまに目を逸らすミラノ。

 何故だろう。確約を貰ったはずなのに、レーヴェは激しく不安になった。

 一年以上の付き合いになるが、ミラノがこんな表情をするのは見たことが無かった。もっとも、商売相手としての付き合いしかないので、それほど詳しい訳ではない。

 ただ、貴婦人を絵にかいたようなミラノらしくないのは確かだ。

 態々、名前を隠すところを見ると相当な問題がある人物ではなかろうか。


「何か問題がある方なのでしょうか?」

「と、ともかく、支援のお話は受けて頂けると考えていいかしら」

「ええ、まあ」


 恩を売りたいと言うのであれば、有難く買っておこう。特にこちらに不利益がある訳でもない。事が済むまで、静かにしていてくれるのであればレーヴェとしては願ったり叶ったりだ。引き合わせてくれる相手も有益であると言う保証は貰っている。

 相手の人格が歪んでいようが見た目が醜悪であろうが、レーヴェに取って有益であるなら文句はない。不利益を蒙るような相手なら縁を切ればいい。


「では、決まりですね。早速、紹介するのでこちらへどうぞ。朝食も用意させてありますから食事をしながら紹介させて頂きます」


 その言葉にレーヴェは軽い驚きを覚える。引き合わせたいと言う人物は、どうやらサビオ商会とは深い関係にあるらしい。

 少なくとも朝早くの招きに応じられる程度には、関係を深めているという事だ。


「月熊のスープはある?」


 その言葉がレーヴェの思考の回転を止めた。

 ずっと隣で控えていたローゼリアが、長い沈黙を破りミラノに問い掛けたのだ。

 レーヴェとしては、まだスープを食すことを諦めていなかったローゼリアには呆れるばかりだ。いくらなんでも異常だ。


「ローゼリア様は、スープ料理がお好きなの?」

「ん、大好物」

「それは良かった。今日の朝食は、スープ料理を中心にしたから気に入って貰えると思います。もちろん、月熊のスープも用意してありますよ」


 ミラノの言葉に、ローゼリアは顔に満面の笑みを咲かせる。対してレーヴェは昨日から続くスープ料理祭りにげんなりとするのだった。


 そして、レーヴェは出会う。

 長きに渡ってレーヴェの頭痛の種となる原因である人物と……。


 後にレーヴェは、ミラノの提案に乗ってしまった己を行動の浅はかさを呪うことになる。



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