(7)
ビクターは目が震えた。
母と聞けば過るものがある。
瓦礫に命を奪われた母親が自分を残した様に、フィオは飾りと共に世界に残され、何かを託されているのだとすれば
「早く! 信じて! 私は変わったりなんかしない!」
いよいよ焦り始めたフィオが声を上げると、ビクターは漸く飾りを手渡した。
咄嗟に差し出したそれにフィオが触れる瞬間、思わず顔を背けてしまう。
もしその身体が光を放ち、石の様に変わり果ててしまうと思うと、怖かった。
だが違った。
フィオの言う通り、身構えていた現象は一切起こらず、彼女は両手にそれを取るとシャンの元へ走った。
その時、彼女の背中からほんの微かに白い微光が尾を引くのが見えた。
足元では、空島の森を歩く際に見た現象の様に、地面から光が弾けている。
靡く毛先には仄かな銀の光の筋が走り、肌に細かな銀の線が迸ると、服や髪の下に消えていく。
フィオの手がシャンに触れた時、肩で呼吸するのがやっとの彼は落ち着いた。
その最中、長の危機にやっと駆けつけた竜の使者が、目を開けないリヴィアに眼光を浴びせる。
この光に覚えがあるジェドとシェナや、戸惑うグリフィンが眩しさに堪らず目を背けた。
共に光を浴びた3人の傷もまた、癒えていく。
そこに合流できずにいるビクターの指先が、微かに痙攣する。
次々に判断を下し、立ち上がろうとする皆を追えず、腹が立った。
己を叩き上げる皆に、これまで通り誘導してきた自分が入る隙はない。
友達は自らの力を発揮して挑めている。
ならば自分は、十分に力を出し切っただろうと切り離してしまいそうになる。
押し寄せる負の感情に、いつの間にか拳を震わせていた。
その手を急に誰かが掴んでも、どうせまた大人が気休めを言いに来たのだろうと、目も向けずに振り解いてやる。
誰の顔も見たくなく、何の言葉も要らなかった。
何もかも分かり合えるものか。
何故ならここは、見ず知らずの他人の寄せ集めの地なのだから。
本当の家族になれはしないし、そもそも他に家族がいると知った。
この島の人間ではなく、もっと違う地に生まれ落ちた存在だと、目まぐるしく捻くれていく自分に乾いた笑みを零す。
つまらないのは周囲ではなく、自分自身だ。
これではまるで、いつかの自分ではないか。
「ビクターっ……!」
肩が乱暴に揺さぶられる。
「ああ煩ぇな! 話しかけんじゃねぇ!」
視界に飛び込んだ長老はしかし、それに怯まず彼を強く掴んで放さない。
瓦礫から這い出て、身体の至る所に血が滲んでいた。
痛みに全身を震わせながらも足を引き摺り、孤独に立ち尽くす家族から目を離そうとはしなかった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非




