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※大海の冒険者~人魚伝説~ 第十二話 断 (21)
ジェドは目が回る中、そこにのめり込んでいた。
晴れ渡った海に浮かぶ筏は簡素でならず、単に巨大な瓦礫を浮かべただけのものだろう。
一体何を俯瞰しているのか。
まるで鳥にでもなったかの様に、真っ青な海に浮かぶ筏に集まる人々を通過した。
歪んで消えていく彼等の顔が分からないまま、ある所に辿り着く。
そこもまた水に浮かぶ場所なのだが、どうやらボートだろうか。
そこに乗る誰かを、通過してきた人々が呼び止めているのか、激しい声を聞きつけた。
すると再び空に飛び立つ様に映像が遠のき、鏡の壁に切り替わる。
ジェドはつい、打ち消された映像に声を放った。
応答しないボートの主の傍に、誰かがいた様な気がしてならなかった。
※ジェドの回想を6話でお送りします。
ジェドは蹲っていたところ、海鳥の声を聞きつけ、恐る恐る顔を上げた。
そこには晴れ渡った空が広がり、真下を見れば海が広がっている。
まさか、これまでの出来事が何もかも夢だったのか。
そう思わせるほどに異常な風景だった。
慌ただしく辺りを見回しても、誰もいない。
空に停滞している違和感がする中、手足を何度も振った。
すると、急に底が抜けた様に落下した。
足から凄まじい速さで落ちながら、声の柱が伸びていく。
両腕は反射的に何かを掴もうと求めてしまう。
そして、どこか真っ暗な空間に着地した。
息がこもる事で、この場が狭いと瞬時に察する。
見えない闇の壁に手を這わせて調べてみると、コアが被せたキューブとはまるで違っていた。
ここはどこかと、息は上がっていく。
すると身体が温かくなり、微かな揺れを感じた。
何かに包まれている様な感覚だが、ここには自分1人しかいない。
暫し身体を見回すと、視界に光が射し込んだ。
そこに駆け寄ると、快晴の空に浮かぶ太陽が見えた。
それに瞼を失っていると、全身が激しく揺れると同時に視界に影が入り込む。
驚いた途端、目に飛び込んだのは1人の男性だ。
陽光を受けて鋭い光を放つ彼の髪は、異常なまでに銀色をしている。
随分と焦ってオールを握っていた。
酷い惨事に遭った彼は、負傷した片足を引き摺るところにボートを見つけ、沈みかかろうとする陸地から脱出に成功していた。
震える腕に、子どもを抱えて。
焦燥が絶えず、喉も乾き、腹も空いていた。
豹変した身体が求める草木や昆虫、齧歯類、その他野生動物。
荒れ果てた世界で、その様な食事にありつける筈もなかった。
全身に巡る呪いの血は結局、猟師達を襲う快楽以外に何も寄越さなかった。
やり場のない怒りが、低い獣の唸り声になる。
複雑な心境と、見え隠れする繋ぎ合わせようのない記憶の断片の数々に、世界が崩壊しても尚、振り回されていた。
ボートの縁に拳を叩きつけると呆気なく破壊され、固い爪は減り込んでいく。
一切の瞬きもせず、どこか一点を睨んでいた。
ジェドは、そんな男性を暗い空間から覗っている内に、自然と首が振られる。
まるで全身から怒りの湯気を立たせている様な男性に、思わず引いてしまう。
彼が食いしばる歯は明らかに牙だ。
更にそこからは、銀の唾液が滴っている。
またしても溢れる獣の声を聞きつけた時、垣間見えた灰色の瞳に肌が粟立った。
それは、少し前に自分が持っていたものと類似していた。