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*完結* 大海の冒険者~不死の伝説~  作者: terra.
第四話 だから 必要だった
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(10)




 閉ざされた視界の中で蘇る痛い記憶に苦しみ、溺れるも、無意味と知りながら何かに縋ろうと腕を伸ばした。

その時、誰かに手を取られ、身体が引き上げられた。

(たちま)ち、胴体から浮上の速さが増していく。




 外に激しく飛び出したシェナは、その衝撃と共に息を大きく吸い込んだ。

打ちつける雨が目を開けろと促してくる様で、慌てて周囲を見回す。




 嵐が強まっていた。

荒波が今にも頭から呑もうと襲いかかる。

それに叫び声を上げると、先ほどから掴まっている何かに気付く間もなく、顔を大きく突っ伏した。

押し寄せる波は、方向違いに激しく吹きつける大風によって分散され、シェナは、海中に呑まれる危機を奇跡的に免れた。




 顔を上げると、揺れる身体をどうにか支える。

手足も首も重過ぎて、思う様に動けなかった。

しかしこの場がどこかは、匂いで察しがついた。

木材だ。

どうやら、荷車の瓦礫の上に()(つくば)っているのか。

不思議に思い、僅かに匍匐前進をする。

意識が半ば遠ざかるところに見たのは、海中で時折ちらつく銀色の光だ。

だがそれ以上調べようにも気力が失われていく。

暴力を振るわれるよりも激しい痛みと疲れが、全身を(なまり)に変えていった。




 封じられたシェナもまた起き上がれず、闇の中で横たわっていた。




(忘れたい……何もかも、忘れてしまいたかったの……痛かった事も、助けられなかった人達の事も、何も出来なかった自分の事も……あんな名前も、いらなかったの……)




異質を強調するだけの名前を思い出すと、それもまた、憎たらしいだけだったと顔を背けた。




 その時、各所の(かせ)が振動する感覚がしたのだが、起き上がれなかった。

ただ、その振動はすぐ、全ての重みを取り払ってくれた。

身を横たえたまま感じるのは、安定的な進行だ。

ただ荒波に揺さぶられ、沈むのを待っているのではない。

確かにどこかへ導かれている。

滑らかに、真っ直ぐにだ。

瓦礫を挟んだ海面から、コツコツと何かが押し進める様な音がする。

1つ1つの動きは大きく、力があった。

心地良くすら感じる揺れは、これまでにないくらい眠気を誘う。

それを長く、長く、夢の中でも感じてきた。




 空間で突っ伏すシェナは、間も無く訪れる事態を求めて、闇に手を伸ばした。

2度目の最悪の事態に押し潰されていた時、やっと聞こえた。

騒がしい、聞き慣れない人の声が耳に流れ込むと、自然と安堵の涙を溢す。

“女の子だ!流されてきた!”という声に。




挿絵(By みてみん)









代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~

シリーズ最終作


2025年 2月上旬 完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
どうもです! 最後の最後にしてシェナちゃんが誰かに発見されて良かったです( ;∀;) 何度も絶望を体験しながらも、か細い意思で抗う姿は見ていられませんでした( ω-、) 本当に辛い経験をなさってるんで…
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