(7)
空間にこもるシェナは、その音の正体を目にした途端、悲鳴を上げた。
現れたのは5つの金属の輪で、そこから伸びる鎖がぶつかり合う音に、全身が鞭打たれる様に激しく振動する。
再び自由が利かなくなる恐怖が、そこまできている。
まるで実際にそれらに繋がれている様な、生々しい感覚を振り解こうと、そこら中を掻きむしった。
剥ぎ取ろうと引っ切りなしに暴れても、外側の自分はぴくりとも動かない。
どんなに止めろと叫んでも、それは叶わなかった。
終いには寝そべり、重過ぎる枷を外せと嗄れた声を絞り出す。
そうしている内に視界がぼやけ、辺りが見えなくなった。
どんなに泣き喚いても一切の風が吹かない閉鎖的なここから、抜け出す手段を見出せない。
そこへ、再び身体が揺れた。
その拍子に砂っぽい景色が浮かび上がると、自分が、先ほどよりも薄暗い道を鎖の音を立てながら歩いているのが分かった。
足取りの悪さを視界の揺れから感じる。
強く頭をぶつけたせいで、意識がぼうっとしていた。
その影響だろうか、閉ざされていたありとあらゆる記憶が溢れ出した。
辺りの静けさから、夜になっているのだろう。
日光を浴びる事などほとんどない。
どんなに清々しい朝でも、この街だけは薄汚れた暗い世界のままであると知っている。
大陸が沈むほどの大惨事が起きても尚、闇で犇めき続けるここは、皮肉にも残ってしまったのだ。
「おい、忘れモンだ! とっとと持ってけ!」
また別の男の怒号がすると、シェナは胴体から抱えられた。
目の前には巨大な荷車があり、ゴミを投げ捨てる様にそこへ放り込まれた。
身体の中のシェナは、その間も声を絞り出し続けた。
しかしそれがか細いものである以前に、この場から外に声は届かないのだと首を落とす。
声が籠る孤独の間では、衝撃や痛みは受けるものの、こちらからの合図に誰も振り向く事はなかった。
荷車の中は悪臭で充満している。
シェナは生温かい何かに触れ、掠れた悲鳴を上げた。
一体何だと言葉にしようにも、言葉として形にならない。
何も見えない荷車の中は広く、辺りを見回しながら進んだ。
その1歩が引き金になって躓くと、それに痛みを上げる誰かの声がする。
そのまま鬱陶しそうに腹から蹴り上げられ、小さな身体はボールの様に違う誰かの上を転がり続けた。
全身に打撃を受け、漸く落ち着いたのは木造の床だ。
シェナは匂いですぐに分かると、身を起こすのだが、荷車が動き出した事で顔から転倒する。
体内のシェナは、何かが物を打ち叩く音の正体を確かに知っていた。
数頭の馬が鞭で打たれ、鼻息を立てている。
足音から、一定速度を保って荷車を引いているのが分かった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非