(6)
投げ飛ばされたシェナは気が気でなく、仕切り屋に向かって箒を投げつけた。
乾いた音は味方などせず、あっさり辺りに散っていく。
仕切り屋がそんなシェナの態度に血相を変えると、目の前の女性など横流ししては箒を蹴飛ばし、シェナの髪を掴みながらロングナイフを引き抜いた。
周囲はこれに悲鳴を上げる。
子どもが殺される影が過ると背筋が凍った。
だが助けようものなら、巻き添えを喰らうだけだ。
よって誰もが、シェナを諦めてしまう。
刃が残像を残して何度も地面を削り、叩く音が弾けた。
シェナは、首から胴体にかけて抑えてくる仕切り屋の太い腕に抗おうと、まるで獣の様な悲鳴を上げて噛み付こうとする。
だが、足すら碌に動かせない。
そのまま、ただただ髪が切り刻まれていった。
シェナは怒りと恐怖に息を荒げ、甲高い悲鳴を上げる。
耳を劈くほどのそれは、無風のその場に突風を引き起こすと、仕切り屋の手からナイフが滑り落ち、その大柄な身体は押し倒された。
これに巻き込まれる様に、周囲の皆までもが大風に体勢を崩してしまう。
目を血走らせるシェナは、透かさずロングナイフを拾って振り上げた。
しかし、あまりの重さにバランスを崩し、あっさりと転んでしまう。
立ち上がった仕切り屋は怒号を放つと、またも横入りしてくる女性を押し返しては、シェナを蹴飛ばした。
石ころの様に地面を激しく打ったシェナは、頭を塀にぶつける。
「気色悪ィな……まさかお前、異色だ何だ騒がれてた餓鬼かァ?」
この時、内側のシェナの視界も霞んでいく。
まるで攻撃を直に受けた様な生々しい痛みのあまり、すぐに動けなかった。
そんな中、仕切り屋の発言に寒気がした。
嫌な夢は大抵、いい夢よりも長かった。
一刻も早くこの場を打ち破ろうと、閉鎖的な空間の壁を叩き続けた。
「きょうだいの中でもブッ飛んだ血だもんなァ?
そらァ大層な取引になったろう!
俺も、てめェの母親も安泰だ!」
内側のシェナは震え上がる。
何かとてつもない恐怖が接近してくる様で、身を丸め、耳を塞いで突っ伏した。
声が出ない。声が出せない。
いや違う、声を出さなくなったのだ。
声を出すのは、最も大事な時にだけと自分に誓った。
そう決めたのには、訳があった。
「せっかく可愛がってやってんのに……使えねェなァ!」
周囲一帯に山の如く積み上がった瓦礫を無くそうとしていたところ、風に吹き荒らされてはたまったもんじゃないと、仕切り屋はシェナに何度も怒鳴り散らした。
その矢先、鉄が擦れ合う、冷徹で重々しい音が近付いてきた。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非