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locker  作者: いつわ
最終章
77/77

最終話    locker

「上野江高校…………お前達が通っている学校だ。校内のどこに監禁されているかなど細かく言わずとも分かるだろう」

 ヴォルグは頷いた。

「携帯電話出せるか? 地球に繋がるやつ」

 誰かに電話をかけたいのか、そんなことを聞いてきた。

 再度訪れる腕の痛みに堪えながら意識を集中させる。特殊な携帯電話を生成し、渡した。

 普段なら苦もなく生成出来るのだが、今の状態では苦しかない。

 神と言えどこれは致命傷だ。もって数時間。

 ヴォルグが携帯電話を操作して、画面を私の耳にあてた。一体誰と電話させる気なのか全く分からなかったが、動けない私はされるがままだ。

 プルルルル、プルルルルと規則的な呼び出し音が聞こえ、数秒後に止んだ。

『……もしもし、神田ですが』

「…………」

 そういうことか、と思った。

 おそらくこの子があの神田家の人間なのだろう。

『……イタ電か?』

「もしもし……。君は神田コウスケ君か?」

『そうですけど、あなたは?』

『私は違う』

『だろうな!! そういう意味で言ったんじゃねえよ! ……あぁ、突っ込みって大変なんだな。硬大、いつもごめんな』

「私は硬大ではない」

『知ってるよ!! ……なんか男と女の声が同時に聞こえてくるんだけど、結局あなたは誰なんです?』

 はぁ~、という溜め息が電話越しに聞こえてきた。

 私は普段ボケはやっていないのだが、久しぶりの神田家との会話で楽しんでいる。

 ヴォルグと王女は笑っていた。どうやら始めからスピーカーに切り変えていたらしい。

「…………始終(しじゅう)。悲劇の始まりから終わりまで生きる者だ」

『なんだそれ?』

「神田家は今幸せか?」

 今までずっと気になっていたことを聞いてみた。

『……両親は亡くなって、立ち直れなくなりそうなくらい辛かったけど、今は大切な人達がいるし前向きに生きてます…………って始終さん、神田家を知ってるんですか? 一体何者……』

「神田家の過去をよく知る者だ。……幸せに生きて、将来子供に家族の大切さを教えてあげなさい」

 ヴォルグを見て頷くと、意図が伝わったのか、通話を切ってくれた。

 王女が私の腕に刺さっている氷柱を引き抜こうとしたが、私は首を振って止めさせた。

 残っている力を使って乗り物を生成し、念力でクラクションを鳴らす。

 プーーーーーーと、火星の裏側まで聞こえるのではないかと思ってしまうほど大きな音が辺りに広がる。

 この音を聞きつけてすぐにあの子達もやってくるだろう。

「色々してもらって悪いな」

「何を……言ってい……る。これくら…………いしかでき……ないのだ」

 意識が薄れていく。もしもこのまま目を瞑れば、もう二度と開くことはないだろう。

 最後に……言わなければ。

「私を……止めてくれて、……ありが…………とう…………私の大切……な……子供達……よ………………」

 私はゆっくりと目を閉じた。

 神が動かなくなってから数分。遠くから梓達が走ってくるのが見えた。どうやらみんな無事のようだ。

 俺と唯果のところまでくると、みんなは神を一瞥した。

「……もしかして神を倒したの?」

 梓は苦笑してもう一度神を見る。

 友人よ、そんな顔をしなくでもいいだろう。

「まあな。それより地球へ戻るぞ。まだやることが残ってる」

「やることって?」

 俺はみんなにすべてを話した。

「まさか私達の通っている学校に火星の神様が閉じこめられていたなんてね」

 梓は、驚いているというか、へぇ~という感じだった。

 叶未も同じようなリアクションだ。…………つまらない。

 副はなにやら考え込んでいるが。

「とりあえず行きましょう」

 叶未と梓が乗り物に乗り込む。副達はなぜかその場から動かない。

「私はここに残ります。女王様が一人になってしまいますので」

「お兄ちゃん……」

「梓、今まで黙っていて悪かったな。短い間だったけど会えて嬉しかったぞ」

「何言ってるの? どうせまたすぐ会えるんでしょ? そんな最後のお別れみたいな言い方……」

「元気でな……梓」

 副は梓の頭に手を乗せて、優しく撫でた。梓は恥ずかしいのかそっぽを向いている。

「オレとトマトさんは元々こっち側だ。……また会えるといいな、王子」

「次会うときがあなたの命日」

 ふふっとトマトさんが微笑んだ。……やられないように努力しよう。

 俺と唯果も乗り込み、エンジンをかける。

 特に操作するようなことはなく、乗り物は勝手に飛ぶ。

 またすぐ会えるだろう、と思い後ろを振り返ることはしなかった。

 










「夜の学校って初めてだよ。ちょっと怖いかも」

 運が良いのか、地球に降りたときは真っ暗だった。時間帯的にはまだ教師は職員室にいるだろう。

 部活をしている生徒も帰宅していないおかげで騒ぎを起こさずに済みそうだ。

 鍵がかかっていない窓から校舎の中に入り、職員室を目指して歩く。

 やはりまだ残っているのか、職員室のドアから明かりが漏れていた。

 コンコンとノックをしてから失礼しますと言ってドアを開け、中に入った。

「ん? なんだ~、お前達まだ残ってたのか~?」

 職員室に残っていた教師は、俺の担任だけだった。いつもダルそうにしていたが、今日は一段とダルそうだ。

 この人も火星について全部知っているのだろうか。

「はい、鍵を貰いにきました」

「なんだ忘れ物か~、教室の鍵でいいのか?」

 本当に忘れ物をしたと思っているのか、真面目な顔で聞いてきた。

「いえ、立ち入り禁止場所の扉の鍵です」

「…………一応聞いておくけど、目的は?」

「監禁されている神を助けるためですよ」

 ハァ~と、全力の溜め息が聞こえてきた。もちろん担任教師からだ。

 担任は立ち上がり、職員室の奥までわざと背中を丸めて歩いていき、金庫の前で立ち止まった。

「まさかお前達が火星人だったなんてなぁ。しかも神を倒したんでしょ?」

 言いながら担任は金庫の鍵を開けた。中には鍵が入っていて、担任はそれを取ると職員室のドアに向かって歩き出した。俺達は黙ってついて行く。







「まさかこんな面倒なことを私がやることになるとはねぇ」

 ハァ~と溜め息。

「そんなに溜め息をつくと幸せが逃げますよ」

 梓は欠伸しながら言う。

 目の前には特殊な錠前が五つも付けられている錆びた扉。

 担任は一つ一つ錠前を外していく。

「先生は火星人なんですか?」

「そうだよ。私だけじゃなくて上野江高校の教師全員火星人」

 この人にとってはどうでもいいことなのか、いつもの調子で言った。

 ガチャリ、と最後の錠前が外れ、床に落ちた。

 躊躇うことなく扉を開ける担任。

 その先にはさらに下へと続く階段が見えた。








「ここよ」

 階段を下りた先では、さっきの扉とは違い、どこにでもある普通の鍵付き扉があった。

 担任は、面倒臭いなどと言いながらポケットから鍵を取り出し、扉を開ける。

 ゆっくり開いていく扉。

「初めまして神様。正義のヒーローがあなたを助けに来てくれましたよ~」

 ふふっと笑うと担任は手を上げ、ひらひらと振りながら上に戻っていった。

「…………信じていました」

 その人は言った。

 輝かしい金色の髪という他は唯果そっくりな女性。まるで唯果をそのまま大人にしたかのような印象だ。

 着ている服はボロボロで、顔も汚れていた。

「は、初めまして」

 俺に続いて唯果と梓も挨拶をした。

 中に一歩、足を踏み入れた瞬間、lockerが出現した。いや、元々出現していたlockerの中に自分から入ったのか。

「あなたなら分かるのではないですか、硬大くん」

 優しい表情で言う神。

 条件は…………もっとも愚かな神の名前を言うこと。

 愚かだって自分で分かってたんだなあの神。

 おそらくこれが最後のlockerだろう。

 あの神がまだ人間だった頃はlockerの中にいるかのような人生を送っていたのだろう。

 汚物を見るような目で見られてもいいのなら家から出られる。苛められてもいいのなら学校に行ける。

 あの人の人生には常に条件のようなものがあったのだろう。

 だが、それもこれで最後だ。

「……神田始終」

 ヴォン、という音とともにlockerが消えた。

 どうすればいいのか迷っていると、神が微笑んだ。

「とりあえず、出ましょうか」

 その言葉に俺は頷くことしかできなかった。









 冷たい夜風が体を突き抜ける。昼間は騒がしい学校のグラウンドも、今は風の吹く音しかしない。

「つまり、全部カナンさんの計画通りだったんですか?」

「はい、地下に長い間閉じ込められていたときは辛かったですが」

 家にlockerを出現させたのはカナンさんだったとは……。

 第二王国のlockerに気付かせるためにやったことだと、カナンさんは言った。

 カナンさんは、最終的にこうなるように色々と仕組んでいたらしい。

「唯果ちゃんが第四王国で、硬大くんを第一王国の子供にしたのも私です。あの人は硬大くんを殺さずに、平原に捨てるだろうと思っていました」

 神ってすごいんだなと改めて思う。

「これからすぐに火星へ帰られるんですか?」

「はい、そのことについてなのですが……」

 なにやら言いにくそうにこちらを見つめるカナンさん。

 嫌な予感がする。

「硬大くんがあの人と戦ったことを考えると、今の火星の状況はおそらく最悪でしょう。その状況を良くするためには時間と力が必要です。しかし今の私の力は半分以下……」

 カナンさんの言いたいことがわかってしまった。

 つまり……。

「一度、分身である唯果ちゃんを私の中に戻したいのです。状況によっては時間がかかると思います。それに、あの人が作り、戦いの原因となった能力はすべて消させていただきますので、火星に行くことが出来なくなってしまいます」

 いつも一緒にいた唯果がいなくなる。

 一緒にカップラーメンを食べることが出来なくなり、一緒に登校することも出来ない。

「そんな……嫌だよ……」

 唯果が泣き始める。

 でも俺は泣かない。こういうときだからこそ泣いてはいけない。

「……唯果は俺のことをどう思ってる?」

「うぅ……好きだよ、大好きなんだよっ……。離れたくないよおおぉぉぉ」

 泣いている唯果とは逆で、俺は笑っていた。

 そして周りを気にすることもなく俺は唯果にキスをした。

 唯果は泣き止んで、驚いたような顔をしている。

 梓と叶未はニヤニヤしながら見守っていた。

「大丈夫だ。離れてもまたいつか会える。そう信じよう」

「………………うんっ」

 ようやく唯果が笑ってくれた。この笑顔をずっと忘れずに覚えていよう。

「では、始めますね」

 そうカナンさんが言ってから数秒で唯果が薄くなっていく。徐々に吸収されているのだろうか。

 唯果が消えていなくなる直前に声が聞こえた。

「たいちょー! 次会ったときは結婚しようねー!」

 満面の笑みに対して俺は満面の笑みで返す。

「結婚したかったら早く帰ってこい!!」

 唯果を吸収できたことを確認したカナンさんは、俺達に頭を下げて、跳んでいった。








 季節は春。ちょうど桜が咲き始めていた。

「今日も疲れたなぁ」

 高校を卒業し、働き始めて数年。毎日が大変で疲れがやばい。その上家に帰っても一人だから癒しがない。

 仕事から帰って家に入って電気も付けず冷蔵庫からお茶を取り出した。コップにお茶を注ぐ音しか聞こえない。

 なんなんだこの寂しさは!? と、毎日のように思っているのだが、そんなことを思ったところで家が賑やかになるわけでもない。

 ……明日も仕事だし、風呂に入って寝よう。

 俺は風呂から上がった後すぐ布団に入って寝た。





「……ん?」

 朝、起きるとカップラーメンの匂いがした。プラス、物音がする。

 泥棒かと思ったが、普通に考えてカップラーメンを作る泥棒なんているはずがない。

「もうすぐ三分経つから起きてー」

 ………………………………………………疲れが吹き飛んだ。

 急なことに驚き、夢なのではとも思ったが普通に現実だ。

 ていうか、あれから数年経っても料理出来ないままなのかよとか思いつつも頬が緩む。

 今日からはもっと頑張れそうだと、俺は声のする方へ歩き出した。











lockerを最後まで読んでいただきありがとうございました!!

最終話が思ったより長くなってしまって大変でしたが、なんとか一週間以内に書くことができました。

 小説を書くのは初めてで、話は自分でも意味分からないと思うところが多々あり、こんなど素人の小説読んでくれる人なんていないのではないかと思っていたので、本当に嬉しいです。

 本当はもっと長く書く予定だったのですが、色々なきっかけで、新人賞受賞を狙いたいと思ったので、もっと色々勉強してlockerの十倍以上面白い作品を書くため、短くしました。

 いやいやお前じゃ無理だろと思う方も多いと思いますが、諦めません!

 私の小説を読むために貴重な時間を使って頂き、ありがとうございました!!!!

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