第五十九話 再会
折り返ししてからしばらく経ったこの段階で未だに主人公のキャラ設定がはっきりとしていなくて焦っています。一応普通キャラでやっているはずなのですが、アバウトすぎてよく分からなくなってしまいました。はい、馬鹿です。
なぜここに叶未が? 叶未は今、風邪をひいていて家で寝ているはず。
そのはずなのに今、こんな時間にこんな場所で、暗闇の中でも顔の表情が分かるほど近くに立っている。
それに、近付かれても全く気付かなかった。足音も聞こえず、気配がなかった。
隣では梓が怒りで髪が変色しかけていた。純粋な緑が、点滅するように輝いている。
俺も分かっている。どうして叶未がこの時間に、この場所にいるのか。
それは叶未が……第二王国の王女だから。
「ど、どうしてここに梓と硬大くんがいるんですか? 早く帰った方がいいですよ。ここは今、あ、危ないですから」
叶未も知らなかったのだろう。
しかし今ではもう分かっているはずなのに、認めたくないのか、現実から目を背けようとしている。
「……なんで針川叶未が。私達には関係ないって言ってたのに!!」
梓が絶叫する。
だが、叶未はそれを無視して俺に言った。
「どうして…………どうして私の弟を殺したんですか」
さっきまでの慌てた様子などまるで無かったかのような冷静さだ。
俺は、叶未に飛びかかろうとする梓の前に片手を上げて止める。
「梓を攫ったんだ。俺は梓を助けるために戦った。……殺すつもりは無かった。殺されかけたし。もちろん俺達は第二王国の人間を怒らせるようなことは何もしていない」
「もしかしてあの話……」
俺が昼休みに言っていた話のことを言っているのだろう。
「じゃあ、私の弟は自業自得で、梓と硬大くんは被害者ということですか……?」
叶未が恐る恐る聞いてきた。認めたくないことが多くて、今すぐにでも両耳を塞ぎたいと思っているのではないだろうか。
それでも叶未は聞いてきた。真実を知るために。
「ああ、そうだ」
月明かりが俺達を照らしている。そのおかげか、叶未の微妙な表情の変化にも気が付いた。
「……そうですか。私の弟も馬鹿ですね。大体察しがつきます。あの子は母親の言うことを何でも聞く良い子ですから」
そう言って叶未は苦笑した。その表情からは、怒りが感じ取れない。それどころか少し悲しんでいる気がする。
「すみませんでした」
叶未が頭を下げる。
「少しも疑わないのか?」
「短い間でも、硬大さんが嘘を吐くような人ではないということくらい知ることは誰にだって出来ますよ。……悪い人ではないということも」
隣を見てみる。少し落ち着いたのか、梓の髪の色が元に戻っていた。そして盛大な溜め息を吐く。
「……で、どうするの?」
戦うのか、戦わないのかということだろう。
叶未は首を横に振った。
「私は戦いませんし、戦いたくもありません。でも、梓と硬大くんが私のことを許せないのであれば、気が済むまで殴って下さい。蹴りでもいいです。私はそれをされるだけのこと……いえ、それ以上のことをしたのですから」
目が嘘を吐いていない。本気らしい。
だが俺はそんなことをしたくはない。梓も俺を見て首を横に振る。そして俺から視線を外し、叶未を見据えた。
「別にそんなことはしない。その代わりと言ってはなんだけど、名前教えてよ。あるんでしょ、今の名前とは別に本名が」
確かにそれは俺も少し気になっていた。聞いたところで何かあるわけではないが、友達が偽名を使っていたと知って、本名が何なのか気になるのは当然だろう。
叶未は微笑み、梓の目を見てはっきりと言った。
「私の名前はレミンと言います」
「…………………………」
「…………………………」
それを聞いた瞬間、俺と梓の周りにハテナが飛び回った。
「………………ごめんね叶未ちゃん。私いつの間にか難聴になってたみたい。もう一度聞いていいかな?」
梓は目をゆっくり閉じて、真っ直ぐ立ったまま、両手を両耳に当てる。俺もつられて、梓と同じことをする。これでもう聞き間違えることはないだろう。
物音一つしない静かなこの空間で、叶未の小さく息を吐く音だけが聞こえる。
「レミンだよ。……梓、覚えてる?」
今度こそどう頑張っても聞き間違えるはずがなかった。
俺と梓はゆっくりと目を開けて、目の前の少女を見た。
そして梓はまだ信じられないのか、訳の分からないことを言い出した。
「そりゃ覚えてるに決まってるじゃん。レモンでしょ? 家庭科の授業で習ったやつだよね。えっと確か、美肌作りに使われていたりするらしいけど、レモンパックをして日光に当たってはいけない……だっけ? マルガリータ皮膚炎になる危険性があるんだよね」
「いや……、そんなこと授業じゃやってないと思うんだけど……。ていうかわざとだよね、梓?」
困り始める叶未。
「というか、私の名前の話をしているのになんでレモンについての話になってるの? 私はレモンじゃなくてレミンだよ。レ・ミ・ン!」
叶未は、目の前に突き出された両手を押しのけて耳元でそう言った。
「…………マジで?」
「マジだよ。……ふふふ」
叶未……いや、レミンはおかしそう笑っていた。
そして俺は黙って二人のコントを四歩離れた位置で見ていた。
三人で電車を降りて、駅を出た。
「今日は色々ありすぎて疲れたなあ」
梓はそう言って両手を組み、真上に突き出して伸びをした。
俺達はあのあと、お互いのことを話しながら帰っていた。
「できれば私のことは」
「分かってるよ。内緒でしょ?」
「梓も態度が大分変ったな」
梓は叶未の正体を知ってから、今までとは真逆で、叶未に対してニコニコしながら話していた。
「そ、それは! ……ごめんなさい。だってレミから変なオーラのようなものを感じるから。今もだけど」
俺もそれは感じていたが、今までほとんど気にならなかった。
「もしかしたらそれは王族の力じゃないかな? 王族の人は普通、自分の力を外に出さないように抑えることが出来るらしいのだけど、私は……その……不器用というか、そういうの苦手だから」
恥ずかしそうにして言う叶未。
俺はどうなのだろうか。梓が何も言ってこないということは、ちゃんと抑えられているのだろうけど。
「今まで冷たい態度とって、その……ご、ごめんね?」
梓は叶未の様子を窺うようにして上目づかいで謝り、それにたいして叶未はにこっと笑う。
「いいよいいよ気にしなくても。自分の力を制御できてない私も悪いんだし」
きっかけは予想外だったが、無事に仲良くなってくれたみたいで良かったと、俺は素直に喜んだ。
時間はすでに0時を回っていて、誰もおらず、暗闇と俺達の話声だけが辺りに広がっていた。




