第五十七話 昔話
遅くなってすみませんでした……。
翌日、午前中の授業をなんとか乗り越えていつも通り昼休みの時間がやってきた。
梓は今日も俺達と一緒に弁当を食べていた。どうやら梓の友達は最近忙しくてなかなか一緒に食べることが出来ないらしい。
叶未とは仲良くしているとまではいかないが、大分マシにはなっていた。
「光翼はもう平気なのか?」
「何が?」
「家族のことだよ。自殺したがるほど辛かったんだろ?」
あまり聞いてはいけない質問だと分かってはいるのだが、気になる。勝手に死なれては堪ったもんじゃない。
「大丈夫だよ。梓がこれからずっと俺の側にいてくれるらしいからな」
「ちょ、ここでわざわざ言うことじゃないでしょー!」
顔を真っ赤にして怒り出す梓。
叶未はそれを見てクスクスと笑っている。
「そういえば、どうして光翼の家族はそんなに仲が良かったんだ? いや、別に変でも珍しくもないんだけど、何か……」
「異常……だろ?」
そう言って光翼は苦笑する。
そう、異常なのだ。確かに仲の良い家族はいくらでもいる。だが、反抗期もなく、家族が死ぬと自身の存在価値を否定し、自殺行為にまで及ぶ人なんて、探しても見つかるかどうか分からない。
それに光翼は死にたくても死ねなかったと言っていた。まるで呪われているかのようだと。
「何かあったのか……?」
光翼は頷いた。梓と叶未が真剣な表情で光翼を見つめる。そして、光翼は怖い話をするかのような口振りで話し始めた。
「昔…………かなり昔…………何年前だっけ? 分かんね」
ハハハと光翼は笑う。しかし誰も表情を変えなかった。俺と同じで二人も、笑ってないで早く話せと思っているのだろう。
それを察したのか、光翼はコホンと無意味な咳払いをして話を続ける。
「昔、神田夫婦の間に奇形児が生まれたんだ。詳しくは聞かされてないんだけど、前代未聞で不憫な子だったらしい」
梓と叶未の表情が暗くなる。
「それでも夫婦はその子供を愛していた。でも周りはそうじゃなかった。十数年が経ったある日、夫婦が息を引き取った。夫は病気で、妻は過労だった」
聞かなければ良かったと、今更になって思い、光翼に心の中で謝罪する。
「家族を失った子供も限界がきていた。毎日学校で暴言を吐かれ、面白半分で暴力を振るわれ、避けられた。前代未聞の奇形児としてニュースにもなった。しばらくしてその子は自殺した」
梓と叶未は両手を口に当ててうるうるしていた。光翼は最初から表情を変えていなかった。
「そのことがあって以来、神田家は家族を異常なまでに愛するようになった。周りが自分たちに対してどう接してこようと、家族だけは自分を大切にしてくれるという意味を込めて。……まるで呪いがかけられているかのように」
しばらく誰も口を開けなかった。あまりにも衝撃的すぎて何を言ったらいいのか分からなかった。
ある程度予測はしていたが、ここまで話が重いとは思わなかった。
俺はゴクリと唾を飲んで、口を開く。
「その呪いが今まで続いてきたってことだよな。そんな話初めて聞いたぞ」
「まあ、だいぶ昔だしな。知ってる人は少ない。でも、神田家は必ず自分の子供にその話を聞かせてきたらしいからな。俺は知ってるってわけだ」
そう言って光翼はパンパンと手を叩いた。
「はい、おしまい! ほらほら三人ともそんな顔するな」
そうだ。話を聞いておいてここで光翼に気を遣わせては悪い。
それに早くしないと昼休みが。
………………昼休み?
「「「「あ」」」」
四人が声を出したと同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
弁当はまだ半分も残っていた。




