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受験受験受験…

周りから出る言葉はそればっかり。


先生も友達もみんな繰り返して同じことばかりを言う。



「努力は人を裏切らない」



それじゃあ今勉強を頑張っている全国の学生は第1志望の大学に入れるとでもいうのだろうか。


周りとはある意味特殊な雰囲気を放っているのは木原つぐみ。


特殊と言っても一人だけ髪色が違うだの、顔にいろいろ塗りたくっているのとは

違うのだ。


肩までのびた髪を時折耳にかけ、カバーをかけた文庫本を読む。

承知の通り周りは英単語だの、古文単語だの、年表だの…勉強に関する本を熱心に読んでいる。

つぐみだけいつもその中で一人の世界に浸るのだ。



「木原、昨日の課題取りに来いって石田先生が言ってたけど」


「…ありがとう」




先ほどまで読んでいた本を閉じて鞄にしまう。

そしてかばんをロッカーに入れて鍵をかけてから職員室に向かう。




















古典教科係のつぐみは古典の授業を担当する石田先生という

新人教師のところに課題を取りに行く。


その際にいつも先生が口にする。


「今日は大丈夫みたいね」


その言葉ににっこりとほほ笑みお辞儀をして職員室を出る。




そしてまた真顔で笑うこと無く教室へ向かう。




大丈夫?あんたのせいで教室に戻った後が大変だということを知らないのか。

顔を見ただけで何がわかる。




教室に戻るといつも通りの現実。


「まーた石田にチクリにいったの?」

「聞いてくれた?」

「秀才だと先生の態度も違うもんね」



机の上には濡れ雑巾、チョークの粉。

ご丁寧に椅子は別の場所に置かれている。



くだらない。


つぐみは視線を机から移すことなく雑巾を机の下に置き

チョークの粉は手で掃っただけでかばんを取りに行く。




鞄をロッカーに入れて鍵を閉めるのも取られないため。


つぐみは無愛想で人の輪には入れないが頭は良かった。

授業を聞いただけで頭に入ってくる。



受験期の高校3年生にとってそんなつぐみに嫉妬しているのか

何なのか3年に進級するにあたってつぐみへの嫌がらせが始まった。




ロッカーの前に立ったつぐみは眉をひそめて

うつむく。



「どーしたの。早く教室戻ってきなよ」



くすくすとクラスメイトが笑う。



「おい、木原授業始まるぞ。中入れ」


授業が始まる時間になり廊下から教科書を持った先生が現れる。



「……早退します。」


「は?お、おい…」




つぐみはロッカーからかばんを取り出し走った。





















走って走って古いアパートにたどりつく。


腐ってきしむ階段をゆっくり踏んで一番奥のドアの前に立つ。


一呼吸おいてドアを開ける。



もちろん鍵もかかっているわけでもなく簡単に扉があいて

中に入る。



中は思ったより汚くなく、整頓されている。

狭いのが気になるくらいで生活は簡単にできる。



「涼ちゃん…」


「ん?つぐ?」



奥のソファで寝転んで文庫本を読んでいたのはつぐみより

10歳くらい年上の男。



背はそこまで高くはなく、髪がさっぱり短く

ラフな格好で立ち上がる。



そしてつぐみがいつも来た時に入れる

カップにインスタントコーヒーを入れて丸いテーブルの上に置く。



そしてまた寝転んで文庫本を読む。




テーブルを挟んで寝転んでいる男の前に座ってコーヒーをさましながら飲む。




「またやられた?」




本に視線を向けたまま言葉を発するのは

西山涼。


「うん。」




つぐみはコーヒーを飲みながら足でかばんを隠す。



「大丈夫、涼ちゃんの本は何もされてないから」


「そう」




部屋はそのまま無言に包まれる。



つぐみは何をすることもなく

カーテンが閉められた窓をじーっと見つめる。



今何時だろう。


涼の部屋には時計がない。カーテンも閉まっているからあたりの明るさもわからない。




涼はいつでもそこのソファにいる。



いつも何か本を読んでいる。


いつ寝ているのか、いつご飯を食べているのかわからない。



一応携帯電話も持っているようだが


使っているところもかかってきているところも見たことがない。


っていうか、電源入ってる?



つぐみはふと窓から涼に視線を向ける。


すると涼もこちらを見ていた。



そのまま笑うこともなく見つめあう。



何を考えているのかわからない。いや、何も考えていない。



つぐみは立ち上がり帰る旨を伝えた。




「かばん、買おうか?」


「……いい」




そこで初めて笑って部屋を出た。





毎日くだらない。


いじめにあうために学校に行って、ロッカーも壊され

鞄も毎日ボロボロにされる。


何が楽しい。


ストレス発散の道具にされるのはごめんだ。



だけど反撃するのもつかれる。



あいつらはガキだ。私は大人だ。




そう思っていた。だけど違った。


私はまだ子供で、大人に守られて、世界を馬鹿にするのには

まだちっぽけだった。



そう気づいたのは西山涼と出会ってから。




涼ちゃんは大人だ。





その日の帰りの出来事だ。最悪な出来事。



あの男と出会った。



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