因果応報
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パトリシアは愛妾の立場がこれほど危ういものだとは思っていなかった。二つの貴族家の結びつきを壊して欲しい。それが偉い方のお願いであり命令だった。
褒美は愛妾。これで成り上がりの男爵家にも大きな後ろ盾がつく。
笑ったのは実家か彼の方か。
自分の美貌に自信のあったパトリシアは最高権力者の腕に抱かれながら、媚を売った。
侯爵家の坊ちゃまなんて赤子の腕を捻るように簡単だった。
最初の事件は彼が来る時を狙って仕組んだ。破落戸になったのは実際には戦ったこともない俳優だった。
正義感の強い青年は直ぐに引っかかった。甘すぎて笑えた。
紅茶の店にも賄賂が渡してあった。貴族に逆らう商人はいない。屋敷は本物だ。パイは侍女に焼かせた。自分で焼いたことなどない。
婚約者を気にしていたので念の為に媚薬を紅茶に一滴垂らしておいた。
タウンハウスに正装して来たと報告があった。口元が緩い弧を描いた。
随分楽な仕事だった。
寵愛は自分のものだと思っていたが訪れは数回だけだった。
離宮からは出ることは許されない。お茶が濃い目だったから堕胎薬でも盛られているのだろう。
それとも食事の中だろうか。
一生飼い殺しか、その内毒でも盛られるのだろうか。
王妃殿下は神々しいくらいに美しかった。側妃様まで二人いらっしゃる。皆様気品が溢れている。レベルが違うと納得した。ほんの摘み食いだった。侍女と護衛は減らされ二人ずつになった。
生きている間に猫でも飼わせていただきたい。暇すぎる。
あの坊ちゃまに愛されて暮らした方が幸せだったに違いない。でも目を付けられたまま生きていけるとは思えない。私なんかに騙されて可哀想に。
人を騙したのだから地獄行きだ。
死ぬ時はあの方を呪ってやろう。二度と生まれ変われないように。
私と同じ場所に堕ちてくるように。心を込めて。
◇
リアムは父の命により国境の地で平民の文官として生きていくことになった。今まで侍従やメイドにしてもらっていたことを全部自分でしなくてはならなくなった。
強い意志で婚約を継続していれば平和な人生だっただろうと思うとやりきれないが、全部自分が蒔いた種だ。
オリビアを泣かせたのは自分だ。あれは一時の感情だった。恋だと思ったのは錯覚だった。玩具を欲しがる子供の執着だったと今ならわかる。
パトリシアと会わなくなったらすっぱりと思いが切れた。あれほど焦がれていたのは何だったのだろう。騙されていたという衝撃が大きかったせいだろうか。
苦い思いは心の底に沈めた。
陛下から目を付けられる程、両家の結び付きはそれほど邪魔だったのだろうか。もう表立って仲良くはできなくなったが、貿易と外交は国にとって欠かせないものだ。どうして目の敵にされたのか理解が出来ない。
父は何か謀り事を企んでいるようだ。もう自分は知る立場にはいない。それが悔しくてたまらない。
文官の仕事が終わった夜、外交について勉強している。活かされることはないだろうが。
王都にいる時にもっと父に質問するのだった。
リアムは取り戻せない現実を苦く噛み締めた。
オリビアは幸せだろうか。笑っているだろうか。自分が思うのは烏滸がましいと分かっているがどうか永遠の幸せを君の為に祈りたい。
泣かせてごめんねオリビア。
愚かな男の願いは誰にも届くことはなかった。
三年後何かと寝込みがちだった国王が亡くなった。継いだのは貴族からの支持が多かった王太子だった。王妃は退ぞき息子に全てを任せ離宮で余生を穏やかに過ごした。側妃は相応しい者に下賜された。愛妾は骸になって離宮で見つかった。遅効性の毒殺だった。実家の男爵家も引き取りを拒んだので無縁墓地に埋葬された。
ーーーーー国王が亡くなる一年前に時は遡るーーーーーー
父が「サミュエルかノアを婿にするか。どちらも裏切らないぞ。神殿契約をすれば裏切ったら死ぬから」と領地に帰ってきて楽しそうに言った。
「お父様怖ろしいことを言わないでくださいませ。サミュエルたちにも選ぶ権利はありますしまだ結婚は良いです」
「そうか?喜ぶと思うぞ。あれにも神殿契約をしておけば良かったな。そうすれば今頃神の庭の住人だったものを、惜しいことをした」
もう何とも思っていないので怖いことをさらっと言わないで欲しい。
父が過激になった気がする。
「ゆっくり考えるといい」
「今が楽しいので結婚はあまり考えたくありませんが、そうも言っていられませんね。一年猶予をいただきたいです。どちらかを人生のパートナーに決めたいと思います」
「そうかそれなら任せるとしよう。二人とも聞いたか?精々頑張って口説くように。但しやり過ぎは許可しない」
「お嬢様これから目一杯口説かせていただきますのでお覚悟を」と言ったのはサミュエル。騎士らしくよく鍛えられた肉体の持ち主だ。
「私にその権利を与えていただき光栄に思います。及ばずながら全力で口説かせていただきますのでよろしくお願いします」
と言ったのはノアだった。教育を受け着々と教養を身に付けていた。筋肉も付き細いながらも逞しさを感じられる体形になっていた。美貌は群を抜いていた。
急な展開に付いていけないオリビアはあわあわしながらも態勢を立て直し、貴族令嬢として凛として受け止めた。
「二人とも信頼に値するけど、どちらを選ぶことになっても遺恨を残さないように誓って頂戴」
「騎士道精神に乗っ取り誓います」
「私も女神アフロスに誓います」
「しかと聞き届けました。お父様、神殿契約をするのですか?」
「そうだな、どちらに決まっても残ってオリビアを助けて欲しいから契約をしておこうか。だが辛い立場になるだろう。選ばれなかった方の契約はその時点で破棄することにしよう。どうだ、覚悟はあるか?」
「選んでいただけてとても名誉だと思っております。選ばれなかったからといってオリビア様の傍を離れるつもりはありません」
と二人は声を揃えて言った。
これで完結にしていましたが、番外編を書きたくなりこの後の話を3話程追加します。良ければ読んでくださると嬉しいです。




