リアム
読んでいただきありがとうございます
リアムがその少女を助けたのは偶然だった。
目的もなく一人になりたくて街をぶらぶらしていた時にその声は聞こえてきた。
「お嬢様を離してください。乱暴はやめてください」
「私が言うことを聞けば侍女には何もしないでくれますか?」
「いい度胸だな。それに免じて考えてみないでもないと言いたいところだが、こんな上物逃がすかよ」
「お嬢様!逃げてください!」
「ミルこそ逃げて!」
「安心しな、二人とも逃すつもりはない。ははっ、いい金になりそうだぜ。久しぶりにいい酒が飲めそうだ」
どうやら人攫いに遭う寸前に間に合ったらしいと思ったリアムは護衛と共に素早く現場に駆けつけた。
街の破落戸だろう男たちは、リアムが護衛達と駆けつけ剣を構えると「ちぇっ、ついてやがるな」と捨て台詞を残して慌てて逃げて行った。
真っ青な顔の令嬢と侍女は肩を抱き合い震えていたが、
「助けていただきありがとうございました」
と深々と腰を折ってお辞儀をしてきた。金持ちの平民なのだろう。
「女性だけで歩くのは感心しませんね。護衛の一人ぐらいは付けないといけませんよ」
「先日田舎から出て来たばかりです。王都は治安がいいと聞いていまして油断しておりました。この次からは護衛を付けます。あのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
そう言って見上げてきたのは、サラサラな真っ直ぐな金の髪に長い睫毛に縁取られた瞳が切れ長なとてつもなく美くしい少女だった。
婚約者のオリビアは可愛い系の美少女だがこちらはクール系だ。リアムは何故か胸が鼓動を打った様な気がした。
「名乗る程のことはしていません。しかしこれからは気を付けて行動をしてください。怪我はないですか?」
「腕を掴まれましたがそれだけで済みました。あのままであれば攫われて何処かへ売られていたかもしれません。どうかお名前を教えてくださいませ。叶わないのであればせめて何かお礼をさせてください」
「名はリアムといいます。礼はいりません。護衛に宿まで送らせましょう」
「私はパトリシアと申します。これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきません」
「さっきの男達がまだその辺りにいたらどうするのですか」
「それは……」
「宿まで送りましょう。掴まれた腕も医者に見せたほうがいい。何かあったら寝覚めが悪いです」
「では申し訳ありませんがよろしくお願いします」
パトリシア達が向かったのは安心できる優良な宿だった。
「今日は本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません」
「痕に残らないように腕を冷やすと良いです。今日のことは早く忘れることです」
「あの、ご都合の良い日があればお礼にお食事に付き合ってはいただけないでしょうか。侍女もそちらの護衛の方も一緒にではいかがでしょう?恋人か婚約者の方がいらっしゃってご迷惑をおかけするようなら諦めますが」
「婚約者がいるので食事は出来ません。お気持ちは受け取ったので気にしないでください」
そう聞いた時の彼女が泣きそうな顔になった。
「大変失礼しました。ではまた何処かでお会いしたらその時にはお茶をご一緒させてくださいませ。本当にありがとうございました」
どうやら泣くのは堪えたらしかった。
その時はそれで別れもう会うこともないと思っていたのだが、妹に頼まれた紅茶を買う店で一ヶ月ぶりに偶然再会してしまった。
「リアム様ではありませんか?パトリシアでございます。この間はお助けいただきありがとうございました。こんな偶然があるのですね。お茶をご馳走するという約束を覚えてくださっていますか?」
「覚えているが婚約者のいる身です。そのようなことは出来ません」
「どうしてもお礼はさせていただけないのですね。ではそちらの紅茶をプレゼントさせて下さいませ」
潤んだ瞳でここまで言われると断ることは出来なかった。
「では買っていただこうか。これは妹に頼まれていたものなのです」
「まあ、妹様がいらっしゃるのですね。ではリアム様には別の葉を贈らせてください。これは私が気に入って飲んでいるものです。少し癖がありますが意外と飲みやすいのですよ」
プレゼントされた茶葉は東方の国の緑茶とブレンドされた高級な物だった。
「ありがとう、遠慮なく受け取ることにします」
パトリシアは漸く目的が達せられ満足して微笑んだ。
「サム彼女の後を追ってくれ。住所が知りたい」
「オリビア様が泣きますよ」
「そんなつもりはない」
それを聞くと護衛のサムは相方に後を頼みパトリシアを追った。
パトリシアが侍女や護衛と共に帰って行ったのは貴族街の外れにある男爵家のタウンハウスだった。最近手に入れたのか改修の跡が見られ、外壁が真っ白く塗り替えられていた。庭も人の手が入ったばかりのような感じがある。
新興貴族だとサムは判断し主にその旨を告げた。
表情の読めない主はその時何を思ったのか分からなかったが、サムはどうかオリビア様を泣かせないでくれと祈ることしか出来なかった。




