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指輪が重くて  作者: もも


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10/10

貴女だけを見つめていたい

よろしくお願いします。

 オリビアはノアとの婚約期間を楽しむことにした。

他領にある城下街を訪ねて古書店で並んで本を選んだり、古いお城に浪漫を見いだしたりした。

その横顔を蕩けるような瞳に見つめられているのに気づき恥ずかしくなって俯いた。

ノアはそっと頬に手を滑らせ唇を寄せた。

キスされたと気づいたオリビアは柔らかい唇の感触に驚いたが嫌な気持ちにはならなかった。

意趣返しにノアの頬に触れた。毛穴の見えない肌は男性とは思えないほど滑らかだった。


まさか触れられるとは思わなかったノアは真っ赤になって固まった。


お互いに真っ赤になった二人は後ろから来た観光客の話し声で我に返って微笑みあった。




その様子を離れて見守っていたサラは「うふふっ」と満足そうに笑った。






 その帰りにレストランで食事をした。庶民的な店だが味も雰囲気も良かった。

じゃがいものポタージュと牛もも肉のシュニッツェル、木の実入りのパンとデザートはりんごのタルトと紅茶だった。

ノアを見るとしっかり咀嚼して味わっている。微笑ましくなった。


「美味しいわね」


「はいとても美味しいです。オリビア様と一緒だからですね」


さらっと口説いてくるのでオリビアはどきどきさせられた。さっきのキスもきっとそう。一緒にいるのが楽しいと言っているだけよ。

リアムのときみたいに無闇に好意を信じるのは止めようと思っていた。

誓約があるしノアは恩を感じて好意を寄せてきているだけ、もう信じていた人に裏切られるのは怖かった。



 ノアはオリビアが自分を同情だけで選んでくれたと思っていたので、胸に閉じ込めていた想いをいつか可愛い人が受け取ってくれれば良いと願っていた。

何年かかっても自分の想いを届けたい。そのための努力は惜しまない。

孤独だった青年は愛する人の傍にいるだけで幸せだった。



 貿易の勉強は父の下で働いている専門家が来て教えてくれることになった。朝から夕方までみっちり半年間の予定だ。合間に昼食とお茶の時間を入れた。

分からないところは二人で話し合い、それでも分からないと先生に聞くことにした。


ジョンソン先生は三十代後半の穏やかな性格の人だった。褒めて伸ばすタイプでやる気に満ちていた。二人はぐんぐん吸収していった。

時々父が帰ってきて先生になってくれるのでそれもまた嬉しいことの一つだった。





 婚約が決まってから屋敷でもランチやお茶を二人で摂ることが多くなった。

お世話はもちろんノアがした。


相変わらず毎朝の花のプレゼントとエスコートをしている。庭師と相談しながら今日一番の花を選ぶのは至福の喜びだ。

渡したときのオリビアの笑顔が赤くなっているような気がするのは見間違いだろうか。


 貿易の勉強の他にもダンスや執務の勉強もしなくてはならず圧倒的にオリビアと一緒の時間は多くなった。

ノアは夢ではないかと何度も頬をつねってみた。痛かった。

あの地獄のような場所から逃げ出して良かったと何度思ったことだろう。


ダンスは基礎知識はあったが実践がなかったので先生を付けてもらい練習をした。軽やかに踊るオリビア様の脚を引っ張らないように必死だった。足を踏んだりしたら立ち直れる気がしない。


「緊張しなくても大丈夫よ」


「ですが、足を踏むのではないかと思うと緊張します」


「そうね、じゃあ先生と踊ってみればいいわ。先生靴はつま先に鉄板が入っていますわよね?」


「ええ、遠慮なく踏んでいいから踊ってみましょう」

ダンスの教師は中性的な男性だった。


こうして練習を重ねぐんぐん実力は上がっていった。オリビアと踊りきったところでレッスンは終わり後は自分たちでということになった。

ノアは大きく息を吐いた。


オリビアと酷く接近していて手や腰に触れたということにやっと気がつき一人で赤くなった。





 婚約発表も兼ねて親しい者だけでパーティを開くことになった。王都から両親が帰って来てくれた。


ドレスは領地の洋裁店が張り切って作ってくれた。

ノアの瞳の色の青で身体にフィットした上半身の前身ごろに薔薇の刺繍がされていた。デコルテと肩口は薄いシフォン、ウエストから下は幾重にも広がるデザインだった。

そこに母から贈られた家宝のダイヤのネックレスとイヤリングが華を添えていた。


それを纏ったオリビアの美しさは言葉に言い表せないほど美しかった。

ノアは褒めなくてはと思うのに息が出来ないほど感激して

「女神様のように綺麗です。とても良くお似合いです」

と言うのがやっとだった。


ノアの正装もそれに合わせ青色でオリビアの瞳の色の黒が薔薇で刺繍されていた。凛々しさが半端ない。まるで絵本から飛び出してきた王子様のようでオリビアは目を奪われてしまった。


「ノアも素敵よ、よく似合っているわ」



「さあ見つめ合っていないで行きましょうか。始まるわよ」と言う母の声で我に返った二人は並んで待ちかねた人々の前に姿を見せたのだった。


「今日は私達の娘オリビアの婚約が整いましたことを皆様にご報告させていただきます。相手はノア・ウインターズ侯爵令息です。これからの二人をどうぞよろしくお導きくださいますようお願い申し上げます」


二人は微笑み合い手を取り合って優雅にワルツを踊った。それはとても絵になる光景だった。








「辛くて出ていくのかと思ったけど大丈夫そうね」と言ったのはサラ。


「そんなわけあるか。とっくに蓋をしたさ」と応えたのはサミュエルだ。








 その後幸薄かった青年は恋しい人の傍で辣腕(らつわん)を振るい家業の貿易事業を大きく栄えさせていった。


その瞳は妻と子供たちだけに甘く蕩け使用人には温かく、他人には冷たく氷のようだと言われるようになった。

ここまで読んでくださった皆様本当にありがとうございました。感謝しかありません。

これで完結になります。またお会い出来ますように。

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