93話
「? えと、確か…エイジャさん、でしたっけ?」
「お、おお。覚えてた…て下さったんですね。」
「無理に敬語じゃなくても大丈夫ですよ。僕は気にしないので。」
「そうか、助かるよ。」
「それで、僕に何か用事でしょうか?」
「いや、あんたと言うよりカリナに…なんだが。」
「カリナに?」
「ああ。あいつと話がした━━━」
「呼んだか?」
エイジャが凛を説得していると、突如背後からカリナの…しかも明らかに不機嫌そうな声が届けられた。
「どぅおあっ!?」
「うわっ!?何々!?」
「…ビックリした。」
これにエイジャが盛大に驚き、彼女に釣られる形でカサンドラとトレイシーも驚嘆の声を上げる。
「どうやら私が呼ばれたみたいなのでな。」
凛が話をしている間にナビがカリナへ連絡を入れ、直様転移でやって来たらしい。
それは凛に迷惑を掛けたくないが故の行動。
しかし今でもエイジャ達とは会いたくないとの心境から、「正直来たくはなかったんだが…」と小声で付け足した。
「あ、主様〜!これから皆でどっか行くんすか〜?」
そこへ、藍火から声を掛けられた。
彼女は昼の部の巡回役(キャシーは夜の部)で、いつもなら誰かしらと組んで2人で動くのだが、どうやら今日は1人で回っていたらしい。
「ん?今度は藍火か。もうすぐお昼だし、何か食べに行こうかなって思った所なんだ。」
「おー良いっすねーー!自分もお供して良いっすか?」
「良いよ。」
「凛。私も良い?」
「勿論良いよ…って雫、そのスライムどうしたの?」
次に雫から声を掛けられて振り向くと、彼女がスライムを抱き抱えている事に気付く。
「子供達に苛められている所を助けたら懐かれた。凛、この子飼っても良い?」
「分かった、後で名前考えとくよ。あ、カリナ。悪いけど僕達はこの辺で失礼させて貰うね?」
「分かりました。」
「うん。また後でね。」
そのやり取りの後、凛達は和気藹々とした雰囲気で離れて行った。
「…さて。」
「「「…!」」」
「それで?私に用とは何だ?下らん内容だったら…。」
分かってるな?
言葉にこそしなかったものの、有無を言わさぬ迫力がそこにはあった。
エイジャ達はそんなカリナに気圧され、ごくりと生唾を飲む。
カリナは凛…ではなく、ナビから連絡が届けられた。
それも、2人が話し始めてすぐのタイミングでだ。
彼女は説明を終えるよりも先に「あの馬鹿共が…!」と言いながら転移を使い、文字通り飛んで来た形となる。
そろそろ、自分達の関係に終止符を打った方が良いかも知れない。
そう思ったカリナは、人知れずエイジャ達を行方不明扱いで亡き者にしようかとも考えた。
彼女達は相変わらずカリナを説得しようとサルーンを徘徊して回り、見付けられないのを理由に(誰かしらと行動している)凛を付け回す事もあったのを知っていたからだ。
しかしそれだと凛に気を遣わせ、そこへ至るまでの時間も労力も勿体ない。
それに疚しさを見せるよりは堂々としていたいし、何より今の幸せをもっともっと続けたい。
それらが交錯し、カリナはやきもきする。
「用事…用事か。うん、そうだな。」
すると、そう言ってエイジャは頬を赤く染め、もじもじし始めた。
カサンドラとトレイシーもどこかそわそわとしており、カリナは疑問符を浮かべた表情となる。
「お前達…揃いも揃って気持ち悪いな。」
「酷くね!?…こほん。カリナ、折り入って頼みがある。」
「頼み?私にか?」
「その前に確認したいんだが…暁様とはどんな関係だ?」
「暁?ただの同僚みたいなものだが…。」
「本当か!?恋仲とかではないんだな!?」
「笑えん冗談は止めろ。私は凛様一筋だぞ?」
「そうか?…そうだったな。」
「あ、分かった。さてはお前…暁に惚れたな?」
「ゔっ。」
「もしやあいつらも?」
「いや、こいつらは…。」
「アーサー様ぁ…。」
「はぁ…丞様、素敵…。」
「…成程。見事に分かれた、と。」
「………。」
カリナの呟きに、エイジャは俯いてみせた。
(でも、暁とアーサーはまだ分かるとしても、丞が人前に現れる機会はそうないはず。3人が一緒のタイミングって言うと…。)
《一昨日、マスターと共にサルーンを回った時になるかと。》
(そんな事があったのね。なら、ナビの言うそれかも。)
ナビのアドバイスを受け、カリナは1人で納得する。
一昨日の昼過ぎ、凛は美羽、暁、アーサー、丞と共にサルーン内を歩いていた。
美羽はいつもの付き添い。
暁達は打ち合わせだったり、これから働く予定の職場の下見と言う形だ。
元々街があった場所は今やほとんどが更地となり、人々を鍛える為の訓練場へと変わっている。
凛達はその訓練場の下見を終えた後、暁が勤める高級和食店。
それとアーサーが店長を勤める高級喫茶店を回り、彼らが歩く姿をエイジャ達が目撃。
そして暁達を見て一目惚れし、なんとしてもカリナに協力を仰がねばと再び探し回る様に。
その頃、カリナはサルーンの外で行動しており、今回の事がなければ互いが相見えるのはもっと先になっていただろう。
「カリナがあたし達を気に入らないのは分かる。でもこんな気持ちになったのは初めてでよ。どうすれば良いか分からないんだよ。あれからずっと暁の笑顔が離れなくてさ、あの方の事を想う度に胸が締め付けられそうなんだ…。」
(まぁ、私も凛様の為ならって思うし、暁とアーサーはイケメンだからなぁ。丞はカッコいいって訳じゃないけど、細やかな気配りが出来るから頼り甲斐があるって人は多いし、こいつらの言い分も理解は出来る。…でもそれを認めてしまったら、私が死にそうだったのは一体何だったのかって話になる。)
カリナは凛にぞっこんで、これが友人とかなら応援したい所ではある。
だが目の前にいるのは、かつて自分を死に追いやろうとした者達。
あの時の事は今でも鮮明に覚えているし、辛さや悔しさを忘れた訳でもない。
とは言え、いつまでも引き摺ってて未練がましく思われるのも癪だし、このまま素直に暁達へ渡りを付けるのもそれはそれで面白くない。
「なぁ、やっぱダメか…?」
「………。」
エイジャが瞳を潤ませて頼み込む姿は、まるで恋する乙女のよう。
カリナはここは断るべきだと分かっていながらも、強く言い返せずにいた。
「良いだろう。」
目を伏せ、溜め息をつきながらの答えに、エイジャ達は目を輝かせる。
1時間後
「ぎゃああああああああ!!」
エイジャが必死の表情で飛び退き、先程まで彼女がいた所を大きな斬撃がガガガガ…と駆け抜けて行った。
彼女の周りはズタズタに引き裂かれ、堪らないとばかりに尻餅を突く。
「死ぬっ、あんなの喰らったら本気で死んじまうって!!」
「大丈夫だ、人間そう簡単に死にはしない!それは私自身がよく分かっているから安心しろ!」
「安心出来る要素が全くねぇ!」
空中でにやりと笑うカリナに、エイジャは頭を抱えた。
彼女達が現在いるのは訓練部屋。
カリナはエイジャ達と共に転移し、ここへとやって来た。
「つか、いつまでこれが続くんだよ!?」
「先程も伝えただろう?私が満足するまでだ!今ので1割位に届くかどうかと言った所か?」
カリナはきょろきょろと辺りを見回すエイジャ達へ、自分が満足するまで相手する事を条件に、暁達への口利きを約束。
エイジャ達はそれだけで済むならと、2つ返事で了承した。
「嘘だろ!?少なくとも1時間は経ったってのに、まだたったの1割ぃ!?」
やり取りが終わってすぐ、カリナはエイジャへ斬り掛かり、ギリギリ避けた先にいたカサンドラの左肩を切断。
エイジャとトレイシーは悲鳴を上げるカサンドラを尻目に、実はここで自分達を亡き者にしようとしてるのではないかと恐怖した。
しかし攻撃を仕掛けた側であるカリナが「しまった。いくら嬉しかったとは言え、最初からいきなり飛ばし過ぎたか」と漏らし、カサンドラの左肩にポーションを掛ける。
ポーションの効果で傷口は塞がったものの、カサンドラの左肩から先、体力、そして血液は失われたまま。
エイジャとトレイシーは、あっけらかんと言い放つカリナに益々寒気を覚える。
そこから、カリナは手加減を交えつつ、エイジャ達を甚振り始めた。
どうやら、死なせさえしなければどうにかなると判断したらしい。
エイジャ達はあっという間に追い詰められ、1人が吹き飛ばされたら別な者へ攻撃を切り替えたり、纏めて攻撃する事もあった。
彼女達も自らの想いを成就させる為として奮闘するも、力の差はあまりにも大きい。
軽々と避けられたり、親指と人差し指、又は人差し指と中指で短剣や魔法を挟んで投げ返し、しまいには空を飛ぶものだからずっと驚きっぱなしだった。
「ははははははは!!それだけで手打ちにしてやるのだ!まぁ、せいぜい頑張るんだな!」
カリナはエイジャ達に対する扱いを凛から一任されており、これ幸いとばかり実に良い表情を浮かべる。
「くっ。それだけあたしらは恨まれてたって訳か…。」
「ん?カサンドラとトレイシーは寝てるのか?まだまだ先は長いと言うのに、随分と余裕だな。」
「いや、手足が片方ずつ失われた状態で寝るも何もねぇと思うんだけど…。」
カサンドラは新たに傷が増えた訳ではないが、(片腕と血を失った意味で)マイナスからスタートさせられたにも関わらず、強制的に動き回された事ですぐに限界を迎えた。
また、トレイシーは今しがたエイジャに飛んで来た斬撃を避け損ね…要はとばっちりで右手足を同時に失い、その影響で出血多量に。
「…エクストラヒール。バイタライズ。ついでだ、リフレッシュ。」
カリナは左手を前に翳し、うつ伏せで倒れるカサンドラとトレイシーに3種類の魔法を飛ばした。
エクストラヒールの効果により、(出来た傷とは別に)カサンドラは左肩から先、トレイシーは右肘から先と右足が元通りに。
バイタライズとリフレッシュで体力・魔力・気力が回復し、不思議そうにしながらもゆっくりと起き上がった。
「!? カリナおまっ、今の、もしかして魔法か!?」
「ん?そうだが?」
「何で使えんだよ!?少し前までは全く出来なかっただろ!!」
カリナは武器に魔力を纏わせる魔剣士で、魔力量は多かったものの、魔法に対する適性は皆無だった。
しかし神輝金級へ至った事で『聖人』へと進化。
わずかではあるが光属性に適性が生まれた。
そこへ、凛が持つ白神の加護と『破邪』を付与。
破邪は丞が神輝金級上位のオークヒーローへ進化した時に得たもので、状態異常無効・闇属性軽減・光属性適性大幅上昇の効果を持つ。
そこへ更にマナサーキットと凍灼を追加し、今では炎・光・白炎魔法が最上級に、水と水熱魔法が上級まで使用可能となった。
「昔はな。だが今はこうして使える様になった。」
「…ダークスピア!」
カリナがエイジャの問いに答えていると、死角から闇属性中級魔法ダークスピアが放たれた。
「馬鹿!トレイシーお前!そんな卑怯な場所から放つんじゃねぇ!これでもしもカリナの反感を買ったりでもしたら━━━」
「いっただっきま〜す!」
放ったのはカサンドラで、これにエイジャが慌てる。
しかしカリナの影から1人の女性…六花が飛び出し、あろうことかダークスピアを食べてしまった。
「「「は?」」」
「うぇっ、マッズ!?オネーサンの魔力美味しくないっすね〜!」
以前とは異なり、かなり人間寄りになった六花が「ぺっぺっ」と言いながら不満を漏らす。
「食い意地が張った罰だ。」
「トホホ〜、姐さんそりゃないですよぉ〜…。」
「「「いやいやちょっと待て!」」」
「「ん?」」
「今…もしかして魔法を食べたのか?」
「そっすよ〜。」
「六花は魔素を帯びたものなら何でも…それこそ魔法も食べれる様になったんだ。」
六花はデスストーカーから黒鉄級上位のレムレースとなり、『魔素喰い』を獲得。
弱点となる光属性や武器に魔力を纏わせる攻撃は半減してしまうものの、魔素が含まれるものなら何でも取り込めれる様に。
ある程度調整も出来、良い感じで弱らせる程度に搾取…なんて真似も。
因みに、別な所でカサンドラが密かにエクスプロージョンの詠唱に入っており、しかし今のやり取りでそれどころではなくなってしまっていた。
「それにしても…。」
「「「…!」」」
「少しやり過ぎたかと思って心配だったんだが…どうやら杞憂らしい。」
カリナは実に良い笑顔の後にニタァと笑い、離れた場所に規模を小さくした白炎魔法最上級シャインフレアを発動。
すると、白い球状のものが空中に現れ、地面へ落ちると同時に物凄い大爆発が起きた。
「もっと痛め付けても大丈夫そうで実に安心したよ。」
カリナはそんな事を言ってのけ、エイジャ達は体を震わせながら抱き合う。
「くそっ!このままやられっぱなしは性に合わ…へぶぅ!?」
「エイジャぁぁぁぁ!?もうやだ無理っ!このままじゃ死ぬっ!死んじまうってぇぇぇええええ!!」
「はははははははははは!!」
「いーーーーーやーーーーーーーー!!」
その後、エイジャ達は何度も死ぬ思いをしては治療され、その度に無理矢理カリナと戦わされる羽目になるのだった。
この話でこの日を終えるつもりでしたが、少し長くなったので分けました(苦笑)
それとカリナのスキル構成についてですが、付与出来るスキルの数はその人が生まれ持った才能で決まります。
彼女の場合3つで、1つか2つしかスキル付与出来ない人もいれば、反対にカリナよりも多い4つ5つだったり、中には0って場合も。
凛(白神)の加護は別枠扱いになります。
また、最後に付与するのは凍灼じゃなく、美羽の全属性適性上昇・特大とかでも良かったんじゃね?と感じる方もいらっしゃると思います。
ですがカリナは魔法関係の適性が低く、特大でも上級へは至りません。
一応、付与したスキルはステータス操作で外す事も可能です。
それと、マナサーキットは適性さえあれば持っているだけで魔法が扱える様になり、使いこなすと魔力の総量が上がり、若々しさが持続しやすいとの設定から凛の配下全員が取得しています。




