7話
時は少し遡る。
2日目の夕食後、凛は割り当てられた部屋にて『ビット』なる遠隔操作兵器を作成。
その遠隔操作兵器ことビットはガン◯ム。
厳密には(正統派を好みとするを理由に)○ュー○ンダムのフィ○ファ○ネルを参考に、万物創造越しで凛なりに模したもの。
彼の魔力をエネルギー源とし、材質こそ異なるものの、規格や形状自体はテニスボールと同じ。
魔素を針状に引き伸ばした射撃に、指定した空間4箇所にビットを設置後、互いを結ぶ形で展開する防御壁と。
必要に応じ、攻撃と防御を切り替えられる仕組みとなっている。
しかも、ビットは凛だけでなくナビでも操作が可能。
なので凛が防御に専念する等して手が塞がった際、代わりに攻撃させるのは勿論。
威力を極限まで落とし、(自身を含め)発射されたエネルギー弾を避ける…所謂回避訓練へと早変わりする優れものでもある。
その日、凛は睡眠時間を削り、次の日である3日目の夕食後も部屋に籠もってビットの調整。
日付を跨いだ頃、ようやく満足のいく出来へと至った。
ワクワクしながら布団に入り、興奮冷めやらぬまま午前中の訓練を終え、昼食を摂り、いざ迎えた自主訓練の時間。
逸る気持ちを抑え、出来るだけ冷静に努めつつ早速実践してみる事に。
「行けっ、○ィン○ァンネル!」
自主訓練が始まって早々。
凛は自らの右肩のすぐ後ろの位置にビット6基を斜めに並べ、シュパパパパパーンと段階的に射出。
出力を最低値に設定した状態でそれらを操り、自ら用意した的を色々な角度から射撃してみせた。
尤も、威力が皆無に近い為、的へのダメージもほぼ0。
代わりに、弾が当たる度にピンク色の粒子を撒き散らしてはいたが。
凛は最初こそ真面目にビットの操縦訓練を行っていたものの、ふと思い付いた様にビットを元の配列に戻し、一拍置いてから射出するを繰り返す内に楽しくなって来たらしい。
途中から発射ー、もう1丁ー、更にもう1丁ー…みたいな感じでとても燥いでいた。
そしてこのビットの件を機に、今まで抑えていた気持ちが前面へと押し出され、2人に露見していく。
「当たらなければどうということはない。」
ある時は回避に徹するを名目に、ナビが制御するビットの射撃。
或いはその合間を縫う形で、飛び交うビット本体達を避けると言う場面が。
その間、凛はどこかの赤い人になりきり、低い(それでも男性からすれば高い)声でそう漏らしたりしていた。
他にも、「ふふふ、当たらんよ」や、「見えるぞ…私にも見える」とも。
「トラ○ザムッ!!」
またある時は、身体強化の限界へ挑戦…なんて場面も。
叫んだ直後、凛は全力で前方へ跳躍。
しかし思った以上に勢いがあり過ぎ、しかも今は床から少しだけ浮いた状態なものだから些かも削ぐ事が出来ず、そのまま激しく壁へ衝突。
幸い、ダメージらしいダメージはなかったのか「てへへ、失敗しちゃった」と舌を出して立ち上がり、即座に訓練を再開。
本人はあっけらかんとしていたが、美羽とマクスウェルは揃って目が点になったのは言うまでもない。
話は戻り、元気良く右手を挙げた美羽が更に言葉を重ねる。
「マスターと共有している知識の中に、今の動きと似た感じのものが見えました!」
彼女が見えたのはあくまでも(ゲームやアニメでの)イメージ。
映像越しに得た、○ァンネルが機動する一連の流れの事を指しているのだろう。
「(あー…しまった。いくら万物創造が便利だからって、少しはしゃぎ過ぎたか。そしてそんな浮かれ半分な状態で訓練している姿を、バッチリ見られてた…と。
そりゃ変わった動きをすれば目に付くのは当然だよね。うん、これからは気を付けよう…。)…美羽。女の子がニュー○イプなんて言ってはいけません。」
「えっ、でも…。」
質問とは違う答えに納得がいかない美羽が、尚も追及しようとする。
「…ごめん。これは完全に浮かれ過ぎた僕が悪い。けど出来れば今の話に触れないで貰えるとありがたいかなぁ…なんて。勿論、この先もね。マクスウェル様もお願いします。」
「うーん…?分かりました…。」
「ほっほっほ。分かったぞい。」
だが主の恥ずかしそうだったり、申し訳なさげな謝罪。
それをされてしまうと、こちらとしては従うしかない。
なので美羽は不承不承ながらも納得せざるを得ず、マクスウェルは特に気にしていないのか穏やかな笑みを浮かべる。
「創造神様から(凛は)面白い方だと伺ってはおったが…確かに見ていて飽きないのぅ。」
自慢の顎の髭を撫で、そんな事を呟きながら。
そんなこんなで、自主訓練が実施されて以降。
意外に、凛はノリが良い人物だと言う事が2人に伝わった。
他にも、自身の周辺にある物体の位置等を認識し、掌握。
ビット操作の補助にもなる『空間認識能力』。
凛が持つ能力を(美羽等の)他人へ分け与える『付与』。
消費する魔素の量を抑え、能力を向上させる等の効果を持つ『効率化』。
壁へ激突したのを教訓とし、空中に無色透明の見えない足場を作る『天歩』や、空を飛ぶ『飛行』と。
凛は自主訓練だったり夕食後の時間を使い、万物創造で様々なスキルを創っていった。
14日目
「お2方共。火・水・風・土・光・闇。それに無を加えた全属性に適性があるとは流石じゃのう。光と闇と無に関しては使い手があまりおらんでの、存在自体が希少なのじゃ。
まぁ闇はともかく、光に適性がある者は、女神教関係者が囲い込みたがるのが難点じゃろうが…。」
(女神教?)
「…それと無属性じゃが、それなりの使い手になると、物を仕舞える空間収納が使える様になる。空間収納は凛様の無限収納には遠く及ばぬとは言え、それでも部屋1つ分位は仕舞う事が出来る。普通の人からすれば、大きな利点とも言えよう。
だからなのじゃろうな。商国が空間収納を使える者を殊更欲しがる。最悪、強硬手段…つまりは力づくでもの。故に、無属性の使い手があまり世に出回る事はないのじゃ。」
「むー…ボクはマスター程上手く扱えないですけどーーー。」
マクスウェルは2人を褒め、凛が「へー」と感心する一方。
美羽だけが不満顔。
8日目から毎日1つずつ。
凛と美羽はどの属性に適性があるかを調べて貰った結果がコレ。
マクスウェルが扱えるのは炎・水・風・土に無を加えた5属性で、自分の事の様に喜んでくれた。
しかし美羽は凛と比べて7割位の適性しかなく、それが苛々へと繋がったのだろう。
「美羽、抑えて抑えて。」
「そうじゃぞ。瑠璃殿はばらつきがあったが、美羽殿はまんべんなく均一にじゃ。これは誇って良い事だと思うぞい。」
「むーーーーーー。」
凛とマクスウェルが2人掛かりで彼女を宥めるも、全くの逆効果。
余計に頬を膨らませ、何故怒ってるのかは分からないが不味いのは確か。
そう判断した凛は、半ば無理矢理話題を変えてみる事に。
「そ、そう言えばマクスウェル様。女神教とは一体…?」
「む?女神教とは、創造神様の事を女神様だ、と崇めている教団の事でな。昔は世界中の民から慕われ、敬われておったのじゃ。」
マクスウェルが遠い目をする。
「…じゃが、今となっては、ただ権力を振り翳すだけの集まり。光属性に適性があると分かればすぐに迎えを寄越し、独占したがる連中に過ぎぬ。誰も頼んでおらぬと言うのにも関わらずじゃ。故に本山を置く神聖国以外の者からは良く思われておらん。全く…嘆かわしい。」
説明の最後に溜め息をつき、凛だけでなく美羽もへーと相槌を打つ。
因みに、凛は7属性全て。
それも等しく高い位置にあった。(里香は更にその上をいくが)
反面、彼に酷似する瑠璃は闇に突出。
次いで水や土が高く、光に至っては0…を通り越してまさかのマイナス。
当時、これを知った瑠璃は硬直し、里香は苦笑いを浮かべていたとか何とか。
「えっと、里香お姉…創造神様も、全属性の魔法を扱えるんですよね?」
凛は再び話の空気を変える目的でそう告げる。
「…そうじゃな。様々な属性の魔法を、それも同時に扱うお姿は圧巻であり、流石の一言じゃ。じゃが、凛様は儂の見立てだと、魔法よりも近接戦闘の方が向いてる様に思えるの。」
「(マクスウェル様が言いたいのは、里香お姉ちゃんが典型的な魔法使いの後衛タイプで、僕が剣士みたいな前衛タイプって事なんだろうな。)…成程。参考になります。」
「うむ。それでは、訓練の続きと参ろうか。」
「「はい!」」
「昨日までは、調べる事も兼ねて黙っとったが…お2方共、まだまだ魔力の制御が甘い。」
「え…。」
「と言う訳で、今日からは更に厳しく行くぞい。」
「お、お手柔らかにお願いします…。」
「何を言っとる。お二方が強くなれば、それだけ世界の為にもなるのじゃ。ふふ…滾る、滾るぞーーーーい!」
「「………。」」
無事話題を変えるには成功したものの、今度は不思議とマクスウェルがやる気に。
凛と美羽はマクスウェルが意外にスパルタであると知っており、確実に訓練がキツくなると判断したらしい。
互いに頬を引き攣らせた状態で見合わせ、揃ってがっくりと肩を落とした。
20日目 午後の訓練時
「はぁぁぁぁ!」
「やぁぁぁっ!!」
凛と美羽が空中にいるマクスウェルに攻撃を仕掛ける。
どちらも天歩だったり飛行スキルを駆使。
杖で弾かれ、避けられてたとしもめげずに結構な速度で飛んだり跳ねたりする。
凛からスキル付与された美羽は、彼よりも若干動きがぎこちないレベルで戦えるまでに。
対するマクスウェルはその場からほとんど動いていなかったものの、しかしながら若干楽しそうなのが印象的。
「…ふむ。お2方共、中々動ける様になったの。」
「先生が訓練の時、意外にスパルタだったりしますからねー。おかげでこっちは必死になるってものですよー。」
凛はじとりとした目つきをマクスウェルへ向けるも、返って来たのは「おや?そうじゃったかの?」とすっとぼけるのみ。
これに凛がそうですよと益々目を細め、美羽も全面的に同意とばかり何度も、加えて勢い良く頷いている。
「いやぁ、照れるのじゃ。」
「あ、マクスウェル様がデレた。」
「デレとらんわい!」
(あ、戻っちゃった。)
「マスター、『デレた』って何です?」
「(ふふっ。そう言えば里香お姉ちゃん、ねぇねぇによくデレって言葉を使ってたっけ。その度にねぇねぇがムキになって…なんだか懐かしいな。)…デレって言うのはねー、創造神様がよく使う言葉なんだけど…。」
マクスウェルはそれまでのポジティブさから一変。
いきなり不機嫌となった事に凛は驚きつつ、不思議がる美羽からの問いに答える。
凛は来たばかりで知らなくても当然なのだが、マクスウェルは年に数回、里香に乗せられては笑われるとの行為を受けている。
なのでマクスウェルはデレると言う言葉があまり好きではなく、静かに怒りのオーラを漲らせていく。
「…どうやら、凛様はまだまだ余裕があるみたいじゃのぅ?ならば凛様だけ、更に厳しめにいくぞい。」
「えっ?マクスウェル様、今でもキツいのに更に厳しくとか…冗談ですよね?」
「儂に対し、軽口を叩ける位じゃ…何、凛様なら出来ると信じておるぞ?」
「そんなぁーーー!!理不尽だ…。」
左目を閉じ、顎髭を触りながらでのマクスウェルの決定に、凛が項垂れる。
その後、凛は扱きと言う名の八つ当たりに付き合わされる羽目に。
そして30日目の午前8時頃
「さて、訓練も今日まで…と言う事で、これより最終試験を行おうと思う。」
「最終?」
「試験?」
マクスウェルの唐突な物言いに、凛と美羽が異なるタイミングで首を傾げる。
「うむ。お2方が実戦に足るかどうか、それを調べる為のテストじゃな。」
「「成程ー!」」
「…では早速、少しだけ本気を出させて貰うとするかの。」
「うっ…。」
「くっ…。」
そう言い終えた直後、マクスウェルから見えない圧力の様なものが放出。
あまりの大きさに美羽はその場に座り込み、凛も片膝を突く。
それからも、2人は苦しそうな表情をするだけで一切身動きが取れず、時間だけがただただ過ぎていった。
「これは『殺気』と呼ばれるものじゃ。魔物や殺す事に慣れておる相手が、『殺す』と明確な意思表示や感情をこちらに向ける事じゃな。お2方共、来ないのであれば…こちらから行くぞい?」
「ぐっ…!」
「マスター!!」
マクスウェルはその場からふっと消え、凛のすぐ目の前の位置に現れた。
かと思えば、持っている杖で凛の胸を強く突き、彼を30メートル程後方に吹き飛ばす。
この時、マクスウェルは神輝金級の魔物が放つ量の殺意を2人へ向け、それに当てられた美羽は叫ぶしか出来ないでいる。
「ほれほれほれほれ。このままじゃと、何も出来ずに死んでしまうぞい。凛様はそれで良いのかの?ん?」
「(体が、まるで重りでも付けられた様に全身が重い…!)けど…このまま…やられる…訳には…!負、け、る…ものかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
凛は仰向けから起き上がり、片膝立ちの状態でマクスウェルの杖攻撃を防ぐ。
やがて、マクスウェルが大きく杖を引いたタイミングで凛は立ち上がり、今度はしっかりと攻撃を止めてみせた。
「そうじゃ。殺意を持つ者には、こちらも負けないとする意志を持つのが大事となる。…さて、それじゃ段階を上げていこうかの。凛様、しっかりと付いて来るんじゃぞ?」
「はぁ…全く!勘弁…して、下さい…よっ!」
凛は嘆息し、愚痴を零しつつも左下から掬い上げ、右払い、足払い、見えにくい位置からの突き攻撃を避け、受け止め、最後にバックステップで距離を取る。
「うむ。少しずつ動けるまでになったみたいじゃの。凛様は成長が早くて助かるわい。」
「…2人共、ボクの事を忘れないでよねっっ!!」
「おっと。」
マクスウェルは嬉しそうにしていると、上の方から声が。
声の主は当然美羽で、真上からの攻撃をあっさりと避けられ、彼女の双剣は地面に叩き付けるだけで終わってしまう。
だが美羽は全くめげておらず、再度マクスウェルへ肉薄。
凛もそれに続く。
10分後
空中にて、3人はひたすら打ち合いを行っていた。
凛と美羽はマクスウェルの殺気に大分慣れたらしく、より強力な殺気を放たれても動きが阻害される事はなくなった。
「ふぉふぉふぉ。いやー、実に楽しいのう。とは言え、あまり時間もない…少々名残惜しいが、次の一刀で最後とさせて貰うとするぞい。」
マクスウェルはそう告げ、凛達から10メートル程距離を置く。
(一刀?)
「朧━如月━。」
「…っ!!」
キィィン
凛が不思議がる内にマクスウェルの姿は霞の様に朧気となっていき、やがて完全に消える。
凛は咄嗟の判断で後ろを向き、刀を縦にして左肩から右腹への袈裟斬りを防いだ。
(…空間認識能力でも全然動きが掴めなかった。認識阻害の類いが働いてると考えて良さそうだな。)
たまたま勘が働いたおかげで不可視の攻撃を防ぐ事が出来ただけで、未だ凛はマクスウェルがどこにいるかまでは把握していない。
視線を美羽へやり、おろおろとする彼女の前に立って庇う仕草を取る。
(如月と言う事は2月。恐らくだけど2に因んだ攻撃がもう1度…! 右か!!)
凛は辺りを見回しながらそんな事を考えていると、右方向から殺意が。
咄嗟に動かした刀と鞘でキキィンと斬撃を凌ぐも、直後にポコッと間の抜ける様な音が届けられた。
「…えっ?」
「…惜しいのう。読みがちょーーっと足らなかった様じゃ。」
音の発生源は彼の頭の上からで、凛は驚いた様子で後ろを振り返り、視線の先にいるマクスウェルと目が合う。
彼は右手…ではなく左手で杖の持ち手部分を凛の頭に乗せ、してやったりと言いたげな顔に。
凛の反応を見て満足したらしく、朗らかに笑い始めた。
「実はこの杖…仕込み刀にもなっとっての。最後に当てたのは鞘にあたる部分。要は凛様の真似をしてみたのじゃよ。」
そう語るマクスウェルは実に楽しげだ。
彼を見た凛が「それは良かったです」と返すものの、明らかに気落ちしている。
「ですが…僕は最後の攻撃を防ぐ事が出来ませんでした。なので不合格…ですよね。」
「む?おぉ、大丈夫じゃ。ちょいと儂が悪ノリをしてしまっただけで、全然問題なしじゃ。お2方共、先程の殺気程度であれば余裕で戦えると分かったしの。」
「あー、良かったー!もー、マクスウェル様ー、酷いですよー!」
(頬を膨らませるマスター…可愛い!)
「すまんのう。ともあれ1次試練は合格じゃ。」
「やったー…って。」
「1次…?」
杞憂だと思ったら今度はぬか喜びだと知り、2人は嘘でしょ?的な視線をマクスウェルに向ける。
「すまんのぅ。試練はもうちょっとだけ続くんじゃよ。」
マクスウェルは申し訳なさげに告げ、続けて魔法による2次試練が行われた。
「お2方共、お疲れ様じゃったな。もう少ししたら創造神様も来るじゃろうし、それまでは生活部屋で寛ごうぞ。」
「「はい!」」
無事2次試練もパスした2人は、マクスウェルに促されて生活部屋へと移動。
「皆お待たせ!」
そこで1時間程ゆっくりした後、大部屋側から覗き込む形で里香が姿を見せるのだった。