74話
凛と火燐は代表の女性を見て、何やら話し合い始めた。
ハーピーは凛達の言葉が理解出来る事を不思議に思いつつ、「げほっ…少し良いかしら」と声を掛ける。
「助けてくれた事に関しては礼を言うわ。けど貴方、その蛇のお仲間じゃないの?」
「確かに、この子は僕の仲間になります。ですが━━━」
「あいつは変わり者だ。一緒にされると迷惑でしかない。」
シーサーペントの副代表の男性が前に出た。
「貴方は?」
「あいつの次にシーサーペントを纏める者…とだけ言わせて貰おうか。」
「…成程。貴方、あの子に苦労させられているのね。」
「…残念ながらな。」
困った笑みのハーピーに、男性は苦い顔で同意。
そして良く見ると男性が超イケメンだと分かり、ハーピーが擦り寄って来た。
凛はそれを見計らい、「少し宜しいですか」と問う。
「あの子とやり取りで貴方に知性を感じ、勝手ではありますが争いを止めさせて頂きました。…と言うか、僕達も付いて来て欲しいとだけしか聞いてなくて。なので事情がさっぱりなんですよね…。」
「えー…。」
凛の説明に、ハーピーはしょうもない理由で自分は殺されかけたのかと肩を落とし、未だ転がり続ける女性を睨み付ける。
それから、凛はハーピーと何回か言葉を交わし、自分達の仲間にならないかと尋ねた。
ハーピーは助けて貰った恩もあるものの、自分だけでは判断出来ないとの理由から女王の元へと案内する事に。
「藍火。お前、仲間を助けなくて良いのか?このままだと置いて行っちまうぞ。」
「助ける…って、あの人を殴ったのは火燐さん、貴方っすよね?だったら火燐さんが運べば良いじゃないっすか。それに仲間って何のっす?」
「チョロいドラゴン…つまりはチョロゴンの仲間だな。」
「自分、あの人と一緒にされたくないんすけど…。それに、ただの自業自得じゃないっすか。」
「いや、意外に藍火と似ている所があるとあたしも思うぞ?」
「篝さんも酷いっす…。」
その頃、火燐が「いい加減うるせぇ」と言って女性の腹部を殴り、女性は「げふぅ」と悲鳴と共に強制的に黙らされた。
そして指示を出された藍火はとぼとぼと女性の所へ向かい、彼女を背負いながら追い掛ける羽目に。
一行はハーピーの案内で森を進み、5分程で女王の所に到着。
そこには30を越えるハーピーがおり、凛達は彼女達に囲まれる形に。
その内の1体の所へ助けたハーピーが向かい、小声で話をする。
「…貴方が我が同胞を助けてくれたそうですね。感謝致します。」
そう話したハーピーがクイーンだろうか。
見た感じ、他のハーピー達よりも…更に言えば凛よりも背が小さい様に思える。
先程助けた個体を含め、ハーピー達が綺麗なお姉さん風なのに対し、クイーンは庇護欲を掻き立てる様な可愛らしい見た目。
声も可愛いと言うか甘く、それでいて翡翠に負けずとも劣らず立派なものをお持ちで、ギリギリ…本当にギリギリで大事な部分が髪で隠れる程。
他のハーピーはやや控え目から少し大きめ位の為、色んな意味でクイーンの存在は目立っていた。
「ねー、またー?」
凛は再び美羽から目隠しされ、美羽と雫は難しい顔を浮かべながらクイーンを凝視。
クイーンは「どうして睨まれているのだろう?」と不思議そうに首を傾げ、その動きに釣られて胸がゆさりと揺れる。
それにより更に美羽達の視線が更に険しくなり、クイーンは益々不思議がった。
しかしこのままでは埒が明かないとの判断から、咳払いを交えて話を続ける。
「こほん。ですが、いきなり来て仲間になれ等と。ふふ、それは少々…おふざけが過ぎるのではないでしょうか。ねぇ、皆さんもそう思いますよね?」
「うふふふ…。」
「あっははは。」
「皆殺しよ。」
「泣き叫びなさい。」
「…やっぱり、その蛇と同じってだけで許せそうにないわ。覚悟なさい。」
「待て!待ってくれ、お前達は…。」
『問答無用!』
ハーピー達は、クイーンの合図や男性が言い終えるを待たずして臨戦態勢に。
そして前に出て来た男性、それと後ろにいる凛達へ向け、一斉攻撃を仕掛けた。
その中には先程助けた個体も混ざっており、ハーピー達による風属性魔法やとばした羽攻撃が360度から迫って来る。
楓は自身を中心に、魔力障壁を展開。
前に出た男性は腰に差した剣を抜き、攻撃を防いでいく。
魔銀級上位のクイーンは静観していたが、ハーピーは銀級。
上位個体であるハイハーピーは魔銀級の強さを持ち、群れる事で黒鉄級やそれ以上に匹敵する。
そんな彼女達から数え切れない位に攻撃を受け、凛達の方は魔力障壁の効果で全くの無傷だった。
しかし男性は全身の至る所に傷を負ってしまい、尚も懸命に止めようとする。
「頼む、話を聞いて欲しい!でないと━━━」
「しつこいです!私の可愛い子を傷付けた以上、生かしては返せません!」
クイーンが男性の言葉を遮るかの様にしてハーピー達に合図を出し、凛達は再び集中砲火を受ける。
今度はクイーンも参加し、先程よりも強力なものとなった。
「ふぅ、こんなものでしょうか。残念ではありますが…。」
もうもうと土煙が舞い、クイーンが悲しそうに独り言ちる。
「…おいおい。勝手に終わらせんなよ。」
「ふぇ?」
「ん。むしろ勝負はこれから。」
クイーンは声が聞こえた事で呆けてしまい、そんな彼女を他所に地面から強風が起き、ハーピー達全員が身構える。
程なくして土煙が晴れ、そこには、剣を杖代わりにして座り込む男性が。
そのすぐ近くに、2人の女性が立っていた。
「…オレ達がその程度でやられる訳ねーだろ。さて、こいつからの提案を蹴ったんだ。焼き鳥になる準備は出来たと考えて良いんだな?」
2人の女性の内の1人である火燐は、大剣を肩に担いでいた。
全身からゴォォォォ…燃え盛るオーラを放ち、ハーピー達を睨み付ける。
「…残念、もう少し話の分かる相手だと思ってた。氷像にするのも面白そう。」
もう片方の女性である雫は、反対に全てを凍てつかせる様な冷たいオーラを纏っていた。
右手に杖を持ち、頭上に10本以上ものアイシクルスピアを展開。
これにハーピー達は揃って固まった後、わたわたとしながらも器用に木を滑り降りてみせる。
『…調子に乗ってすいませんでしたー!!』
中には枝から足を滑らせ、顔面から地面に落ちて「ぶげっ!」と悲鳴を漏らす者もいたが、見事なまでに整った土下座を披露。
ハーピー達は決して怒らせてはいけない相手を怒らせてしまったと激しく後悔し、どうにかして許しを請おうと土下座するに至ったらしい。
(ハーピィなのに土下座するんだ…。)
凛はガタガタ震えるハーピー達を見て、何とも言えない気持ちになった。
「私、私、本当はクイーンなんてやりたくなかったんですー!」
やがて、耐え切れなくなったクイーンが顔を上げ、だばーと涙を流しながら暴露。
これに初耳だったハーピー達は揃って驚愕の表情を彼女に向け、凛達は面食らう。
「でも、クイーンに生まれた以上、どうにか、皆と一緒に、頑張っていかなきゃって…。」
クイーンはえぐっえぐっと泣きながら話し、いきなりの事態に凛達は困惑。
「「………。」」
「火燐、(クイーンを)泣かせた。」
「!?」
ここでまさかの裏切り。
雫の呟きに、火燐が信じられないものを見たと言いたげな顔を向ける。
しかし雫はそれを無視。
アイシクルスピアを解除してしれーっとクイーンの下へ向かい、「よしよし」と話しながら彼女を慰め始めた。(単に、庇護欲に負けて撫でたかっただけかも知れないが)
凛達もクイーンの所へ集まり、ぽろぽろと涙を流し続ける彼女をあやす様になる。
火燐は1人ぽつんと残される形となり、「え、オレが悪いの…?」と目を瞬かせていた。
「…だから止めようとしたのに。あいつらは(死滅の森)中心付近でもやっていけそうな位強い。今回はたまたま上手くいったみたいだが…一歩間違えばお前達は消滅させられる所だったんだぞ。」
副代表の男性が、凛達の方を向きながら告げた。
男性は曲がりなりにも代表の女性を殺さずに見逃してくれたとの恩義から来る発言だ。
そうとは知らないハーピー達は、『それを早く言え』との視線を彼に向ける。
だが話を聞こうとしなかった自分達も悪いと思い、揃って溜め息をついた。
「こうなる予定じゃなかったけど、スカッとしたから良いわ!」
そこへ、場違いとも取れる様な発言が聞こえた。
シーサーペント代表の女性だ。
彼女は火燐に腹部を殴られた影響により気絶し、2回目の一斉攻撃を受けた音で目が覚めた。
当時は「何々、何なの一体!?」と1人で騒いだものの、今は凛達の傍でふんぞり返っている。
「それで、私もそろそろ名前が欲しいのだけれど…。」
ここへ案内したのはそれが目的だったらしく、もじもじ&上目遣いを凛に向ける。
「いや、どう考えてもこのタイミングは有り得ないでしょ。それに君の場合、独りよがりが過ぎる。名付けはしばらく保留ね。」
「そんなっ!!」
女性はこれが自分の功績だと信じて疑わなかった。
その為、凛の呆れ交じりの発言にショックを受け、その場で崩れ落ちてしまう。
その後、どうにかハーピークイーンを泣き止ませる事に成功。
一緒に来るかとの話に2つ返事で了承し、ハーピー達全員に人化スキルを施すとなった。
ただ、人間の姿となったは良いものの、真っ先にスキルの付与を終えたクイーンを筆頭に、辛うじて隠れていたハーピー達の大事な部分が丸見えに。
凛は再び美羽の手によって目隠しされ、雫、翡翠、楓、エルマ、イルマ、藍火、篝がハーピー達に服を着せて回った。
「? どうかしたか?」
「いや。今更だが、お前は凛みたいにされねーんだなーって思って。」
「それがどうかしたか?」
「いや、分からないんなら良い。」
「そうか。」
(すっかり恐怖の対象とされ)残った火燐とシーサーペント副代表の男性が、2人でそんな事を話していた。
作業を終えた一行はポータルで帰る。
その際、人間となったハーピークイーンが凛や美羽と手を繋ぐ姿は、まるで仲の良い姉妹のよう。(今回の場合、身長的に美羽が長女、凛が次女、クイーンは三女扱いと言う構図に)
先頭を歩く彼らを、雫達は微笑ましく見ていた。
帰宅後、クイーンは一斉に視線を向けられて恥ずかしくなったらしい。
凛の後ろにすっと隠れ、凛が彼女の頭を撫でた。
それにクイーンが気持ちよさげにし、彼らを見た全員が「え、何この可愛い生物」とほっこりした視線を向ける。
ただ、シーサーペント代表の女性は未だに名付けされなかった事を引きずり、魂が抜けたままソファーに座り込んでいた。
そしてハーピー達を風呂に入れ、身綺麗になった所で昼食。
今回はミノタウロスとオークの肉を焼いたものを中心に用意。
最初こそ戸惑っていたハーピー達もタレの臭いに釣られ、1人、また1人と食べ始める。
「卵?」
「ええ、卵です。自分達で言うのも何ですけど、味は良いので結構頻繁に狙われるんですよ。それに嫌気が差して今の場所に。あ、勿論御主人様には喜んで提供させて頂きますね♪」
食事中、ハーピー達は数ヶ月前までいた死滅の森入口付近から移動したとの話になった。
そこだと魔物以上に人や亜人、獣人の冒険者が自分達の産んだ卵を狙い、いちいち返り討ちや逃げるのも面倒との判断から現在の場所に移ったとの事。
ハーピー達が産む卵は無精卵のみ、クイーンは有精卵と無精卵とを分ける事が可能。
例え戦いでハーピィ達の数が減ったとしても、少し経てば今の数に戻るらしい。
それと、ハーピー達は知らない様だったが、ハーピーの卵は金貨で、クイーンの卵は白金貨で取引されるとナビが教えてくれた。
たまに身の危険を感じて逃げる事もあったものの、来る冒険者のほとんどが金級以下。
ハーピー達が冒険者を返り討ちにし、土下座をされた経験が何回かあったので自分達もしたと告げられる。
因みに、シーサーペント代表の女性は今もしょんぼりしたまま。
それでも食欲はあるらしく、結構な勢いで食べ終え、ストレス発散しに地下へ向かった。
それと、ハーピーはほとんどが10歳未満。
クイーンは凛よりも少し歳上らしい。
午後1時前
「『凛様、少し宜しいでしょうか。』」
食休みがてら談笑中、凛の下に紅葉から念話が届けられるのだった。
いつもありがとうございます。
ハーピークイーンですが、旧ゆるじあではあり◯れの愛◯先生→今作ではう◯の会社の小さな先◯こと片◯さん風になってます。
あんな◯輩がいたら仕事も楽しいだろうなぁとw




