51話
30分後
スクルドの北側に位置し、西側、南側、東側と比べて少し高台で、スクルドを治める領主を始めとした貴族達が住まう貴族区。
そう呼ばれ、人通りの少ない場所をカリナは1人、坂を下る形で歩いていた。
ただし服装はドレス…ではなく、前回来た時と同じ姿。
そして心ここにあらずと言った感じで軽く下を向き、何かを考えている様だった。
「カリナの姐さん。先程から黙ってますが…どうかしたんですかい?」
そこへ、どこからか女性と思われる声が聞こえた。
普通ならここで足を止めたり、周りを確認する等のアクションを起こすものなのだが、カリナは気にしないとばかりに前へ進み続ける。
「六花か。シンシア達について考えていた。」
「シンシア…誰でしたっけ?」
「オークションで凛様が最初に購入された少女の事だ。一応お前もあの場にいたし、凛様が話されたのは聞いていただろう?」
カリナは凛達の傍でボディーガードとして控え、六花と呼ばれる者もそれは同じだった。
尤も、凛達にボディーガードが必要かと問われれば返事に困る所ではあるのだが。
「キシシシシ、そう言われましてもねぇ…。アタシは直接見たとかじゃありませんし、何より人間の区別なんてつきませんって。姐さんもそれは同じでしょう?」
「悪かった。…とにかくだ、シンシア達はいきなり拉致された挙げ句、商品として売られる形となった。昨日購入した者達も同様の手口だったが、酷いものだと思ってな。」
シンシアとミラ達は獣国内で、リリアナは商国の宿で就寝中の所を襲われた。
ミラ、エラ、リリアナの3人は自分達が捕らわれただけで済んだものの、シンシアは母親と共に奴隷商へと連れていかれ、一緒にいた父親は重傷を負った。
そして昨日、カリナが調査を兼ねてヴォレスを訪れ、市内に3箇所ある奴隷商を全て回り、100名近い奴隷を購入した中にいたシンシアの母親を保護。
先程シンシアと再会し、2人の喜び合う姿に凛達はほっこりしていた。
「そう言う意味ではアタシも似た様なものだと思うんですがねぇ…それはそうと。アタシはてっきり、先程の男性の事でも考えているのかとばかり思ってましたよ。」
「先程の男性…もしかしてフレデリック様の事か?」
「名前を言われてもアタシには分かりませんが、多分その方で合ってるかと。そのフレデリック様とやらの番にはならないんですかい?」
「私がか? うちの実家は貴族ではあるが…貧しい男爵家だからな。フレデリック様は次男とは言え、伯爵と男爵ではいくらなんでも釣り合いが取れないだろう。」
「そう言う事ではないと思うんですがねぇ。(やれやれ、旦那も可哀想に…)」
カリナが不思議がるのに対し、六花から哀れんだ呟きが返って来た。
カリナ達が凛の領地からスクルドへやって来た手段。
それは徒歩でも飛行でもなく、ジラルド伯爵家に設置したポータルでだった。
切っ掛けは昨日の昼過ぎ、ガイウスから届けられた一報からだった。
デイジーが再び屋敷にやって来ただけでなく、今回は兄である長男アントンと三男ヘクターも一緒だそうだ。
連絡を受けた凛は美羽や火燐と共にガイウスの屋敷へ向かい、やって来た理由を尋ねた。
ヘクターは単純に暇だったから、アントンはデイジーから強くてカッコいい女性がサルーンいるとの情報を確かめにが理由との事。
暇人のヘクターはともかく、アントンは午後からも仕事があり、スクルドで噂になっている火燐を一目見たら帰るつもりだった。
そして戦力を分析し、必要であれば火燐を捕縛或いは殺すのも視野に入れていた。
と言うのも、本来であれば今頃はサルーンを攻め落とし、スクルドの領地を広げている予定だったからだ。
国からの命令で軍備を整え、完了するまでもう間もなくと言う所まで来ていた。
ところが、ワイバーンの件で待ったがかかり、フォレストドラゴンやアダマンタートルで強い冒険者がいるのではと慎重になり、バーベキューで(食べれなかったとの意味で)悔しがった。
そして強いゴブリン達やそれなりに有名だった盗賊の一味をあっさりと蹴散らし、ジラルド家が誇る兵達を歯牙にもかけずに倒した火燐に注目が集まった。
しかし、実際に彼女達を見て傾国級…或いはそれ以上の美を放っておくのは勿体ないと判断。
凛達を口説き始める。
だが中々思うように話が進まない事に業を煮やし、権力をチラつかせた所へ、息を切らせたフレデリックが到着。
フレデリックはアントン達を叱責し、伯爵の次男とは思えない腰の低さで凛達に謝罪。
これにアントンが公衆の面前で辱しめを受けたとしてフレデリックへ詰め寄り、デイジーとヘクターが同意を示す。
フレデリックは彼らを宥めつつ、屋敷の庭に飾られたアダマンタートルを倒せるだけの実力を持った人物を無理に勧誘する行為は良くないと諭すと、一応は納得して貰えた。
そこへ、凛がアダマンタートルを庭に飾ったのかを尋ね、フレデリックが肯定。
話の流れでジラルド伯爵家へお邪魔する事に。
凛はフレデリック達の両親でジラルド伯爵家当主のランドルフ、ランドルフの妻で伯爵夫人のアシュリンと会う。
挨拶を済ませ、屋敷に入ってすぐ右の所に置かれたアダマンタートルに視線を移し、見映えを良くする目的で剥製にしたいと提案。(オークションで出品した竜2体の剥製のネタはここで出た)
了承を得た凛は、それまでやらなかったアダマンタートルの解析をこの場で行い、躍動感のある剥製を作製。
それをランドルフが大層気に入り、親交の証として(凛がヴォレスで提示した)身分証を凛に渡すと、凛はそのお返しにインフェルノドラゴンの剥製をアダマンタートルの向かい側に置いた。
インフェルノドラゴンはファイアドラゴンが進化し、黒鉄級中位となって全長15メートル弱にまで成長した真っ赤なドラゴンだ。
しかもそれが戦闘態勢でいきなり現れたものだから、ランドルフ達は周辺一帯にまで聞こえる位に大声で叫び、尻餅を突いたり泡を吹いたりする。
しかし凛からこれも剥製だとの説明を受け、安堵の後に喜ばれた。
今後もお邪魔しに来るからとの理由で空いている部屋を1つ借り、中にポータルを設置した。
因みに、カリナの本名はカリナ・ヴァン・バイサスと言い、実はスクルドに籍を置く男爵家の次女だったりする。
カリナは歳の離れた長女がおり、既に他所へ嫁に行っている。
カリナは貧しいながらも一応は貴族だと知られ、今までトラブルらしいトラブルはなかった。
だがそんな状況下でも強力な呪いを掛ける程にトレイシー達が憎んでいたとも言えるし、或いは夜の内にいなくなれば周りが勝手に失踪したと捉えるに違いないと考えたとも言える。
それとフレデリックだが、カリナの事は10年前から知っていた。
以降度々市内で見掛け、その度にこっそりと裏で手を回してはトラブルを未然に防いでいた。
そんな彼が先程凛と一緒に来たカリナを見てすぐに雰囲気が変わったと感じ取り、説明を求めた。
そして仲間に裏切られ、奴隷商に売られて死にそうだった所を凛に救われたと聞き、怒りを露にする。
フレデリックはカリナの両手を取り、赤くなりながらも意を決した表情でこれからは自分が君を守ると告げる。
しかし彼女は元々あまり異性に興味がなく、しかも今は凛の役に立ちたいと言う想いが全て。
故に、良く分かっていない様子で「はぁ…」と答えるだけで終わり、これにフレデリックはがっくりと肩を落とす。
凛、美羽、ランドルフ、アシュリンは苦笑いとなり、アントン達や火燐はにやにやとした笑みを浮かべていた。
2時間後
カリナは孤児院を回り、挨拶やトランプを使っての遊びや食料の配布を行った。
勿論トランプは地球で売られている紙製のもので、プレイしたゲームはシンプルにババ抜きのみ。
ルールも分かりやすく、すぐに大人気となった。
トランプは各孤児院に3セット、それとは別に遊び方が載った説明書を渡してある。
また、希望があれば受け入れる態勢が整っている事を伝え、次に来た時にでも返事を貰えればと告げ、それぞれ後にした。
スクルドで行うべき用事を済ませ、家に帰って両親に会い、次の場所へ移動する為にジラルド伯爵の屋敷方面へ向かう。
「よ、ようカリナ。」
その途中、カリナは声を掛けられた。
声のした方向に視線をやると、戦士のエイジャ、魔法使いのカサンドラ、呪術師のトレイシーの3人が立っていた。
「…お前達か。」
「あ、ああ。久しぶり、だな。」
カリナは少し悲しげに呟き、エイジャがぎこちない笑顔で返事を返す。
(偶然を装っているみたいだが…さて。)
カリナは凛と1歳と2ヶ月位しか違わず、しかも全幅の信頼があるからこその甘え。
しかしエイジャ達とパーティーを組み始めた時は対等に、しばらくしてからは上下関係が発生した為に今の様な形となった。
また、カリナは現在、黒鉄級に近い強さとなっている。
これは凛がリンク越しに少しずつ彼女へ魔素を流し、底上げを図った結果でもある。
それに伴い、カリナの感覚は鋭くなり、凛から付与して貰った気配察知の効果も相まって、先程から自分達を尾行していた存在を複数確認。
今は既に離れており、彼らから報告を受けたエイジャ達がここで待ち伏せていたのではないかと結論付ける。
「無事だったんだね。」
「無事?一体何を━━━」
「そこら辺についても話がしたいからさ、一緒に食事でもどうだい?」
エイジャはカリナの言葉を遮り、右手の親指で後ろの建物を指し示した。
カリナは目を閉じ、首を左右に振る。
「断る。こう見えて忙しい身でな、色々とやる事があるのでな。」
「ちょっと!折角あたし達が誘ってあげてるのよ!?なのにその言い草は何!!」
トレイシーが叫び声を上げ、周りにいる人達は何事だと一斉にこちらを向く。
「必要ない。私は今後一切、お前達と関わるつもりはないからな。だからこちらの事も放っておいて欲しい。」
カリナにとって最早エイジャ達の存在自体どうでも良い様だ。
話を早々に切り上げ、この場を去ろうとする。
「そ、そんなの信じられないわ!!」
反対に彼女達は死活問題、特にトレイシーは未遂とは言えカリナを殺そうとした。
その事が世間に知れ渡りでもしたら奴隷落ちする可能性が非常に高く、決して有耶無耶で終わらせる訳にはいかない。
(適当にこの場をやり過ごそうたって無駄よ。後で絶対報告するに違いない…そうなったら私は破滅!そうよ、どうにかして和談に持ち込んで━━)
トレイシーは声を荒げた後、心の中であれこれと考え始めるのだがすぐに中断させられる。
「悪いが時間がない。お前達をどうこう以前に興味もないしな。では。」
そう言って、カリナは再び歩き出したからだ。
これにエイジャが慌て、カリナを指差す。
「お、おい、どうするよ?あいつ行ってしまうぞ?」
「…追い掛けるしか。」
「だよな。なら行くぞ…トレイシー?どうかしたのか?」
エイジャはカサンドラに促されて走ろうとするも、俯くトレイシーを不思議がる。
「…るな。」
「え?」
「ふざけるんじゃないわよ!あたし達に興味がない!?カリナの癖に良い度胸してるじゃない!!━━闇よ、我が命に従い敵を滅せ。」
「トレイシー!?お前、こんな人が沢山いる所で━━」
「ダークボール!」
トレイシーは止めようとするエイジャを他所に持っている杖を前に突き出し、ダークボールを発動。
撃ち出された黒い玉は真っ直ぐカリナへと向かい、そのまま後頭部に直撃するのだった。
この話の分でひとまず新しいキャラは終わりとなります。
もうちょいしたら旧ゆるふわのストーリーに戻ります。
相変わらず投稿する直前になると文字が増え、調整に時間が掛かるってゆう(苦笑)




