50話
「よく分かりましたね…こちらの刀を魔力で強化し、身体強化を施した状態で一気に首を斬り落としました。」
ガイウスからの問いに、凛は軽く驚きつつ笑顔で応対。
次に、無限収納から玄冬…ではなく、当時使っていた打刀と同じものを取り出す。
「変わった形の武器だな?…失礼。初めて見るが不思議と手に馴染む…ふむ、中々の業物だ。」
ガイウスは初めて見る打刀に興味津々。
凛から受け取るや縦・横・斜めに傾け、鞘から抜いたりしていた。
「もし興味がおありでしたら差し上げましょうか?」
「ぬ…?だが…。」
「そちらと同じものがまだ何本かありますし、1~2本位でしたら問題ないですよ。」
「そうか…すまないな。自分でも思った以上に気に入ってしまった様だ。ありがたく頂戴しよう。」
初めて見る形状の武器、しかも高品質のものが得られて嬉しくなったのだろう。
ガイウスが頬を軽く緩ませながら納刀し、軽く会釈。
となると、羨ましがる人物が出るのは必定。
ゴーガンもその1人で、如何にも不満そうな顔付きに。
それに気付いたガイウスは、やや気まずげな様子でゴーガンと面を合わせる。
「…不満なら受け付けんぞ?」
「大体君はだね、長としての自覚が足りなさ過ぎるんだよ。僕だってその、刀…だっけ?良いなぁとは思ったけど、(ギルドマスターとの)立場上控えていたと言うのに。それを君は…あの時だって━━━」
そこから、何故かゴーガンによる説教が開始。
ガイウスは打刀を左脇に挟み、あーあー聞きたくない聞きたくないとばかりに後ろを向き、耳を塞ぐ。
だがゴーガンはお構いなしに続行。
とばっちりを受けたくないワッズ達は、視界に入らないのを良い事にこっそりと距離を取る。
見兼ねた凛が無限収納内に左手を入れ、ガイウスと同じ打刀を用意。
「ゴーガンさんも。宜しければこちらをどうぞ。」
その言葉を待っていたゴーガンは途端に満面の笑みへ切り替わり、
「おや、良いのかい?いやー、すまないね。」
「いえいえ。」
なんて言いつつ、凛から受け取る形でしっかり打刀を確保。
((((((((凄く良い笑顔。刀を貰えた事が余程嬉しいんだ(いのか)(いのですね)…。))))))))
凛は笑顔で応えたものの、彼以外の者達は違う。
(足を止める等して)面食らい、妙な一体感が生まれた瞬間と相成った。
ゴーガンの機嫌が良くなったのを皮切りに、それからしばらく行われた談笑。
途中、思い出した顔付きになった凛がワッズの方を向く。
「あ、ワッズさん。因みになんですけど、フォレストドラゴンの解体ってどの位で終わりそうですか?」
「ん?職員総出で掛かりゃ、遅くても明日にゃ終わると思うが…何か急ぐ理由でもあんのか?」
「あ、いえ。可能であればオークキングの肉も食べてみたいなぁ、なんて思いまして。」
「ああ、成程。魔銀級の魔物だもんな、そりゃ気になって当然か。だったらよ、少しばかり遅れはするが、何人かをオークキングの方に回せば今日の夕方には終わるぜ。」
凛の質問に対し、考える素振りを見せたワッズがニカッと笑う。
「本当ですか!?最悪フォレストドラゴンは明後日とかでも構いません。是非それでお願いします!」
「(うおっ、ビックリした!)お、おぉ…分かったぜ?」
余程嬉かったのだろう。
或いは、ダメ元で伝えてみたら殊の外上手くいったが正解かも知れない。
ともあれ、いつの間にか両手を握られ、縦にぶんぶんと振られるとの行動に驚き、ワッズは声を上擦らせてしまう。
彼が男なのは分かっている。
分かってはいるのだが、包まれた両手は柔らかく、上目遣いで見詰められたものだから本当に男なのか?との疑問が再浮上。
女だと錯覚しそうになる。
顔が熱を帯び、ふと気付けば周りにいる職員達がニヤニヤしながらこちらを見ているではないか。
コイツら後で絶対〆ると心で決めつつ、ワッズは凛からそっと離れる。
そして咳払いを交え、出来るだけ平静さを装うも…その両頬はしっかりと赤いままだった。
「んんっ。それじゃ、作業がしやすい 位置にオークキングを出してくれ。」
「はい!」
ワッズから言われるがまま、凛はフォレストドラゴンのすぐ近くにオークキングを出す。
5分後
オークキングも損傷が少ないとの話で盛り上がる一方、退屈そうな水色髪の女性。
それが分かった凛は彼女に気を配り、適当なところで話を切り上げる。
「それでは、後程また取りに伺わせて頂きますね。」
「おう!なるべく早く終わらせるからよ!」
「宜しくお願いします。」
やり取り後、再びゴーガンが先頭を歩く形で移動を始め、凛達は解体場を退出。
そのまま通路を抜け、再び冒険者ギルドの広間へ。
因みに、ガイウスの分の打刀は凛が預かっており、(この時点で)打刀を持つのはゴーガンのみ。
冒険者組は凛達が再び姿を見せた事にも勿論驚いたが、それ以上に関心を寄せたのはゴーガンの左手。
離れた時にはなかった横長の黒い物体が握られ、注目の的となっていた。
「それじゃ、僕は自室に戻るとするよ。」
そう言って、ゴーガンは2階へと向かう。
鼻歌を歌い、弾む足運びとかなりご機嫌な様子で。
今まで片手だったのが両手。
しかも大事そうに抱えてとの光景に、少し見ない間に何かしらの出来事が起きたのは誰の目にも明らか。
(ゴーガンめ、刀を貰えて嬉しいのは分かるが…よもやあれ程とはな。俺は態度に出さぬよう、気を付けるとするか。)
ガイウスもそれは同じ。
ここまで浮かれるのは初めてな友人を見送りつつ、自らを律していた。
「…では、我々も屋敷へ向かうとするか。そろそろ、凛殿の住民票が出来る頃合いであろうしな。」
「はい。分かりました。」
視点を凛に変え、来た時と同じ配置でギルドを去って行った。
「…あんなに機嫌の良いギルドマスターを見たの、俺初めてなんだけど。」
ギルド受付前から偉い人達が離れ、緊張が緩んだのだろう。
ポツリと零れ落ちる様にして誰かが呟いた。
「えぇ、本当よね…。」
「全くだ…。」
「何だったんだろうな…。」
それを皮切りに。
或いは乗っかる形で数名が続く。
「…今更だが、ギルドマスターが左手に持っていたのは剣…か?さっきはなかったよな。」
『…!』
ゴーガンが何か持っていた風に見えたが、感違いではなかった。
これに漏らした男性以外の全員がハッとなり、アイコンタクトを交えての集合。
本日何度目かの、しかも短いスパンでの協議が再び開かれた。
ガイウスの屋敷に到着後、ガイウスとアルフォンスのみ凛達から離脱。
残る警備の男性の案内で先程の応接室に凛達は通され、その男性込みで雑談。
「…これが凛殿の住民票だ。確かに渡したぞ。」
「ありがとうございます…ではこちらも刀をお返ししますね。」
10分程で2人は姿を見せ、ガイウスが住民票を。
凛は打刀をそれぞれ相手に渡す。
「うむ。凛殿、色々あって疲れたろう。今日のところはこれでお別れだな。」
「今日の、と仰ると言う事は…。」
「ああ。明日は私も、凛殿が到着する頃を目処に解体場へ向かわせて貰うつもりだ。」
「成程…ガイウスさん、本日は色々と助けて頂き、ありがとうございました。」
凛がお辞儀し、一拍置いて美羽達も(水色髪の女性だけ更に遅れて)頭を下げる。
「うむ、ではな。」
ガイウスは満足げな様子で部屋から退室。
それを横目で確認したアルフォンスが凛へ黙礼し、後を追う。
「…それじゃ、家に帰ろうか。」
応接室のドアが閉まり、頭を上げた凛が1言。
「うん♪」
「はい!」
美羽と紅葉は満面の笑みで答えるのだが、女性だけ浮かない顔。
「自分は…。」
言葉を詰まらせ、座りながら目を伏せる。
女性はどうやら、今頃になって疎外感や孤独感に苛まれたらしい。
家に帰るとの言葉の意味は分からないが、群れのところに向かうのと恐らく同義。
温かく迎え入れられる事だろう。
翻って自分。
完全に他所者を理由にこの場で捨てられるのではとの考えが過り、少しでも心の負担を減らそうと判断。
俯いた状態のまま立ち上がり、覚束ない足取りで部屋を出ようとする。
「ん?どこへ向かうの?行きたい場所でも見付かった?」
「…自分、弱いっすから。主様のご迷惑になりたくないんで、このままお別れしようかと…。」
それに気付いた凛が話し掛け、女性は一旦止まるも、再び足を前へ。
「え…?」
しかし、凛が左手を。
美羽が右手を掴んで強制的にストップを掛けられ、女性は困惑。
「僕はたまたま君の主になったけど、それは君が臆病…言い換えれば他者を思い遣れるだけの優しさがあったからなんだよ。」
「主様…。」
「そうそう。それに今はまだまだかもだけど、スタートラインで考えたら強い方なんだよ?」
「す、すたーとらいん…?」
凛からの言葉に感動する傍ら、美羽の説明で途端に混乱へ陥る女性。
解釈したいと思う反面、聞き慣れない単語に四苦八苦している風にも見受けられた。
そんな女性の前に、紅葉が立つ。
軽く怒った風な表情を浮かべている事から、原因は不明だが怒られるとでも思ったのだろう。
体を硬直させ、緊張した面持ちに。
しかし、紅葉はふっと笑い、
「…先程も申しました通り、私は今でこそこの姿ですが、元はゴブリンだったのです。」
なんて告げるものだから、女性は目を思いっ切り面食らう。
「え、本当…だったんすね。てっきり冗談とばかり…それと何度か(ゴブリンを)森の上で見た事はあるっすけど、すぐに倒される記憶しかないっす…。」
「はい。ですがそんな私でも、凛様から配下にして頂き、ここまで至る事が出来ました。」
「確かに。自分とは比べものにならない位、強いと言うのが伝わって来るっす…!」
死滅の森に住まう者が為せる技か。
紅葉の強さを本能的に感じ取った女性が、おぅ…と冷や汗をタラリ。
その様子を見た凛と美羽は、紅葉に任せようと判断。
女性の手を離し、少しだけ遠ざかる。
紅葉は空いたばかりの女性の両手を取り、優しく微笑み掛ける。
「次は貴方様です。」
「…え?」
「凛様に拾って頂いたのを機に、私は生まれ変われました。次は他ならぬ貴方様の番…一緒に頑張りましょう。」
女性は最初、何を言われたのか分からなかった。
紅葉から真摯な態度で接せられた事に体が、心が拒絶反応を示したからだ。
何度も反芻する内にじんわりと解け、頬を何かが伝う。
「あれ…なんで…。」
「今まで…さぞ辛い想いをされたのですね。」
それは涙だった。
気付いた女性は戸惑い、そんな彼女を紅葉が優しく抱擁。
「うっ…ぐす…うあぁぁぁぁぁ!」
段々と我慢出来なくなり、やがて限界を迎えた女性が嗚咽を漏らした。
女性はこの通り臆病な性格に加え、仲間内であまり身体能力が高くないのも重なり、貶され続けた過去を持つ。
或いは、この通り見た目は良いので、(オス側が)気を引きたいが為にちょっかいを出し、その悉くが裏目に出た…とも。
今回のサルーンの件も、仲間が女性に自慢したいが為に起きた悲劇。
特に理由等は語られず、半ば無理矢理連れ出されたとの説明を受ける。
「…そうだったんだ。それじゃ、改めて宜しく頼むね。」
「はいっす。宜しくお願いしますっす!」
女性は始めこそ気まずそうにしていたものの、凛達が快く受け入れてくれたと分かり、安堵。
凛の申し出に、快く応じる位には活気を取り戻した。
それから1行は移動を開始。
凛と美羽が水色髪の女性と手を繋ぎ、後ろをニコニコ顔の紅葉が随行。
ただ、彼らは(外見上)美女・美少女のみで構成された1団。
関心を集めないはずがなく、物凄く目立っていた。
ただ当人達は話に夢中。
誰1人として外野に意識を向ける者はいなかったり。
やがて、街の南側に着いた凛達。
門番達との挨拶をそこそこに、外へと出る。
「…あ、そう言えば。さっきは僕も急いでたから見れず終いだったんだけど、君達ワイバーンって、どんな攻撃方法があるのかな?」
1分程進んだ頃、凛は隣を歩く女性に尋ねてみる。
エルマとイルマにも翼や羽が生えているものの、本人達はあまり空中戦を得意としていないらしい。
女性は今でこそ(翼の生えていない)女性の姿だが、凛は翼を生やした者が空中でどう立ち回るのかが気になっての質問だ。
考える意図でなのか、女性は歩きながら軽く上を見上げる。
「そうっすね…前足に生えた爪で引っ掻いたり、牙で噛み付いたり。体当たりしたり、尻尾を叩き付けたりってところっすかね。あ、それとたまに口から火の玉や炎を吐く位っす。こう、がおーっと。」
「おー、ブレス吐けるんだ!何だか強そう!」
「いやー、自分達そんなに強くないし、自分はその中でも1番下…みたいな感じっすからねぇ…。」
がおーの部分で可愛いと思われたのはさて置き。
凛は興奮気味になるも、困った笑いを浮かべる女性を見て一転。
真面目な表情で告げる。
「君はこのままで良いの?」
女性はその場で立ち止まり、下を向く。
「そんなの…そんなの…言い訳がないに決まってるじゃないっすか。同胞達は何も出来ないまま一方的に倒された。最後に自分が残り、『ああ、次は』と思ったらとても怖かった。そして助かるかも知れないと分かった時、みっともなく主様に命乞いをした。情けない自分が嫌になるっす…。」
体を震わせながらでの吐露に、凛はようやく女性の本音が聞けたと内心で喜ぶ。
しかしそれは表に出せない。
出す訳にはいかない。
何故なら、自分は目の前にいる女性の主人。
失望されたくない、不甲斐ない姿は見せられないのだから。
自嘲、或いは自虐する女性とは逆で、やる気に火が点いた凛。
尚一層、落ち着いた声色で宣うのだった。
「そうか…ならば問おう。力が欲しいか?」




