49話
「はぁ…全く。昔から君は変わらないな。」
ゴーガンは溜め息をつくも、その表情は悪くない。
むしろ満更でも、との表現が付きそうな優しい笑みだった。
「…あ、そう言えば、例の屋敷は凛く…凛殿が魔法で建てたんだったか。ハンナ辺りが喜びそうな話だね。」
「ハンナ?」
「元パーティーメンバーの1人さ。炎系魔法を得意とする魔法使いでね。魔法で家が建てられる…なんて聞いたら、きっと興味を持つと思ったんだ。」
「成程、そうでしたか。ただ…主に使用するのは土魔法でして。家全体で考えた場合、炎魔法だとあまりお役に立てないかもです。」
「だよねぇ。」
「それに、意識を明確にしないと希望のものが造れなかったりしますし…後は、かなりの根気と集中力を必要とする、地味な作業がメインって感じでしょうか。」
「ハンナは派手好きだし、力押しな部分が多少、いや大いにある。何より飽きっぽい性格だから向かないだろうな…失礼。一先ずこの話は置いといて、僕もそのフォレストドラゴンを見てみたい。案内がてら、このまま解体場へ向かうとしようか。」
話は終わりとばかりに立ち上がったゴーガン先導の元。
部屋の入り口にある扉、廊下、階段…的な感じで移動。
道中、冒険者達の視線を集めるのだが…凛達は気付かないフリを敢行。
足を止めでもしたら立ちどころに人が群がり、確実に質問責めに遭うと考えたからだ。
そのままゴーガンやガイウスの後ろに付く形で歩みを続け、冒険者ギルドの右側にある素材を買い取る為のカウンター。
その横の通路を通り、奥に設置された扉を開放。
それから10メートル程の通路を経て再び開扉し、部屋の中へ。
室内は縦100メートル、横200メートル、高さが15メートル程と中々の広さ。
魔物や作業中の人達を見るに、どうやらこの部屋がギルドの解体場に当たる区画らしい。
解体場は鉄級のウルフやグラスラビット、犬を二足歩行にした様な見た目のコボルト。
銅級のオークやアッシュウルフ、ブラウンラビットに大型の蜘蛛であるビッグスパイダー。
ホブゴブリンより進化し、2メートル弱にまで背が伸びた銀級のレッサーオーガ。
同ランク、且つビッグスパイダーを1回り大きくさせ、全長1メートルを超えたフォレストスパイダーと思われる者達の亡骸が。
それらを職人数名で捌き、慣れた手付きで道具を使う様子が窺えた。
後に、レッサーオーガとフォレストスパイダーは例の金級冒険者パーティー(男性剣士、女性魔法剣士、女性弓士、男性魔法使いの組み合わせらしい)のものだと判明。
彼らはワイバーン襲来時街の北におり、凛がガイウスへチャーハンを振る舞う頃に北門を抜けたのだそう。
初めて体験する街の慌ただしさに戸惑いながら冒険者ギルドへ向かい、情報収集&対策中に凛達がやって来たとの運びに。
「ワッズはいるかーーーい!」
「誰だぁ!俺の名前を呼ぶやつぁよ!」
ゴーガンの声に反応し、30メートル程離れた場所から不機嫌そうに立ち上がる、1人の男性。
「…ってギルドマスターじゃないですかい。今日はどうしたんです?」
しかし相手がゴーガンだと分かるや途端に(少し怖い)笑顔となり、こちらへ歩み寄って来た。
身長187センチのワッズは、40歳手前の風貌。
ゴーガン程ではないが、がっちりとした体格で強面、更にはスキンヘッドと。
今は作業着姿だが、スーツ等を着せればヤの付く職業に見えなくもない。
「呼び出してすまないね。今日はこちらの凛殿が、フォレストドラゴンを見せてくれるとの目的で来たんだ。それと、こう見えて男性だそうだよ。」
「へぇ…え?男?このナリで…ですかい?」
「みたいだね。」
「みたいだねって…ま、ま、まぁフォレストドラゴンは話でしか聞いた事がなかったんでさぁ。俺としても是非見てみたいですねぇ!」
ワッズも職人達も、これで男は無理があるだろ!と全力で物申したい衝動に駆られる。
が、街長や上司がいる手前グッと堪え、無理矢理作った笑顔で凛の方を向く。
「凛…だったか。俺ぁ作法が苦手でな、至らないと思うだろうが、勘弁してくれや。」
「いえ、お気になさらず。」
「(声まで可愛いのかよ。益々信じがたいぜ…)あんがとよ。そんで出す場所だが、こんな状態でも大丈夫そうか?」
ワッズに尋ねられ、「そうですね…」と部屋を見回した凛はそこそこ広いスペースがあるのを発見。
「あ、あの辺りでしたら出せそうです。あちらをお借りしても?」
「構わないぜ。」
「ありがとうございます。」
ワッズから了承を得、早速目的の場所へと移動。
「それでは今から出しますので、皆さんはここから動かないで下さいね。」
部屋にいる者全ての視線を集めつつ、凛は無限収納からフォレストドラゴンを取り出す。
若干斜めの体勢で胴体を、少しだけ離れた地点に頭を置かれたフォレストドラゴン。
凹んだ形跡が幾つか見られるも、他は綺麗なままだった。
「ふぇー!おっきいねーー!」
「流石、凛様です…!」
美羽と紅葉は話を聞いただけで、実際に見るのは今回が初めて。
なのでフォレストドラゴンを、しかも感動だったり興奮した様子で2人は見て回る。
『………。』
それ以外の面々はと言うと、フォレストドラゴンの巨体さは勿論。
今この場で再び動き出すのではないかと思われる位、圧倒的存在感に当てられ、物の見事に固まってしまっていた。
ただ、ゴーガンだけは口元に左手をやる等。
感心した面持ちで移動を開始。
続けて我に返ったのはワッズ。
且つ素早く駆け寄った結果、ゴーガンよりも早くフォレストドラゴンの元へと辿り着く。
「すっっげぇぇぇっ!!何箇所か凹んじゃぁいるが、ほとんど完璧な状態じゃねぇか!これ程の強さを持った魔物をこんな形で倒せるとは…お前さん、めちゃくちゃ強いんだな!恐れ入ったぜ!」
途中で凛側を向く場面があったものの、彼も美羽達と同様。
様々な角度からフォレストドラゴンを眺め、観察するまでに。
「そうだよー!マスターは凄いんだからーーー!」
「凛様は偉大なのです!」
そこへ、何故か美羽と紅葉も合流。
3人がフォレストドラゴンの周りをぐるぐる回ると言う、謎の光景が繰り広げられた。
ゴーガンはゴーガンで、マイペースにフォレストドラゴンを注視。
遅れたガイウス達も似た感じで、凛は何とも言えない表情を浮かべるしかなかった。
やがて、一頻り見て満足したのだろう。
真っ先にワッズが帰還。
「待たせたな、それで買い取りだったか?」
「はい。ガイウスさん達にもお伝えはしましたが、僕は冒険者になるつもりはありません。価格は控えめで大丈夫です。」
「なんて勿体ない…。」
「それと、骨や鱗等の素材になりそうな箇所はそちらにお任せしますが、食べられる部分は譲って頂けるとありがたいです。フォレストドラゴンがこの大きさですし、解体に時間が掛かるかと…なので今回はこちらだけ、との形で。」
「お前さん、何もないところから(フォレストドラゴンを)出したってこたぁ、空間収納スキル持ちなんだろ?…つか、まだ他にも出せるってのかい?」
「そうですね…規模で言えば、このフォレストドラゴンの十数倍位かな?あ、これ、現在収めている魔物達の目録です。」
凛は少し考える素振りを見せつつ、無限収納から1枚の紙を取り出す。
「はあっ!?」
流石に嘘だろ。
そう思いつつ、ワッズは差し出された紙を引ったくり、目を皿の様にして見始めた。
「…なになに?
オークキング 1体
オークジェネラル 4体
ハイオーク 6体
オークメイジ 4体
オークアーチャー 6体
オーク11体
ゴブリンキング 1体
グレーターゴブリン 3体
マーダーゴブリン 4体
ホブゴブリン 12体
ゴブリン 33体
ゴブリンウィザード 3体
ゴブリンソーサラー 5体
ゴブリンメイジ 9体
ゴブリンシューター 6体
ゴブリンスナイパー 10体
ゴブリンアーチャー 16体
キラーマンティス 12体
バトルマンティス 24体
フォレストスパイダー3体
ビッグスパイダー 15体
ワスプ 10体
パラライズビー 2体
サイクロプス 8体
ブラウンベアー 4体
ダイアウルフ 11体
フォレストウルフ 20体
アッシュウルフ 38体
ワイバーン 13体
土竜 2体
ランドドラゴン 11体
キマイラ 2体ぃ…?
こ、ここまでかよ…最早、凄過ぎて言葉が出ねぇぜ…。」
紙から顔を離すや、思いっ切り頬を引き攣らせた。
強さに程度はあるものの、凛がワッズに渡したリストに載っていた魔物は以下の通り。
鉄級 ゴブリン、ゴブリンメイジ、ゴブリンアーチャー
銅級 ホブゴブリン、ゴブリンソーサラー、ゴブリンスナイパー、オーク、オークメイジ、オークアーチャー、アッシュウルフ、ビッグスパイダー、ワスプ
銀級 グレーターゴブリン、ハイオーク、バトルマンティス、フォレストスパイダー、パラライズビー
金級 マーダーゴブリン、オークジェネラル、ゴブリンキング、ゴブリンウィザード、ゴブリンシューター、サイクロプス、ブラウンベアー、フォレストウルフ、ワイバーン、ランドドラゴン
魔銀級 オークキング、キラーマンティス、ダイアウルフ、土竜、キマイラ
因みに、ワスプは体長1メートル程の蜂の魔物で、それを進化させたパラライズビーは1メートル50程。
尾の先端にある針を用いてワスプは攻撃を、パラライズビーは相手を麻痺状態にするが特徴。
サイクロプスはレッサーオーガから進化した魔物で、1つ目を持つ身長3メートル程の巨人。
ダイアウルフはフォレストウルフが進化した個体。
それまでの緑色から白っぽい体毛へと変わり、体長は2メートル50センチ程に。
キマイラは体長3メートル程の大きさで、獅子の頭部に山羊の胴体、それと毒蛇の尻尾を持つ。
胴体部分には山羊の頭も生えており、魔法攻撃を仕掛けて来る。
そして頭部とは別に胴体と尻尾にある頭にも意志があり、それぞれが違う行動が出来る為、厄介な魔物とされている。
それと、本来であればここに火燐達が倒したワイバーン50体も加算。
しかし凛は報告を受けるや咄嗟に浮かんだ『とある』目的の為、敢えて除外している。
何かの間違いではないかと、2度3度4度と一覧表を見直すワッズ。
その彼が述べた内容は本当なのか、実は大袈裟に数字を増やしているのではないか等の意味で他の職人達はざわついていた。
ガイウスにとってもそれは同じで、生唾を飲み、大量に冷や汗を掻く。
しかしながら、立場上追及しない訳にはいかない。
可能な限り心を鎮め、平坦な声色で凛に尋ねてみる。
「…凛殿。」
「はい?何でしょう?」
「貴殿の空間収納には、その紙に記載されたもの『全て』が収まっているのか?」
出来れば嘘であってくれ。色々な意味で。
その願いは「そうですけど…」と、不思議そうな返事と共に脆くも崩れ去った。
ならばと助けを求めるとの目的で視線の先をゴーガンに変えるも、お手上げとばかりに目を閉じ、首を左右に振るだけ。
ガイウスは色々と諦めざるを得なくなり、嘆息。
しばらく口を真一文字に結んだ後、意を決した表情に。
「…凛殿。恐らくだが、この世界で最も優れた空間収納の使い手は誰かと問われたら、貴殿になるのではないかと私は思う。」
「僕も同じ意見だ。」
「えっ!?そうなんですか?」
「あぁ。俺は昔、王都で冒険者をやっていた。その時に見た空間収納の使い手は、どんなに大きく見積もってもフォレストドラゴン数体分。つまり、この部屋の半分位しかない。」
「そんなに小さいのですか…。」
「貴殿の様子から察するに、ちゃーはん以外の料理も空間収納内に収められているのではないか?」
「そう…ですね。入ってます。」
ガイウスからの問いに、凛は少なくないショックを覚える。
どれだけ空間収納スキル持ちを集めようが、死滅の森に挑んでからそう経たずして空間収納が一杯となるに違いないと考えたからだ。
仮令銀級の魔物だろうがそれは同じ。
むしろ低い階級程群れる傾向にある為、時間短縮がより顕著に表れるのではとも。
そうとは知らないガイウスは体の向きを変え、フォレストドラゴンの胴体部分へと歩み寄る。
そして首元を撫で、
「何よりフォレストドラゴンの斬り口についてだが…俺の経験上。魔法でと言うより、魔力で強化した刃物による切断ではないかと思うんだが…相違ないか?」
と告げ、首から上だけを凛がいる方向へ。
ゴーガンも同意見らしい。
ガイウスから1拍置く形で視点を変え、彼を見据えるのだった。




