49話
凛達はポータルで(カリナが昨日下見に来た際に設置した)ポータルでヴォレス付近に到着後、入口へ向かった。
そして列の最後尾に並んですぐ、美羽から声を掛けられる。
「それにしてもマスター。よくドレスなんて用意出来たねー?」
彼女はそう言って自身の体を見やり、最後はその場でくるっと一回転してみせた。
今日の彼女はツインテールではなくアップにした髪型。
白いドレスを身に纏い、イヤリングやブレスレットを身に付ける等。
いつもの可愛らしさとは異なり、大人っぽい雰囲気を醸し出している。
「私の分まですみません…。」
カリナは案内と護衛を買って出はしたものの、まさか自分までドレスを着る羽目になるとは思っていなかった様だ。
先程から顔を赤くし、いつも以上におとなしい。
しかしそれがかえって健気に見えるらしく、どこの令嬢だとの声があちこちから聞こえて来る程だ。
「今日の為に色々と準備したんだよ。さっき掛けた『換装』もその1つだね。」
換装は既存の自動換装スキルに手を加えて創った魔法の事で、服装だけでなく髪型やアクセサリーを変更したり、新たに加える効果を持つ。
これにより、美羽達は初めてのドレス姿を体験する運びとなり、屋敷を出る前からテンションが少し高めだったりする。
…カリナとは別にもう1人を除いて。
「………。」
「…んだよ。」
膝下までの青いドレスに身を包み、両耳にイヤリングを着けた雫が後ろにいる火燐へ視線をやる。
今の火燐はいつもの無造作な髪型ではなくストレートヘアー、しかも真っ赤なロングドレス姿。
これはこれで似合ってはいるのだが、普段とのギャップが凄まじいからか出発前にほぼ全員から目を見開かれ、雫に散々からかわれた。
「ぶふっ。何度見てもやっぱり変。」
「はっ。ドレス着てるのに色気もクソもねぇガキが何言ってやがる。」
「…!」
あの時の再現とばかりに雫が火燐を笑うも、出発前と違い、今度は火燐から煽られる形となった。
これにカチンと来た雫は火燐の両頬を引っ張り、火燐も負けじと引っ張った事でキャットファイトに発展。
翡翠と楓が慌てて2人を止めに入り、凛と美羽は相変わらず仲良いなぁとほっこりする。
「…良かった。こちらにおいででしたか。」
そこへ、後ろから暁が声を掛けて来た。
彼の後ろに旭も来ており、どちらもいつもの和服ではなくフォーマルな装いとなっている。
「あれ、暁に旭?どうしてここへ?」
「紅葉様から、凛様達だけでは心配との事で向かうよう仰せつかりました。」
「僕達だけではって…紅葉は心配性だなぁ。」
凛は暁の返答に再びほっこりとした様だが、紅葉達は違っていた。
凛がいくらフォーマルな格好をしていようが少女にしか見えず、カリナや美羽達も女性。
周囲へ牽制する意味も込めて男手が必要との判断から、暁達が派遣されたのが真相だったりする。
「はは、そうですね。」
だがわざわざ伝える必要性はないと、流すだけに留めた。
周囲には凛達に声を掛けようと構えていた者が10人以上おり、先手を打たれたと舌打ちする。
「それにしても暁。いつもの服装も勿論だけど、その格好も良く似合ってるね。」
「あ、ありがとうございます…。」
暁は不意打ちとばかりに凛から褒められ、顔を赤くしてそっぽを向く。
すると視線の先で旭がにやにやと笑っており、イラッとして彼の横腹にパンチを入れる。
旭は「理不尽!」と叫びながらその場で踞り、暁はそんな旭を放置して凛と話し始め、そこに美羽も加わった。
そうしている内に(キャットファイトに飽きた)火燐達や復活した旭も混ざっていき、凛達は益々周りから注目を集める様になる。
10分後
凛達は周りから品定めや好奇の視線を浴びつつ、列が3割程進んだ所にいた。
そしてやはりと言うか、彼らの見た目の良さから口説かれたり、強引に連れて行こうとする輩がいたが、全て断るか地に伏した状態となる。
すると、前方から兵士と思われる3人組がやって来た。
「騒ぎがあると聞いたのですが…あれは貴方達が?」
そう言って、先頭に立つ女性兵士は談笑中の凛達に問い掛け、少し先の位置で倒れている男性に視線を向ける。
「あ、はい。勧誘をしつこく行い、最後は襲い掛かって来たのでこちらの2人で対処させて頂きました。」
「成程。すみませんが何か身分を証明出来るものをお持ちではないでしょうか?」
「身分証になるかは分かりませんが…。」
凛はそう言いながら、懐(と見せ掛けて無限収納)から1枚の巻かれた羊皮紙と封筒を取り出し、女性に渡す。
「拝見します。」
開かれた羊皮紙には、要約するとジラルド伯爵が凛の後ろ楯になる旨の記載と捺印がされていた。
つまり、凛の身に何かあれば黙っていない、不祥事が起きたら責任を持つと言う意味に繋がる。
これを読んだ女性は「…え?」と固まったが、もう片方の(商国の者がアダマンタートル購入時に凛へ渡した)封筒を読んで納得の表情となった。
「…失礼しました。貴方様が凛様でお間違いないでしょうか?」
「はい。」
「もしも貴方様がいらっしゃったらオークション会場まで案内をする様にと伺っております。なので宜しければ、私共と一緒に向かっては頂けないでしょうか。」
「? 分かりました。」
凛はいまいち意図が汲めなかったのか首を傾げ、女性は後ろの男性達を走らせ、凛達を案内する。
そして中に入った所で用意された馬車に乗り込み、10分程揺られてオークションが開かれる建物に到着。
中へ入り、そのまま受付を済ませてオークション会場に向かえるかと思いきや、別室へ案内され、そこで待っていた支配人の男性を含めた3人と話をする事に。
小太りで頭の薄い男性こと支配人のダン=ダダン、後ろにいる2人の内の1人は副支配人のマルコ=ボロン。
その隣に立ち、唯一の女性で秘書のアップルとそれぞれ名乗った。
ダンは凛達を見ながら一頻り褒めちぎった後、美羽達の中の誰かをオークションに出してみないかと尋ねる。
凛達は揃って「3人共変わった名前」等と思っていたが、ダンの申し出に凛、美羽、楓を除く全員が不快感を露にするも、凛がやんわりと断るとあっさり引いた。
そして代わりに何か目玉となるものを出品出来ないかとお願いし、凛は最初からこれが狙いかと思いつつ話を進めていった。
午前9時20分過ぎ
打ち合わせを終えた凛達は(ダンの後ろにいた)副支配人の男性連れられる形でオークション会場に入った。
中に入ってからも案内は続けられ、歩きながら「500!」「1000!」「1200!」との声が聞こえ、凛達は不思議そうにしながら最前列へ向かい、促されるまま着席。
副支配人からオークションについての説明が行われた。
曰く、オークション内では単位が異なり、金貨を1、金板は10、白金貨が100、白金板が1000として扱われるとの事。
「8番、ミスリルの槍が1500で落札されました!」
進行役の男性がそう告げると、最後に名乗りを上げた男性に、係員と思われる者から札らしきものを渡された。
今回の場合、白金板1枚と白金貨5枚(日本円で15億相当)での落札となる。
因みに、凛の視界を通してナビが解析した結果、ミスリルの他に銀等が混ざった粗悪品と言うのが分かった。
(確かに、純ミスリル製だとは言ってないもんな。)
凛はそんな事を思いつつ、1人で納得した。
「9番、帝国が誇る名工ドルア氏が造った剣で━━」
それから、武器や防具等の装備品、煌びやかなアクセサリーや魔道具、魔物の素材等が出品されていく。
しかし先程の槍と同様、凛達が普段使用しているものの方が上な上となる為、いずれも凛が名乗りを上げる事はなかった。
それから30分程時間が進み、進行役が別な男性に変わった。
と同時に、がたいの良い男性に鎖で引っ張られる形で1人の少女が姿を現した。
その少女は肩上までの薄い水色の髪、同じ色の兎の耳を生やしている事から兎の獣人なのが窺える。
スタイルの良さが分かる様なドレスを着用し、両手を前にやる形で手枷が、首には隷属の首輪がそれぞれ付けられ、目に涙を溜めた状態で俯いている。
「━━ここからは奴隷となります。21番、兎人族の女性。17歳。犯罪歴はありません。金貨1枚からスタートです!」
「50!」
「60!」
「100!」
「120」
「150!」
「300!」
凛が名乗りを上げると、場は静寂に包まれた。
「350」
「400!」
「1000!」
一拍置いた後、2人の男性が名乗りを上げるも、またもや凛の一声で静かになる。
それが決め手となり、凛が兎人族の少女を落札。
その後も没落した貴族の令嬢や見目の良い女性冒険者、屈強な男性冒険者と言った感じで20人程が出品され、次々に落札していった。
「ここからは、いずれも今回が初出品となる商品ばかりでございます!」
進行役の男性がそう言うと、彼の後ろであるステージの左側から係員の女性4人が現れた。
彼女はそれぞれ、豪華だったり高級感のあるリバーシ、チェス、将棋、トランプを手にしている。
これらは打ち合わせ時に凛が用意し、全てリルアースには存在しないものばかり。
先程の美羽達と同様、客全員が疑問符を浮かべた顔でステージを見る。
「こちらは、左からリバーシ、チェス、将棋、トランプと申しまして、リバーシ、チェス、将棋は2人、トランプは2人から4人で対戦する事を想定された遊戯…つまりお遊びをする為の道具となります。
しかもこれらは全て、あの死滅の森に生える木を加工しておりますので、頑丈さは折り紙付きでございます。」
「嘘を付くな!死滅の森の木は誰も切り落とせない事で有名ではないか!!」
客からの野次に、進行役の男性はその言葉を待ってましたとばかりに満面の笑みとなる。
「そう仰られると思い、この様な催しを用意致しました。」
進行役の言葉を合図に、鍛え抜かれた体の男性が大斧を持った状態で姿を現した。
そして将棋盤を持った女性が床に将棋盤を置き、男性が両手で大斧を持ち、思いっきり振りかぶる。
カーーーー…ンと耳をつんざく様な音が響き渡り、大斧は刃こぼれを起こすも将棋盤は全くの無傷だった。
「…この様に、いかに頑丈かがお分かり頂けたかと思います!遊戯の際は勿論、いざと言う時に備えて近くに置かれるのも有りかも知れませんね!」
進行役の説明に、先程まで然程乗り気でなかった客達も興味が湧いたらしく、会場全体がざわざわとし始める。
「先程も申しましたが、これらは今回が初となります!使い方が分かる説明書をお付けし、各5点ずつの計20点ご用意致しました。それでは、金貨1枚からのスタートです!」
「10!」
「20!」
「100!」
「500!」
「1000!」
「2000!」
『死滅の森に生えた木』を利用しての商品は初と言う事もあり高値で落札、他の19点(トランプは小さい為にやや控えめだったが)も落札された。
圧縮や加工は全て無限収納内で行われ、肝心の木も伐採したものを利用している為に材料費もタダ。
この時点で奴隷達の購入に使った額を差し引いても大幅な黒字となり、凛は複雑な心境を浮かべていた。
「さて、最後に今回の目玉として2品ご用意致しましたが…ご覧の通り、この場に商品がございません。とある理由から、こちらまで運ぶ事が出来なかったからです。」
進行役の言葉により、会場内が沈黙で満たされる。
「ですので、恐れ入りますが建物の外まで足をお運び頂きたく存じます。」
進行役が申し訳なさそうに伝え、客達は一斉に文句や暴言を吐き始める。
「静粛に、皆様静粛に願います。先程も申しました通り、この場へ持ち込まなかったのは理由がございます。ですが、ご覧になれば必ずやご納得頂けると、我々も自信を持ってオススメ出来る商品となっております。」
しかし説明が加えられた事で喧騒はぴたりと止み、半信半疑ながらも1人、また1人と歩き出し、最後に残った凛達も移動を開始する。
その頃、凛達がいる建物の前にて、白い布に覆われた巨大な置物の様なものが2つ鎮座していた。
置物は10メートルの縦長タイプと12メートルの横長タイプ、場所は入口の左側に縦長、右側は横長と言う構図だ。
やがてオークション会場にいた者達、それと凛達も建物の外に出る。
それ確認したダンが係員に指示を出し、勢い良く布が取り払われた。
すると、中からファイアドラゴンとアースドラゴンが姿を現す。
2体は今にでも襲い掛かりそうな剣幕で立っていた為、目の当たりにした見物人達から悲鳴が起きた。
他にも漏らしたり気絶する者まで現れ、辺りが一気に地獄絵図と化す。
「ご安心を!皆様ご安心下さい!こちらのドラゴンはどちらも『剥製』でございます!!」
進行役は剥製の部分を強調し、手袋越しにアースドラゴンの顎を触ってみせ、再び悲鳴が聞こえた。
しかしいくら待っても動く気配はなかった為、少しずつ疑問の声が上がる様に。
「この通り、剥製で出来ておりますので襲い掛かられる心配はありません。こちら落札されたお客様に限り、ご自宅まで配送するサービス付き!屋敷のエントランス、敷地内、庭等。飾るだけで箔が付き、注目される事間違いなしの逸品でございます!」
見物人達は先程までの怖さはどこへやら。
家のどこに飾れば目立つかと妄想したり、子供におねだりされる親もいたりと。
買った後の事ばかりを考えている風に見えた。
「それでは宜しいでしょうか?100からスタート致しす!」
「500!」
「1000!」
「2000!」
「3000!」
「5000!」
「6300!」
「6500!」
「8000!」
8000と言う数字に周辺がざわめき、名乗りを上げた男性はどや顔を浮かべる。
「おおっと!?8000!今回初の8000が出ました!!他に名乗りを上げる方はどなたかいらっしゃいませんか!」
進行役が辺りを見回しながらそう言うも、誰も手を挙げようとする者はいなかった。
そうしている内に時間が過ぎ、ほぼ決まりかと思われた頃。
「9000!」
オークション会場にはいなかった、いかにも成金と言う風貌の男性が名乗りを上げた。
これに8000で入札した男性が憤慨するも、認められずにオークションは続行。
結局、アースドラゴンは12500、ファイアドラゴンは16000で落札。
これにオークション周辺が大いに沸いた。
剥製はそのままアピールも兼ねて飾られる事となり、騒ぎを聞き付けた野次馬達でごった返すのだった。
いつもありがとうございます。
先日お伝えしました通り、11月はお休みにさせて頂きます。
12月の最初の火曜日に投稿後、毎週火曜日と金曜日に更新の予定です。
それではまた^^




