47話
いつもありがとうございます。
つい最近祖母が亡くなったのと、最近はいまいちモチベーションが上がらないので、11月1日に投稿後1ヶ月お休みにしようかと思います。
ダラダラメインで少し修正の割合の予定です。
復帰後は文章を半分位に減らして週2更新に戻そうか検討中です。
立ち上がったルルは身長が130センチ程と、小柄な凛よりも更に背が低かった。
「ドワーフ…!」
「うん?あんた、ドワーフは初めてかい?…ほら、少しだけ耳が尖っているだろ?」
そう言って、ルルは右耳に当たる部分をかき上げながら僅かに顔を傾け、それまで豊かな髪に隠れていた耳を晒した。
これに凛が反応し、先程の不機嫌さはどこに言ったのかとばかりに興奮した様子となる。
「おお…!と言う事は、もしかしてルルさんは鍛冶が得意だったり?」
「…さっき、しがないドワーフだと言ったろう?あれは鍛冶の才能がこれっぽっちもないって意味も込められてるのさ。」
ルルは髪から手を離し、自嘲してみせた。
ルルは兄と妹が1人ずつに両親、そこに祖父が加わった6人家族だ。
祖父は王都で最も有名な鍛冶師、母は鍛冶が性格的に合わないとの理由で冒険者を。
父、兄、妹の3人は祖父の下で鍛冶に関する仕事にそれぞれ就いている。
そしてルルだが、全くと言って良い程に鍛冶の適性がなく、家族の中で最も低い妹にすら劣る始末。
鍛冶にコンプレックスを抱きつつも、せめて何かしらで鍛冶に携わる仕事をしたいとの事で、修理品を届けたり発注を受ける等の外回りの手伝いを行っている。
彼女は祖父に似て少し口が悪い所があるものの、持ち前の明るさや可愛らしさから、ちょっとしたアイドルの様な扱いをされては本人から怒られるまでがデフォルトとなる。
「さて、ちとばかり時間を食っちまったが…まだ仕事中の身でね。急いでサルーンに向かわなきゃいけないんだ。色々と説明してやりたいのは山々だけど、あたいはそろそろお暇させて貰うよ。」
「あ、ちょっと待って下さい。」
ルルは立ち上がり、凛の呼び掛けを無視する形で辺りをキョロキョロして玄関の方へ向かった。
そこでオブジェみたく壁に設置された門に少しだけ視線をやり、土間の部分に置かれた自分のブーツを履いて外に出る。
「なん、だいここは…?あたいはサルーンの近くにいたんじゃなかったのかい?」
ルルは屋敷を囲む高い塀、それと門の先に見える畑や作業する農夫に目を奪われ、そのまま呆然としてしまう。
彼女に追い付いた凛は後ろから話し掛け、ルルは神妙な面持ちで振り返った。
「ここはサルーンから少し南東に進んだ所にはなりますが、死滅の森の中です。僕達はここで森に挑みつつ、農作物を育てる生活を送ってます。」
「死滅の、森…。」
「はい。ただ、サルーンへ移動出来る手段があるにはあります。なので、あちらへ向かいたいと仰るなら━━」
「行く!今すぐあたいをサルーンに連れて行ってくれ!」
「分かりました。」
凛は一緒に来た美羽、そしてルルと共にポータルを通り、サルーンの冒険者ギルドへと向かう。
最初、ルルはおっかなびっくりと言った感じで凛達に付いて行ったが、到着した場所がギルドにある宿直室だと分かるや否や部屋を飛び出した。
2人は少し顔を見合わせてから彼女を追い掛け始め、解体場の入口の扉が開いてる事に気付き、中へ入る。
そこでルルがワッズと話をしている姿を発見し、向こうもこちらが分かったのか、指差したのを合図に2人がやって来た。
「聞いたぜ、凛。ルルを助けてくれたんだってな?」
「あ、はい。お二人は知り合いだったんですね。」
「厳密に言えば王都にいるこいつの爺さん繋がりで、だがな。『ダグウェル武具店』っつー名前で、鍛冶依頼から修理、素材の買取、武器防具の販売まで手広くやってる。俺らもそこで世話になっててな、毎年今頃になると道具の様子を見に…あー!そうだったーーー!!」
ワッズがいきなり叫び声を上げた事でルルが驚き、凛達や他の職人達は不思議そうにする。
「忘れてたぜ…。今回は凛に道具の修理を頼んだんだった。」
「あ、そうでしたね。丁度良いタイミングですし、この場でお渡ししますね。」
そう言って、凛は無限収納から昨晩修理と改修を終えた解体用道具の内の1つを取り出し、ワッズに渡す。
それを見たルルは目を丸くし、勢い良く前に出たかと思うとワッズから道具を引っ掴んだ。
「…やっぱり。思った通りミスリルで出来て…ん?他にも何か混じってる…?」
「あ、芯の部分にアダマンタイトが入ってます。他にも━━。」
「あ、アダマンタイトだってーーー!?」
ルルはまさかこんな所でアダマンタイトを耳にするとは思わず、これでもかと目を見開きながら凄い剣幕で凛に詰め寄った。
それから道具についての追及が始まるのだが、やがてキャパシティーをオーバーしたルルはがくっと床に崩れ落ちた。
ワッズ達は「分かる」と言わんばかりに同情していると、凛が今度は彼らの方へ歩き、懐から小さなナイフを取り出す。
そのナイフは持ち手、刀身、鞘に至るまで、死滅の森に生えた強靭な木を圧縮、精製したものだ。
全体的にしなる程軟らかいにも関わらず、金級までの魔物なら特に何も施さなくても簡単に斬れる切れ味を持つ。
凛は説明しながら全長20センチ程の木製ナイフをぐにぐに動かしたかと思えば、その場で生成した直径1メートル程の岩を真っ二つに斬って見せた。
これにワッズ達やルルは唖然とし、美羽1人だけが感心した様子を浮かべる。
その間に凛は追加で用意した木製ナイフをトレーに乗せ、「解体に役立てて欲しい」と彼らに差し出す。
ワッズ達は若干引きながらナイフを受け取った後、触っている内にテンションが上がったらしく、これから解体予定の魔物の所へ駆け出した。
そして「すげー!」「なんて切れ味だ!」「これ本当に木で出来てんのか?」「解体が楽になる!」等と叫び、そのまま嬉々として解体作業に入り始めた。
10分程が経ち、騒ぎを聞き付けたガイウスとゴーガンが解体場に入り、この頃になってようやく落ち着いて来たルルから事情聴取をする事に。
彼女は2週間位前に王都を出発し、その後10日間は何事もなく旅を続ける事が出来た。
しかし3日前に盗賊に襲われ、大怪我を負った。
しかも先日買ったばかりの食料品は全て奪われ、持っていた荷物は適当に投げられ、或いは切り裂かれるか破られるかして地面にぶちまけられる形となった。
ルルは止めるよう叫ぶも、苛立った盗賊の1人に腹部を蹴り飛ばされ、その勢いのまま木に激突。
彼女は痛みのあまり気を失ってしまう。(この時、盗賊の1人がルルの髪を持ち上げて乱暴を働こうとしたが、別の者に怒られて放置と言う形になった。)
しばらく経って目を覚まし、すぐ目の前の位置にオークと額が燃えている熊がいる事に気付き、飛び退いて距離を取る。
その際、両太ももに痛みを感じて片膝を突くのだが、怪我をしている箇所に包帯が巻かれている事に気付いた。
オーク達は荷物の中にあった応急セットで手当てをしてくれたらしく、ルルは恐る恐るコンタクトを取り始める。
最後まで言葉は通じなかったが、相手に敵意がないと分かり、凛に発見されるまで運んで貰ったと説明する。
《…との事です。》
「やはりな。」
ナビからの報告に、火燐は座りながら溜め息混じりに答えた。
彼女の近くに楓とティンダロスの猟犬達がおり、周辺では盗賊と思われる者達が倒れ伏している。
この盗賊達は凛が楓に依頼して探させた相手だ。
また篝やルルに大怪我を負わせ、ウタル達やルルから食糧を奪った者達でもある。
凛達がいなくなった後、火燐は楓に凛と何を話していたのかを尋ねた。
楓は(仕事を終えた)柴犬タイプのティンダロスの猟犬を可愛がりつつ、ルルに重傷を負わせた盗賊達の追跡、及びウタル達がいた村や篝達を襲った盗賊との関連性を調べたのだと告げる。
調査の結果、村、篝達、ルルを襲った場所に残っていた臭いは全て同じ。
現在、彼らはサルーンから大分離れた北西の位置にて、昼食の真っ最中である事が分かった。
火燐はルルを含めた一連の事件の犯人はこの盗賊だと結論付け、ポータルで移動。
彼らに追及を行い、すぐに戦闘となったが、ものの1分もしない内に終わった。
「何となく予想していたとは言え、胸クソわりぃ話だぜ。」
火燐は近くにいる盗賊の下へ向かい、そう呟きながら襟首を掴む形で男性を持ち上げる。
「ぼ、ぼうぶぶじでぶばばい…。」
「あ?お前らはそう言った奴相手に手を止めたのか?違うだろうが!」
追跡中、無数の斬り傷があったり、性的な乱暴を受けたと見られる死体が複数発見された。
いずれも臭いが残っている事から、彼らが関与しているのはほぼ間違いなく、情状酌量の余地は皆無。
その為、男性はぼこぼことなった状態で涙ながらに訴えるも火燐には全く響かず、反対に殴り飛ばされる羽目に。
「ちっ。このままここにいても時間の無駄だな。楓、障壁と後片付けを頼む。」
「分かりました…。」
直後、火燐達の近くに巨大な火の玉が落ち、草1本すら生えていない更地だけが残された。
午後5時頃
凛は美羽、ガイウス、ゴーガン、ルルの4人でポータルを潜り、屋敷に帰って来た。
事の始まりは凛が今朝ガイウスに渡した茶色い瓶で、実はその中身はウィスキーだったりする。
凛、美羽、ルルが解体場に到着する少し前、ガイウスは珍しいものを自慢する目的でゴーガンの下を訪れ、話をしている内に入っている液体がお酒である事に気付き、その場で飲み干してしまう。
2人はあっという間に楽しみが終わってしまったと嘆き悲しんでいると、部屋にやって来たギルド職員から解体場がうるさいから注意して欲しいと頼まれた。
2人は互いに目配せを行い、凛は今そこにいる可能性が高いとの判断から解体場に急行。
ルルから事情を聞き終えてしばらくした頃、ガイウスは意を決した表情でウィスキーのお代わりが欲しいと凛に告げ、凛は軽く考える素振りの後に屋敷へ招待すると返す。
これに2人は喜び、横で話を聞いていたルルが自分も行きたいと告げ、凛から許可を得て嬉しそうにする。(本当はワッズ達も付いて行きたそうにしていたが、流石にガイウスとゴーガンと一緒は勘弁らしく辞退となった。)
一行は先程解体したばかりのミノタウロス(魔銀級の強さで2足歩行する牛の魔物)の肉を使ったしゃぶしゃぶを、白ご飯とセットで堪能。
食後、缶に入ったビールやプレミアムビール、先程のウィスキーを含めたお酒類も解禁となり、ガイウスやゴーガンを筆頭とした男性陣は大いに盛り上がった。
しかし子供達の教育に良くないとの理由で客間に移動。
そこで酒類だけでなく、水や炭酸水、オレンジジュースと言った割り材や氷を。
それと女性や甘いものが好きな者達用にチューハイやカクテル、おつまみやデザートを準備する。
これには夕食時にビールを1口だけ飲んで渋い顔だった雫も満足らしく、キメ顔でサムズアップを行った。
途中、凛から『丞』の名を貰い、稀に出現する善の心を持ったヴァリアントオークに進化したハイオーク。
同じく『灯』の名を与えられ、爆炎熊に進化した火熊が顔を出し、凛は彼らをガイウス達に紹介した。
それから丞達をもてなすとなり、彼らは一頻り驚いた後、静かに飲む様になる。
少し離れた場所にて、凛が見習いバーテンダーの友人から教えて貰った経験を元に美羽達へレクチャーを。
また別な場所では、火燐がビール、ワイン、ウイスキーやブランデーを一気飲みしては歓声を浴び、どや顔を浮かべる。
これにガイウス、ゴーガン、ルル、それと何故かやる気になった藍火が彼女へ挑むも、藍火は即行で潰れ、ガイウスとゴーガンも1時間程でダウン。
ルルだけが最後まで残り、共に少しペースを落としては語らう様に飲み進めていく。
最終的にルルは複数の空瓶を両腕に抱える形で寝てしまったが、その顔は非常に満足したものだった。
凛達は彼女達をソファーへ運んだり、毛布を掛ける等して1日を終えるのだった。




