46話
いつもありがとうございます。
念話の部分ですが、これからは「『◯◯』」と言った感じにしていこうと思います。
時刻は戻り、午後1時過ぎ
《ご報告です。楓様の眷属達が目標を発見致しました。》
カリナを見送った直後、ナビからその様な報告が届けられた。
凛とナビは楓にある調査を依頼し、その為の手段としてティンダロスの猟犬達を王都方面へと向かわせた。
彼らは地上を走るだけでなく、地中や空間に潜っての高速移動も可能。
また、嗅覚や気配の察知・遮断能力にも優れ、召喚主の楓に準じた強さを持つ。(現在だと魔銀級上位クラス)
その為、凛は早ければ1時間以内、遅くとも午前中には連絡が来るだろうとの見通しを立てていた。
ところが、報告が届けられたのは調査開始から1時間以内でも、午前中でもなく、昼食が終わった後である今だった。
(思ったよりも時間が掛かったな。)
凛はティンダロスの猟犬達ですら対応出来ない、何か不測の事態でも起きたのかと考え始める。
《そこを含め、幾つか問題点が発生しました。》
凛はナビからの話にやはりと思いつつ、不思議そうな表情で尋ねてみる事にした。
「問題点?」
《はい。実は━━》
ナビによると、ティンダロスの猟犬達は北西へ向かいつつ、互いを補う様に3方向へ別れる形で探索を行っていたそうだ。
開始後すぐに負傷していると思われる3名を見付け、その場に1体残す形で捜索を続行。
それから1時間程で目標を発見し、今は地中で様子を見ているとの事。
それと負傷した3名だが、2名は歩ける程度、残る1名は重傷ではあるが、篝やカリナに比べると軽い方だと話す。
「え…依頼の方はまだ分かるとしても、もう片方はもっと早く伝えられた訳でしょ?なのに今頃?しかも篝達より怪我が軽い?ナビ、それ本気で言ってる?」
凛のどこか冷めた物言いに、リビング中の空気が凍った。
ナビはまさか凛からこの様な言い方をされるとは全く思っておらず、二の句が継げない状態。
普段は勝ち気な火燐ですら、引き気味で隣にいる雫と話をする程だ。
そして美羽を含む一部の者達は、初めて凛が怒るのを目の当たりにした事でどうして良いのか分からず、おろおろとするばかりだった。
凛は日本で介護士として働いていた頃、様々な理由で入居、或いは退去した者を見て来た。
それは手続き等で会う関係者達も同じで、好感を持てる人がいれば逆もまた然り。
中にはボロクソに貶したり、命を軽く見る者もいたが、他人がとやかく言うべきではないとしてどうにか堪える事が出来た。
だからこそ自分は家族や友人を大切にし、可能な限り手助けをしていこうと頑張ってきた。
その考えらこちらに来てからも変わらず、最初の頃や初めて家を建てた時にしっかりとナビに伝えたつもりだった。
ところが、ナビは問題点に対し、ティンダロスの猟犬を近くに置いた事でこれ以上の危険性はないと勝手に判断。
仮に危険な状態になったとしても、死にさえしなければ凛が治せるからと後回しにした。
凛はすぐにナビの独断で放置したと気付き、必要性が全くないにも関わらず苦しませ続けたと言う考えに至ったのが許せなかった様だ。
また、彼はあらゆる面で支えてくれているナビに感謝し、信頼している分、ショックが大きかったとも言える。
《申し訳ございません…。》
「…いや、気を配らなかった僕も悪いし、お互い様って事で良いよ。でもこれからは気になる情報を見付け次第、出来るだけ早く知らせて貰えると助かる。」
《畏まりました。仰せのままに。》
「うん、頼むよ。さて、今すぐにでも動けるって人は…。」
凛が後ろを振り向くと、ナビとのやり取りが聞こえたらしく、全員がこちらを見ていた。
その中でも特に、美羽、火燐、雫、翡翠、楓の5人が、連れて行けと言わんばかりの表情を向ける。
美羽達の意を汲んだ凛は後の事を紅葉、暁、イルマに任せ、彼女達と共にポータルを潜った。
「(予想外だったとは言え、さっきは言い過ぎたな。でもこれが続く様なら、何か対策を考えないとな。)」
一行は屋敷から北西へ30キロ程離れた位置に着き、目的となる者達の確認を行った。
その内の1人は小柄な少女で、肩まで伸ばした銀髪を左右で結び、褐色の肌をしていた。
少女は短パンにシャツの組み合わせとラフな格好で、体のあちこちに傷痕があった。
それと関係しているのか、左肘から先が欠け、両太ももに大きな傷がある。
どちらも一応は応急処置がされているものの、巻かれている包帯は血で滲んでいた。
それと関係があるのか彼女の顔は赤く、辛そうに呼吸している。
その少女を抱き抱える者、それとその者の隣を歩く者がいるのだが、どちらも人ではなかった。
何故なら少女を抱えるのはオーク、オークと一緒に歩くのは頭頂部分に火を生やした茶色い熊だったからだ。
片方はハイオーク、もう片方はブラウンベアーが進化した火熊と言い、ハイオークは2メートル、火熊は2メートル50センチ程で金級の強さを持つ。(本来ならハイオークは銀級の強さ)
ハイオークと火熊は全身に傷を負っており、後ろに血溜まりが出来ているにも関わらず、全く気にする素振りを見せていない。
彼らを回復する為、凛は接近しようとする。
しかしある程度近付いた所でハイオークは警戒を露にし、火熊は牙を剥き出しにして唸り声を上げる。
「なんだぁ?この熊野郎、オレ達とやろうってか?」
「ちょっと、喧嘩をしに来たんじゃないでしょ…エリアハイヒール。」
凛はやる気になった火燐を諌めつつ、ハイオーク達を含む周辺一帯にエリアハイヒールを施した。
ハイオーク達は決死の覚悟で凛達に臨むも、受けたのが攻撃ではなく回復魔法。
なのですっかりと毒気を抜かれ、顔を見合せながらきょとんとする。
「いきなり驚かせてごめんね?その子も治療したいんだ。悪いんだけど、ゆっくりと地面に置いて貰えるかな?」
凛は対話スキルを交えて話し、ハイオークはそれに応え、ゆっくりと少女を地面に下ろす。
「大体の傷は今のエリアハイヒールでなくなったみたいだけど、やっぱり肝心な部分は影響がなかったか。篝やカリナの時みたいにギリギリじゃなくて良かった…エクストラヒール。」
凛は少女の前でしゃがみ、彼女にエクストラヒールを掛ける。
すると少女は見る見るうちに元通りとなり、苦悶だった表情も安心したものへと変わる。
ハイオークと火熊はすやすやと眠る少女に目を細め、やがて満足したのかこの場から離れようとする。
「あ、待って!この子をここまで運んでくれた君達にお礼がしたい。良ければ僕達と一緒に来て貰えないかな?」
「「!!」」
ハイオーク達は見逃して貰えるだけでも十分なのに、まさか呼び止められるとは思わなかったらしい。
驚きのあまり、思いっきり後ろを振り返った。
2体は互いにアイコンタクトを送り、倒そうと思えば倒せたのに、わざわざ自分達を回復してくれたのだから悪いようにはしないだろうと判断。
互いに頷いて凛達に歩み寄り、少女を抱き抱えた凛達と共に展開したままのポータルで屋敷に帰った。
屋敷のリビングで残ったメンバーとハイオーク達が対面し、互いに驚いた。
凛はそれを他所にハイオーク達を椅子に座るよう促し、ハイオーク達は戸惑った様子を見せる。
だが結局は促されるまま椅子に座り、食事を目の前に出された事で目を丸くする。
彼らはしばらく我慢していたが、食欲には勝てなかったらしい。
料理の臭いで涎は垂れ、どちらからともなくお腹の音が鳴った。
そこで笑いが起き、ハイオーク達はいきなり笑われた事で体をビクッと震わせる。
しかし笑顔の凛から食べて良いと言われ、それから10分程貪りながら食べ進めていった。
食後、凛はハイオーク達と互いに自己紹介を行った。
紹介が一通り済み、改めて少女との経緯を聞こうとするも、彼らはドラゴンが人の姿をしているのに驚いたらしく、反対に向こうから質問攻めに遭った。
凛は人化スキルの説明を行い、ハイオーク達に使って良いかを尋ねると、まずハイオークが頷いた。
続けて、ハイオークが良いならと火熊も了承の意を示し、凛は2体に人化スキルを施す。
凛は居住まいを正し、改めて詳細を尋ねる。
ハイオーク曰く、以前はオークジェネラル率いる集団と行動を共にしていたそうだ。
オークは雄の生き物は殺し、雌…特に人かそれに近い生き物は犯し、孕ませる魔物。
それはオークジェネラルを始めとする、他のオーク達も同じだった。
ところが自分は変わり者なのか、雌の生き物を見ても興奮する事は一切なく、むしろそう言った行為に及ぶ仲間達を見て嫌悪感を抱く程だった。
だが当時は今のハイオークではなく、ただのオーク。
集団内での地位も低く、冒険者や一般人が襲われるのを黙って見る事しか出来なかった。
彼は人型の相手には消極的だが、それが魔物に変わると性格が変わった様に奮闘し、ニ月程前に今のハイオークへ進化。
そこから更に研鑽を積み、今ではオークジェネラルよりも少し劣る位の強さとなった。
そして1月前、3人組の男女を見付け、そのまま戦闘となった。
しかしその男女は銀級と銀級上位の組み合わせの冒険者だったらしく、オーク達は次々に蹴散らされていった。
分が悪くなったと判断したオークジェネラルは、自分達を残して逃げようとするも、冒険者達に先回りされる。
逃げ道を塞がれ、死にもの狂いで戦った結果、自らもかなりのダメージを負ったものの、冒険者達を弱らせる事が出来た。
ハイオークは得意げになっているオークジェネラルを、持っているブロードソードで後ろから突き、残りのハイオークとオーク達を斬り伏せて倒した。
冒険者達はまさかの仲間割れに呆然としていたが、ハイオークは何も言わずその場を離れた。
それから旅をする様になり、途中で当時ブラウンベアーだった火熊を助け、彼女と行動を共にしている所で少女を見付け、保護したとの事。
「我々はあの少女が指し示す方向へ向かい、いずれ別れるつもりでいた。」
「ここまでに何回か(冒険者達に)挑まれたし、送り届ける前に死んでたかも知れないけど。」
そう話すのは、人化スキルで人間の姿となったハイオークと火熊だ。
人間となったハイオークは身長190センチ程、がたいの良い体格、茶髪の刈り上げの髪型をした壮年の男性へと、
火熊は身長170センチ位、引き締まった体、茶色7・赤3の割合で分かれたショートヘアーをした20代半ば位の女性へとそれぞれ変化。
現在ローブ姿の彼らは、挑んで来た冒険者達に怪我を負わせはしたものの、命までは取らなかったと話す。
「ん…。」
そこへ、それまでソファーで休ませていた少女が目を覚まし、寝返りを打って凛達の方を見やる。
「…ん?」
そして何度かの瞬きの後、勢い良く上体を起こした。
「…誰?」
「まぁ、分からずとも無理はない。貴殿を運んでいたオークと言えば分かるだろうか?」
「オーク?は?え?全然見た目が違うじゃない…ん?左手が治ってる!?それに足も!!」
少女は無意識に男性を左手で指差した所で硬直し、左手、両太ももの順番で視線を送り、何やら1人で騒ぎ始めた。
これに火燐が「1人で賑やかな奴…」と漏らし、そんな彼女を他所に赤と茶色の髪の女性が口を開く。
「人間の見た目に変えて貰ったから。因みに、私はそのオークの隣にいた熊。」
「熊ぁ!?ってかあんた、雌だったのかい!」
「…彼みたく強いオスがいる。なら、それに従うメスがいても不思議じゃないと思うのだけど?」
「確かに…。あんたの言う通り…そうだ、2人のおかげであたいは死なずに済んだんだった。改めて礼を言わせて貰うよ、ありがとう。」
少女がそう言うと、男性と女性は頷いて応える。
「ところで、ここは一体どこなんだい?それと怪我を治してくれたのは…。」
「僕ですね。それと、ここは僕の屋敷になります。」
「そうだったのかい。色々とお世話になったみたいですまないね。あたいはルル、ただのしがないドワーフさ。」
少女ことルルは凛に軽く頭を下げ、肩を竦めながらそう告げるのだった。




