3話
シロとクロが騒ぎ始めた頃。
ベージュに近い、白の煉瓦が壁面と天井にビッシリと組まれた、50メートル四方の部屋。
その一角に凛は転移していた。
部屋の真ん中には8角形の机。
同じ面数の椅子が設置され、それらを囲う様にして赤い絨毯が敷かれている。
壁側には、立派な台に加え調度品らしきものがチラホラ。
そんな彼の目の前で立つ形で待っていたのは、1人の老人男性だった。
男性は大体70歳前後の見た目。
身長が160センチ程で、フードを下ろした状態の紫色のローブを着用。
真っ白な髪を腰まで伸ばし、好好爺然とした笑みを浮かべている。
「ほっほっほっ。凛様、よく来たのぉ。」
サンタ◯ロースを思わせる、長い顎髭を左手で撫でた男性が口を開く。
朗らかな表情、親しみの込もった声色に凛は優しそうな人だと安心。
お辞儀で以て応えた。
「初めまして。僕の名前をご存知…と言う事は、貴方がシロから説明を任された方で合ってますでしょうか?」
「左様じゃ。」
「それと、ここは…?(何だか、ドラ◯エとかで出る様な城、更に言えば会議室みたいな造りにも見えるけど…。)」
老人に尋ねつつ、凛は転移された室内を軽く見回してみる。
彼的に━━━先程の神界もそうだが━━━ここは如何にもファンタジーっぽい場所。
不安と興奮が綯い交ぜになり、色んな意味で落ち着かないのだろう。
「儂の名はマクスウェル。精霊達の纏め役…と言ったところじゃろうか。ここも神界の1つではあるのじゃが…まぁ、儂ら精霊が話し合いをする為の部屋…とでも思ってくれれば良いぞい。」
凛達が現在いる部屋も神界らしい。
それとマクスウェルは見た目こそこんな感じだが、精霊達を統べる…つまり王の立場にある。
彼を起点に、選ばれた精霊だけがこの場所に入る事を許可。
ここでたまに集まっては報告を行い、話し合いする場となっている。
その選ばれた精霊とは、炎の大精霊イフリート。
水の大精霊ウンディーネ。
風の大精霊シルフ。
土の大精霊ノームの4体。
『四大精霊』とも呼ばれ、彼らの下に数多の高位精霊(別名中精霊)や低位精霊(別名小精霊)がいる。
「そして儂がここにいる理由じゃが…先程申された通り、白神様から説明をする様にと仰せつかっての。其方が来るのを待っておったと言う訳じゃ。」
「白神…様?」
凛はマクスウェルの口から発せられた、『精霊』と言う単語に興味津々。
しかしそれ以上に、精霊を纏める立場であると語るマクスウェルより白神の方が偉い。
事前に白神から聞いていたとは言え、見た目的に逆のポジションなんじゃないかな?
との考えが頭を過った瞬間だった。
目をパチクリとさせながら驚く凛の反応が面白かったのだろう。
苦笑いから朗らかな笑みに戻ったマクスウェルが再び説明に入る。
「白神様は儂の上司に当たるお方でな。他にも、同じお立場ながら少々引っ込み思案で、あまりお姿を現したがらない黒神様と言う方もいらっしゃるぞい。」
(そっか。シロとは別に、黒神様ってのもいたんだ。引っ込み思案って事は、恥ずかしがり屋さんなのかな?)
「白神様は面倒くさがり屋…ゴホン、お忙しいお方での。儂が代わりに━━━」
説明しに参った次第じゃ。
そう告げようとするマクスウェルより早く届けられる、女性の声。
「ごめんなさいウェル爺。凛ちゃんへの説明は私がするわ。」
(? 凛…ちゃん?もしかして…。)
凛はその声。
その呼び方に聞き覚えがあり、信じられない表情で声のする方向━━━彼から見て右側を向く。
「おぉ…創造神様…!」
マクスウェルはこちらへ歩いて来る女性を目の当たりにし、心から安堵した様相に。
「里香お姉ちゃん!?」
対する凛。
ある意味予想通りとも言える人物の出現に、驚きを露にする。
「凛ちゃん、久しぶり!!」
こちらに向かって来る女性…里香は凛の声が聞こえるなり駆け出し、彼を抱擁。
会えて嬉しいは嬉しいが、一刻も早く姉から詳しい話を聞きたい。
その思いから、凛は彼女から離れようとする。
しかし自身を抱き締める手が震えている事が分かり、ひとまず里香が落ち着くまで待とうと判断。
挙げた両手を下ろし、体全体の力も抜いた。
「あ…あれ?どうして…。」
すると、これまで累積した苦しみ、悲しみが一気に溢れ出てしまったのだろう。
自分でも気付かない内に涙が流れ、一向に止まる気配を見せないまま時間だけが過ぎる。
約1分後。
少し落ち着いた里香が、凛と少し距離を置く。
その目にはうっすらと涙が浮かび、凛も似たような感じ。
それが通じ合ったのか、互いに涙目のままふふっと笑う。
「お姉ちゃんがいきなりいなくなって、皆ビックリしたんだよ?あれから3年、僕達はずっとお姉ちゃんを探し回った。
何の手掛かりも見付からなくて不思議に思ってたんだけど…今になってようやく分かった。この世界に渡ってた、なんて。そんなの…誰も予想出来ないよ…。」
凛は昔からよく3人の姉に誂われ、着せ替え人形みたいな扱いを受けていた。
中学・高校と上がるにつれてその頻度が上がり、当時はかなり困ったものだが…今となっては良い思い出。
何故今はかと言うと、彼の目の前にいる3歳上の姉。
八月朔日家3女である里香が突如行方不明になったからだ。
凛や両親、彼女以外の2人の姉。
他にも知人や友人等を伝い、里香の行方を必死に捜索。
つい数日前に丸3年を迎えた現在でも、失踪した原因や行き先は疎か、何の手掛かりすら掴めずにいた。
凛達は顔を合わせる度に笑顔を浮かべ、どうにか励まし合ったものの…里香がいなくなってから3年、3年だ。
見付かる可能性は日を追う毎に減り、しかも周辺一帯は粗方探し尽くしたと来た。
知り合いや友人は、里香の生存を完全に絶望視。
ただ八月朔日家は違い、彼女はきっと生きているに違いないとの想いから、捜査を続行。
周りの制止を振り切り、かなり限界に近いところまで追い詰められていたとの状況だ。
「………。」
「父さんや母さん、それに他のお姉ちゃん達も、最近は全然元気がなくてさ。見てて辛かったよ。まぁ、それは僕も同じなんだけど…。」
「………。」
「でも皆『それでも』なんて言って、諦めようとはしないんだ。誰1人としてね。おかげで僕も救われた部分は大きいし、僕なりに支えたつもり…取り敢えずこっちはこんな感じかな。」
悲しみ、困った笑顔を交えた凛が説明を終える。
これに里香は居た堪れなくなり、「本当にごめんなさい…」と深く謝罪。。
「皆には申し訳ない事をしたと思っているわ。」
続けて、やや申し訳なさそうに
「言い訳になっちゃうんだけど、私、一応この世界の創造神をやってるの…。」
と告げる。
「マクスウェル様もそう呼んでたけど創造…神?神様って事?」
「そう、その中でも1番上の最高神って立ち位置でね。それで、向こうの世界で3年前。こちらの世界で言うところの凡そ1500年前にね、この世界全体を巻き込む大きな戦いがあったの。
皆の協力のおかげでどうにか勝つ事は出来たのだけど、被害も大きくて…そこから復興等を経て今に至るってところかしら。」
「1500年…!凄い数字だね。」
途轍もない年数に凛が目を丸くし、その反応に里香がクスッと笑みを零す。
「ええ、そうね。以前は違う世界の名前だったんだけど、新たにやり直そうって事で、名前を『リルアース』に変えたの。
ついでに、向こうにある食べ物とか文化とか。こちらでも広げてみようとはしたのだけど…全くって言って良い程結果に結び付いてないのよねぇ。あくまで可能性だけど、私が少ーしだけ家事が苦手なのが関係して…いや、ないわね。」
「そこ、断言するところなんだ。」
苦笑いの凛に、里香は得意気な顔付きで「当然よ」と返す。
「それにしても、地球のものをこっちにって…あ、そうだ。お姉ちゃん、どうして世界をリルアースって名前にしたの?」
「あぁそれ?それはね…。」
「聞いちゃう?聞いちゃうのね?」と言わんばかりに表情を変え、少し凛から距離を取る里香。
居住まいを正し、厳かな態度で『ある人物』を呼ぶ。
「瑠璃ちゃん、いらっしゃい。」
「…はい。」
どこから声が?
なんて凛が思った直後、里香の隣に突如1人の少女が出現。
その少女は顔、背丈共に凛と全く同じ。
ほぼほぼそう断言出来る位、そっくりな見た目をしていた。
違いを述べるとすれば、(凛と同じ)艶のある黒髪を腰まで伸ばし、ミニスカートタイプのメイド服を着用している点だろうか。
そして何より、メイド服から溢れんばかりに主張する、女性としての象徴…所謂ロリ巨乳の持ち主でもあった。
その幼い容姿にはとても似つかわしくない、凄まじいギャップとも言えるだろう。
「紹介するわね。この子は瑠璃ちゃん。私の眷属よ。」
「凛様、初めまして。瑠璃と申します。以後お見知りおきを…。」
里香がドヤ顔で瑠璃を紹介する傍ら。
女性版凛こと瑠璃。
彼女が澄まし顔で丁寧に、且つ深々と頭を下げるのだった。
本文に載せてはいませんが、里香と凛の父 藍 母 祭(※まつりではありません)となっております。
詳細については、ep266 クリスマス特別番外編5thにて




