294話
「よーし!皆の者ー、出陣じゃー!…なんちて。」
話は戻…らない上、凛ではなく翡翠が先頭に立って導く。
メンバーは金花、銀花、棗、樹、柊に彼女を含めた6人。
意気揚々とオーバ山内部へ入り、すぐ後ろにいる金花と銀花がクスクス。
棗が呆れ、樹と柊は軽く微笑むだけで誰も突っ込まないとの構図だ。
凛の魔法1発で取り敢えずは片が付き、後遺症や失踪者の有無の確認に移ったのがつい先程。
「翡翠。ここは僕達がやっておくからさ、金花、銀花、棗、樹、柊とでオーバ山内部をお願いして良い?」
「残された人達の救助だね?分かった!皆、すぐに向かうよ!」
「「うん…!」」
「分かったわ。」
「「急ぎ、参りましょう。」」
「またねお兄ちゃん!」
凛は班を2つに分ける事を決め、指示を受けた翡翠達が早速行動を開始。
残った凛、翠、梓、ルル、丞、アレックス、メルローズ、ラニ達、フラム達は事態の収束を図るべく、近い者から順に声を掛ける。
中へ入った翡翠達が道なりに1キロ程真っ直ぐ歩くと、採掘を行うとの目的の為であろう。
奥行き数百メートルはある、かなり広い空間に出た。
そこでは、作業員と思しき者達や兵達VS魔物達による戦闘の真っ最中。
互いに損傷を受けて、与えての場面が繰り広げられている。
ただ、作業員や兵側が劣勢。
数が限られるのに対し、魔物達は採掘現場の左奥からやや右にある、高さ8メートル程の大きな穴。
そこから次々に応援がやって来ているからだ。
幸い、凛の回復魔法で持ち直せたみたいだが、時間の問題。
凡そ3桁いくかいかないかの数の魔物の亡骸はあるものの、肉体的だけでなく精神的にも疲労の色が濃い様に見える。
そんな作業員や兵達の相手となる魔物。
銅〜銀級の強さで、数もそこまで多くなかったのは崩落が起きるまでの話。
潰されるか巻き添えを喰らうか捕食されるかで悉くが潰え、今は金級が主体。
ランドドラゴンに、体長5メートル程の大きさで地上に根を這わせて移動するラージディオネアマスキプラ。
同じ位の背丈のツリードラゴンが存在。
ラージディオネアマスキプラは頭?顔?らしき部位が複数あり、作業員達を補食する為に腕の様な蔓を伸ばす。
ブロッコリーの茎部分をかなり長く伸ばした風に見えなくもないツリードラゴンは体をしならせる、或いはヒュドラを連想させる根を向かわせての攻撃を行っていた。
それと、人間と同じ位か少し小さな個体として。
ラージディオネアマスキプラと同じ銅級のイービルウィードながら、別な派生へと向かったイービルバターカップやイービルミモザ、イービルウルフズベインが。
他にも、ツリードラゴンと元は同じハイトレントから、異なる進化先となったフルドラ。
ついでにロックスライムやストロングアシッドスライム、ヴィルレントスライムの姿もちらほら見えた。
イービルバターカップやイービルミモザ、イービルウルフズベインはいずれも黄、薄桃、菫の髪色をした少女みたいな容貌。
及び、頭や手足に花や蔓等、植物の一部を模したものを生やすと言った特徴を持つ。
イービルバターカップは腕の様に伸びた先にある葉っぱから毒性を凝縮した液体を飛ばし、当たった者に麻痺を引き起こす。
イービルミモザは額から上にある花から花粉に近い物質を飛ばし、深い眠りに誘う。
ウルフズベインは腕を思わせる蔓の先にあるギザギザ状の葉っぱで傷を負わせ、毒状態にさせる行動を取っていた。
メルローズの部下…オーバ山を取り仕切る代表の指示で、内部にいる200人程の私兵や精鋭のおかげでどうにか戦えてはいるも、数の暴力には敵わない。
1人、又1人と倒れ、倒し切るが先か全滅が先かとの状況。
翡翠達が来た時が正にそれで、戦闘不能へ陥っていたのは主に非戦闘員である罪人━━━ではなく、むしろ逆。
腕に覚えがとの割合は低く、ほとんどがガリガリか肥え太った体格…要は戦力外。
彼らが中心となってイービルバターカップ達の麻痺等で弱り、標的と化したところを作業員達や私兵達が庇う。
なので、被害状況で言えば戦闘員の方がダメージを負い、軽く二桁越えの者がダウン。
今も、壁の傍で踞る罪人を兵が叱咤、しかし動かない。
再び促すかどうか決め倦ねる内に攻撃を喰らってしまう。
罪人の傍へ兵が吹き飛ばされ、悲鳴が上がったと同時。
翡翠達が顔を覗かせた。
「危なかったー!結構ギリギリの状態だけど、今から回復を行えばまだ間に合うはず!金花ちゃんと銀花ちゃんは怪我をした人達の治療をお願いね。」
「「分かった…!」」
「棗ちゃん、樹くん、柊くんはあたしと魔物退治だよっ!」
「任せて頂戴!」
「「分かりました。」」
翡翠の指示に金花達が返事し、それぞれが与えられた役目を果たす。
ザンッ
「はぁ…はぁ…んぐっ、全く終わる気がしねぇ。痛っ、俺らがやられるのも時間の問題か…。」
イービルウルフズベインを斬り伏せた1人の兵士が、酷く疲れた顔で右上腕部分を左手で撫でる。
ストロングアシッドスライムの酸が当たり、火傷みたいな状態から長時間の戦闘は困難との判断だ。
突如奇跡が訪れ、これで立て直せると勇むもわずか数分の短い間。
出来ればもう1度位は…と願いつつ、そう何回も起きないから奇跡なのだと虚しさを覚え、諦め始めたところで後ろから「すみませーん!」と(翡翠の)声が聞こえたものだから驚きを露に。
「後の魔物達はあたし達が引き継ぎます!危険ですから、貴方達は後ろに下がってて下さい!」
引き継ぎます、の部分で翡翠の後ろに迫るラージディオネアマスキプラを樹が蹴り飛ばしたのはさて置き。
翡翠が代表で男性兵と話し、何回かの瞬きの後に乾いた笑みで以て迎えられた。
「俺達が苦労する相手によくもまぁ…つか、あんた達こそこいつらの危険性が分かって━━━」
「2人は話をしているの、邪魔しないで頂戴。」
今度はフルドラが彼女へ近付き、地面から蔓を生やした棗がフルドラを横へ真っ二つに。
「仲間が騒がしくてごめんなさい!それで、何か言い掛けませんでした?」
「え?(騒がしいって意味では君も同類なんだが…にしても物凄く綺麗な子だな、っていかんいかん)…いや、危ないのは君達も一緒ではと思ってな。」
咳払い+ちょっとした下心から少々キザの入った男性の物言いに、翡翠は満面の笑みで応える。
「あたし達なら大丈夫です!さぁ早く避難…じゃなかった。他の皆さんが外で待ってます!簡単な治療でしたら今すぐ出来ますので、済んでからでも!それじゃ!」
「あ、ああ。分かった…。(そう言や、簡単に魔物を両断したが…あれは蔓か?それにいきなり弓を出したかと思えば、ウインドアロー?なんと器用な…。)」
自らの言い分だけ伝えた翡翠。
跳躍と共にフェイルノートを無限収納から取り出し、反対の手で生成したウインドアローで参戦。
(!…いたた。安心したら急に左腕が…仕方ない、お言葉に甘えさせて貰うとしよう。)
少しの間戦闘を眺め、忘れかけていた炎症での疼痛に苛まれる男性。
堪らず左腕を押さえ、治療しに金花達の元へ。
そこから20分程時間を掛け、魔物達を一掃した翡翠達。
もっと早く終わらせようと思えば終わらせられたのだが、周りからの視線が。
何より人命救助を優先とし、魔物ではなく人に意識を向け、何かあれば動ける腹積もりでいた。
最後に敵がいないのを確かめ、入口…ではなく、奥側へ進む翡翠達4名。
更に30分以上を費やし、(今度は割と遠慮なしで)魔物達を片付けて戻る。
作業を終えた翡翠達は、金花や銀花と合流。
2人は兵や作業員や罪人の守り、及び薬液精製での治療や魔法による回復。
最後に移動をサポートし、護衛も兼ねて外へ。
一段落つき、翡翠達よりほんの1、2分早く大広間へ赴いた形だ。
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます。もしも貴方方がいらっしゃらなかったら、何名の命が失われた事か…その中にはベテランの者もおりましたので、本当に助かりました。」
「いえいえ、間に合って良かったです。」
一先ず安全を確保した翡翠達が外へ出て目にしたもの。
それは代表が頻りに頭を下げ、凛が応対するとの光景だった。
「あ、渡すのを忘れてました。こちら、皇帝陛下からです。」
「陛下から…?…!失礼しました!貴方方がオーバ山を…でしたら、我々から何も言う事はございません!」
凛が思い出した様にして懐(実際は無限収納)から封書を取り出し、代表へ手渡した結果がコレ。
「そ、そうなんですね…。(ゼノン様、手紙に一体何を書いたんだろう…。)」
益々恐縮する代表に、凛も凛で困惑から来る微苦笑へ。
封書の中身を読んでいない為に凛は分からなかったが、渡した人物は自分が足元にも及ばない程に偉く、強い事。
魔物含め、オーバ山が抱える問題を彼らが処理してくれる事。
決して失礼がない様にとの旨が記載されていた。
「たっだいまー!」
凛が若干引き、代表もひたすら謙る事しばし。
金花達5人を連れ、翡翠がオーバ山から帰還するのだった。




