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ゆるふわふぁんたじあ(改訂版)  作者: 天空桜
王国の街サルーンとの交流
27/262

24話

今回は少し短めです。

「そうか…ならば問おう。力が欲しいか?」


凛の声は普段高めだが、今までに聞いた事がない程に低く、しかも内容が少々()()なものだった。


「ぶふっ!」


その為、美羽は凛の行動が予想外のものと感じ取り、耐え切れなくなった様だ。

勢い良く顔を右に向け、思いっきり吹き出してしまう。


「力…っすか。さっきは付いて行く…なんて言ったっすが、実は自分が強くなる道のり(ビジョン)が見えなかったりするんすよね…。」


しかし、女性はそんな美羽の状態に気付いておらず、左肘を右手でぎゅっと握り、困った表情を浮かべていた。


「あの…美羽様。お体が優れないのですか?」


その頃、美羽はと言うと、紅葉から苦しみ始めたと勘違いされ、心配そうに声を掛けられている所だった。


「ごめ…!はー、うん。大丈…。」


美羽は小刻みに体を震わせ、気分を落ち着かせる為に空を見上げた後、笑顔で返事をしようとする。


「…もう一度問おう。力が…欲しいか?」


「…!」


しかしその前に、凛が女性へ向けて言い放った事で我慢出来なくなったらしい。

下を向き、どこか苦しそうにお腹を両手で抱え、どこかへ移動し始めた。


「美羽様…?」


紅葉はやはり問題があるのではと思い、そんな美羽の後ろを心配そうな様子で付いて行く。




「…欲しいっす。」


女性はぽつりと呟き、


「自分は…自分は!もう誰かに馬鹿にされたり、怯えるなんてのはもう嫌なんす!力を得る為なら、何だろうがやってやるっすよ!!」


顔を上げ、強い意志を込めた瞳で凛を見た。

そして右手で握り拳を作り、左手で前を振り払う仕草を取る。


「よくぞ言った!ならばくれてやろ…。」


凛は両手を掲げ、尊大な口調で話そうとする。


「あーーーっはっはっはっはっ!!」


しかしその前に、美羽の盛大な笑い声によってかき消されてしまう。

これに、凛は複雑な表情で「う"っ」と唸り声を上げる。


「…美羽ーっ!ちょっと笑い過ぎー!!これでも僕は本気でやってたんだよ!!」


凛は美羽がいるであろう方向を向き、思いっきり突っ込みを入れる。


すると、美羽が笑いながら木をバシバシと叩く様子が見で取れた。

そんな美羽の隣には紅葉が立っており、心配そうな様子で自身の右手を美羽の背中に添えている。




それからしばらく経ち、美羽は一頻(ひとしき)り笑った事で満足した様だ。

左手で両目の端に溜まった涙を拭いつつ、紅葉と共に戻って来た。


「はー…ごめんごめん。マスターがあまりにも可笑(おか)しくて、我慢どころじゃなかったんだよ。」


「だからってさぁ…。」


凛は美羽に話の腰を折られた事で不満を露にするも、自分でも悪ノリが過ぎたと思った様だ。


「はぁ…もう良いよ。調子に乗った僕も悪かったし…。」


嘆息し、諦めた様子で女性の方を向く。


すると、女性は鳩が豆鉄砲を食ったとでも言おうか、事態に付いていけず、きょとんとした顔を浮かべていた。


「あ、ごめん。驚かせちゃったね。」


「いえ、自分は大丈夫っす。さっきのは…。」


「うん。君を強くすると言うのは本当だから安心して。ただよく考えたら、皆に紹介してからの方が良いんじゃないかって思えて来たんだよね…。」


「美羽様と紅葉様以外にもお仲間がいるんすね。なんか色々と申し訳ないっす…。」


「いや、僕の方こそ。さっきの(魔王プレイ)は自分でも思っていた以上に入り込んでしまってさ。あのままだと、多分勢いで名付けまでして…。」


凛と女性は互いに、やや申し訳なさそうにする。


「名付け!?自分、名前を与(ネームドモン)えて貰える(スターになれる)んっすか!?」


しかし女性は名付けと聞いて一気に興奮したらしく、凛のすぐ目の前の位置にまで身を乗り出した。


女性の目は見開かれており、鼻息も荒い事から、凛は慌てて肩に両手をやる形で女性を押し退ける。


「ちょっ、近い!近いよ!」


「あ、ごめんなさいっす。嬉しくてつい…。」


女性は恥ずかしがる素振りを見せつつ、凛と距離を置いた。


「(あ、恥ずかしがるポイントってそこなんだ。)」


その間、凛はそんな事を思いながら女性を見る。


因みに、美羽と紅葉はと言うと、キスをしそうな位に近い距離にいた凛達を見て、両手を口元にやる等しながら驚いていた。

だが今は落ち着き、共に苦笑いを浮かべている。




「と言う訳で、名付けは家に帰ってからだね。」


「そう…っすか…。」


凛が説明すると、女性はあからさまにがっかりした表情となった。


どうやら、女性はこれまでの境遇から、名付けに対する想いが人一倍強い様だ。


「…?やっぱり今から…。」


凛はそんな女性の(こいねが)う様子を感じ取ったらしく、『この場で名付けを行うか』との提案を持ち掛けようとする。


「あ、いえ。大丈夫っす!」


女性はこれを断り、誤魔化すようにして移動を始める。


しかし、女性は人間の姿になって浅く、まだ1人で上手く歩く事(二足歩行)が出来ないでいる。

その為、自転車の補助輪的な役割で、誰かしらが手を繋ぐ必要があった。


「いやー、主様から名前が貰えるなんて楽しみ…あっ!」


「「「…あ。」」」


加えて、初めての早歩きと言う事もあり、女性はすぐにバランスを崩してしまう。

凛達は揃って呟き、女性は前方へ盛大に倒れこんだ。


しかし、彼女は曲がりなりにもドラゴン。


顔や体のあちこちに汚れが付いているものの、体自体は無傷だった。


「えへへ、失敗しちゃったっす。」


女性は正座の状態で起き上がった後、恥ずかしそうに右手を後頭部にやる。




その後、美羽と紅葉が女性の元へ向かい、それぞれ彼女の手を取って立たせた。


凛はハンカチの様な物を無限収納から取り出し、女性の顔を拭う。

美羽達は女性の周りを移動し、体に付いた汚れ等を払い落とした。


作業を終え、凛が気を付けて歩く様にと告げ、美羽と紅葉が同意する形で話を進める。

女性は相槌を打つ一方で、上手く誤魔化せて良かったと安堵したりする。


そして再び帰り始めるのだが、凛達は女性が歩ける練習と手助けをしながら進む事にした様だ。

凛と美羽が女性の腕にそれぞれ手を添え、紅葉が女性の後ろに立つと言う配置となる。


女性はよたよた歩きで何度も危ない場面に遭遇し、その度に凛達がフォローして難を逃れては再び歩き出すをひたすら繰り返した。




凛達がサルーンを出てから30分後、一行はようやく屋敷に辿り着いた。


「ただいまー。」


凛が先頭で屋敷に入り、玄関で声を上げると、リビングから火燐がやって来た。


「おう凛お帰り…って誰だそいつ?」


「事情が出来て人間の姿になって貰ったんだけど、この姿になる前はワイバーンだったんだ。僕達の新しい仲間だよ。」


「宜しくお願いするっす。」


火燐は女性の方に視線をやると、凛は隣に立った女性を左手で指し示しながら紹介し、女性は頭を下げる。


「ふーん、宜しく。つか凛、人間の姿に…ってお前。また何かやらかしたのか?」


「僕じゃなくてナビなんだよね…まぁ良いか。火燐達は()()()()戦ったから分かると思うけど、ワイバーンって炎属性でしょ?だからこの子は火燐の下に付いて貰おうと思ってね。」


「んだよ、折角驚かせようと思って来たのに…つまんねぇ。」


「え?ここにも同胞(どうほう)達来たんすか?」


「あぁ、数だけはやたら多くて面倒だったがな。」


「数だけはって…。自分達はそこまで多くなかったっすし、別な集落っすかねぇ。」


「つってもな、ワイバーンの集落なんてのは興味ねぇし。それに、向かって来るんであれば叩き潰すまでだ。」


「お、おぅ…。何て言うか、凄そうなお方っすね…。」


他人事(ひとごと)みたいに話しているけど、これから大体の事は彼女から教えて貰う事になるんだよ?」


「えぇ…?」


「あ?何だ?オレじゃ不服ってか?」


火燐はずっとつまらなさそうにしていたものの、女性からの言葉で不満を露にする。


「と、とんでもないっす…。(ちょ、ちょっと。めちゃくちゃ怖いんすけど…)」


女性は女性で、火燐から凄まれた事で怯えており、助けを求めるようにして凛の方向を向く。


しかし凛は火燐と楽しげに話をしており、先程のワイバーンについて盛り上がっていた。


「(あ、あれぇー?この火燐って方、主様と話してる時は楽しそうっす。どっちが本当なんすか?)」


女性はそんな2人を見て混乱しており、美羽と紅葉から笑われている事に気付かなかったりする。




それから数分後、凛ははっとなった表情で話を切り出した。


「…おっと。ここでいつまでも立ち話もなんだね。いつの間にか雫も覗いているし、ひとまず皆でリビングに向かおっか。」


そう言って、凛はドアの隙間からこちらの様子を窺う雫に視線を向ける。

雫はいつも以上にじと目となっていたが、凛からの視線を受け、中に戻って行った。


「そうだな。」


「はーい。」

「はい。」

「はいっす。」


「あ、でも君はお風呂が先だね。美羽、悪いけどお願いしても良い?」


「はーい、分かったー♪」


「?」


美羽は凛に促されるまま、女性の背中を押す形で浴室へ向かって行った。


「…んじゃ、さっきからずっとしがみ付いてるそいつの事も、リビングで紹介してくれるんだな?」


火燐は美羽達を見送り、そう言って凛の腰部分に視線をやる。


「………。」


そこには、凛にしがみ付く1体のゴブリンがいたのだった。

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