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ゆるふわふぁんたじあ(改訂版)  作者: 天空桜
プロローグ
15/256

13話

「え?それって…ゴブリンがゴブリンを、との解釈で合ってる?」


《はい。その認識で間違いありません。捕らえられたゴブリン族は雌でして、希少価値がある。高貴な身分、敵対勢力側にいた存在、ユニーク(唯一の)個体と。様々な可能性が考えられます。》


「成程ね…となると、距離が問題か。うーん、さっきみたく僕だけ先に…いや…でも…。」


ナビからの回答を受け、凛は囚われたゴブリンに対し興味が湧いた様だ。

右手を顎に当て、助け出すまでの道筋を描きながら独り()ちる。


「…って言うかよ、皆で飛んで向かえば良いだけの話じゃね?わざわざ走る必要なんてねぇだろ。」


「あ、そっか!火燐の言う通り、飛んで向かえば良い訳か。さっきは少しでも早くエルマ達を助けなきゃとの考えしかなかったから、すっかり忘れてたよ。」


(凛さん、そんなにあたし達の事を心配して…ん?今、飛んで向かうとか言わなかった?)


凛と火燐。

2人のやり取りを聞いたエルマが感動しそうになり、しかしすぐに現実へと引き戻された。


「ま、どっちみち凛が最初に到着しそうだけどな。」


「…火燐ちゃん火燐ちゃん。」


「ん?エルマか、いきなりどうしたよ?」


「火燐ちゃん達って…全員空を飛べるの?」


「ああ。空を飛ぶ、ってだけならオレ達全員出来るぜ。」


「それ…さっき説明にあった半人半神(デミゴット)半人半精霊(デミスピリット)とか言うのが関係したりする?」


「そーだな。ま、精霊っつっても、オレ達みたくほぼ人間にしか見えないって奴は少ねぇだろうがな。」


「成程…。」


ニカッと笑う火燐とは裏腹に、難しい表情を浮かべるエルマ。

翼もないのにまさか飛べるなんて事はないよね…ないよね?とでも言いたそうな視線を火燐に向け、火燐が今度はニヤリと笑う。


それはある種の答えでもあり、エルマの隣にいるイルマは火燐を注視。

ふんふんと鼻を鳴らし、どうやって飛ぶのかが如何にも興味ありますと言った感じだ。


因みに、先程凛が地上を駆けた速度は時速70キロ位。

これが空を飛ぶ場合だと、最高時速100キロよりも先にまで上がったりする。




その後、凛達は魔力を用いてその場に浮遊。

目の当たりにしたエルマ達がショックを受けるなんて1幕を終え、皆でゴブリンの集落へと向かう。


《マスター、おめでとうございます。》


「ん?ナビ、急にどうしたの?」


《オークキングの解析が終了致しました。それに伴い私、並びに万物創造が成長。魔石の精製が可能となりました。》


その途中、思い掛けない報告により、凛が空中でズルッと滑る。

「せ、成長…?」と漏らす彼に注目が集まったのは言うまでもない。


《はい。マスター方が様々な種類のオークを討伐して下さったおかげです。私が無限収納内でオーク達を解析し、情報を取得。得た情報はそのまま万物創造に反映され、成長へと繋がりました。》


「なんて便利なシステム…。」


《今回の場合、オークキングの体内に魔石が含まれていたのが成長要因となり、魔石精製が可能に。今後の情報次第では、より質の高いものが万物創造で…との可能性も十分にございます。》


「…と言う事は、万物創造を成長させ、品質の高いものを生み出せればより強い魔物と戦える様になる。そしてその強い魔物を倒し、解析して…を繰り返していけば良いんだね?」


《はい。その通りです。》


「成程、要は好循環を目指せって…あ、なんか洞窟っぽいのと、入口に誰か配置されてるのが見えて来た。もしかして、あれがゴブリン?」


『…!』


ナビの声が聞こえ、何とも言えない顔の美羽は別として。

不思議がったり、まーた何かやってんなとの訝しがる視線を背に前へと進み、やがて目標を発見。


見えたのは視力が強化された凛だけだったものの、彼がここで嘘をつく理由がない。

つまりは本気だとして、場に緊張が走る。


「ナビ、また後で続きを聞かせてね。」


《畏まりました。》


一旦会話を切った凛は、ゴブリンの集落から500メートル程手前に着地。

彼に続く形で、美羽達も次々に降り立った。


1行が飛行中に出した速度は時速50キロ弱。

これはエルマとイルマに合わせた速さで、彼女達以外は余力を残した状態となっている。


「やっと着いた…ここまで本気なの…いつ以来だろ…。」


「だね…それに…疲れてるのって、私達だけみたいだよ…。」


「うぅ…空を飛べる種族としての自信が…。」


逆に返せば、2人だけが疲れた状態。

地に足をつけてからも凛達は平然としているのに対し、明らかに疲労感を隠せないのが彼女達。


目の前で打ち合わせをする凛達を尻目に、2人は小声で話し合い、共に撃沈していた。


因みに、凛達は移動中魔力障壁を(まと)い、空気抵抗や風の影響等。

マイナスに繋がる要因を、可能な限りカット。


対するエルマとイルマは、翼をはためかせながらでの飛行。

緩和するものは何もない為影響をモロに受け、2人だけがスカートを押さえての着地ともなった。




状況確認を済ませた凛達は、ゴブリン達の集落近くにある大岩へ。


「…あれがゴブリンか。」


岩影から、入口に立つゴブリン2体の確認を行った凛から漏れた言葉がそれ。


どちらのゴブリンも身長1メートル位。

緑色の肌で、痩せた人間を醜悪(しゅうあく)にした外見。

少し尖った耳を携えているのが特徴だ。


ゴブリンの内の片方が非常に眠いのか大きな欠伸(あくび)をし、もう片方のゴブリンから注意を受けるのが現状。


彼らは冒険者が討伐を許される鉄級の強さで、スライムや1本角の兎の魔物ホーンラビットより少し上の存在。

狼の魔物ウルフと同等に扱われ、1対1。

()つ、正面での戦いであれば間違いなく雑魚の部類に入る。


しかしこれが集団になると難易度が途端に跳ね上がる。

場合によっては上位の冒険者ですら危険な目に遭う可能性があり、にも関わらず得られるものがショボい。


割に合わないを理由に、上位冒険者は基本的に無視。

鉄級や銅級と言った、低位の冒険者位しか彼らを倒そうとする者はおらず、大小問わず被害報告が度々上がっているとの事。


「(ナビによると)ゴブリンはオークよりも力が弱い分、狡猾で悪知恵が働くんだって。僕はゴブリン達がどう動いても対処出来るつもりで構えるから、戦闘は美羽達に任せるね。」


凛の指示に美羽達が頷き、さぁいざ実行。

となる寸前、「あの…ちょっと良いですか」と待ったの声が。


「ん?イルマ、何か気になる点でも?」


声の主はイルマ。

彼女は元気なさげに下を向いており、やがて口を真一文字に結び、意を決した様子で真っ直ぐ凛を見据える。


「エルマちゃんが今持ってる武器って、凛さんが用意したんだよね?」


「そうだね。」


「出来ればで良いんだけど、私にも用意して欲しいなぁって…。」


「勿論構わないけど、イルマは戦闘が苦手だったんじゃ…。」


「そうなの。そうなんだけど…今までみたく、争いが嫌だから逃げるとか、私が原因でエルマちゃんや皆が傷付くのはもう嫌なの。だから…だから私も戦う!」


イルマは目に涙を溜めながらも、その表情は毅然(きぜん)とした想いで満ちていた。


「イルマちゃん…うん、一緒に強くなろうね。」


彼女の姿勢に感化されたのはエルマ。

嬉しさから涙が(あふ)れ、イルマの背中にそっと左手を当てる。


他の面々は2人に優しい視線を向けており、ゴブリンの事はすっかり記憶の彼方(かなた)

ここに第3者がいた場合、戦闘を目前に何をやっているんだとツッコミが入る事間違いなしのやり取りだ。


「そっか…分かった。それじゃイルマ、武器は何が良い?」


「私、動くのは苦手だけど、魔法ならそこそこ(中級まで)使えるから杖をお願いしたいかな。その、自分のは壊れちゃって…。」


「成程、それで(杖を)持ってなかったんだ。」


「うぅ…ごめんなさい。」


「大丈夫。それじゃ早速だけどナビ、杖の先端に付ける形で魔石の精製を試してみても良い?」


《畏まりました。》


それから1分経過後、凛の両手には雫達のものとはちょっとだけ異なるマジックワンドが。


「…はい。石の部分だけ少し違うけど、後は雫や楓のと同じものだよ。その内、イルマにもきちんとした杖を用意するから待っててね。」


「うん!凛さんありがとう。」


凛から受け取った杖を胸の前へ運び、穏やかな笑みを浮かべるイルマ。


後に、この杖は大事に扱われ、宝物として飾られる様になったとか何とか。

それと、新しい杖は既存のものよりも威力が少し上がり、反対に消費魔力がより抑えられ、更に使い勝手が良くなったらしい。(byナビ)




「さて、それじゃ改めて入口へ向か…う前に、エルマ、イルマ。顔色が悪いよ…大丈夫?」


「むしろ…こんな酷い臭いなのに、どうして凛さん達は平気なの…?」


「うぅ…気持ち悪い…。」


場が落ち着いたのを確認した凛が、再度見張り役のゴブリン達を見やる。

続けて青い顔をした2人に問い掛け、得られた答えを確かめる目的も兼ね、敢えて臭いを()いでみる。


長い間風呂に入っていないであろう野生味のある香りに、卵の腐った感じのもの。

そこに鉄っぽい感じも加わり、思わず「あー」と言いたくなる位には酷かった。


「納得した。取り敢えず、僕達は息をしなくても大丈夫な体とだけ…。」


「「何それ羨ましい…。」」


「なんかゴメン。ひとまず言えるのは、犠牲になったであろう人達や魔物達。それと本人達が臭いの原因ってところだろうね。2人共、辛いなら休んでても良いよ?」


「その提案はありがたいんだけど、折角ここまで来たし、試練だと思って頑張るぅ…。」


エルマの言葉に、両手で鼻と口部分を覆ったイルマが同意とばかりにコクコクと頷く。


「分かった。なるべく早く終わらせるから、無理だけはしないでね?」


「「ありがとう。」」


最後に、どうしても辛いなら口で息をする方法を勧める凛。

そんな彼に2人からお礼を述べられたところ、今度は翡翠に声を掛けられる。


「凛くん凛くん。」


「ん?今度は翡翠か、翡翠も何か要望?」


「要望って言うか、入口に立ってる2体、あたしに任せて貰えないかなぁ?」


「勿論構わないけど…何か上手い方法でもあるの?」


「にっひひー、それはねー…ウインドアローッ!」


凛が不思議そうな表情を彼女に向けてみれば、返って来たのはウインクしながらでの悪戯っぽい笑み。

それと、宙に浮く風系初級魔法ウインドアローだった。


ウインドアローは翡翠の顔のすぐ右の位置で、直径3センチ位、長さ80センチ程の棒状のもの。

アローと命名されてはいるが矢の形はしていないのが特徴。


ウインドアローは風で構成され、また透明に近い事から少し見えにくい仕様となっている。




「ウインドアロー?」


「このウインドアローをねー、こうやって掴んでー。」


「ん?」


「ゴブリン目掛けてー…射るっ!」


凛が不思議がるのを他所に、翡翠はウインドアローを掴み、ゴブリンがいる方角とは違う方向へ射出。

ヒュッと飛んで行った矢は大きなカーブを描き、パァンと音と共に右側のゴブリンの頭部が破裂した。


「よしっ、当たったぁ!」


『え?』


「は?」


ウインドアローはゴブリンの頭に当たった後も尚飛び続け、そのまま遠方へ。

もう片方のゴブリンは相方の頭がいきなり弾け飛び、そのままゆっくり後方へ倒れていくのを直視したが為に警戒心を露に。


ついでに、今の結果に喜んだのは翡翠位。

残る凛達は思いっ切り面食らい、二の句が継げずにいる。(違う言葉で返事をしたのは火燐)


「ギ…。」


そうこうしている内にもう1体のゴブリンが正気に戻り、仲間に(しら)せようとする。

だが先に翡翠が放ったウインドアローにより頭を弾かれ、生を終える結果となった。




「やった!ぶっつけ本番でやってみたけど、意外と何とかなるもんだね!」


『………。』


(今のウインドアロー…掴んだのも勿論凄いんだけど、詠唱なしでの発動だった…そう言えば、凛さんがハイヒールを使った時もそうだったし、雫って子も詠唱しないで氷の魔法を発動させてたっけ。)


若干大袈裟とも取れる程に翡翠1人がひゃっほーと(はしゃ)ぎ、凛達は完全に置いてけぼり状態。

ただエルマだけは冷静に分析を行い、イルマへチラッと目配せ。


イルマは突然のアイコンタクトに一瞬だけ目を見開き、しかしすぐに意図を理解。

こくりと頷き、魔法の扱いに歴然とした差があるのだと再び思い知らされた。


「これで通れる様になったし、それじゃーしゅっぱー━━━」


「ちょっと待って。翡翠、今の説明が先だよ。」


ただ当の本人は呑気(のんき)なもの。

あっけらかんとした顔で先へ進もうとしたところを凛に肩を掴まれ、美羽達からじーっと鋭い視線を向けられていた。


「えー…?説明って言っても、見ての通りだよ?あたしはただ、ウインドアローを矢みたいにして射っただけ。」


「それはそうなんだけど…誰にでも出来るものではないよね?」


「うーん…あたし達みたいな魔力生命体。それか精霊位?多分だけど、他の種族はまず出来ないんじゃないかなー?」


「精霊か。その可能性は十分にありそうだね…と言うかそもそも、翡翠はどうしてウインドアローを掴もうなんて思ったの?」


「シルフ様から聞いた話を試したくなったの。」


「話?」


「うん。昔…と言っても、1500年位だから大分前の話なんだけど。イフリート様がね、敵となる存在に対し、フレイムスピアをそれはそれはもうたっくさん投げた事があったそうなんだ。」


「え?オレ、イフリート様からそんな事…つぅか、昔の話自体聞いた覚えなんて1回もねぇぞ?」


「そうなの?」


「ああ…だが今は話を進めるのが先だよな。すまん、続けてくれ。」


予期しない翡翠の爆弾発言に、追及したい思いに駆られる火燐。

ただ自らが話の腰を折ったとの自覚はあるらしく、翡翠に進めるよう促す。


「あ、うん。分かった。それで、イフリート様がフレイムスピアを両手に1本ずつ発動させては掴み、相手に向けて投げるを繰り返したみたいでね。

途中からシルフ様も参戦する様になったんだけど…火災旋風だっけ?炎と風って、組み合わせたら一気に被害が大きくなるでしょ?だから火力が上がり過ぎて収拾がつかなくなり、鎮火したウンディーネ様から一緒に怒られたってお話。」


『………。』


「シルフ様は、イフリートは大雑把だから多分忘れてるかもーなんて言ってた。」


「あー、それなら納得だわ。オレの食いもんはイフリート様が用意してくれはしたんだが、飯っつって出されたのが真っ黒に焦げた『ナニカ』。それも毎回だぜ?正直食えたもんじゃねぇよ。だからっつって残したらぶっ飛ばされるし、マジ意味分かんねー。だからあれも訓練の1つだと割り切り、我慢して食うしかなかった…それに比べ、凛が用意した飯がうめーの何のって。もうこれだけで旅に出て良かったと思えた程だぜ。」


『………。』


「ま、まぁ、翡翠と火燐の話には少し驚かされちゃったけど、静かに潜入出来るから良いって事で。それじゃ僕は先に向かうから、皆は後ろへ付いて来て。」


火燐と翡翠によるユーモア(?)に助けられる(内容が内容過ぎてそれどころではないとも言える)、部分はあったものの、そのおかげでエルマとイルマの吐き気が。

それと場の緊張感が幾分かは和らいだらしい。


ただあくまでも幾分かであり、今は作戦中。

凛は軽く慌てる形で先を歩き、そんな彼の後ろを美羽達は付いて行った。




翡翠が説明した通り、先程彼女が魔法に直接触れられたのは片親が大精霊。

つまり半分は精霊だからと言うのが理由だったりする。


精霊は純粋な魔力のみで構成。

その影響から、地上にいるどの種族より魔力や魔法の扱いに長けている。


ただ、翡翠は生後1ヶ月。

生まれてからまだそう間もない状態だ。

故に経験不足や技術不足は否めず、ウインドアローを掴み、操るのがせいぜい。


それでも流石と言うべきか。

(つたな)いながらも魔法のエキスパートたる片鱗を見せ、彼女の今後の成長が楽しみではある。


ついでに。

同じく翡翠の説明にも出たが、大戦時、炎の大精霊イフリートが炎系中級魔法フレイムスピアを連続で発動させ、敵方を壊滅にまで追いやった事がしばしば。


フレイムスピアは炎系中級魔法の1つ。

直径20センチ、長さ120センチ位の炎で構成された投げ槍の様なものだ。

イフリートは左右の手にフレイムスピアを持ち、高笑いをしながら敵の集団に向けて次々と投げるを繰り返す。


一応、他の四大精霊。

それとマクスウェルや里香も同様の事が行えるのだが、(ケラケラとお腹を抱えて笑うシルフは別として)イフリートと同じだとは思われたくなかったのだろう。


里香とマクスウェルは苦笑いを。

ウンディーネは呆れた表情を浮かべ、ノームは少し慌てた様子でイフリートを見やるだけだった。


その途中、シルフが何故かやる気に。

イフリートのフレイムスピアに、その風バージョンとも言える風系中級魔法ゲイルスピアが混ざった事で、超大規模な火災旋風を引き起こしてしまう。


これに里香達だけでなく、一緒に戦いへ参加していた者達も揃ってドン引き。

味方にまで被害が及び始め、しかしイフリートとシルフは笑うだけで何もせず、里香達が消火にあたった。


鎮火後、呆れ顔の里香とマクスウェルがイフリート達を諭そうとするも、2体は全く悪びれた様子を見せなかった。

仁王立ちするか笑みを崩さない彼らにウンディーネがブチ切れ、2体纏めて氷漬けに。


以後、ウンディーネはイフリート達へ目を光らせる様になり、今回の一連を教訓にウンディーネは怒らせてはいけないとの暗黙の了解が広がったのだそう。




話は戻り、凛達は極力音を立てないよう歩きながら入口へ。

そこで(たお)れるゴブリンの亡骸(なきがら)を無限収納へ仕舞い、エルマとイルマから空間収納持ち。

つまりは多芸だ(引き出しが多い)と驚かれる。


一行はそのまま洞窟の中へと入り、罠はないかの注意をしながら凛が先頭を歩く事50メートル程。

前方に、3つに分かれる道が出現。


凛はどう進めば良いかをナビに尋ねたところ、左に進むと(くだん)の捕らえられたゴブリンが。

右に進めば過去に連れて来られた者達の成れの果てが、このまま真っ直ぐ進むとゴブリン達がいる旨の返答を受ける。


そして囚われのゴブリン以外は全て正面の通路の先に集中しているとの情報や、再び顔色エルマ達を早く洞窟から出してあげたいとの観点から。

凛達は寄り道をせず、真っ直ぐ向かう事を決める。


正面の通路は幾重(いくえ)にも折れ曲がり、歩みを進めるに連れ、ゴブリン達の話し声が鮮明に聞こえて来るのが分かった。

凛はナビから次の曲がり角が最後だとの言葉を参考に、ちらりと通路の先の様子を覗いてみる。


彼の視界に映るは、30畳位の広さの開けた空間。

その中でゴブリン達が複数のグループに分かれ、それぞれ焚き火を囲んでは何かの肉を焼き、談笑を交えて食べると言う光景が。


奥には身長2メートルを越し、引き締まった体のゴブリンキングが独座。

他にも、(ゴブリンキング程ではないが)大小様々な種類のゴブリン計47体。


4~6体ごと。

加えて、同一ではなくバラバラに配置される形で集まっているのが窺えた。


「どうやら、ゴブリン達は食事中みたいだ。特に罠とかもなさそうだし、このまま一気に突入しようか。中へ入ったら僕はすぐ真上に跳ぶから、各自で倒せそうなゴブリンを倒していくって感じで頼むね。」


視点を美羽達に戻した凛がそう告げ、皆から首肯で返される。


「それじゃあ…行くよっ!」


先頭の凛が広間に入り、直後に跳躍。

入口付近にいたゴブリン達は彼の動向に目を奪われ、かと思えば続けて美羽達が入って来る。


彼女らは既に武器を構える等して戦闘態勢に入っており、凛は凛で空中でピタリと停止、

次の瞬間には、球状のものを複数展開し始める。


突然の、それも初めて見る動きにゴブリン達は付いてこれず、右往左往するばかり。


「グギャギャギャギャギャアァァ!!」


ゴブリンキングによる叫び声が室内に(とどろ)く。


ゴブリン達は(こぞ)って(すく)み上がり、これ以上彼の機嫌を損ねまいと慌てて応戦の構えを取る。


「雑魚共はオレ達で何とかする。美羽は奥にいるでかいのをやれ!」


しかしその頃には既に入り込んだ女性陣により攻撃が加えられ、手前にいた2グループが殲滅(せんめつ)済みの状況。

指示を受けた美羽は「分かった!後は任せるね!」と残し、前方へと駆け出す。


「エルマはここでイルマの守りだ。相手をするのは近付いて来た奴だけで良い。」


「「分かりました!」」


「残ったオレ達は雑魚共の一掃だ。派手にやろうぜ。」


「ん。」


「はーい!」


「はい…。」


「良し、そんじゃ行くぜぇ!!」


叫び終えるや否や火燐が即座に突っ込み、彼女以外の面々もゴブリン達の相手をし始める。




広間にいたゴブリンはゴブリンキングを除き、7割弱が魔法を使うメイジに、弓を携えたアーチャーを含めたゴブリン。

それとゴブリンを進化させたホブゴブリンで構成。


それ以外だと、ホブゴブリンを進化させたマーダーゴブリンやグレーターゴブリン。

ゴブリンアーチャーを進化させたゴブリンスナイパー、ゴブリンメイジを進化させたゴブリンソーサラーと言った感じか。


いずれも、鉄級から銀級上位。

ゴブリンキングに至っては金級上位の強さを持つ。

今回(おもむ)いたのが凛達だったから良かったものの、本来であれば最低でも金級以上の冒険者パーティー。

或いは、それに準ずる集団(チーム)でないと却って危険で、場合によっては攻めて来た側が敗北ないし撤退。

全滅との可能性も大いにあったりする。


(おっ、美羽が早速ゴブリンキングを討伐完了か。それじゃ僕も…って。へー、同じゴブリンでも、微妙に見た目や持ってるものは違うんだ。)


凛は空中で下の様子を俯瞰(ふかん)

同時に6基の球状の端末━━━ビットを駆使し、美羽の移動を補助。


彼女がゴブリンキングまで一気に駆け抜け、倒してからは他のメンバーに意識を切り替える。

統一してそうでしていないゴブリン達の装備に軽く目を奪われつつ、出来るだけ1対1。

多くても1対2の状況へ持っていけるよう、彼らを間引き続けた。


そんな凛のサポートもあり、戦闘は1分強で終わった。

それも、ほぼほぼ一方的な展開で。


ゴブリンキングへ真っ直ぐ向かう美羽に攻撃しようとしたゴブリン達はビットにより頭部を射貫(いぬ)かれ、ならばと魔法や矢を放つもまるで通じない。

魔法はビットの防御壁で、矢は射撃で半ば折られる形で防がれたからだ。


それは美羽や火燐達。

広間の入口に立つエルマにイルマ、延いては空中にいる凛ですら攻撃がまるで意味を成さなかった。


逆にお返しとばかりに反撃を喰らい、良くて腕や足。

悪ければ胴体や首、最悪一撃死(ピ◯ュン)する流れで魔力射撃を貰い、斃れる羽目に。


そのおかげもあって、美羽達は無傷(ノーダメージ)

ゴブリン達だけがただただ被害を受け、全滅へ至るとの状況に。




「ゴブリンキング…自信満々な顔で挑発して来たから斬り込んだのに、防御もしないでそのまま倒れちゃうとか意味分からないよぅ…さっき戦ったオークジェネラルの方が全然強い…と言うかそれ以前の問題な気も…。」


戦闘後、美羽の口から出たのがそれ。

倒れ伏したゴブリンキングに視線をやるのだが、その表情は実に不満そうだった。


彼女は火燐からゴブリンキングの討伐を依頼。

それに従い、目的までひた走った訳なのだが…ある意味彼女が1番割りを食った。


と言うのも、美羽を目の前にしたゴブリンキングが何をするかと思えば、単に語っただけ。

しかも顔を歪め、(わら)いながらでだ。


それを挑発だと捉えた彼女は思いっきり斬り掛かり、抵抗らしい抵抗を全く受けずに終わらせてしまった。

あまりの呆気なさに目をパチクリし、「あ、あれぇー?もう終わりなのー?」としばらく立ち尽くした程だ。


実際は『自分に手を出したら(背後にいる)上が黙っていない。投降した方が身のためだぞ』的な内容を話しており、ドヤ顔のまま後ろに倒れていくと言う。

何とも間の抜けた最期となった。


ゴブリンキングはこう伝えば下るだろうと信じて疑わず、言葉や意味の分からない美羽は疑問符を浮かべながら、との表れでもある。


「はっ。挑発するだけしといて動かねぇとか、アホのする事だぜ。」


ともあれ、死人に口なしとは良く言ったもの。

火燐がボロクソに(けな)し、凛達は(ゴブリンキングをアホ呼ばわり…)と同じ思いを抱いていた。


「それより、あの黒い変なゴブリンが厄介じゃなかったか?」


「黒いゴブリン?」


「ああ。色が黒いってだけでゴブリンとほとんど変わらない見た目なのに、これがまたすばしっこくってよ。ゴブリンキングが倒れてから動き始めたんだが、仲間のゴブリンを盾にしたりでちょこまか逃げやがってよ。倒すのに苦労したぜ…。」


火燐は地面に横たわる黒いゴブリン…グレーターゴブリンを、ややうんざりした様子で見やる。


彼女の視線の先にいるグレーターゴブリンは、ホブゴブリンが進化した存在。

体の大きさは通常のゴブリン位に戻ってしまう反面、悪い意味で頭が冴え渡り、更に狡猾な性格へ。


(普通のゴブリンと比べ)逃げ足が格段に速くなり、思いの外手を焼かされた。


「結局、あのゴブリンキングは何がしたかったんだろうね?それに、さっきのオーク達よりも装備の質が良い気もするし。」


そこへ、ふわりと降り立った凛が告げる。

戦闘があっさりと終わったのは喜ばしくはあるものの、謎を残したまま未解決となった事に美羽達が『うーん…』と唸る。




話題に上がったゴブリンキング。

実は金級上位ではなく、これまで倒した冒険者や魔物から得た経験から、魔銀級の強さを所持。

配下のゴブリン達も、質の良い装備品の効果もあって1ランク上と思って良いだろう。


そんな彼らだが、死滅の森に集落を構えるオーガキングの傘下。

元は10体程度の尖兵(せんぺい)で、近隣の偵察等を主な任務としていた。


そのオーガキングの集落は、黒鉄級上位のオーガキングを筆頭に、1つ手前であるグレーターオーガ。

さらに1つ手前のオーガに、同等の強さを持つ巨体トロールと。

いずれも2メートルを超す体躯(たいく)の者ばかりで編成され、力を誇示(こじ)する形で周辺に(にら)みを利かせている。


ゴブリンキングはいずれ自分もそこの末席に加わるを理想に掲げ、脅し文句の1つでも付ければ美羽達が屈すると思っていた。

実際この方法で数多の女性が降参し、男達は血祭りに上げたとの実績が。


良質な装備品を身に纏っていたのはこれが所以(ゆえん)

また本人(本ゴブリン?)は言葉が通じたと思っているみたいだが、恐怖から投降したり戦意を喪失しただけだったり。


ゴブリン達はまた女が来た位の認識しかなく、ほとんどが事の成り行きを傍観。

ついでにゴブリンキングの指示待ちだった為に棒立ちとなり、わずかな時間で。

それも格下である火燐達に倒される顛末(てんまつ)となった。




閑話休題


「…ってかよ。翡翠も大概だが、凛は更にその上を行ってないか?んだよ、肩に浮いてる変なやつぁよ?」


そう言って、火燐のジト目が凛に突き刺さる。

雫、翡翠、楓、エルマ、イルマもそれは同じで、彼…ではなくビットに注目が集まる。


「…ん?あ、これはビットって言ってね。こうやって…攻撃出来るし。」


凛は説明しながら、ビットを1基操作。

竹串みたく、15センチ位にまで伸ばした白い魔力弾を発射。

パシュッと撃ち出された弾は洞窟の壁に当たり、丸い穴を空ける。


「…こんな感じで、防御も出来る兵…武器みたいなものだよ」


そして今度はビットを4基動かし、20センチ四方の。

その後少し離れた位置に、高さ2メートルのピラミッドの形となるよう配置。

ヴォンと音と共に、全ての面部分に薄い虹色の膜を展開させた。


「僕はビットで皆の援護をしながら、もしもの為に備えていたって訳。」


「そうかい…。」


凛は笑顔でビットを自分がいる場所へ戻し、火燐はダメだこりゃと言いたげな表情に。

雫と楓はビットがあれば動かなくても済むのではないかと関心を示し、翡翠と美羽は苦笑い。


「あたし、これからは凛さん達の行動を常識に当てはめない様にするよ…。」


「私も…。」


そしてエルマとイルマは完全にお手上げ。

揃って微妙な顔付きに。




それから、皆でゴブリン達の回収作業へと移行。

エルマとイルマは外で休むよう凛から提案され、2人は困惑顔に。

見兼ねた火燐が自分も付いて行くと言って2人を抱き寄せ、一緒に広間を後に。


程なくしてゴブリンの回収が開始。

雫、翡翠、楓は、少しでも回収の助けになればと腕や足を引っ張る形だ。


途中、ナビから広間の奥に部屋があり、そこにゴブリンキングが今まで貯めた財産や装備品が置かれていると説明。

凛は美羽にゴブリン達の回収を任せ、1人奥の部屋へと向かう。


すると、銅貨や銀貨を始めとしたお金が山積みにされ、加えて血の付いた剣や防具等が乱雑に置かれているのを発見。

凛は眉間に(しわ)を寄せてから両手を合わせ、目を閉じ、「失礼します」と1礼。

その後、黙って回収作業に取り掛かる。


ある程度回収したタイミングで美羽達が合流。

計10分程で作業を終えた。


「…よし、これで回収作業は全て終わりだね。部屋にあった財産や装備品は、近い内に最寄りの冒険者組合(ギルド)へ渡すとして…それじゃ、皆で(目的の)ゴブリンの元へ向かおうか。」


凛の宣言に美羽達が頷いたのを機に、次々と歩き出す。




ややあって、1行は囚われているゴブリンの元へ到着。

部屋は8畳程の広さがあり、入ってすぐのところに木製の檻。

それと部屋の中心には、横座りをし、俯いている様子のゴブリンが1体。


通常のゴブリンは5センチ位の長さの角が、額の中心に1本生えている。

しかし目の前のゴブリンは、少し短くはなっているが2本。

両目の真上に位置する形で生やしていた。


「君、大丈夫?」


「…ココハ危険デス…。」


俯いたまま。

それも予想外の返しに凛が喋ったと驚きの声を上げ、他の面々も目を見開く。


「でも少しぎこちない感じがするな…ナビ。ひょっとしたら、あのゴブリンは知性が高いのかも知れない。念話とか翻訳みたいな感じで、直接話さなくても相手と意志疎通が可能になる方法って何かないかな?」


《畏まりました。今からご用意致しますので、このまましばらくお待ち下さい。》


「…皆、僕はしばらくここに残ってゴブリンの相手をする事になった。長くなるかもだし、外に出て━━━」


「マスター、ボクは残るよ。」


「私も残る。喋るゴブリンに興味が湧いた。」


「あたしもー。」


「私も残ります…。」


「分かった。それじゃ皆で話をしようか。」


凛の気遣いに美羽達が断固とした姿勢を見せ、全員このまま残る事に。

ナビの言う準備が整うまでの間、凛達はそれぞれ俯くゴブリンに話し掛け、ポツリポツリではあるが返事を貰う。




30分後


『((わたくし)、ここから少し離れた集落にて静かに暮らしている者でございます。1週間程前、こちらのゴブリンキング様が私共が住まう場所へと参られ、俺の物になれと仰いまして…その場でお断りさせて頂いたのですが、それから毎日返事を聞きにいらっしゃる様になりました。)』


かつて俯き、暗い影が差していたゴブリンが水を得るが(ごと)(しゃべ)る。

それはもうハキハキと喋る。


このゴブリン、ナビが見立てた通り雌。

何度も凛達から話し掛けられたのに加え、ゴブリンキング達は討伐済みである事を知らされ、安堵したらしい。

顔を上げ、辿々(たどたど)しいながらも普通に話せる間柄となった。


それと、現在行われているのは口頭ではなく思考を相手に伝える方法。

所謂『念話(テレパシー)』で、追加で翻訳機能を付いた『対話(ダイアログ)』。


これらのスキルがナビが用意した手段となる。

おかげで、念じるだけで会話のやり取りが可能に。

更には口を開く必要がなくなり、雫達は急に見つめ合うだけで動かなくなった2人を不思議そうに眺める。


『(俺の物にって事は、貴方は高貴な生まれとか?)』


『(はい。いえ、その…恥ずかしながら、私は集落で『姫』と呼ばれておりまして…。)』


『(はぁ、納得した…。)』


言葉の丁寧さに、ある意味納得した凛。

それとナビの声が届く関係からか、同じく聞こえる美羽も「それでかー」と漏らす。


『(ゴブリンキング様は私から何度もお断りの返事を受け、焦れてしまったのでしょう。あまり長引かせると、集落が酷い事になるぞと脅しをかけられたのです。後ろに大物が控えていると散々自慢されておいででしたし、私達の集落では殺生の一切を禁じておりまして…ですので、一般的なゴブリンよりも弱く、もし集落へ攻め入りでもされましたら、とてもではありませんが持たなったでしょう。

私がこの中に入って早1週間。こちらの方々は少々悪どい事がお好きな様ですし、私がいなくなってから集落がどうなったのかが心配で心配で…。)』


この姫と呼ばれるゴブリン。

腰布しか身に付けていないにも関わらず、言葉の節々に見られるのは間違いなく高貴のそれ。


見た目とあまりに掛け離れた物言いに、凛と美羽は唖然とするばかりだった。


『(えーと、それじゃどうしようか。貴方に害意がないのは分かったし、ここから出て集落の様子が見たいとかあれば手伝うよ?)』


『(申し訳ありませんが、お願い出来ますでしょうか?)』


『(分かった。それじゃ早速檻を斬るね。少し下がってて。)』


『((かしこ)まりました。)』


今後の予定を決めた凛達は、部屋から脱出。

共に洞窟内を歩き、火燐達と合流を図る。




「へー。それじゃ、このゴブリンを目当てにゴブリンキング達が動いたって位には偉い訳か。」


「まあね。ただ、ゴブリンのお姫様と言うのがどんな役割を持つのかまではさっぱりだけど…。」


「分からねぇ事を今話してても仕方ねぇよ。取り敢えず、このゴブリンがオレ達を攻撃するって事はないんだな?」


「うん。今からこのゴブリンさんと一緒に、集落がある場所まで飛んでみる事になってね。殺生を禁じてるらしいから、他のゴブリン達と遭遇しても大丈夫なはず。」


「分かった。それならオレ達も行く。」


「良いの?」


「ああ。」


火燐からは言葉で、外の空気を吸ってすっかり体調が良くなったエルマ達。

それと美羽達から頷きで返される形で凛は同意を得る。


最後にゴブリンから了承を貰い、美羽が彼女をお姫様抱っこ。

こうして準備を終えた凛達は、皆でゴブリンの集落があるとされる方向へと飛翔して向かうのだった。

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