11話
「…アイシクルレイン。」
凛が走り、彼の後を美羽達が追い始めてすぐ。
杖を前に掲げた雫による先制攻撃、氷系魔法が1つ━━━アイシクルレイン発動が、開戦の狼煙となった。
直後、オーク達の真上に大きな魔方陣が出現。
その魔方陣から、幅10センチ、長さ50センチ程の氷柱が無数に降り注いで来る。
アイシクルレインのアイシクルとは、氷。
つまり水と風が合わさった複合、更には中級魔法へ該当される魔法だ。
そんなアイシクルレインだが、術者が指定した座標(ほぼほぼ上空だが)に、半径30メートル程の魔方陣を展開。
範囲内に氷系初級魔法アイスニードルを、10秒間降らせ続けるとの効果を持つ。
そしてそのアイスニードル。
1つ1つが600ミリのペットボトル位と中々に大きく、また通常の場合だと1回の使用で生み出される本数は3本。
しかしながら込めた魔力や状況に応じ、本数を減らしたり増やす事も可能だったりする。
アイシクルレインが発動してしばらく。
魔法陣が消え、それに付随して氷の雨もピタリと停止。
下にいるオーク達は半分以上が身体中穴だらけとなり、倒れ込む形で息絶えていた。
残りの半数近く。
その内のオークが7体とオークアーチャー2体が、同じく体の何箇所かを穿たれながらもどうにか立つ姿を確認。
ただ、ダメージを受けた者はいずれもオークかオークアーチャーのみ。
上記以外の個体はいずれも健在だった。
その1つであるオークメイジ。
彼らは3体中3体が、魔力による球体状の障壁…魔力障壁を自身の周りに纏い、無傷。
ハイオークやオークジェネラル達は、手に持った2本のバスタードソードやブロードソード、盾や槍を駆使。
氷柱を破壊したり防御、身体強化を施す等していずれも軽傷。
或いは無傷でやり過ごしていた。
「お、雫やるじゃねぇか。」
「ブゥーッ!!」
火燐は雫が放った魔法の結果に満足しつつ、傷だらけになりながらも仕掛けて来たオークの攻撃を(少し体をずらす形で)回避。
「オレも負けてらんねえな!…っと。ん?」
「ブ、ブゥ…。」
(おいおい。凛の奴、コレが申し訳ないっつー代物かよ。普通にヤベーやつじゃねぇか。)
お返しとばかりに袈裟斬りをお見舞いする火燐。
結構な力を込めたとは言え、彼女はこうも簡単に両断出来ると思わなかったらしい。
ほとんど抵抗らしい抵抗を感じないままオークを斬り伏せ、軽く驚いた様子で大剣を見やる。
(雫は…驚いてるか。無理もねぇ。オレが気付いたんだ、あいつも分からねー訳ねぇわな…つか、絶対間に合わせでってレベルじゃねぇだろ、コレ。もし本気でってなった場合、どこまで…?)
続けて何となく後ろに水を向ければ、仲間である以上にライバルの雫が足を止め、難しい顔で杖をガン見。
それに釣られ、自分も複雑な思いに…となったのは仕方ないのかも知れない。
アクティベーションで創られたものはあくまでも量産品。
故に、質もそこそこでしかない…と凛は思っている。
しかし、その量産品を用意した本人(?)であるナビが妥協を許さなかった。
チタンや鋼等の硬い金属を圧縮し、強度を向上。
加えて、雫や楓が持つ杖の先には、無色透明な水晶が装着。
消費魔力を抑え、魔法を増幅させる等の効果が付与されている。
結果、量産品にも関わらず、高位の冒険者が持ってもおかしくない位にぶっ飛んだ性能へ仕上がったとの流れだ。
「えい。」
「ぶべらっしゅ!」
そして先程も述べた通り、強度は折り紙付き。
強度がある=鈍器としても優秀だと捉えた雫は、向かって来たオークを殴り倒したりもしていた。
「「ブゥ!」」
視点は火燐へ。
好機だと捉えた2体のオークアーチャーが、それぞれ弓を引く。
放たれた矢は真っ直ぐ火燐へと迫るも、ひたすら大剣を眺める彼女は思考の真っ只中。
逃げるどころか、動く素振りすら見せないでいる。
尚も矢は空中を進み、あわや大惨事…になるかと思いきや。
2本の矢は、いつの間にか展開していた魔力障壁により無力化。
カンッカンッと弾かれた音により火燐がハッと我へ返り、オークアーチャー達は「「ブモッ!?」」と驚きを露に。
「ブガガッ!!」
ならばと、オークアーチャーの近くにいたオークメイジがファイアボールを行使。
「…残念だったな。」
「「ブヒィィッ!!」」
しかし冷静にさえなってしまえばこちらのもの。
火燐は軽々避けた後、オークアーチャーへ急接近。
瞬く間に2体共倒してみせた。
「…火燐ちゃん、油断し過ぎですよ…?」
「わりぃわりぃ。助かったぜ楓。さて…。」
火燐に魔力障壁を施したのは楓。
訝しがる彼女に軽く詫びを入れつつ、火燐は先程魔法を放ったオークメイジの方を向く。
「そのオークメイジ、いっただきぃっ!」
「ブ、ブゥ…?」
臨戦態勢を取るオークメイジ。
しかしそんな彼へ対し、真っ先に対応してみせたのは翡翠だった。
少し離れた位置にいる翡翠がテンション高めで矢を放ち、吸い込まれる様にしてオークメイジの側頭部へ。
オークメイジは「え、えぇ…?」と気の抜ける様な声を最期に、矢が刺さったのとは反対方向へと体を傾けていく。
「あーーーーー!?翡翠おまっ!!」
「へへーーーっ♪」
その光景を目の当たりにした火燐が不満を吐露するも、翡翠はどこ吹く風。
ただただ得意気な顔を浮かべるばかりだった。
「…ん。終わった。」
一方の雫。
ハイオーク達を倒し終えた彼女は、やりきった感を出しつつ一息ついたところだった。
と言うのも、雫が小柄。
加えて先刻の殴打を見るに、もう同じ魔法は撃てない…とでも考えたらしい。
指揮役であるハイオークが余裕の表情で生き残ったオーク達を雫へけしかけ、しかし悉く彼女が放つアイスニードルにより一方的に駆逐。
やがて全ての部下達が倒れ、仕方ないとばかりに自身が相手を務める。
雫はオーク達と同様、アイスニードルを射出。
1度や2度どころか、何度放ってもハイオークが持つ双剣によって砕かれ、一切通用しなかった。
当然雫にとっては面白いはずもなく、自然と渋面に。
攻撃する気も失せ、ハイオークを睨むだけに留まる。
それをハイオークは、魔力が心許なくなったと判断。
フッと漏らし、不敵に笑ってみせた。
それは優越感から来る行動。
だが戦闘中に、ましてや(あくまで思い込みとは言え)ちょっと有利になったからとして良いものではない。
現に雫はハイオークのドヤ顔を見てムッとなり、初級のアイスニードルではなく中級。
アイシクルレインと同じ立ち位置にある、アイシクルショットを放ってみせた。
アイシクルショットは対象の真上ではなく、術者の前方に魔方陣を生成。
アイシクルレインと同じく10秒間、直線方向に氷柱を飛ばすと言うものだ。
範囲こそ幾分か狭まるものの、先程のアイシクルレインとは異なり、氷柱1つ1つが一升瓶程にまでサイズアップ。
かつ発射速度が上がり、比例する形で殲滅力も増大。
ハイオークは余裕の態度から一転。
あっという間に防ぎ切れなくなり、ほぼ原型を留めない状態で事切れる結果となった。
「「ブ、ブヒィ…。」」
あれから1分近くが経ち、翡翠の矢と楓による岩の杭。
それと火燐の斬撃により、オーク2体の討伐が完了。
「よし、今倒したオークで最後だな。オレ達じゃ凛の加勢は厳しい、だったらせめて美羽の役に立つ位の事はしねぇとな。急いで合流すんぞ!」
「分かった!」
「分かりました…。」
「ん。」
火燐はオーク達が再び起き上がらないかの確認後、皆に声掛け。
翡翠に楓。
それと丁度到着した雫はそれぞれ火燐の言葉に頷く等して応え、一斉に動き出した。
時間は少し巻き戻り、美羽がオーク達の元へ辿り着くより少し前。
2体いるオークジェネラルの内、片方の全身鎧に身を包んだ個体は、左手に持った大きめの丸盾を上に掲げた状態で固定。
意識、構え共にアイシクルレインから身を守る事に専念している様だった。
故に、美羽は防御の構えを解き、動き始めるまでにそれなりの時間を要するのではと思案。
もう片方である、槍を持ったオークジェネラルを標的として定めた。
槍を持っているオークジェネラルはもう1体と異なり、動きやすくする為になのか腕や腹部が露出。
アイシクルレインを高速回転させた槍で防ぎ、並行して美羽の事を注視。
彼女の動向をしっかりと探るとの油断なさが窺えた。
「…!」
そうこうしている内に止んだ氷の雨。
槍を持ったオークジェネラルはそれが分かるや否や防御姿勢を解き、迎撃の構えを取る。
「ブモォッ!!」
続けて、それまで両手に持っていた槍を左手だけに持ち替えるオークジェネラル。
少し引いた後に左足を前に踏み出し、鋭い突きを放つ。
「そう来ると思ってたよ!」
「ブォッ…!?」
美羽はその流れを予期していた。
タイミングを見計らい、槍を突き出すと同時に跳躍。
「でぇぇぇぇやぁっ!!」
空中で姿勢を整えた彼女はオークジェネラルから後方へと降り立ち、低い姿勢で前方へ疾駆。
白と黒の双剣を抜き放ち、オークジェネラルの腰と胸部分を横一文字に両断。
見失った美羽を探し、振り返ろうとした時には既に彼女はすぐ目の前の位置に。
当然ながら対応が間に合うはずもなく、驚愕に満ちた顔ままオークジェネラルは綺麗に3分割されるとの運びに。
「ブ…ブォォォォォォ!!」
ただそれは、もう1体のオークジェネラルを怒りを買う行動でもあった。
残された個体、丸盾とブロードソードを左右の手に持ったオークジェネラルは、仲間を倒されたのを目の当たりにし、激昂。
大きな雄叫びの後にギンッと美羽を睨み、彼女がいる方向へ一直線にダッシュ。
「…ブモォォォォォッ!!」
道中、オークジェネラルは態勢を維持しながらにして丸盾を前に構え、体当たり攻撃。
「くっう…!」
「ブモォッ!!」
「きゃあっ!」
それを美羽は双剣を斜めに重ねる形で防御。
だが、更に力を加えられた事により、無理矢理空中へと弾き飛ばされてしまう。
「はぁー…びっくりした。」
しかし、美羽としては慣れたもの。
彼女は凛やマクスウェルから幾度となく弾かれ、投げ飛ばされたからだ。
それらの経験から慌てる事なく空中で体勢を整え、オークジェネラルから20メートル程離れた地点に着地。
「今度はボクから行くよー!」
再度前傾姿勢を取り、勢い良く地面を蹴る。
「…。」
対するオーク。
黙ったまま剣と盾を前にやり、迎撃する構えでいる。
「やっ!」
ガィン
「ブゥゥ…ブモッ!!」
「おっと!」
低い姿勢のまま、右手に持つ白い剣を右上方向へ掬い上げる美羽。
オークジェネラルはそれを丸盾で滑らせ、おかえしとばかりにブロードソードを振りかぶるも、バックステップにより避けられてしまう。
「ブウ、ブッ!」
「まだまだ!」
オークジェネラルは更なる追撃をとブロードソードを横薙ぎ。
若しくは丸盾を使う等する。
それらを美羽は軽い跳躍だったり、天歩による2段ジャンプで回避。
そのまま、同じく天歩で生成した足場を利用し、空中にいながらにしてオークジェネラルへと吶喊。
オークジェネラルは驚きこそしたものの、どうにか丸盾で防御。
攻撃失敗を悔しがる彼女を尻目に、今攻撃されては堪らないとして仕切り直しを図った。
それから2人は数分程度、斬り結んでは離れるを繰り返す。
「モブァッ!!」
しかしオークジェネラル側が焦れ、一気に勝負を決めようとでも思ったのだろう。
気合いを入れ、丸盾を前に構えつつ渾身の力でブロードソードを振り下ろした。
「はぁぁぁああっ!!」
対する美羽は冷静そのもの。
双剣で攻撃を受け止めた後、交差する形で斬り上げ攻撃を放った。
それは彼女の華奢な体には不釣り合いな程に強い力。
加えて、ここへ来て初めて大きく優位に立った場面でもある。
オークジェネラルはショックを隠し切れなかった。
彼女の見た目に反する力強さは勿論。
武器だけでなく、前方に構えていた丸盾までもが上方向へと弾かれ、強制的に万歳の様な体勢にさせられたのだから。
「やあぁっ!!」
「ブ、ブヒ…!」
そんな隙だらけの状態を美羽が見逃す道理はなく。
今度は袈裟斬りと逆袈裟斬りをぶつけ、オークジェネラルの胸に大きな傷を付ける事に成功。
オークジェネラルは驚愕に満ちた顔のまま、ゆっくりと仰向けに倒れていった。
「よし、終わり!」
「あー!…ちくしょう、間に合わなかったか…。」
美羽が双剣を鞘に戻したタイミングで、残念そうな表情の火燐が到着。
「あっ、火燐ちゃん!そっちも無事に終わったんだね!」
美羽は火燐の声に反応して後ろを振り返り、嬉しそうな様子でトトト…と火燐の元へと向かう。
「ああ、どうにかな。」
「…となると、後はマスターだけか。まさか(オークキングに)負けるなんて事はないよね…?」
「そうだな…ま、いざとなったらオレ達も加勢すりゃ良いだけの話だ。」
「そうだね。」
会話中、美羽は火燐の後方にいながらにして手を振り、近付いて来る翡翠達に小さく手を振る形で応えた。
そして話の最後。
火燐と共に複雑な表情を浮かべ、敬愛する主がいる方を向く。
その凛はと言うと。
自身の相手であるオークキングの苛烈な攻めをひたすら防ぎ、受け流し、躱す事に専念。
倍近い背丈から繰り出される攻撃は1撃1撃が鋭く、重い。
まともに当たれば彼とて無事では済まず、そんなヒリヒリ感…つまり命のやり取りを凛は噛み締めていた。
何故なら最終試験含め、マクスウェルと過ごした日々はあくまでも研鑽が目的。
先程のオーク3体に至っては、とても戦いとは呼べるものではなかったからだ。
本当の。
また初めてとも言える戦闘を凛は肌で感じ、気迫や凄まじさ等を学ぶつもりで臨んでいるのが真相だ。
そんな栄誉ある(?)初戦闘の相手、オークキング。
彼は集団の先頭にいたのに加え、これまで培った経験から、真っ先にアイシクルレインの危険性を察知。
走る速度を上げ、(アイシクルレインの)範囲内から真っ先に抜け出し、無傷で済ませた。
そんなオークキングだが、名前にキングが含まれる通りオーク達の王。
彼らを束ね、率いる立場にある。
なのでこの場に於いて自分が1番上だと信じて疑わず、後ろにいる部下達へ一顧だにしない。
むしろ自分の元へ向かって来る凛へ格下の分際で…と怒りの形相に変わり、怒涛の攻撃を仕掛けるとの流れに。
「ブモォォォォォォォォォッ!!」
凛はある程度雰囲気に慣れたのか、防御中心からやや攻めの姿勢へと転向。
オークキングの勢いの乗った斬撃を打刀でギンッと防ぎ、荒れ狂う竜巻の様なラッシュをキンキンキンキン…と打ち返す。
続けての大振りに対しては打刀をやや斜めに傾け、ギィィ…ィンと逸らしてみせたりもする。
「ブォーーー!」
これに納得いかないのはオークキング。
目の前の人間は身体、武器両方が細身。
なのに何故自分と対等に渡り合えるのか。
分からない、本当に分からない。
だがそれ以上に不遜である…とでも言いたげに叫び、バスタードソードを力任せに横へ一閃。
「おっと。」
丁度頭の位置に来た事もあり、凛はしゃがんで回避。
すると普通に避けられた腹いせか。
将又蹴りやすい状況を作ってくれたとでも思ったのだろう。
「ブモゥ!」
コンパクトに纏まった凛に対して行われるは、右足での蹴り上げだった。
「…うわっと!」
金属製の脛当てが着いたそれが迫り来る様に、凛は瞠目。
しかし喰らう訳にはいかず、咄嗟に左手の鞘を前に。
それと少々歪ながら添える形で鐺に近い場所に右手を添え、後方へと跳ぶ。
その刹那、ガキィンと金属同士のぶつかる音が。
ただ凛の機転により衝撃は大分緩和され、ダメージはほぼ0。
態勢が悪く、余計に吹き飛ばされこそしたものの、一応は事なきを得た。
「今度はこっちから行くよ!」
そして凛も美羽と同様、マクスウェルと行った手合わせの経験から危なげなく着地。
と同時に勢い良く駆け出し、返り討ちにしてやると言わんばかりに構えるオークキングとの距離を瞬時に詰める。
「はぁっ!」
「ブモッ!」
凛は打刀で。
オークキングは両手に持った大剣で、互いに袈裟斬りを放つ。
5秒程鍔迫り合いを演じ、離れたかと思えば次の瞬間には接触。
以降も、互いが互いへ果敢に攻め込んでいく。
ややあって。
大剣と刀が打ち合っては一拍置くを繰り返した後、再びギギギギギギ…と鍔迫り合いをする場面が来訪。
本人達は真面目そのもので、そう遠くない場所にギャラリー━━━美羽達の姿が。
合流を果たした彼女達は、動向を見守りつつ、今後の参考にと凛達の戦いを観察しているとの状況だ。
「そこぉっ!」
鍔迫り合いはオークキングが両手で武器を持っているのに対し、凛は右手だけ。
つまり左手は空いている状態だ。
また2回目ともあって、凛の心に芽生えた少しの余裕から出た行動。
左手に持つ鞘を器用に逆手から順手へ持ち替え、力いっぱいオークキングの腹へ突き立てた。
「グブゥゥッ!」
オークキングは動きやすくする目的で軽装を身に纏っているとは言え、それでも全てが鉄製。
特に彼は群れの1番上を理由に、最も良質なものを選択。
また、場所が場所なので他の箇所よりも分厚くもなっている。
にも関わらず、凛の突いた鞘から聞こえるはドゴッとの鈍い音。
鉄板越しにオークキングの腹へめり込ませ、彼を20メートル以上も吹き飛ばしてしまう。
これに驚いたのは美羽達だ。
勿論オークキングも虚を突かれた事に違いはないのだろうが、自分達にはとても真似出来ない芸当。
4人が4人して『えーーーーーっ!?』と驚愕に満ちた顔で、オークキングが放物線を描きながら飛んで行く光景を眺めていた。(雫だけはおーっと感心)
オークキングは一旦着地こそするも、先程のショックが尾を引いたのだろう。
蹈鞴を踏み、足の縺れから尻餅を突いていた。
更に10秒近く呆け、そこからようやく立ち上がろうとするのだが、思う様に足腰へ力が入らず、体の芯へズキリと響く鈍い痛み。
結果、立ち上がるまでに結構な時間を要し、しかも真っ直ぐではなくよろよろ。
息はふっふっふっふっ…と小刻み。
顔は苦痛から来る渋面で、腹部に左手を当てているとの観点から、どうやら先は長くなさそうなのが見て取れる。
何より、今の攻防だけで格の違いが分かってしまった。
互いに疲れた様子こそ窺えないものの、相手は自分以上に落ち着いており、むしろ泰然とした足取りで歩み寄る余裕っぷり。
このまま続けても倒せるビジョンが全く見出だせないでいる。
そんな凛にオークキングは恐怖した。
恐怖してしまった。
しかし自分は王。
こんなところで終わって良い存在ではない。
何より、オークの頂点としての矜持もある。
「グ…ブ、ブォォォォォオオオオオ!!」
オークキングは自らを鼓舞。
凛に抱いた恐れを気合いで掻き消し、一気に肉薄。
両手で持ち上げた大剣を、精一杯振り下ろした。
だが凛は軽い笑みを浮かべるだけ。
微動だにしない彼の体を大剣が通り抜け、そのままズガァァァァンと地面に叩き付けた。
殺った。
(見た目)極上の餌を失うのは非常に勿体なくはあるが、命あっての物種。
せめて残りを━━━
そうオークキングが考えた矢先。
凛の輪郭がボヤけ、まるで最初から何もなかったかの様に彼の体が霧散した。
突然の目標消失に、オークキングは目をパチクリ。
今まで戦っていた者がいきなりいなくなったのだから、仕方ないと言えば仕方ないのかも知れない。
「残像だよ。」
そんな彼の耳に届けられた、凛の声。
完全に油断していたオークキングは「ブゥ!?」と体を強張らせ、恐る恐る聞こえた方向━━━右側に顔を向けてみる。
「…と言っても分かる訳ないか。」
視界に映る凛はピンピンとしており、目が合った途端(ゆっくりではあるが)動き出す始末。
瞬時に不味いと判断し、即座に応戦の構えを取ろうとするも、それは叶わない。
大剣が地面に深く刺さっており、いくら力を込めようがビクともしなかったからだ。
ここに来て、全力で叩き付けた弊害が現れたとも取れる。
端から見ると滑稽でしかないが、オークキング本人(本豚?)は必死そのもの。
凛が近付いて来ても尚、ふんっ!ふんーーー!と引き抜こうと躍起になる。
ただ、その努力も虚しくタイムアップ。
未だオークキングは大剣に意識が向いており、少しではあるが低い態勢。
見方によっては頭を垂れている風にも感じられ、凛からすれば丁度良い高さとも。
「ごめんね。僕はやられる訳にはいかないんだ。」
「ブヒッ…。」
凛はやや申し訳なさげな顔で呟き、呆気に取られる彼の首を両腕ごと斬り落とすのだった。




