10話
そこそこ長めです。
オーク。
それは2足歩行する豚の魔物の総称の事を指す。
豚の名を冠する通り、ピンク色の肌に、太った体格。
しかも一般的な成人男性よりも大柄なのがほとんど。
ならばさぞかし動きが鈍いのだろうと思いきや、実は脂肪で覆われているのは表面部分だけ。
内側は厚い筋肉で満ち、見た目の割に意外と素早かったりする。
理性のない個体が大部分を占め、本能の赴くままに行動。
にも関わらず野生が為せる業か頭の回転がそれなりに早く、場合によっては熟練者ですら危うい時も。
そんなオークだが、1人で倒せるまでになって初めて一人前として扱われる。
なので銅級への昇格試験に於いて、オーク討伐が課題で出る位、ポピュラーな魔物とも。
討伐後、(緊張が解けるのが影響してか)肉は柔らかいものへと変化。
しかもそこそこに美味く、且つ市場に良く出回るとの観点から、こちらでも基準扱いに。
彼らは単体よりも集団での行動を好み、しかも性欲が旺盛。
雄がほぼ全部の割合を占める事から、他種族。
その中でも取り分け人間や亜人、獣人の女性を中心に襲い掛かり、子供を生ませようとする。
その子供は100%オークとして生まれるを理由に、良くも悪くも見付け次第討伐並びに駆逐が推奨されている。
話は戻り、オークと戦っている少女の全貌が明らかに。
彼女は見た目が16歳位。
白い髪を左側に寄せたサイドテールで、頭の上には淡い光を放つ天輪、背中には白い翼を。
倒れている少女も、同じく見た目が16歳位。
黒い髪を右側に寄せたサイドテールの髪型で、背中に蝙蝠の様な黒い羽、ついでに先端が尖った尻尾まで生やしていた。
白髪の少女対オーク達との戦闘が開始されてから、現時点で20分以上が経過。
目の前にいるオークだけならまだしも、倒れたもう1人の少女にも気を配っているとの状況だ。
体格の違いによる身体的疲労は勿論。
プレッシャーから来る精神疲労もかなり溜まった影響で足は震え、剣と盾を構えるのがやっとと言う状態でもある。
(うっ、意識が…あたし達、ここで終わっちゃうの?けど、それならせめて、イルマちゃんだけでも…。)
はぁ…はぁ…と息を荒げる白髪の少女━━━天使族のエルマは、限界以上に肉体を酷使した影響から意識が朦朧とし、危うく気を失いそうになるのをどうにか堪え、そんな事を思う。
突然目の前にいるオーク達に襲われ、2体は魔法でどうにか撃退出来たものの、そこで魔力が尽きてしまった。
接近戦を余儀なくされ、結果はご覧の通り。
オーク達は数的優位を利用し、後ろに倒れている黒髪の少女イルマに攻撃を仕掛けようとする。
エルマはそれが陽動だと分かってはいるものの、彼らが動けばこちらも動かざるを得なくなり、否が応でも消耗させられる。
それらが繰り返し行われたせいで全身至る箇所に擦り傷や打撲傷を負い、痛みによる危険信号から気が遠退きそうになるのを必死に我慢。
「ブゥゥッ!」
やがて3体いる内のオーク1体が駆け出し、掛け声と共に右手に持つ棍棒を大きく振りかぶる。
「あ…。」
対するイルマ。
極度の疲労から反応が遅れ、今からどう対応しても間に合わないと判断。
目をギュッと瞑り、せめて痛くありません様にと願いながら身構える。
「危ないっ!!」
そこへ、凛の渾身の体当たりがオークに炸裂。
大人と子供…は言い過ぎにしても、体格差がかなりある。
なのでオーク側が有利かと思いきや、軍配が上がったのは凛。
彼がその場に残り、オークは「ブヒイイィィィィィ…」と情けない声と共に、斜め上方向へと飛んで行った。
「…?…え?あれ?」
離れた場所からドドーーーーンと音が聞こえた気もしたが、エルマ的にそれどころではない。
攻撃が来ないのを不思議に思い、探る様にして目を空けてみれば、そこにいたのは黒髪の少女だったからだ。
オークが忽然と姿を消し、(反動により)何やら目を回しているみたいだが、とんでもない美少女の出現はインパクト抜群。
思いっ切り面食らい、置かれた現状等すっかり忘れてしまっていた。
「…って言うか誰!?」
やがて、我に返ったと同時にエルマの口から出たのがそれ。
彼女の心の底からのツッコミに、呆然自失となったオーク2体をビクッと強張らせた。
「うぅ…失敗した。もう少し強めに身体強化を掛けておけば良かったかも…。」
「あ、あの…。」
頭を振り、自らの詰めの甘さに少し落ち込む凛。
話し掛けられた事に全く気付いておらず、「ナビ、オークの強さって…」と語り出す始末。
以後彼らだけで話が勝手に進み、エルマを困惑させていく。
「助けて頂いて…って、あれ?(あたしの声が聞こえてない?誰かと話でもしているのかな?)」
《はい。一般的なオーク族は銅級の強さとされております。オークは厚い皮下脂肪の下に引き締まった筋肉がある為、見た目以上に重く、物理攻撃が効きにくくなっております。》
「だから反動が大きかったのか…。」
《尚、近くにオーク族の集落があり、オークの派生であるオークアーチャーにオークメイジ。オークの上位個体であるハイオーク。更にその上位個体オークジェネラル、それらを統括するオークキングの存在が確認出来ました。》
「この近くにオークの集落があって、ハイオークやオークジェネラル、オークキングまでいる、と…。」
「あの!すみま…お、オークキング!?」
《はい。ただ、オークの断末魔に気付いた模様。オークキングが20体の配下を連れ、こちらへ向かって来ております。》
「あー…今の悲鳴で(オークキングに)気付かれちゃったんだ。」
「え…。」
「訓練は沢山積んだけど、実際の戦闘は初めてだし、多少の心構えとかしておきたかったんだけどなぁ…けど、そうも言ってられないか。」
「………。」
エルマは目の前にいる少女の独言。
それでいて、妙に確信めいた内容に付いていけなくなったのだろう。
いつしか「私に気付いて?」アピールも控え、2体のオーク共々押し黙ってしまう。
故に、油断していた。
それも完全にとの形で。
「…そこの君。」
「…!」
突然水を向けられ、何の心構えも出来ていないエルマが「は、はいぃぃ!ななな何でしょうかぁ!?」と返す。
勢いこそ良かったものの、若干どもりながらの返事に凛がクスッと笑う。
今の彼は、地球の時と異なり里香が施した(認識をズラすとの意味での)魔力フィルターがない状態。
その可愛さが十全に表現され、思いっ切り当てられたエルマが「あ、可愛い…(キュン)」と絆されていた。
「緊張しないで。それより、怪我は大丈夫?」
(ダメ…これ好きになっちゃうやつ…ってそれこそダメダメ!だって相手は女の子だよ!?でも、本当に可愛い…。)
「あれ?聞こえてないのかな?もしもーし?」
凛の笑顔を見惚れ、何やら葛藤している内に重ねられた質問。
エルマは半ば慌てて気を付けの構えを取り、「は、はい!!」と先程以上に元気良く(?)答える。
「たっ、助けて下さりありがとうございます!おかげで、大事に至らずに済みました!」
「良かった。そう言って貰えると、こちらも来た甲斐があるよ。」
微苦笑の後、優しい笑顔になる凛。
純粋に心配してくれているのが嫌でも伝わり、「こ、これは反則だよぉ…!」とエルマの目はハートに。
彼の性根の良さが元で、完全にメロメロ状態へと陥っていた。
「…あ、そうだった。僕が体当たりをしたオークは…?」
「…!あー、その…何と言いますか…。」
しかしす冷静さを取り戻し、気まずそうに明後日の方へと視線を移す。
彼女が向いた先…高さ10メートルの位置にオークがめり込んでいるのが視認出来、少し時間を置いて「あ、あれか!」との声が。
「え、もしかして(ぶつかって以降)動いてない?と言う事は…。」
「多分…あのまま死んじゃってるんじゃないかなぁ…なんて。」
「ですよねー…。」
2人はぐったりとしたまま動く気配のないオークを目の当たりにし、同じ考えへと至ったらしい。
揃って何とも言えず、浮かべるのは引き攣った笑みのみだった。
「…まさか、こんな形で初めて命を奪う形になるなんて、予想外も良いところだよ…。」
(え、初めて?)
「けど普通に倒すより(負担が掛かるとの意味で)マシだと思えば良い、か…?それに、今は時間もない。オークキング達が来る前に、ちゃちゃっと片付けてしまわなきゃだ。」
凛は初めて奪った命に思うところがあったものの、即座に気分を変え、立ち直る。
そして軽く困惑気味の少女を他所に体の向きを変え、視線の先にいた者…オーク達を見やる。
オーク達は自分達よりも小さな見た目にそぐわず、同族を吹き飛ばすだけの力を持つ不可思議な存在…凛を前に、どう動くか決め倦ねていた。
手を出した場合、間違いないなくやられるのは必須。
逃げようにも、激突する前の速度を見る限り叶わないだろう。
それらがせめぎ合った結果、動く事を躊躇い、注意深く見るしか出来ないでいる。
何より、向こうが歩み始めてからいつの間にか手にしていた武器。
アレはヤバい。
細身ながら、自分達の頭のものと張り合うか、それ以上の威圧感を放つではないか。
ただでさえ驚きと恐怖で体が動かないのに、こちらに水を向けられてギョッとするオーク達。
ふと気付けば斬り伏せられ、碌に声も上げられないまま意識を暗転させる最期となった。
(えっ、いつの間に武器を?しかも移動まで。あたしがあんなに苦労したオークをあっさり倒しちゃった…。)
黒髪の少女(?)がオーク達の方を向いたと思ったら、戦闘まで終わっていた。
ゆっくりめに視点を動かしたとは言え、ほんの数秒の内に刃物が握られ、通り抜け様に斬り伏せたと来た。
挙げ句、返り血1つ浴びずに。
(可愛い上に強いとか、一体何なのこの子ーーー!?)
故に混乱。
眼前にいる少女は庇護したくなる見た目に反し、実は卓越した技術の持ち主だった。
どこから武器を出したのかの不明点含め、あまりにも違い過ぎるギャップに、理解が追い付かずグルグルと目を回す。
「ふぅ…。」
「(…って、あれ?何か急に落ち込んだ感じになっちゃった。)…あ、あの。」
程なくして、難しい顔で嘆息する凛を目の当たりにし、再びクールダウン。
何か思うところでもあったのだろうかと心配になり、恐る恐るながら声を掛けてみる。
「…うん?」
「あ、いえ…顔色が優れない様に見えたので…。」
「一応、僕にとってはこれが初めての実戦でさ。あ、さっきのを除いた場合ね。」
「え?あ、そう…でしたね。(と言う割には、動きに全く澱みが感じられなかったけど。)」
「うん。しかも一応は人に近い見た目でしょ?だからちょっと思うところがあって…。」
「な、成程…?」
「けど、もう大丈夫。心配してくれてありがとう。」
エルマ的に、凛がまさかお礼を述べるとは予想外。
戸惑い→驚きへと繋がり、「い、いえいえー!」と若干テンパりつつもどうにか意思表示してみせる。
「改めまして、僕の名前は凛。君達がオークに襲われてると分かって助けに来たんだ。なので事情を聞きたいところなんだけど、まずは回復してからにしようか…ハイヒール。」
天使族は光属性に適性があり、(ボロボロながら)天使であるエルマもまた然り。
そんな彼女は凛が武器だけでなく回復魔法まで扱えると分かり、即座に内心で「えっ、ハイヒール!?」とツッコミを入れる。
(この子、強いだけじゃなくて光に適性が…それに少なくとも上級はあるんだ!良いなぁ…。)
ただそれも一瞬の事。
エルマ自身あまり魔法が得意ではなく、加えて今は適性が初級にまで下がった状態。
その彼女に凛が施したのは上級回復魔法ハイヒール。
傷だけでなく骨折まで治療してくれる効果を持つそれを扱えるだけに留まらず、まだまだ余裕がありそうな雰囲気。
少なくともと零した所以はそこで、超級か。
将又最上級ですらもしかしたら使えるのではないかと、どこか諦めを含んだ羨望の表情で彼を見やる。
リルアースでは生活魔法や闇、無、それと複合属性を除く炎・水・風・土・光の5属性に回復魔法が存在。
光属性は初級〜最上級で、炎・水・風・土属性は中級と上級のみとの構図だ。
後者は光属性で言う初級と中級の効き目しかないものの、あるのとないのとでは雲泥の差。
パーティーだったり行商、有事等の際は特に重宝がられる。
肝心の光属性は女神教が躍起になって動いており、フリーで出会える確率はまずないに等しい。
可能性があるとすれば、女神教の目が届かないよう上手く立ち回る。
或いはそもそも機会すら作らせないを目的に、可能な限り外へ出さず、屋内で過ごさせる等して徹底的に秘匿…的な感じだろうか。
1度連れ去ってしまうと会うのが難しくなり、適性次第では高い地位に据え置かれて余計に困難へ。
それが身分の違いへと繋がり、今生の別れになるケースも少なくないから来ている。
ともあれ、そんな回復力に差がある光属性だが、超級と最上級になればどちらも失った部位を戻す効果がある。
しかし、今は超級のエクストラヒールまでしか使える者がおらず、世界的に見ても人数はそう多くない。
理由は勿論、必要以上に危険を冒さないから。
ここでも安定を求めるとの弊害が。
加えて費用の問題。
初級回復魔法ヒール、及び中級回復魔法ミドルヒールは擦り傷や軽度の斬り傷を回復。
上級回復魔法ハイヒール、それと超級回復魔法エクストラヒールに関しては先述の通り。
そして最上級回復魔法パーフェクトヒールに至っては、(戦闘や事故等で発生した)瀕死レベルの傷や損傷まで完治。
更に聖なる光により、あらゆる状態異常を瞬時に無効化。
病気(地球で言うところのガン)ですら、ある程度の効果を及ぼす程だ。
だが属性に適性がある=攻撃魔法も回復魔法も同じ位使える人材は稀。
大抵が攻撃側。
若しくは防御や回復に重きが置かれ、それをカバーする目的でもう片方を使用する流れとなる。
上級の攻撃魔法は扱えても回復魔法は使えない、又は反対と言う者はザラ。
そもそもこの世界では熟練と呼べる魔法使い自体が希少。
回復魔法まで使える者は更に希少と言うのも重なり、腕の良い魔法使いを巡っての争いも決して少なくないのだとか。
「…これで大丈夫だと思う。」
凛が翳した手を下ろす。
本来、エルマは傷の具合からして、ヒールでも十分と言えば十分。
しかし凛は念の為にと言う意味も込め、ヒールではなくハイヒールを選択肢として選んだ。
「…回復ありがとうございます。凛様ですね、あたしはエルマと言います。」
「エルマさん、僕は様付けで呼ばれる程偉くないよ?」
エルマは年頃の外見、つまり大人だ。
なのでちゃんは論外、いきなり呼び捨ても何なのでさん付けを選んだ。
「そうなんですか?先程の動きに加え、ハイヒールも使えるからあたしてっきり…。」
「ま、まぁ僕の事は置いといて。エルマさんと、その…。」
追求されては不味いと判断した凛は、適当に話を濁しつつ未だ目覚めない黒髪の少女━━━イルマに視線を移す。
「あそこで倒れてる子の事ですよね?彼女はイルマって言います。」
「イルマ…顔だけじゃなく、名前まで似てるんだね。」
「そうなんです!あたしは天使でイルマちゃんは悪魔。種族的には敵対している者同士だから仲は悪いですけど、あたし達はとーーーっても仲が良いんですよ!」
先程までの控えめの姿勢とは打って変わり、(身振り手振りを交え)嬉しそうに説明するエルマ。
それはイルマのすぐ傍で行われ、「う、う〜ん…」とイルマが魘された顔をしている様な気がしなくもない。
凛はそんな2人を微笑ましく思い、くすりと笑いながら「エルマさんが必死でイルマさんを守る位だもんね」と返す。
「はい!それで、あたし達はちょっとした事情で2人旅をしているところです。」
「え、君達2人だけ?それだと危ないんじゃ…。」
「仰る通り。ですがまぁ、あたし達は見ての通り、翼があります。なので危なさそうな場面に遭遇しても、飛んで逃げてました。」
「…けど、この近くで休憩していたところをオークに襲われた、と。」
「そうなんです!と言うか良く分かりましたね!?」
「何となくそうじゃないかなぁって思って…。」
「そんなに分かりやすかったかな…?あ、話を戻しますね。気付いたら既に下からオーク達が石を投げてる状態で…しかも運悪く、その石がイルマちゃんの頭に当たっちゃって…。」
話しながら、エルマはイルマの前でしゃがみ、優しい手付きで彼女の頭を撫でる。
「(地面に向かって)落ちて行くイルマちゃんをどうにか支え、あたしが守らなきゃって思いでひたすら頑張りました…。」
エルマは言葉にこそしなかったものの、慌ててイルマの後を追い掛け、翼をはためかせながら落下速度を低減。
右手でエルマの体を抱き抱え、反対の手で持った盾でオーク達からの攻撃を防いでいた。
「あれ?今更ながら、良くあんな器用な動きが出来たな…。」
「見てないから多分としか言えないけど、物凄く集中したとか。イルマさんを大事に思うあまり、普段以上の力を発揮したとかじゃないかな。」
「あー、確かに。何が何だかと言う感じではありましたね。すっごく集中していた事だけは覚えてますが…後は凛様が来るまで、ひたすらイルマちゃんを守りながらオーク達と戦ってたって感じです。かなり限界に近かったですし、もし凛様が来て下さらなかった場合の事を考えると…。」
「…だね、間に合って良かったと心の底から思うよ。これがもっと遅かったらなんて…想像したくもない。」
「はい…あたしも同じです…。」
眉を顰める凛にエルマが同調、顔を真っ青にした。
オーク達の襲撃をこうして凛が未然に防いだ訳だが、これが後1分でもズレてたらエルマは気絶。
1時間もすれば既にオーク達の集落へ連れ去られているだろうし、明日以降だとどうなっていたか分からない。
良くてオーク達の子を宿しているかも知れないし、生きているかどうかすら怪しい。
どちらにせよ、『普通』に戻る事はまず困難だと捉えて良いだろう。
凛の救出は正に間一髪。
PTSDにならずに済んで良かった、と密かに胸を撫で下ろした。
「もうすぐここは戦場になる。だからイルマさんは安全な場所へ━━━」
「マスターーー!!」
今後の方針について凛が話していると、遠くから叫ぶ声が。
これにエルマが何事かと身構え、聞こえた方角に視線をやればそこにいるのは数人の少女。
パチパチと目を瞬かせ、あれ?見間違いかな?と言いたげな顔を凛に向ける。
「大丈夫、僕の仲間だよ。だから安心して。」
「良かったー!オークキングが来るって聞いてたのに、実際に見えたのは女の子ばかりなんですもん。あたしの目がおかしくなったのかと思いましたよ。」
「オークキング?…あー、さっきのやり取りが聞こえてたんだ。なら勘違いしても仕方ない、のかな?」
「やっと追い付いた!」
凛とエルマが会話のやり取りをしている間に美羽達が到着。
笑顔の美羽が先頭で、その後ろに火燐達が続く形だ。
「皆、お疲れ様。かなりギリギリではあったけど、どうにか間に合う事が出来たよ。こちら、天使族のエルマさん。あちらにいるのは悪魔族のイルマさんね。」
「初めまして、ボクは美羽って言います!」
「わわっ!こちらこそ初めまして!あたしはエルマです!」
凛の紹介を受け、美羽が挨拶。
それに恐縮しつつエルマも応え、ペコペコと頭を下げ合う。
(背中に翼が!触らせてってお願いしたら触らせてくれるかな?)
(凛様もだけどこの美羽って人可愛い過ぎるよー。うぅ…笑顔が眩しくて直視出来ない…。)
ただ内心ではそんな事を思い、美羽は合間合間にエルマの翼をチラ見。
その美羽が尊いあまり、エルマは目を必死に閉じるとの但し書きが付くが。
エルマと倒れているエルマを見比べた雫達は「双子?」と言いたげな目線を凛へ送っており、当人は当人で「2人共、元気だなー」と、のほほん。
「凛。」
そんな感じで軽くグダり始め、話が進まないと判断されたのだろう。
火燐に促され、凛はんんっと居住まいを正す。
「ゆっくり自己紹介をしたいところだけど、そろそろオークキング達が到着する頃だし、後にしようか。それとゴメン、誰かイルマさんの回復をお願い出来る?」
「回復なら私が…アースヒール。」
凛の目配せに逸早く反応したのは楓。
イルマの下へ小走りで駆け寄り、土系上級の回復魔法アースヒールを発動。
彼女が持つ杖の先端から、淡く光る茶色い球みたいなものが放たれ、「え、もしかして今のも上級回復魔法?」とエルマが釘付けに。
初めて見るタイプの魔法にそのまま意識を持っていかれそうになるも、それは叶わなかった。
「エルマさん、今回は時間がなくて間に合わせのものになっちゃうんだけど…。」
と言って、凛がどこから(実際は無限収納)か鈍色の剣と盾を取り出したからだ。
「え…?い、いえっ、わざわざありがとうございます!(あれ?いつの間に剣と盾を?それにどこから出したんだろう…。)」
まさかの展開に自分でもビックリな速さでそちらを向き、沢山の疑問符を浮かべながら半ば半壊した武具とチェンジするエルマ。
「ひとまず、これで大丈夫だと思います…。」
そうしている内に楓の回復が終わったらしい。
やり切った顔を浮かべる彼女へ、早っ!?とのリアクションをエルマが取っていた。
「どうにか間に合ったか…。」
ギリギリとは言え、エルマ達を救うミッションを終えた事に凛は安堵。
続けて、ドドドド…と地響きが届けられる様になった後方を向く。
視線の先…500メートル程離れた地点。
こちらへ向け、真っ直ぐひた走るオークの集団を確認。
その集団のほとんどは、身長180センチ前後の者で構成。
棍棒だったり、刃の欠けた切れ味悪そうなボロボロの剣を持つオーク。
そのオークと同じ風貌でローブを羽織り、杖を持ったオークメイジ。
それと、同じく弓と矢筒を携えたオークアーチャーの姿も。
他に、身長2メートル程で剣を左右に持ったハイオーク。
ハイオークより40センチ位高く、重そうな全身鎧と槍。
或いはブロードソードと丸盾を携えた2体のオークジェネラルが、オーク達の前を走る。
そして、そんなハイオークやオークジェネラルの更に前方、身長が3メートル以上はあるオークキングがいた。
オークキングはオーク達を率いる形で先頭を走っており、(オークジェネラル含め)誰よりも質の良さそうな軽装を着用。
そして右手には、刀身だけでも凛の身の丈以上の長さを誇る、肉厚且つ重そうな黒い大剣を所持している。
「エルマさんはここで待機。イルマさんの守りをお願い。」
「はい!」
「火燐、雫、翡翠、楓はオーク達を。美羽は片方のオークジェネラルをお願い。余裕の出来た方が、もう片方のオークジェネラルとハイオークをって事で頼むね。」
「分かった!」
「ああ!」
「ん。」
「任せてー!」
「分かりました…。」
「僕は…先頭にいるオークキングの相手をさせて貰う!」
皆の頼もしい返事を背に、凛はオークキングへと焦点を定め、前方へと駆け出すのだった。




