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ゆるふわふぁんたじあ(改訂版)  作者: 天空桜
辺境都市サルーンとそれを取り巻く者達
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94話

その頃、トルテが店長を勤めるスイーツ店では。


「ふぅ。」


ガイウスがコーヒーを一口飲み、カップを皿の上に置いた。

彼の向かい側にランドルフが座り、その隣に凛や美羽が座る。

ランドルフも同じくコーヒーを口にし、ガイウスとランドルフの前にはワッフルとスコーンがそれぞれ添えられている。


店内は若い女性が多く、男性はいたとしても付き添いで10代か20代。

そんな中でおっさん…加えるなら強面な2人が静かにコーヒーを飲む姿は中々にシュールな光景らしい。


先程から注目を浴び、じっと見続けられるか、「何でここにあの2人が?」と言ったひそひそ話が絶えないでいる。




凛達が店に到着し、スイーツを注文した所でガイウスとランドルフが合流。

現在、美羽達はスイーツに舌鼓を打ち、トルテはにこにことしながら凛の傍で控えている。


ガイウスとランドルフが飲むコーヒーはコーヒーマシンから抽出されたエスプレッソで、他にもカフェラテやカプチーノ、ココアが同じマシンで淹れられる。

喫茶店にも同じマシンが導入されており、他にもキャラメルマキアートやバニララテ等のメニューが。


因みに、食べ物飲み物を含めたメニューで温かいカフェラテ(猫や兎等の可愛い絵柄付)がダントツで1番人気となっている。


「はぁ。本当に、王国の貴族共は碌な者がおらん。」


ガイウスは溜め息をつき、非常に辟易した様子で愚痴を零す。


「保養地にしたいとの言い分は分からなくもないが…。」


サルーンは徹底的に美化に(こだわ)っており、どこを見てもほとんどゴミが落ちていない。

幾つかのマンションでは、併設する形で公園と公衆トイレが設けられ、人々の憩いの場に。


凛達がいるスイーツ店を含め、街の中心付近には高級料理店が点在。

また、すぐ近くには道具屋や魔道具店がある等の利便性の高さから、屋敷と呼べる物件は貴族達が挙って購入していっている。


「あやつらめ…ジラルド卿のおかげですっかり鳴りを潜めておったものを…。」


商店・喫茶店がオープンした頃から他貴族のやっかみが一気に来る様になり、それは日が経つ毎に増していった。

内容は領主を代わってやるとか、知り合いの貴族や商会に紹介してやるから一枚噛ませろ。

他にも怪しげな取引だったり、酷い時は女や物、利益だけを寄越せと言う者も。


いずれも上からの物言いで、有無を言わさぬ態度。

そんな彼らの対応にガイウスは追われ、少しずつ時間が削られていく。

やがて他貴族への対応だけで1日が終わる日が散見され、このままでは破綻するとして凛とランドルフに相談。


凛からは護衛も兼ねた事務要員を、ランドルフからは何と本人がしばらくサポートに入るとの事。


「何、友人の手助けをするのは当然の努めだ。それに、これまでは伯爵以下の者達で済んではいたが、これからどうなるか分からん。侯爵以上となると流石に断るのは難しいであろうし、ドレスター卿が無理矢理条件を飲まされでもしたら、こちらにも被害が及ぶ可能性がある。それに、そろそろアン()トン()に家督を継がせるつもりだったからな、ある意味では丁度良かったのやも知れぬ。」


とは、当時ガイウスが感謝の意を述べた直後のランドルフの談だ。

ただその言葉とは裏腹に、余程頼られて嬉しかったのか物凄く照れ臭そうにしていたが。


ランドルフがガイウスの傍にいる事で他貴族への牽制にも繋がり、これによりガイウスへの無茶な要求や応接室に長居する者が激減。

それでも0にならないのが悲しい所ではあるが、それでも遠回しな皮肉だったり、ご機嫌取りがせいぜいとなった。

ガイウスは精神的負担がかなり減ったと笑顔になり、ランドルフもこれからはやりたい様に出来るからと喜ぶ。


逆に、(家督を継ぐのはまだ先だと思っていた)アントンは責任がーーー、仕事がーーーと頭を悩ませる日々が続いてるとか。


「サルーンが生まれ変わったのを期に再び言いたい放題。おかげでまた職務が(はかど)らなくなってしまったではないか。」


その様な状況下の中、サルーンは凛達の手により魔改造が施された。

貴族達は新たに生まれ変わったサルーンを見て、これから莫大な富が生まれるに違いない。

今の内に何らかの方法で関わらねば乗り遅れると思い、欲が湧いたのだろう。


ランドルフがいようが関係ないとばかりに高圧的となり、見兼ねたランドルフから叱責を受けて応接室を逃げ出し、或いは叩き出される者が後を絶たなくなった。


「ただでさえつい最近起きた出費ですっからかんになったのだ。今は少しでも早く多く稼がねばならぬと言うのに…。」


サルーンのリニューアルはほぼ凛に任せる形となり、凛もこれ幸いと姿を見えない様に(インビジブルを使用)して作業を行った。

しかし結果的にやり過ぎてしまい、ガイウスの予想を遥かに超える大都市へと変貌を遂げた。

とてもではないが街と呼べるレベルをとうに超えており、ある意味では貴族達が欲望の目を向けるのも仕方ないとも言える。


それと、凛は改造費は無料で良いとは言ったものの、試しに(ナビに)計算させてみた所、とんでもない額に。

ガイウスとランドルフは目玉が飛び出る程に驚き、ひとまずこれまでに稼いだ資金のほぼ全てを渡し、残りは毎月返済する形で落ち着いた。


「そもそも、自分達の領地から人がいなくなったのは自らの失態が招いた結果ではないか。それをさもこちらが悪い風に決め付けられても困るんだが…。」


サルーンは昨日の時点で3万人を超え、その半分以上が他の領地から移り住んだ者達で構成されている。

実力次第では成り上がれる可能性が(反対に、一気に庶民まで転落の場合も)ある帝国に対し、王国は昔から変わらず封建制度を取っている。


加えて選民思想が強く、自分達が生きていく(贅沢する)為なら住民に重税を課すのを全く(いと)わない貴族がほとんど。

例外はかつてのガイウスみたく貧しい所の領主位で、ガイウスはこれだけ発展した今でも受付時に入場税を取ろうとしない。


それが更なる人気への一助となるのだが、それに気付かない他貴族達は自分の所から住民がいなくなったのはサルーンのせいだ、損失分を補填しろと平気で宣う。

勿論ガイウスがそれを聞き入れる道理はなく、やんわりと濁しながら断り続けた。




ガイウスは午後からも貴族の相手をするのが嫌でどんよりしてしまい、凛が気分を変えようと口を開く。


「…ん?ガイウスさん。もしかしてさっき焼肉でも食べました?」


しかしガイウスの体から焼肉特有の香りがする事に気付き、鼻をすんすんとさせながら尋ねた。


「む。確かに、少しばかり早い昼食を高級焼肉店で済ませたばかりではあるが…。」


「ランドルフさんもそうですけど、服に臭いが移っちゃってますよ?」


「「な、なにぃぃぃぃぃ!!」」


スイーツ店と高級焼肉店は少し離れた所にあるのだが、関係者用出入り口から入った先のポータル同士による移動が可能。

ガイウス達はそこからスイーツ店へと移動しており、店内がほぼ甘い臭いで一杯なのに、ガイウスとランドルフの周りだけ焼肉臭が漂っていた。


因みに、家族で通える様な一般的な焼肉店や、焼肉を含めた食べ放題の店もある。


浄化(ピュリファイ)、念の為に清浄(クリーン)もっと…これで大丈夫です。」


「「(かたじけ)ない…。」」


「いえいえ。困った時はお互い様ですよ。」


「しかし…今回は凛殿がいてくれたから助かったが…。」


「うむ。これからは食事での臭いにも気を配らなければならない訳か…。」


「んー、でしたら僕が今やったみたいに、浄化や清浄の効果があるスプレーとかあると便利かもですね。」


「「それだ!!」」


後日、清浄と(聖風(風・光複合)初級魔法)浄化の効果が乗ったスプレーが発売された。

そのスプレーは吸い込むと刺激になり、体に直接吹き掛ける事は推奨していないものの、衣類や家具等は勿論。

吹き付けた布で体を拭けば、まるで入浴の後みたくさっぱりに。


しかもアンデッドにも効果があり、弱い個体ならこれ1つで倒せてしまうとあって、飛ぶように売れたとか。




「凛様、良ければこちらをお召し上がり下さい♪」


そこへ、少し席を外したトルテがホール状の卵ケーキを持って現れ、テーブルの上に置いた。


「お、卵ケーキか。シンプルな素材で出来るから好きなんだよね。皆も見てるし、甘い評価は出来ないけどそれでも良い?」


「望むところです!」


(ドレスター卿。)


(ええ。あれは恐らく、トルテ(セイレーンクイーン)の卵を使ったケーキでしょうな。)


(やはりか。ハーピーの卵ですら出回らないと言うのに、一体幾らの値が付くやら…。)


美羽達が卵ケーキに興味を示し、雫と藍火が涎を垂らす中。

ガイウスとランドルフは神妙な顔でひそひそ話をしていた。


「…うん。美味しい。」


「…!」


凛が感想を述べると、トルテはパァッと笑顔になる。


「ただちょっと焼きが甘い所があるね。…ほらここ。ここだけ少し生っぽい感じがするでしょ?多分、混ぜ方が少し甘かったからだね。その点をなくせばもっと良くなると思う。」


トルテは今でも勉強中で、凛から合格を得たものしか店のメニューに並べていない。

また、彼女はスフレ系があまり得意ではないらしく、そう言った系統はメニューに並んでいない。


「そうですか…これからも頑張ります!」


トルテは落ち込むも、すぐにふんすとやる気を出す。

それに釣られ、立派な双丘がぶるんと揺れた。


『えっっっっっろ。』


童顔なのに巨乳。

それでいて性別問わず愛想を振り撒く姿に彼女のファンは多く、女性を含めたほとんどの客が凝視。

それは多少なりとも慣れているはずのガイウスとランドルフも目を逸らす程。


だが凛達は気にする素振りを見せず、皆で仲良く卵ケーキを分け合う。




「はい、藍火。」


「どもっす♪」


「どう?少しは巡回の仕事に慣れた?」


凛はカットした卵ケーキを渡しつつ、藍火に水を向ける。


「んー、そっすねー…。」


藍火は現在、ブルーフレイムドラゴンから進化したブ()ープ()ミネ()スド()ゴン。

進化を終えた当時は黒鉄級中位で、今は神輝金級中位程度の強さを持っている。


ただ、誰もが何かしらで職に就いてる中、彼女だけは無職だった。

死滅の森へ行く以外は日向ぼっこをするかリビングのソファー等で寝るかのどちらかで、火燐から「てめぇも働け!」と蹴り出され、サルーンの巡回役に。


「ま、自分にかかれば余裕っすね!」


《どこがですか。藍火様は相手の言葉を信用し過ぎる部分があまりにも多いです。一緒に組まれる方が困っておられますよ?》


藍火は何かしらで犯罪を犯した者達から言い(くる)められる事が多々あり、その度に他の2人(3人一組で行動している為)が苦労している。

一応凛が彼女の為にと、新たに万物創造で生み出した『高速演算』と『思考加速』のスキルが付与されたはずなのだが…。


「あ、あるぇーー?そんな事は…。」


《あります。》


「くぅ…。」


ナビが断言し、藍火はガクッと項垂れる。


「ん。藍火はアホの子。だから仕方ない。」


「うむ。アホに相違ない。」


「ええ。初めて会った時から変わらずアホですからなぁ。」


「こればかりは私でもフォローはちょっと…。」


「ぬがーーー!皆してアホアホうるさいっす!!」


アホを連呼された事で藍火がムキーーと不機嫌さを露にし、店中に笑いが起きた。


「…そう言えば、商国の者がまた後で来るとか話していたが、来たとの連絡は受けていないな。とすれば、来るのは午後か?」


「いえ、ダンさん達は帰られたみたいですよ?」


ダン達は午前7時にサルーン入りし、ガイウスの所へ。

挨拶等を済ませた後に街中を周り、11時にホズミ商会で騒いで凛が来る事態となった。


「はぁ?思わせぶりな言葉を残すだけ残して帰るとは…これだから商国の者は信用ならん。」


「ドレスター卿。信用ならにとの意味では、聖国の者も似たようなものであろう。」


「ですな。ここが栄えると分かるや否や、気持ち悪い位に擦り寄って来ましたからな。あれには腹が立ちます。」


女神教の教会は変わらずそのままにしているのだが、こちらも商店・喫茶店がオープンした頃に神父やシスターがしれっと戻って来た。

しかし来たばかりの者ならいざ知らず、前からサルーンに住んでいた者達からすればとても信用ならない。


なので決して利用しようとはせず、その結果すぐに教会の悪い噂が広がり、訪れる者がいなくなった。

その事で神父がガイウスに泣き付くも「今更教会の者なぞ不要」とバッサリと切り捨てられ、取り付く島もなかった。


今では訓練場に回復要員と称し、炎・水・風・土、そして光属性が扱える者を用意。

貴族達に混じり、神父が追及と要求目的で毎日ガイウスの所に来ている。


「…とすれば、今頃は帰っている頃か。はぁ、そう遠くない内にまた来るのだろうな。」


ガイウスは溜め息と共に愚痴を漏らした。




「ぐぬぬぬぬ…まさか断られるとは…。」


ダンは商国に入った事で安堵したのか、思いっきり悔しがる。


と言うのも、凛とやり取りが出来たのは最初のオークション時だけで、以降何度打診しても断られ続けたからだ。

なので虎の子とも呼べる委任状を用意したのだが…全くの無駄に終わった。


「ですが私は諦めません。ホズミ様、私は絶対に諦めませんからねーーー!!そして上手くいった暁には、私が次の(商国)代表に…ぐふふ。」


しかしダンは特に堪えてはいないらしい。

急ぐ馬車に揺られつつ、静かに佇むアップルを他所に気持ち悪い笑みを浮かべるのだった。

新しく発売されたスプレーは凄いファ○リーズみたいなものだと思って頂ければ。

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