八十八話 銀髪美少女の正体
サファイア色の瞳を持つ銀髪美女にクズ呼ばわりをされたヘルバトス。
何か言い返してやりたいところだが、それが事実だから余計に質が悪い。
何も言い返せないでいるヘルバトスに銀髪美女は、
「人が尋ねてるのに無視するとは、本当にどうしようもねえクズだな?」
罵倒をやめようともしない銀髪美女。
ヘルバトスの目からは、一度収まったと思われていた涙が、再び頬を伝っていた。
決して恐怖の涙ではない。
突きつけられる他人からの評価に、自分のクズさを再認識しているのだ。
どうしようもない自分のクズさ。
ヘルバトスはついに求めてしまった。
「なら!あんたが!!!!あんたが俺を殺してくれよ!!!!!」
これ以上の醜態を晒したり、誰かの迷惑になりたくなかった。
一向に泣き止まないヘルバトスを見た銀髪美女は、その美しい体から伸びている腕を精一杯ヘルバトスの肩に伸ばした。
そして、憐れみを含んだ目で、
「それなら望み通りにしてやろう」
銀髪美女は、その鋭い爪をヘルバトスの心臓があるであろう場所に突き刺した。
胸には肋骨があるはずなのに銀髪美女は難なく貫いた。
ゴホ・・・っ!
ヘルバトスの口から血が噴出される。
なんでだ・・・っ!俺は死んでいるはずなのになんで・・・・!
痛い・・・っ!苦しい・・・・っ!息が・・・・っ!
おかしい、明らかにおかしかった。
先ほど息を止めても、苦しくも何ともなかったのに。
銀髪美女は、ヘルバトスに突き刺していたその手を抜き取り、ヘルバトスは必死に傷口を抑える。
ダメだ・・・!呼吸ができない・・・!熱い・・・!熱い熱い熱い熱い!
痛みが感覚麻痺を起こし、熱を含み始める。
やがて座る込むヘルバトスに銀髪美女は優しい口調で、
「ずっとこのキャラを演じるのは少しばかりきついな・・・。ここからは本来のボクで話をするとしよう。と言っても今はそれどころではないかな?」
ヘルバトスは、必死に生きようと足掻いているように見えた。
殺せと言ったのは君の方なのに・・・、と溜息を吐きながら、下を向くヘルバトスの顎をクイっと上に持ち上げる。
「君が殺せと言ったのになぜ生きようとするのかな?」
「そ、それ、は・・・」
「なんだ、「死」を自覚した途端に命乞いをする?仮に助けたとして、臆病者でクズな君を助けるメリットがボクにはあるのかな?」
確かに彼女の言う通りだった。
こんな人間は生きていたって仕方がない。
だったら、もう「死」を覚悟するしかないのか?
人間性そのものを変わるという根拠はどこにある?
双方、どちらにしても時間が解決してくれるわけもない。
どちらも、ヘルバトスの意思が必要だった。
だが、肝心なヘルバトスは・・・
死にたくない
死にたくない
死にたくない
死にたくない
唇を力強く噛みしめ、必死に生きようとするヘルバトス。
そんな姿を見て銀髪美女が何もしないはずがない。
彼女は、滴れるヘルバトスの唇から垂れる血を拭い、それを自分の口へと持っていく。
そして彼女はそれを・・・・・・・・・・舐めた。
その瞬間、ヘルバトスの心臓に強大な負荷が掛かる。
吐血し、瞳からも涙に混じって血液が止まることなく流れた。
そんなヘルバトスに、彼女は笑った顔で語り掛ける。
「君の血は、やはりまずいな。少し君には期待していたんだけどな」
「き・・・たい・・・・って?」
「おや、まだ喋る気力が残っているのか・・・前言撤回しよう」
すると彼女は赤く染まるヘルバトスの瞳を近距離で見ながら、
「君の力の根源は何なんだい?ボクに教えてくれないかな?」
力の根源・・・?そんなものはどこにもあるはずがない・・・・
ゴホ・・・・っ!
出血死しそうな勢いで血が止まる気配がない。
呼吸もしていないはずなのに、しているかのように苦しかった。
一言も話せないヘルバトスに彼女は、
「全く、君は根性はあるのに小心者だね。いつから君はそんな風になってしまったんだい?」
「いつ・・・から・・・て・・っ!そん・・・な・・の・・・!」
最初からだと言おうとした途中、彼女は割り込んで、
「最初からじゃないよね?ボクは君のことをよく知っている。そして君もボクのことを十二分に知っているはずだよ?」
「お・・れは・・・・あん・・たの・・・こ・・とを・・しら・・ない・・・っ!」
「まあね、ボクも今の君を知らない」
彼女の言っていることが分からなかった。
彼女自身もヘルバトスのことを知らないと言ったのにも関わらず、ヘルバトスのことを知っていると証言している。
話が完全に矛盾していた。
そんな違和感に触れることなく、彼女はさらに話を進めて行く。
「ドラゴンの聖域に行ったのにも関わらず、君はなぜ本当の力に目覚めない?」
「い…ったい!どう・・いう・・こ・・・とだ!」
「おかしいな、ボクは人を見抜く力があるはずなんだけどな」
「お・・・い!俺の・・・・しつも・・・・ん・・・にこ・・た・・・えろ!」
睨みつけるヘルバトスに彼女は笑って問いかける。
「なんでボクが君に答えの鍵を渡さなきゃいけないんだい?だから君はいつまで経っても成長しないんだよ。まあ、少しは面構えが変わったかな?」
すると彼女は、弱り果てているヘルバトスの唇に自身の唇を一寸の狂いもなく重ね合わせた。
ヘルバトスの潰された心臓が飛び跳ねそうになるのも無理はない。
こんな美女に口付けされたのだ。
びっくり以外の他に言葉が見当たるわけがない。
彼女は満足がいったようにその唇をヘルバトスから離し、
「どうだい?傷の具合は?」
ヘルバトスは慌てて、こじ開けられたその胸部を抑えるも、そこに穴はなかった。
傷は深く残ってはいるものの、血が飛び出る気配もない。
どうやら、一命は取り留めたようだった。
「あんたは一体・・・」
「ん?ボクかい?」
「この場にあんたと俺以外いない」
「ハハッ、まあそうだね。そうだなー・・・・」
銀髪の美女が目を閉じて何かを思い出しているように見える。
そして彼女は自身の名前を口にした。
「ボクの名前は、テレナシア。天使から堕ちた堕天使と言ったところかな?」
「堕天使・・・」
「おいおい、君から聞いといてなんで離れていくんだい?酷いじゃないか、こう見えても一人の女の子なんだよ?」
手を招くようにそう言うテレナシア。
堕天使と言われて距離を置かない人間はいないだろう。
「堕天使がいるってことは少なくてもここは地獄ってことか?」
「いや?違うよ?」
「じゃあここは天国なのか?」
「天国でもないよ?」
「じゃあここは・・・?」
天国でもなければ地獄でもない。
だとしたら、この世界は一体どこなのか?
テレナシアは最高級の笑顔でこう告げた。
「馬鹿だなー、君は。ここは君の意識の中に決まっているじゃないか。君は息を止めても痛みを感じなかった。それがまさに証拠じゃないか」
確かに、五分だけだったが苦痛は感じなかった。
もし仮に彼女の言う通り、この世界がヘルバトスの意識空間だとしたら不可解な点が二つ。
一つ目は、なぜ先ほどは痛みを感じたのか。
テレナシアに胸を貫かれた時は確かに痛みを感じた。
痛みを感じると言うことは、痛覚が正常に働いているということになる。
息を止めていたのに苦痛を感じないのと、胸を貫かれて苦痛を感じるのでは、完全に話が矛盾していた。
ヘルバトスはテレナシアに、
「でも、胸を貫かれた時には確かに痛みを感じたんだが、それはどういうことなんだ?」
「ボクが直接痛みを与えていたわけじゃないんだよ?君自身が自ら痛みを与えていたわけさ」
「どういうことだ?」
「さっきも言っただろ?ここは君の意識の中だって」
テレナシアの言っていることがイマイチよくわからない。
ヘルバトスが理解していないことをよくわかっていたのかテレナシアは、ヘルバトスの頭に指をさし、
「君は意識という言葉の概念を深く考えたことはないかい?」
「意識の概念?」
「そう、意識というのは対象を認識する心の働き。もし仮に君が誰かのことを好きになったとしよう。その時君が取る行動をボクに聞かせてくれないかな?」
「何か引っ掛けとかあるのか?」
「そんなものはないよ。ただボクが気になっただけさ」
「絶対に言うもんか!」
堕天使にそんな恥ずかしいことを言えるはずがない。
第一に誰かを好きになったこともないヘルバトスに考えようのない質問だった。
テレナシアは残念そうな顔で話を次に進めて行く。
「つまりはね、君が思っていることが直接君の体に働きかけているということだよ」
「俺が思っていること?」
「そう、例えば君が意識の中でボクの接吻で興奮して、脳がそれを錯覚し体に働きかけるというわけさ」
「俺は別に興奮してない」
「あれ?そうかな?鼻息も荒かったし、顔も紅潮していたはずだけど?」
テレナシアは人の感情に酷く敏感なのだろうか。
悔しいが、テレナシアが口にしているヘルバトスの辱めをピンポイントで当てている。
それともヘルバトスの方が顔に出やすいのだろうか。
どちらにせよ意識を読まれている以上、彼女の前では下手な事を考えてはならない。
そのせいで、テレナシアとどのように接すればいいのかわからなくなってしまう。
ぎこちないヘルバトスにテレナシアは、
「おや?まさか本当に興奮していたのかい?」
「興奮何てこれっぽっちもしてにゃいからにゃ!?」
「ふふ、そんなに噛むほど慌てなくてもボクは君にこれっぽっちも興味はないんだ」
「それは俺も同じだ・・・。それよりさっきの話の続きだが、要するに俺が無自覚に痛いと感じたから痛みが走ったって解釈で間違いないか?」
「うん、その解釈だよ。要するにボクは何もしていないのに君が勝手に痛がった、素晴らしい勘違いってわけさ」
「言い方をもう少し考えてくれ・・・」
「ボクは間違えたことを言ったかな?」
テレナシアは決して間違ったことを言っていない。
無意識に痛みに変換したヘルバトスの失態であり、彼女はそう思わせる状況を作っただけ。
だが、言い方がヘルバトス自身がアホみたいに思わせるニュアンスだったから、あまり気に入らなったのだ。
溜息を一つ吐くヘルバトスにテレナシアは、
「さて、話を本題に戻すとしよう。君が痛みに耐えている時にボクが言ったことを覚えているかい?」
「お互いがお互いを知っているって話か?」
「そう、それにボクと君とではある共通点があるんだ」
するとテレナシアはヘルバトスの耳元で囁いた。
「反逆者というレッテルを張られたっていう共通点さ」
「反逆者・・・?」
「その顔は、どうやら記憶はさっぱり消えてるらしいね」
ヘルバトスに反逆した覚えは全くなかった。
ヘルバトスという男は小心者の臆病者。
そんな大それたことができるはずもない。
そんなヘルバトスを前にテレナシアは、
「どうやら、ボクとの関係も忘れているみたいだね。ボクと君の間に何があったのか」
「何があったんだ・・・?」
テレナシアは、ニコリと笑い、
「ボクの口から言ったら君の成長に繋がらないよ」
「成長・・・?」
「君の成長には、その記憶が必要不可欠だと思うんだ。君の小心さと臆病さを叩きなおす良い機会にやってみるかい?」
「一体何を?」
わからないでいるヘルバトスにテレナシアは笑って答えた。
「それは後でのお楽しみだよ。どうする?やるかい?君が見事にクリア出来たら元の世界へ返してあげよう」
「いや・・・それならやらないかな・・・」
わざわざ、恥をばら撒くために元の世界へ戻りたいわけじゃない。
それなら、このまま意識の中で留まってた方がよほどよかった。
断りを入れるヘルバトスにテレナシアは、
「まあ君に拒否権はないんだけどね・・・?」
「え・・・」
次の瞬間、黒一色だった床がいきなり抜けて、ヘルバトスはそのまま真っ逆さまに落ちていく。
「おい!どういうことだよ!!!おい!テレナシア!!!!!」
ヘルバトスは必死にテレナシアに問い詰めるも、どうやら声は届いていないらしい。
そしてヘルバトスはそのまま自由落下していったのだった。
「さて・・・君は記憶を無事に取り戻し、ボクを受け入れるかな?それとも拒絶するかな?君が戻ってくるのを楽しみにしているよ」
この言葉を最後にテレナシアはヘルバトスの意識の中へ消えていった。
本日も最後まで読んでいただきありがとうございます!
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夏休みに入り、これからは書き終えたらすぐに投稿していこうと思います!
改稿作業も同時に進めて行こうと考えています!
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