八十三話 正解と不正解
ドレイニーに色々と確かめたいことがあった。
だが、全てを聞き出そうとするには多大な時間を有する。
ヘルバトスはポイントを絞ってドレイニーに聞くことにした。
ポイントは大きく分けて三つ。
まず一つ目は・・・
「「ミラボレアの尻尾」の件で色々聞きたいんだが・・・」
今回この地にやっていたのは言うまでもなく、ミラボレアの尻尾の入手だ。
ヘルバトスがそう言うと、最後まで話す時間を与えないようにドレイニーは、
「ああ、欲しいってことかい?」
「まあ、端的に言えば?」
「その件に関しては問題ないさ。もう用意してあるから」
ドレイニーは人の心でも読めるのだろうか。
先ほどもヘルバトスが考えていることをピンポイントで当ててきたのだ。
ドレイニーにそのような能力があっても不思議ではない。
ドレイニーは、両の掌で拍手するかのように二回ほど叩いた。
すると、襖の先から黒スーツを着た護衛の竜人が畳の部屋へ入室し、ヘルバトスにミラボレアの尻尾を差し出した。
何が起こっているかわからないまま、ヘルバトスは手を差し出しミラボレアの尻尾を受け取った。
その様子を窺っていたドレイニーはニヤニヤしていた。
「まるで私が心を読んだかのような顔をしてるね?」
「違うのか?」
「違う違う。私にはそんな能力はないよ」
「じゃあどうしてわかったんだ?」
心が読めなければ、どうやってヘルバトスの思考を読んだというのか。
謎が深まる中、ドレイニーは隣で居座るメイシアの頭を撫でながら、
「簡単な話だよ。あの祠を目掛けてくる人は絶対と言っていいほどに、ミラボレアの尻尾狙いなんだ」
「それじゃあただの勘ってことか?」
「まあそんなところだね」
「なんだ、そんなことだったのか」
「あなたは私を買いかぶり過ぎだよ。私はそんなに大した女じゃないよ」
無事にミラボレアの尻尾を手に入れたヘルバトスが次の話題に転換しようとした時だった。
ドレイニーの横で座っていたメイシアが突然倒れたのだ。
それはもう、気持ちよさそうな吐息をつきながら。
「あらら、どうやら寝ちゃったみたいだね」
「悪い、すぐにどけるよ」
「私に気を使わなくてもいいよ」
「そうか?」
「うん!そうそう。それに、まだ聞きたいことはあるんでしょ?」
ヘルバトスが聞きたいのは残り二つ。
そしてヘルバトスが先に聞いたのは・・・
「六純天使の攻撃を受けた人を復活させるにはどうすればいいんだ?」
「ふーん、なるほどそう言うことか。要するに呪いの解除の仕方を知りたいんだね?」
「話が早くて助かる」
するとドレイニーは険しい顔をして、
「簡単な話。六純天使をどうにかしない限り解除することは不可能なんじゃないかな?前にも六純天使に呪いをかけられた人がいたけど・・・」
「その人はどうしたんだ?」
「色々やっていくうちに力尽きてしまったみたいだよ?だから残された方法がそれだけってわけさ」
「なるほどな」
どうやらゼランが聞いた風の噂は概ね当たっていたようだった。
ゼラン達は六純天使からの恵みを受けた種族を殺す方法で動いていたが、真実はその中にいる六純天使を殺さなければいけないというわけだ。
「その六純天使を殺す方法はあるのか?」
「さっきも言ったけど、前歴がないんだ。みんなが崇める最高神だから殺そうとする人はそうそう現れないんだよ」
「そういうことか、分かったありがとう」
「役に立てなくてごめんね?」
「いや、耳よりの情報を手に入れたと思ってる」
正直、前例の話を聞けただけでかなりの進歩だった。
無駄な時間を作らずに済んだのだから。
前例者がしていないことをすればいい。
ただそれだけの話。
そうと決まれば、ヘルバトスがやるべきことはただ一つ。
六純天使が宿っているであろう、六宝剣の勇者を殺すことだけだった。
そんな耳よりな情報を提供してくれるドレイニーにヘルバトスは、
「ドレイニーは一体そんな情報をどこから仕入れてるんだ?」
それが三つ目の問いだった。
その問いかけに対して、ドレイニーは笑って答えた。
「古龍種族は時間を操作できる龍種だという話は知っているかな?」
「ああ、聞いたことがある」
「それなら簡単な話、自身の時間を止めたのさ」
そう淡泊に話すドレイニーのせいで、その会話文の中に違和感があることに気が付けなかった。
そして気が付いた時には、驚愕の内容に腰を抜かしそうになる。
「は!?時間を止めるって一体どういうことだ?」
「お?今日一番で食いつきがいいね?」
「当たり前だろ!それで、一体どういうことんだ!」
食いつくヘルバトスにドレイニーは腕を組み、自慢げな顔をしながら、
「時間を止めるのは膨大な魔法を要するわけ。んで、本当は成竜人になってから時間操作が使えるんだけど、私は生まれつきその能力が備わってて、物心ついたタイミングでその能力を使ったわけ」
「そういうことか」
「それにプラスして家柄も良かったからドラゴン令嬢になってしまったというわけなのです!」
「ちなみに今いくつなんだ?」
自身の時を止めるとなれば、長い年月が経過しているだろう。
ヘルバトスはどうしても気になった。
ヘルバトスの問いに対し、ドレイニーの目から段々と光が褪せていく。
「女の人に年齢を聞くのはマナー違反じゃないかな?」
「それは・・・」
ドレイニーの意見に対して反論することができない。
いや、反論してはならないの間違いだ。
ドレイニーの目の奥から怒りのような感情が垣間見れた気がした。
そして、ヘルバトスの本能がこう叫んだのだ。
反論してはならない・・・と。
だからヘルバトスは、ひたすら反論を述べずに黙り続けた。
その光景がよほど面白かったのか、ドレイニーの目から笑みがこぼれた。
「ハハハ、そんなに気に病まないでよ。ジョークだよジョーク」
「いや、マジで笑えないから」
「いやいや、笑うところだから」
「じゃあ、年はいくつなんだ?」
「んー、大体五百歳ってとこかな・・・・・・なんで黙り込むのさ、笑ってよ」
五百年生き続けていると言われて笑うやつこの世界にいるだろうか?
少なくても、ヘルバトスには笑えない冗談だった。
「いや、どうリアクションしていいかわからなくてさ・・・」
「いや、普通はわー!すげー!って驚くところでしょ!」
「それ笑ってなくね?」
「・・・・・・ハハ!」
何とか笑ってごまかそうとするドレイニーにヘルバトスは、
「その五百年に友達一人もできなかったのか?」
五百年も気を使って生きるのは肩が狭いだろう。
全く同じ境遇とは言えないが、ヘルバトスも奴隷生活で気を使いながら生きてきた。
だが、ヘルバトスとドレイニーでは時の長さがまったく異なる。
ヘルバトスは約十年。ドレイニーは五百年。
扱いはいいと思うが、それなりに気を使って五百年孤独に生きてきたと考えるだけで耐えられそうになかった。
ドレイニーは自分の膝の上で寝ているメイシアの可愛い頭を撫でながら視線を落とし、
「友達・・・と呼べる人はいなかったな。親しく話せる竜人はいたけどね」
「それは友達じゃないのか?」
「うーん、どうだろう。あっちはそんな風には思っていなかったと思うよ?」
「そんなこと聞かなきゃわからないだろ」
「そうだけど、もう聞けないんだよね。あなたならこの意味が分かるよね?」
その先はドレイニーが直で告げられなくても予想はできる。
だから、ヘルバトスはある方法をドレイニーに提案した。
「お前の時間操作で何とかならないのか?」
「過去に戻すってこと?」
「そうだ」
過去に戻れば、ドレイニーが寂しい思いをしなくて済む。
だが、現実はそう甘くなかった。
目線を下に落とすドレイニーの顔から自然と笑みが湧いて出る。
「そうだね、できるならそうしたいかもね」
「だったら・・・」
「でも、過去に戻しても大賢者による悲劇は変わらない。それでもあなたは世界よりも親しい友かどうかもわからない竜人をとるの?」
ヘルバトスにはわからなかった。
そんな世界という大規模な物と友と呼べるかどうかもわからない人を比べたことないから。
そんなヘルバトスが、ただ一つだけ言えること。
それは・・・
「もし、お兄ちゃんと世界のどちらかを取るとするなら、俺はお兄ちゃんを取る」
返しきれないほどの恩があるから。
決意に満ちた目をするヘルバトスにドレイニーは、
「だから言ったでしょ?私は大した女じゃないんだって。親しかっただけだから世界の方を取る。最低な女だよ」
呆れたように笑うドレイニー。
だが、この問いを提示した時、一体どのくらいの人が世界と選ぶだろうか。
恐らく半々。フィフティー・フィフティーだろう。
だから、この問いに恐らく答えはない。
それなのに、なぜヘルバトスは何も言えなくなってしまうのだろうか。
ヘルバトスはドレイニーの悲しい顔を見るだけで、何も言葉をかけられない。
なぜだ?
ヘルバトスが黙り込んでいるのを見計らって、
「ここに長居させても悪いし、また適当なタイミングで遊びに来てよ!歓迎するから!」
「あ、ああ・・・」
ドレイニーがメイシアを起こしている間にも、何も言葉をかけることはできなかった。
そして中央広場に辿り着き、何も言わないまま龍の町、ドレグリニアをヘルバトスとメイシアの二人は後にした。
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