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『六宝剣』に選ばれなかった異端者  作者: うちよう
三章 ヘルバトス編
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八十二話 苦痛と過去とそれから・・・

 中央に掲げられたドラゴンの旗を中心にいくつかの商業施設が並んでいた。

 初めて見る文字で何が書かれているが全く見当もつかない。

 そんな商業施設から外れた位置に大きく佇む屋敷。

 ヘルバトス達がドレイニーに案内されたのは、まず初めにその屋敷であった。

 その屋敷に通じる門には、二頭の金でできたドラゴンの彫刻が置かれている。

 その彫刻を拝見させてもらうだけでドレイニーが令嬢であることは確実だった。

 そんなドラゴン令嬢であるドレイニーに案内されるがまま、屋敷の中を歩き続けること十分。

 ヘルバトス達は、とある一室に招かれた。

 その部屋には木で作られたテーブルが一つ。

 そして、どこか懐かしいような香りに加えて刺激的な部屋の匂いが鼻の奥まで貫通させる。

 その異様な匂いにメイシアは、


 「何だかこの部屋くさーい」

 「この匂いは一体?」


 ドレイニ―は、ヘルバトスの問いかけに笑って答えた。


 「この匂いは畳と言って、イグサという植物を編んで作ったものなんだよ?」

 「へえ、この世界の植物でこんなものが作れるのか」

 「いや?この世界にはない代物だよ」


 ドレイニーがそう言うとヘルバトスは当然のように困惑した。

 この世界に存在しないなら、一体どうやってそのイグサという植物を手に入れたのか。

 そんなヘルバトスにドレイニーはゆっくりとその畳に足を踏み入れ、後方に立つヘルバトス達に、


 「せっかくここに来たんだ。全てを打ち明けるつもりだよ?」


 ドレイニーは、自分の特等席であるかのように迷うことなくその位置に座り込んだ。

 畳という概念を知らない二人は恐る恐るその畳へと感触を確かめた。

 初めての感触に違和感を覚えた。

 普通の床とは違い、何やら柔らかい。

 一言でいうなら、落ち着かないと言った感じだろうか。

 ドギマギする二人に、ドレイニーは優しく語り掛けた。


 「そんなに狼狽えなくても大丈夫だよ。すぐに慣れるって」

 「そういうものなのか?」

 「そういうものなんだよ。ささ、早く沢山語り合おうじゃないか」


 ドレイニーはその木でできたテーブルをこれでもかというくらい平手打ちする。

 見たところドレイニーは興奮状態にあったようだった。

 何に興奮しているかわからないドレイニーの対極に二人は座り込んだ。

 そして・・・


 「ふふん、さ?何から話そうか?」


 どこか嬉しそうなドレイニーにヘルバトスは、


 「なんでそんなに嬉しそうなんだ?」

 「まず、そこから聞きたいかい?」

 

 するとドレイニーは顎のラインに手の平を合わせて、うっとりするようにヘルバトス達を見つめた。


 「久しぶりなんだ。こんなにも気を使わなくて語り合えるのが」

 「なんだ、気を使わない友と呼べる存在の一人や二人いないのか?」


 ヘルバトスは軽い冗談のつもりでそんなことを口にした。

 だが、冗談が冗談ではないと気が付いた時にはすでに遅かった。

 ドレイニーは寂しそうな顔をして、


 「誰も令嬢を友達になろうとする竜人、いるわけないよ」

 「令嬢ってそんなに悪い立場なのか?」


 令嬢というのは、要するにお嬢様だということだ。

 その身分ゆえに誰からも憧れられる高嶺の花で、無償でチヤホヤされる存在だと思っていた。

 どうやら現状はちょっとばかり違うらしい。

 悲しそうな顔をしたドレイニーは、


 「全然悪くないよ、ただ畏れ多いのかみんなとは壁を感じるだけさ」

 「なるほどな」


 目上の人に、フレンドリーな関係を築いてはならない。

 当たり前の常識だった。

 だが、その常識がドレイニーと他の竜人と距離を作っているのだ。

 そんなことも知らずに無神経なことを言ったヘルバトスは、罪悪感にその身を蝕まれた。

 一体ヘルバトスはどんな顔をしていたのだろう。

 自身の顔は鏡で見ない以上、知る由もない。

 ドレイニーはこの短時間で見せたいつも通りの笑顔で、


 「そんな辛気臭い顔しないでよー。これでも今は幸せなんだよ?」

 「そうなのか?」

 「そうだよ?だって、こうして君達とフレンドリーみたいな感じで話ができてるんだからさ!」

 

 その笑顔がヘルバトスにとって、とても眩しかった。

 理不尽に叩きのめされ、孤独に生きながらもそんな笑顔が作れるのだ。

 仮にそれが偽物の笑顔でもヘルバトスには到底できる代物ではなかった。

 そんな前向きなドレイニーに、何か特別な感情がヘルバトスの中で芽生え始めた、その時だった。


 グハ・・・!


 強烈な胸の痛みがヘルバトスを襲った。

 胸焼けとか胸骨骨折とかそういう次元の痛さではない。

 その痛みによって呼吸困難まで誘発してしまう。


 息が・・・息ができない・・・!


 そんなヘルバトスにメイシアとドレイニーがすぐさま寄り添うのは当たり前の話だった。


 「ヘルにい!」

 「どうしたの?大丈夫?」


 二人が懸命にヘルバトスに呼びかけるも、どうやら耳にまで障害が至ったみたいだ。

 二人の声が遠くから呼びかけているかのように何を言っているのか聞き取りづらかった。

 そして、とうとう意識まで朦朧としてきて、もうだめかと諦めかけたその時。


 貴様は・・・その程度なのか?


 まただ。またしても謎の若々しい女性の声が聞こえる。

 それは不思議と二人よりも、近くから声が掛けられている気がした。

 朦朧とした意識から何とか脱したヘルバトスは辺りを見渡すも、メイシアとドレイニーの姿しかない。

 一体誰がヘルバトスに語り掛けているのだろうか?

 そもそも、ヘルバトスを囲むこの二人にはこの声は聞こえていないのだろうか。

 答えを導きだせないヘルバトスに再び、謎の女性から呆れたように声がかかった。


 やれやれ、貴様はまだその程度というわけだな・・・

 

 その言葉を最後に女性の声は完全に消え去った。

 それだけではない。胸の痛みさえもまるでなかったように綺麗さっぱりなくなっていた。

 残ったのは、荒れた呼吸だけだった。

 そんな過呼吸気味のヘルバトスにドレイニーが優しく背中をさすった。


 「大丈夫?」

 「あ、ああ、問題ない。心配かけたな」

 「ヘルにい大丈夫ー?」


 ヘルバトスに向かって身を乗り出す様に心配をするメイシア。

 そんなメイシアに、ヘルバトスはその綺麗なメイシアの頭を優しく撫で、メイシアはいつも通りの気持ちよさそうな顔をしながらヘルバトスにくっついてくる。

 その光景を見て一安心したのか、ドレイニーは元の定位置へと戻っていく。


 「今の発作はいつも起こるの?」

 「いや、今のが初めてだ。何が原因でなったのか見当もつかないのだが・・・」

 「私もわからないな。あの異常な程の苦しみ方は正直見たことがない」

 「今までに同じ症例のやつがいなかったというわけか」


 症例がない以上、改善する余地もないというわけだ。

 またあの痛みが襲ってくると思うと恐怖でしかない。

 ヘルバトスは必死に思い当たる節を探す。

 ヒットしたのは・・・


 「声が聞こえたんだ。女の人の」

 「声?」

 「聞こえなかったか?」

 「え、ええ・・・全く」

 「その声が消えたと同時に痛みも治まったんだ」

 「!!!」


 その案件にはどうやら心辺りがあるようだった。

 わざとらしいその驚愕を披露したドレイニーは恐る恐るヘルバトスに尋ねた。

 

 「あなた・・・まさかだと思うけど、大賢者と何かしらの接触はあった?」

 「大賢者?」

 「そう、あなたの症状。間違いない。あなた・・・」


 そして、ドレイニーはその重い口をゆっくりと開いた。


 「呪いをかけられているわ・・・」

 「呪い・・・?」


 当然、ヘルバトスは大賢者に掛けられた呪いなど知るわけがない。

 そんなヘルバトスにドレイニーは、


 「それじゃあ昔話をしよう。まずは四体の龍王の存在は知ってるかな?」

 「ああ、大賢者を倒したって言うあれか?」

 「ふーん、なるほど。そこからこじれているというわけか」

 「どういうことだ?」


 確かにメイシアと呼んだ本では大賢者は倒されたと記されていた。

 だが、ドラゴン令嬢であるドレイニーは衝撃的なことを口にした。


 「それ、逆なんだよ」

 「それって?」

 「つまり、大賢者が龍王を殺したんだよ」

 

 ヘルバトスは、ドレイニーから告げられた真実かもわからないその事象に戸惑いを隠せなかった。

 本の中では大賢者が倒されていたのに、現状は龍王が倒されたと言っているのだ。

 困惑するのも無理はない。


 「じゃあ、なぜあの本には大賢者が負けたことになっていたんだ?」

 「そもそも大賢者は嫌われる存在。欲望のまま生き、邪魔なものは呪いで排除していたと言われているわ。生きていても嫌われる存在だから少しでも生きやすいように話を作り返ったんじゃないかな?・・・誰かの手によって」


 そんな邪険にされるような存在を庇う者が現れるとするならば、どういった連中が話を作り変えたなど容易に思いつく。


 「大賢者を崇拝する何者かってところか?」

 「大体そんなところだろうけど、あなたは少し勘違いをしてる」

 「勘違い?」


 ヘルバトスの勘違いを訂正するようにドレイニーは真実を告げた。


 「大賢者は生きてる。龍王のユニークスキル「根性」を奪い取って」

 「おい、待てよ。龍王のユニークスキルを奪われたのはいつなんだ?」

 「大体千年前って所かな」


 衝撃に衝撃が重なり、また衝撃が重なって・・・・

 ヘルバトスに驚きしか与えなかった。

 千年生きる人種など聞いたことなかった。


 「龍王のユニークスキルの「根性」の能力は?」

 「攻撃に耐え凌ぐことができれば死なないという不死の能力」


 要するに、「根性」をもつ龍王は大賢者の攻撃に耐えられなかったということになる。 

 ただでさえ、六純天使という害悪がいると言うのにさらなる害悪が現れるとは。

 

 「ハハハ、そう言うことか。崇拝じゃなくて信仰ってことか・・・」

 「ご名答」

 「なあ?その大賢者の呪いを解く方法はないのか?」


 下を向くドレイニー。

 言われずとも答えは見えていた。

 龍王をも殺す存在だ。

 そんな大物の呪いを解く方法などはただ一つ。

 それは、本人に解いてもらう他ないだろう。

 だから、従者に解いてもらうのは不可能。

 ヘルバトスの予想通りにドレイニーの口からは同じことを告げられた。

 大賢者の存在すら知らないというのに一体どうやって解除してもらうのやら。

 そもそも、大賢者は犯行的にヘルバトスに呪いをかけたのだ。

 そう簡単に解除してくれないなど目に見えていることだった。

 

 「だとしたら、俺はこの呪いを受けたまま生きて行かないといけないわけか?」

 「大賢者をどうにかしない限り、その生活が続くと思うかな?」 

 「そうか・・・なあ気になったんだが、まさかお前達が別次元で暮らしてるのって・・・」

 

 ヘルバトスは薄々勘づいていた。

 だが、確認しなくてはならない。

 今後ともこの竜人種だと思われるドレイニー達と平等な関係を築くにはどうしても知らなくてはならないことだった。

 ヘルバトスの真剣な眼差しに根負けしたドレイニーは洗いざらい話した。


 「あなたの考えていることで間違いないと思うよ。私達は大賢者によって逃げざるを得ない状況に陥った。それで今の状況に至るってわけさ・・・」


 ヘルバトスの知らない間に過酷な運命を突きつけられたのだろう。

 俯くドレイニーになんて声をかけたらいいかわからない。

 ヘルバトスは奴隷生活で過酷を味わってきた。

 だが、ドレイニー達が体験した過酷は、それ以上のものだ。

 下手な同情などしてはならなかった。

 そんなヘルバトスよりも先に口を動かしたのは隣で大人しく聞いてたメイシアだった。

 メイシアはドレイニーの隣にチョコンと座り込み、ヘルバトスがメイシアによくやることをドレイニーにしていた。

 そう、頭を撫でていたのだ。

 流石に令嬢相手にそれはいかがなものかと思ったが、どうやら効果はあったようだ。

 ドレイニーの顔から笑顔が溢れ出し、そして・・・


 「メイシアちゃんだっけ?ありがとう」

 「いえいえ、友達が困ってたら助けるのが友達でしょ?」

 「友達・・・」


 その友達という響きが気に入ったのかドレイニーは、


 「私達は今日から友達!」

 「うん!友達!」


 ドレイニーとメイシアはお互いの小指で指切りをした。

 そんな仲睦まじい光景の中、空気を一切読まない人物が一人。

 その一人こそ、ヘルバトスだった。

 気を遣って何も言えなかったヘルバトスは、


 「まだ聞きたいことはあるんだ。大賢者の話はこのくらいにして先に進んでもいいか?」

 「あ、うん!次は何を聞きたいのかな?」

 

 ドラゴン令嬢との会談はまだ続くのだった。

 


 

 

 

 

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

続きが気になるようでしたらブックマーク・評価お願いします!

次の更新は8月2日の0時になります!

今後ともよろしくお願いします!

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