八十一話 ドラゴン令嬢との契約
メイシアが子供かどうかの話はさておき、ヘルバトス達はどうやらドラゴンの聖域に足を踏み入れたらしい。
だが、そんな話は今回の依頼に全く関係のない話だった。
ヘルバトスは再び短刀の鋭い刃先をドラゴンに向けた。
「お前がミラボレアで間違いないか?」
もし仮に、目の前にいるこのドラゴンがミラボレアだとしたら、その刺々しい尻尾を切断して持って帰らなければならなかった。
ヘルバトスに与えられた依頼は、ミラボレアの尻尾の納品。
ヘルバトスは、目の前にいるドラゴンがミラボレアか否かだけの情報しか欲していなかった。
そんなヘルバトスの眼光を受けたドラゴンは、
まさか、私は令嬢だと言っただろう?一般級ドラゴンと一緒にされると困るなー
「お前が普通のドラゴンとは違う証拠を見せろ」
このドラゴンが嘘をついている可能性だってある。
証拠を見せられなくては納得しようにも納得できなかった。
激しいヘルバトスの威嚇を受けるドラゴンは、仕方がないようにヘルバトスから少しだけその身を引いた。
そして・・・
ボン・・・!!!
ドラゴンから、またしても煙が発せられ周囲一帯を取り囲む。
ドラゴンの行動がいちいち読み取れないヘルバトスは、当然のように警戒態勢を取る。
メイシアはメイシアでヘルバトスの背中に身を潜めていただけだった。
その煙が発せられてから二分と言ったところだろうか。
長く感じたその二分間の間に状況は一転した。
先ほどそこまでいたはずのドラゴンの姿がなかったのだ。
あれほどのスケールの持ち主なら、逃亡したとしても気が付かないわけがない。
だとしたらドラゴンは一体どこへ・・・?
空、大地、周囲、全てを探してもドラゴンの姿はなかった。
ただ、代わりと言っては何だが、大地の上に小さな女の子が一人。
一体どこから紛れ込んできたのだろうか。
その女の子の特徴を簡単に説明すると、肩までしかない金髪の髪に、ルビーのような瞳。額には二本の小さな角が生えていた。
そして背中には、未熟にも小さな羽が生えていて、女の子の容姿を一言で表すとしたら「小悪魔」だった。
先ほどのドラゴンの話が本当なら、この場にはドラゴンに関連した者しか入れないということ。
だとしたら、この女の子もドラゴンと何かしらの関係を持っているということになる。
だが、警戒するかしないかと言うのはまた別の話。
得体の知れない存在が目の前に現れたとするならば、警戒するのは当然の本能的行動であった。
そんなヘルバトスにその小悪魔系女の子は、
「そこまで警戒されるとさすがに気付つくな。あなたが証拠を出せと言ったのに・・・」
ヘルバトスに短刀を向けられて、落ち込む小悪魔。
やがてヘルバトスの短刀は落ちて行き、そして・・・
「貴様は?」
「だからさっきから言っているだろう?」
ジト目でヘルバトスを見つめる小悪魔は、ヘルバトスとある程度の距離を詰め自身の正体を明かした。
「私がドラゴン令嬢、ドレイニー。ようこそこちら側へ」
この小悪魔の正体は、さっきのドラゴンが擬人化したもので間違いなかった。
そんなドレイニーの言葉の中に、多少なりの違和感があった。
「こちら側って一体どういうことだ?」
「あなたはさっきから質問が多いね?」
「知らないことばかりだからしょうがないだろ」
何がそんなに可笑しかったのか、ドレイニーは口に手を当ててクスクスと上品に笑っていた。
その仕草から察するに、令嬢かどうかわからないが、階級が上の者で間違いなかった。
気が済んだのか、ドレイニーはヘルバトスの目を見て、その問いに正直に答えた。
「さっきの私からの攻撃。あれは簡単な試練だったの」
「試練?」
「そう、このドラゴンの聖域に足を踏み入れる人は、意外にも少なくないんだよ?だから私が直々にテストしていたわけ。判断材料が少ない現社会において、上の者が試練者を見てあげるのが責務ってものでしょ?だからそれに合格したあなたとその子はこちら側についたという単純な話だよ」
ニコニコしながらそう言うドレイニーに対してヘルバトスは不快な気持ちでいっぱいだった。
まず初めに勝手にテストされていたこと。
テストする分には構わないが、もしメイシアの身に何か起こったら穏便では済まされない。
サタルドスが大切にしている人は大切にしなくてはならない。
ヘルバトスの中での優先順位は、第一にサタルドスのことだった。
そんなサタルドス信者のヘルバトスの目の前でメイシアに傷をつけようものなら即刻斬り捨てていたということだ。
次に、勝手にドラゴンサイドにされていること。
ヘルバトスがドレイニーの味方になるとは一言も言っていない。
それなのに勝手に仲間にされては、誰だって気分は害される。
他にもヘルバトスが気分を悪くしている事象は数多くあるが、大半はこの二つが占めていた。
感情が積もりに積もって、ヘルバトスはどんな顔をしていたのだろう。
ヘルバトスの顔色を窺ったドレイニーは、
「そんな邪険な顔をしないでよ。もし私たちの仲間になってくれたらこの世の全てを教えようと思っていたのに」
「この世の全てだと?」
正直、ドレイシーの提案はヘルバトスを苦しめていた。
この世の全てを知るものだとしたらもしかしたら、サタルドスを救い出す何か手掛かりがあるかもしれない。
だが、ドレイニーの仲間に加わってしまえば暗黒騎士もそうだが、サタルドスを裏切ることになるのではないか?
天使と悪魔がヘルバトスに囁き続ける。
仲間になるか?仲間にならないか?
どちらを選ぶにしても、失う代償が大きすぎた。
悩み込むヘルバトスにドレイニーはさらなる追い打ちをかけた。
「この世の全てを知りたいんじゃないの?龍種の格差のこととか・・・どうして私が擬人化できるのかとか・・・この世界で今まさに起こっていることとか・・・なぜ私達他種族が人間から嫌われるのか・・・そして・・・」
ヘルバトスを誘惑するかのように、ヘルバトスの周りを永遠と回り続けていたドレイニーがピタリと喋ることをやめ、ヘルバトスの耳元で囁いた。
「六純天使とは一体何なのか・・・とかね」
ヘルバトスの中で何かが大きく動いた。
いや、その何かの正体にヘルバトスはとっくに気が付いていた。
言うまでもなく、ヘルバトスが考えていたことだった。
ヘルバトスの心が読めるかどうかなどは大した問題じゃない。
問題なのは、ドレイニーがそれらの事象全てを知っているような雰囲気を醸し出していることだった。
もちろん、ただのはったりをかましているだけかもしれないが、もしドレイニーが全てを本当に知っていたら・・・?
ゼラン達ですら知りえなかった情報を、ヘルバトスが入手できる可能性が大きく膨れ上がる。
だが、その情報を入手するためには仲間になるという必要最低限の約束は守らなければならなかった。
ドレイニーの小悪魔の囁きで一層困惑するヘルバトス。
そんなヘルバトスを見たドレイニーは何の前触れもなく、腹を抱えて笑い出した。
「あははははは、いやーごめんね」
「え・・・?」
「仲間にならなくても、あなたが知りたいことは全て教えようと思ってたんだよ?」
「は?」
「まあまあそんなに怒らないでよ。教えてあげるからさ」
教えてもらえるのなら今回はなかったことにしてやろう。
メイシアに危害を加えたわけではないしな。
冷静を何とか保つヘルバトスに、ドレイニーは人差し指を天に向けて、
「教えるにあたって一つだけ守ってほしいことがあるんだけど」
「教えてもらうんだ。一つぐらい聞いてやるよ」
そう言うヘルバトスにドレイニーはゆっくりとその口を開いた。
「仲間にはならなくていい・・・その代わりに私達と協力関係になってほしいの」
協力関係ということは、相手方がピンチに追い込まれている時に、助けに入らなければならないということ。
自己防衛を第一に考えるのなら、協力関係などには絶対にならないだろう。
だが、ヘルバトスの考えていることは第一にサタルドスだった。
サタルドスが無事に復活してくれるのなら自分は死んでもかまわない。
そう脳内に刻み込むヘルバトスにとって都合の良いことだった。
仲間にならずとも情報を得られる。
ドレイニーが窮地に晒されている場合には助けに入らなければならない。
得る情報に比べれば安いものだった。
ヘルバトスは快くその提案を了承した。
「いいだろう。協力してやる」
「そうか、そうと決まれば早速移動しようか」
「ん?移動?ここじゃダメなのか?」
情報提供ならこの場でも気にしないヘルバトス。
どうやら気にするのはドレイニーのようで・・・
「ここでは話せない理由があるんだよ。私達の里までついてきてくれる?」
情報を得られない以上、契約をした意味がなくなってしまう。
ヘルバトスは仕方がなく、ドレイニーについていくしかなかった。
そして、メイシアの意見も聞かずに話が進んでいき、メイシアは強制的にヘルバトスと一緒に祠へと向かって歩き出した。
ドレイニーについて行っている以上、どこに向かっているのかすら理解できないヘルバトス達が、祠の前まで来たと同時にそれは起こった。
視界が歪み、世界が三百六十度変わったのだ。
呆気に取られている二人にドレイニーは歓迎するように、
「龍の町ドレグリニアへようこそ!」
本日も最後まで読んでいただきありがとうございます!
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あと、一話の方から順に改稿した内容が少し変わっていますので、そちらの方もどうぞよろしくお願いします!
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