七十四話 どらごんはみんなともだち
サタルドスがヘルバトスに送った知恵を調べ始めてどのくらいの時間が経過しただろうか。
調べ学習と言い始めたゼランも、正直この作業に意気消沈し始めていた。
それもそうだろう。
今までに本を読み続けると言う習慣はなかったんだから。
強力な防御壁を張り終えたエルフミーラも協力してくれたんだが、この量はどう考えてもこの人数だけでは隅から隅まで行き届かない。
この生活を一週間続ければ恐らくは終わるだろうが、その時間が勿体ない。
ゼランは辺りを見渡すと、抜け殻のように脱力している暗黒騎士達の姿が。
そろそろ、限界か・・・
一度この作業を中断しようと指示するゼランに、邪魔する者が。
その者は、はしたない声で笑い転げていた。
「ギャハハハハハハハ!!!」
「・・・・サキュラバーニ」
ジェールナはサキュラバーニに頭の痛い子を見るような眼差しを向けながらボソっと呟いた。
ジェールナだけではない。
他の暗黒騎士もサキュラバーニの方をジェールナと同じように見つめていた。
どうやら思っていることは皆同じらしい。
だが、一体何がそんなに面白いのか。
意気消沈していたゼランはサキュラバーニの方に歩み寄っていった。
「何がそんなに面白いんだ?」
「・・・・」
ゼランが尋ねてもサキュラバーニから何も応答がない。
どうやらサキュラバーニは集中してその本を読んでいるようだった。
そんな意欲に満たされているサキュラバーニの邪魔をしないように、背中からこっそりその本の内容を見てみる。
するとそこには文字主体の本ではなく、絵画が主体の本だった。
その絵画のシーンに合わせた言葉が少し振られていて、ゼランにとってその本は初めて見るものだった。
そんな興味深い物を見てしまっては目を離せなくなってしまう。
背中越しにしばらく居続けるゼランの気配に、ようやく気が付いたサキュラバーニが良いリアクションをしながら驚いた。
「うわ!びっくりしたー」
「ああ、すまない。それよりこの本は何なんだ?」
「んーーーーーーーー、私にもよくわからないや」
サキュラバーニもこの本が一体何なのかわからなかった。
そんなサキュラバーニが馬鹿笑いする理由が一体何なのか。
ゼランの好奇心はますます上昇していく。
「それより、凄い笑い方してたけど。何がそんなに面白かったんだ?」
「あ、気になるー?」
するとサキュラバーニは数ページ逆戻りして、そのシーンをゼランに見せる。
そこに書かれていたシーンは悪魔と思われるその男が、勇者らしき男を串刺しにしているシーンだった。
ゼランの好奇心という熱が一気に冷めて行き、それと同時に恐怖が芽生え始めた。
そして、ゼランの口からは、
「お前、サイコパスかよ・・・」
真実が語られた。
いくら魔人族だからと言って、この残虐シーンであんな馬鹿笑いできるサキュラバーニの神経は異常人レベルだった。
感情移入したとしてもさすがにあり得ない。
ゼランは冷めきった表情をしながらサキュラバーニから離れていく。
「あれ?もういいの?」
「ああ、もう大丈夫だ。それと俺の半径五メートルには二度と入らないでくれ」
「なんで!?」
突然のことで頭が上手く回っていないのだろう。
サキュラバーニはゼランを追いかけるように近づくも、比例してゼランもサキュラバーニから離れてく。
気が付けばお互いは、王の間で走り回っていた。
「ちょっと!なんで逃げるの!」
「自分の頭で考えろ!」
「分からないから聞いてるんでしょ!」
一向にゼランはサキュラバーニに捕まりそうにない。
まるで無限鬼ごっこだった。
そんな二人を見つめるヘルバトスはある異変に気が付いた。
そう、こんな如何にも楽しそうな状況なのに、メイシアが乱入しないからだ。
ヘルバトスはメイシアの方を伺うと、リラックスした体制で一冊の本を読んでいた。
何やら鼻歌も歌っている。
一体何の本を読んでるんだろう・・・?
ヘルバトスがメイシアの方へ近づくと、すぐさまメイシアはヘルバトスの気配を察知した。
「あ、ヘルにい!」
「メイシア、一体何の本読んでいるんだ?」
ヘルバトスの問いかけに、メイシアは自身が読んでいたその本の表紙を見せつける。
そこに書かれていたのはいかにも低学年が読みそうな本だった。
綺麗な彩の絵が描かれており、難しい文字は一切使われていないその本のタイトルはというと・・・
「どらごんはみんなともだち・・・?」
「この本が懐かしいなーって!」
「へえ、面白いのか?」
「おもしろーい!ヘルにいも一緒に読んでみる?」
目を輝かせながらヘルバトスを見つめるメイシア。
当然、ヘルバトスは断れるはずもなく・・・
「い、一緒に読んでみようかな?」
「わーい!」
するとメイシアは、座り込むヘルバトスの太ももの上へと座り込んだ。
ヘルバトスにはメイシアがなぜ自分の太ももの上に座り込んでくるのか分からなかった。
ヘルバトスの年はメイシアと同い年ぐらいだ。
そんな女の子がいきなり同い年の男子の膝の上どころか太ももの上に座り込りこんだら動揺するも無理はない。
ヘルバトスは一般人よりもこういうシチュエーションの耐性がないため、余計に動揺してしまう。
そんな慌てふためくヘルバトスを見てメイシアは、
「どうしたの?ヘルにい?」
メイシアもヘルバトスが何を考えているのかわからなかった。
一緒に読むということは、つまりヘルバトス接近しなくてはならない。
そのために近づいたのに、ヘルバトスがなぜ慌てているのか。
メイシアには理解し難かった。
「ねえ、どうしたの?」
「い、いや・・・」
ヘルバトスは、とりあえず自身の太ももの上からメイシアが下りてくれることを願うものの、メイシアは一向に動こうとしない。
ヘルバトスは、優しい性格ゆえに思ったことを素直に話せない傾向がある。
そうなれば、必然的に折れなければならないのは、ヘルバトスだった。
ヘルバトスは気持ちを一旦リセットすべく、自身の両手で両頬を気持ちがいいほどに思いっきり行った。
すぐ傍にいたメイシアは、驚きのあまり上体をビクっとさせ、心配そうな顔をする。
「ヘルにい・・・?」
「大丈夫だ、問題ない。さ、この本を読もう」
「????うん?」
メイシアの頭の中は混乱していた。
ヘルバトスの言っている一言一句が理解できなかったからだ。
メイシアに相手の心を読める能力やスキルが読めるわけもなく、ヘルバトスが何と戦っていたのかも知る由もない。
だが、一つだけわかったのは一緒に本を読んでくれるということだけだった。
ヘルバトスの太ももに乗るメイシアは、まるで新世界の扉を開けるように本のページをめくった。
その絵本に書かれていた内容を大まかに説明すると、以下の通りだ。
この本の世界には龍王と呼ばれる四人の竜人がいた。
その龍王はこの地にもたらす災いをすべて退け、いつしかこの世界の英雄となった。
そこまでは、なんてことのないありふれた展開だった。
だが、話が一転するのはここからだった。
それを利用しようとした人間族である大賢者は、龍王にある命令を下した。
それは堕天使と呼ばれる汚らわしい天使を排除しろというものだった。
堕天使といえど天使は天使。
四人の龍王は賢者にそれはできないと断りを入れた。
それに怒り狂った大賢者は四人の龍王に決闘を申し込むも、龍王に勝てるはずもなく大賢者は敗れ去った。
こうして、悪を倒した龍王はみんなと仲良くいつまでも暮らしたとさ。
ここで、どらごんはみんなともだちの話は終わる。
龍王といえど、人型をしたドラゴン。
だから題名がどらごんはみんなともだちなのだろう。
だが、ヘルバトスはこの本の話に違和感を覚えた。
なぜ大賢者は無謀な戦いをしたんだ?どう考えたって勝ち目などないのに・・・
怒りに任せていたとはいえ、大賢者もそこまで間抜けなわけがないと思う。
ヘルバトスはこの違和感を一つの言葉で無理矢理繋げた。
まあ、低学年向けの本だしな。
この本は低学年向けに作られた本。
ヘルバトスの年齢的に考えるから変に感じるだけなのである。
低学年向けの本にはちょっとした違和感があったほうが面白いのかもしれない。
そう自分に言い聞かせてヘルバトスは、
「なかなか面白い展開だったね」
「でしょ!」
ヘルバトスがメイシアと本の内容について語り合っていると、元国王が帰ってきた。
そして二人は、暗黒騎士達が向かう元国王の元へと向かったのだった。
本日も読んで頂きありがとうございます!
これからも執筆頑張っていきますので、よろしくお願いします!
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