六十四話 仲間
「貴様に用はない。俺が戦っているのは金崎ただ一人だ。部外者は引っ込んでろ」
サタルドスは決して間違ったことを言っていない。
サタルドスが相手していたのは人間族の金崎という人物だ。
どう間違えても六純天使ではないことは確かだった。
「部外者?部外者なわけなかろう。彼女と我は一心同体。彼女の代わりにすべきことを遂行するだけなのだから」
「それなら、なぜ貴様が出てくる?金崎がやればいいだけの話だろうが」
一心同体というのなら、なぜ六純天使が金崎の代わりをする必要がある?
金崎が事を遂行すれば良い話なのでは?
サタルドスはそもそも知らなかった。
金崎がすでに降参していたことを。
まあ、人の心を読めない以上、考えていることを理解できないのは当たり前だ。
だから、六純天使はサタルドスに告げた。
金崎がすでに白旗を挙げていたことを。
「彼女はすでに戦意を損失していた。だったら彼女が戦う意味はもうないだろう?だから我が代わりに貴様を打ち取るのだ」
「戦う意味がない?損失したからと言って戦う意味すらもなくなるのか?」
金崎の意思はどうでもいいと言っているようなものだった。
なんだよ・・・どいつもこいつも・・・
どうしていつも俺の邪魔をするんだ?
どうして神聖な戦いに水を差す?
どうして水を差したくせにそんな平然とした顔をしていられる?
この世の中、サタルドスにとって目障りな存在があまりにも多すぎる。
ドス黒い怒りが心の底から込み上げてくる。
そんなサタルドスに対して、シュトルミエルは六宝剣であるロングソードを使い慣れているかのように振舞う。
そして、ロングソードを天に向かって振り上げた。
「ここに宣言しよう。今ここで、我がこの世の供物である魔人族を打ち取って見せる!」
供物・・・?この世界に害をもたらしてのは人間とそれに共同している貴様ら六純天使だろうが。
推測に過ぎないが、この六純天使がこの世界を作り出したのだろう。
その六純天使が作り出した法則によってこの世界は回っている。
そして六純天使は六宝剣の勇者と一心同体だとシュトルミエルが言っていた。
この理不尽極まりない世界の全てをぶち壊すということはつまり、この六宝剣の勇者とそれに憑りついている六純天使を殺せばいいということになる。
単純な話だが、六宝剣の勇者を殺すのはを身体を傷つければすぐに殺せるだろう。
だが、憑りついている六純天使はどうやって殺す?
勇者が死ねば六純天使も死ぬとは到底思えない。
何か方法でもあるのだろうか。
しかし、サタルドスに考える時間をシュトルミエルは与えなかった。
ロングソードを片手に素早く斬りかかったが、サタルドスは紙一重の所で躱した。
やはり実力の差はそこまでなさそうだ。
サタルドスは憤怒の蒼炎刀をもう一度試すが、やはり天元加護はシュトルミエル自身の能力らしい。
蒼炎が刀から出てくる気配はなかった。
仕方がない、攻撃スキルを使わずに戦うしかない。
サタルドスは一気にシュトルミエルの懐に飛び込み一撃を食らわせた。
だが、攻撃を食らったはずのシュトルミエルの体に傷一つない。
自己回復機能持ちなのか?
一旦シュトルミエルと距離を取り、シュトルミエルとの間隔を保つ。
いくら回復機能持ちとはいえ、弱点は存在するはずだ。
その弱点を探しているサタルドスにシュトルミエルは自身の目の前に円を描き始めた。
これは、金崎と同じ技か!?
すぐさまサタルドスは憤怒の絶壁のスキルを使用し、シャトルミエルの攻撃に備える。
その数秒の間で、金崎が使用していた「閃光滅砲」がサタルドスに目掛けて飛んできた。
さっきも受け止められたんだ、しかも今度は百パーセントの力。
そう簡単に破られるわけがない。
しかし、その考えが甘かった。
「閃光滅砲」はサタルドスの絶壁を簡単に破り、サタルドスの右腕を掠っていった。
掠り傷のはずなのになぜだ?
血が・・・血が止まらない・・・!?
溢れ出る血を、サタルドスは必死に止めようとするが、それに抗うように血の流れは一向に止まらない。
止血しているのになぜだ!
それに気のせいだろうか?
力が・・・吸い取られている!?
出血と同時に力までが奪われていく。
考えられるのは二パターン。
一つ目は、シュトルミエルの仕業だ。
先ほどの「閃光滅砲」に相手の能力を下げる特殊能力効果が含まれていたか。
そして二つ目が、多量出血で筋肉が硬直していっているかだ。
可能性としては恐らく、シュトルミエルの仕業の方が高いだろう。
なぜなら、このような感覚は初めてだったからだ。
クツェル戦でもかなりの血を流していたが、筋肉が硬直することはなかった。
だとしたら、身体に起こっている異変の原因はやはり・・・
サタルドスが答えにようやくたどり着いた時に、シュトルミエルの方からアクションがあった。
「どうだい?我のスキルは?」
「貴様!一体何をした!」
「簡単な話さ。我のステータス分、お前のステータスを削ったのさ」
手の内をペラペラと喋りだすシュトルミエル。
クソ・・・舐められたものだな・・・
反撃したいところだが、全く力が入らない。
シュトルミエルの能力分、能力を削ったということはつまり、サタルドスの能力はほぼゼロに近いということになる。
サタルドスの実力はシュトルミエルと同等なのだから。
すると、シュトルミエルはサタルドスに向かって、
「貴様に一つだけ教えてやろう。この体の彼女も自身にかけられた天元加護の能力を全く理解してないようだからな」
そしてシュトルミエルの口からは本来の天元加護の能力が告げられた。
「「相殺」の天元加護は、攻撃スキルを封じる他にも、自身のステータス分相手のステータスを下げることができるのさ」
さすがは六純天使と言ったところか、しっかりチート級の能力を兼ね備えている。
こんな奴に一体どうやって勝つんだ?
サタルドスのステータスは打ち消され、憤怒の吸収を試してみても全く力が入ってこない。
すでに積んでいた。
もうどうしようも状況だった。
シュトルミエルが魔人族であるサタルドスを見逃すわけがない。
サタルドスがシュトルミエルの立場だったら間違いなく殺す方を選ぶからだ。
まだシハルを助け出す手がかりを手に入れていないというのに。
すでに立つことすらできなくなってしまったサタルドスが再び立ち上がろうと全身に力を巡らせる。
だが、やはり立つことはできなかった。
真の魔人化を手に入れたというのに、まだ足りないと言うのか。
悔いながらも自身の死を覚悟する。
そんなサタルドスの目の前に人影が。
「とうとう俺に最期の時か来たか」と頭上を見上げてみると、そこにいたのはシュトルミエルではなかった。
「地面に這いつくばるなんてサタルドスらしくないぞ?」
「そうだよ、大丈夫?」
一つの人影かと思いきやどうやら二つあった。
辺りが暗くて認識しづらかったらしい。
二人の特徴をあげるとするなら、一人は黒髪ロングの顔立ちが良い女の子で、もう一人はニコニコしているお兄さんだった。
そう、ジェールナとゼランだった。
どうやらサタルドスのピンチを案じて駆けつけてくれたみたいだ。
全く、意気がって飛び出した割にはこの無様さ。
合わせる顔がなかった。
そんなサタルドスに対してゼランは肩を、ジェールナは腰を支えて俺を立たせてくれた。
「サタルドス、そろそろ「災い」が終わる。一旦魔界へ戻るぞ?」
「あ、ああ・・・」
ゼランとジェールナは驚いた顔をしていた。
恐らく、サタルドスが駄々を捏ねると思っていたからだろう。
だが、そんなことをする気力がないくらい憔悴しきっていたサタルドスの顔を見てゼランが、
「貴様、サタルドスに何をした?」
見る限り、ゼランもジェールナも魔人化百パーセントの出力だろう。
その二人が同時にシュトルミエルを威嚇する。
やめろ・・・お前らまでやられるぞ。
サタルドスはそう言いたかったが、口にすら力が入らない。
口が開かないということは喋ることができない。
サタルドスは腹話術を習得していないため、現状況では言葉を発することができなかったのだ。
身を引くように命じ、その声も届かないと思われたが、あっさりと身を引いた。
ゼラン達ではない誰かが。
そいつは自前の剣をいきなりしまったのだ。
「どうやら、ここまでのようだな。我の力ではお前の「嫉妬」と相性最悪だからな」
シュトルミエルはそう言い残し、四枚に渡るその羽でヘカベルから北の空へと姿を消した。
それと同時に空が明るくなっていく。
どうやら「災い」は終わったらしい。
ということは、生贄者がやられてしまったということだ。
正直、生贄者が誰だろうとどうでもいい。
ただ、シハルの情報を聞き出すためにはもう少し生贄者には粘って欲しいと思っただけだった。
だが、もう少しでも時間が伸びていればサタルドス死んでいたわけで。
どちらにしてもすでに終わっていたということか・・・
それを最後に、力果てたサタルドスはそのまま目を瞑った。
「サタルドス!どうした!」
「どうやら眠ったみたいだね」
「死んだかと思ったわ!心臓に悪いな」
「そうだね。それより魔界に戻らないと」
「ああ、そうだな」
そしてゼランとジェールナはサタルドスと共にすぐさま魔界へと帰還した。
今後についての大事な話をするために。




