六十三話 金崎戦の終結
サタルドスに攻略案などは存在していなかった。
ただ闇雲に走っているだけだったのだ。
いくら頭をこねくり回そうが、金崎の天元加護の前では全て無に返る。
考えるだけ無駄な足掻きなのである。
だからサタルドスは、ただ走るしかなかった。
「無駄な足掻きだな」
確かに無駄な足掻きかもしれない。
攻撃スキルは封じられた。
残されたのは自強化スキルと防御スキルのみ。
どう考えたって、今の戦況はサタルドス方が不利だ。
だが、金崎のスキルとて完璧なはずがない。
どこかに弱点が存在するはずだ。
まずはその弱点を炙り出さないといけない。
サタルドスが勢いのまま斬りかかると、金崎はその攻撃を綺麗に躱し、カウンター攻撃のようにサタルドスに一撃を食らわせようと試みる。
サタルドスはそれを間一髪で躱した。
一度金崎から距離を置き、化身の方を確認する。
クソ、まだか・・・
力の八十パーセントしか出せていないと言うのにこのままじゃ・・・
そんなサタルドスに情けを一切かけない金崎。
容赦なくサタルドスに斬りかかり、防戦一方状態に。
そんな二人の戦いに水を差す野次馬が。
「勇者様!私の仲間を奪い取ったそんな奴、早く倒してください」
「ギルシュイン。良いから黙って下がっておけ」
戦場に赴いたギルシュインが城壁の上から勇者の勝利を祈る。
その高さだと化身の攻撃は届かない。
サタルドスがそう思うわけにはもちろん理由がある。
それは、化身は一切飛ばないということだ。
サタルドスは化身がジャンプしている所を一度も見たことがない。
ジャンプすればいい場面でもジャンプは決してしなかった。
それをあの貴族は分かっていたのだろうか。
それとも、高い眺めからサタルドスが無様に負ける姿を拝みに来ただけなのか。
どちらにせよ、気分が悪い。
即刻殺したいところだが、金崎がかなり邪魔だ。
いつもそうだ。
サタルドスが相手を殺したい時には、いつも余計な存在がすぐそばについている。
しかも、サタルドスはその余計な存在を始末することができず、ターゲットすらも殺すことができない。
ああ、そうか。成長していたつもりだったんだが、ちっとも成長なんかしていなかったんだ。
金崎の連撃に耐え切れず、サタルドスは無謀状態になってしまった。
このまま死ぬのか・・・?
だが、死ぬことはなかった。
どうやら化身は相手した兵士を一掃し終えたそうだ。
力が戻ってくるのが伝わった。
そんなサタルドスに金崎が最後の一撃とロングソードを振りかざした。
相当な攻撃力なもので辺り一帯を砂の霧で覆いつくした。
金崎の視界は何も見えない。
だが、サタルドスの視界はクリアだった。
砂埃の霧が晴れると、そこにいるはずだったサタルドスの姿がない。
金崎が辺り一帯を見渡しているその時だった。
「うあああ!」
なんとも情けない声がその場に響き渡った。
金崎はその声の主を知っている。
声がする方へ視界を向けてみると、そこには腰を抜かしているギルシュインと一撃を食らわしたはずのサタルドスの姿が。
金崎はサタルドスの姿を見て鳥肌が立った。
禍々しくも、魔人の王様みたいなその姿に。
サタルドスは百パーセントの力を使ったのだ。
禍々しいオーラは出ていないと思っていたが、どうやら勇者には伝わったようだった。
「お前!その姿は・・・」
サタルドスは金崎の方を見向きもしない。
視界に入っているのはこのギルシュインという男ただ一人だった。
「た・・・助けて・・・」
「助けてだと?貴様が何をほざくか・・・」
こいつが助けを乞う理由は一体どこにある?
散々人を貶し、陥れたこいつに助けを求める権利があるのだろうか。
いや、どう考えてもない。
こいつは生きている価値はないのだから。
「じゃあな、このクズが。せいぜい地獄で生きてくれ」
「やめろー!!!!!」
金崎が止めに入ろうとするも、間に合わなかった。
ギルシュインの頭部が空中に跳ね上がることはなく、鈍い音を立ててその場に落ちた。
死を確認。
誰がどう見てももう死んでいた。
サタルドスの足元は血の海で染まっていた。
「貴様、なんで・・・」
なんで?って言われても、邪魔な奴を排除したとしか言いようがない。
過去にイザコザがあったことなど金崎が信じるわけがなかったからだ。
それに、金崎はなんでそんなに怒り狂っているんだ?
同じ種族のやつが殺されたからか?
金崎はこいつの本性を恐らく知らない。
だから、そんな顔ができるのだ。
こいつの本性を知れば、こいつが死んでも誰も悲しまないというのに。
金崎は怒り狂い、我を完全に忘れていた。
「貴様だけは絶対に許さん!」
「別にお前の許しを乞う必要ないしな。それに今のお前じゃ、俺には届かない」
実力は圧倒的にサタルドスが上回っていたのだから。
金崎のフルパワーの力が、大体サタルドスの八十パーセントと同じくらいだ。
それは先ほどの戦いで容易に把握できることだった。
だが、それだけでは終わらない。
例え、攻撃スキルが使用できなくてもサタルドスには自強化スキルが使える。
金崎が怒り狂い、サタルドスがそれを吸収し、我が力に変換する。
勝利の循環方式だった。
金崎は目の前の怒りに身を任せているだけで、サタルドスのスキルのことをすっかり忘れているようだ。
そう結論づける根拠としては、先ほどから憤怒の吸収を発動させているのだが、ステータスが今もなお増加し続けている。
このステータス相手に、例えスキルを封じたとしても勝ち目はない。
「もうお前に勝ち目はない。黙って失せれば今回だけは見逃してやる」
「魔人族ごときに同情される覚えはない!」
最後のチャンスを棒に振ったとはな・・・
それならやることはただ一つ。
サタルドスは金崎と同じ土俵に立つ。
降り立ったその衝撃波だけで実力の差が明確に表されている。
危うく金崎は吹き飛ばされそうになった。
天元加護を使用してもこれだけの力量に差があるとは。
正直サタルドスは普通の魔人族とは別次元の力を手に入れていた。
愚かにも、金崎はこの瞬間に気がついたのだ。
足掻いても届かない存在がいることを。
そして自分を呪った。
勇者という肩書きのせいで傲慢な態度を取り続けていたことを。
死にたくない・・・っ!死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない・・・・っ!
こんなことを考えたくもないのに頭の中で循環し続ける。
サタルドスの姿を見て気が動転してしまったのか、金崎は自身で勝負の敗北を認めたのだ。
「わ、私の負けでいい。だから、見逃してくれ・・・なんでもするから・・・」
一体、サタルドスの目の前で勇敢に戦える勇者はどのぐらいいるだろうか。
少なくても金崎は恐れをなして降参した。
他の五人はどうだかわからないが、金崎のメンタルはその程度だったというわけだ。
要するに金崎は勇者ごっこをしていた勇者もどきだったのである。
サタルドスが金崎に向かって歩み寄っている途中で降参した彼女の身に異変が。
ぐ、はああああ!
突如と金崎は苦しみだし、そのまま発現した光の中へと姿を消した。
このまま消えてくれるならそれはそれでいい。
だが、次に姿を現した時には見たことのない姿をしていた。
目の色が赤、黄、青、緑、紫、白と六色に渡って色付き、二枚だった天使の羽が四枚へと増えていた。
この目の色は六宝剣の色を示しているのか?
クツェルのエストックソードは確か緑だった。
そんなことよりも、サタルドスと対照的に聖なるオーラが金崎の体全体を覆っていた。
そのオーラからして感じ取れる。
金崎はこの短時間でサタルドスと同等の力を手に入れた。
一体どうやって?
そんなサタルドスに対して金崎が、
「そんなに我の力に驚いたのか?」
どう考えても金崎ではない。
金崎は一人称に我なんて言わないからだ。
だとしたら、誰かが金崎の体を奪ったのか?
とりあえず、目の前にいるこいつは金崎ではないことだけは確かだった。
「お前は誰だ?」
サタルドスの問いかけに謎の声の主は、
「我は六純天使が一人、シュトルミエル。貴様ら魔人族を滅ぼすためにこの地に舞い降りた」
六純天使って一体何なんだ?
だが、厄介な相手が降臨されたのは間違いなかった。




