百二十八話 選ぶべき道
--仕方ない・・・こうなったら自分で何とかするしかない。
ヘルバトスはミーレシアを抱き上げた。
ミーレシアの状態から考えれば、こうせざるを得ないだろう。
ミーレシアを抱え、すぐさま医療師の元へと連れて行く。これがヘルバトスのやるべき第一の行動で間違いなかった。
そして、この行動がきっかけにヘルバトスはある違和感に気が付く。
ミーレシアの一件で自分が置かれていた状態をすっかり忘れていたのだ。
ヘルバトスは、片腕の方に視線を向けるとそこには失ったはずの腕が再生されていた。
--なんで・・・?俺の腕は失われたはず・・・
そう考えるのは、サタルドスの一件があるからだ。
サタルドスは『六宝剣』の勇者が所有する『天元加護』の力をその身で食らい、『呪い』という形で今の尚、その身を蝕み続けている。
そんなサタルドスに掛けられた『呪い』が、まるで嘘かのようにヘルバトスの身には何も起こっていなかった。
『天元加護』とは一体何なのか。
--まあ、それを考えるのは後だ。今はミーレシアをどうにかしないと。
ヘルバトスは背中に氷翼を顕現させ、町に一人はいるであろう医療師の元へ飛び立とうとした時だった。
「町についてからじゃ、手遅れになるぞ?」
その声の主の方を振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
どこから現れたかわからない、少女の正体をヘルバトスは知っている。
肩までしかない金髪の髪に、ルビーのような輝く瞳。額には二本の角が生えていた。
「お前は・・・」
「やあ、久しぶり。メイシアちゃんは一緒じゃないの?」
「ああ、今は別行動を取っててな。ドレイニ―こそこんなところで何してるんだ?」
気さくに話しかけてきたのは、ドラゴンの聖域で出会ったドラゴン令嬢、ドレイニーだった。
「久しぶり」と彼女は言ったが、ヘルバトスにとっては久しぶりではない。
テレナシアから与えられた『試練』で過去に飛んだ際に、関りはなかったものの、その目でドレイニーの姿を脳裏に焼き付けてきた。
だから、ヘルバトスにとっては久しぶりではないのだ。
「何してるんだ?・・・って、その子を助けに来たに決まってるでしょ」
ヘルバトスはドレイニーの考えていることが理解できなかった。
ミーレシアを助けて、ドレイニーが得することは一体なんだ?
いくら思考を巡らせようとも、それらしい答えは見つからなかった。
考えることを放棄したヘルバトスは、ドレイニーに包み隠すことなく問いただした。
「一体何を考えている?ミーレシアを助けてドレイニーに何の得がある?」
「別に恩着せがましいことをしようと何て思ってないよ?ただ、確認したいことがあって」
「確認・・・?」
するとドレイニーは、ミーレシアの頭を優しく撫でながら衝撃の事実を言葉にした。
「この子、この数百年で何回も殺されているの。しかも同士の連中に」
「同士って巨人族のことか?何回も殺されてるって一体どういう・・・」
困惑するヘルバトスにドレイニ―はありのまま全てを明かした。
ミーレシアに確認を取ることはなく。
「この子の能力は、死ぬ度に力が増幅する能力なんだ」
「死ぬ度に力が・・・?」
「そう、能力が発現する度に仲間から殺され、そして幾度となく転生を繰り返してきた。一体何度転生したんだろうね」
彼女が酷く怯える原因はこれだったのか?
死ぬ度に力を増幅させ、簡単に人を殺せるだけの力を手に入れてしまった自分自身を恐れた。
さらに、死という恐怖が体中を支配し、脳裏に過ったと同時に死という痛覚が鮮明に思い出されてしまった。
ヘルバトスには、ミーレシアの気持ちが痛いほどわかった。
自身も死という状態感覚を痛みを通じて体験したばかりだったから。
だが、簡単にわかると言っていいのだろうか。
ヘルバトスが死を体験したのは、たかが数回。
ミーレシアが味わってきたのはその倍にも登る数だ。
彼女からしたら、たかが数回しか死を味わったことのない奴に、簡単に同情されたくもないだろう。
はっきり言って、おこがましい。
「死ぬ度に恐怖が蓄積され、彼女の精神状態を崩壊してしまった。これも全ては『呪い』のせいなんだ。だから私はここで確かめないといけないんだ。彼女が本当に生まれ変わりなのかを」
「ドレイニーお前は一体・・・」
ヘルバトスの問いかけを聞き流すドレイニーはミーレシアの治療に専念していた。
ドレイニーの手から発せられる魔法陣から、癒しの効力を感じ取ることができる。
さっきの話から察するに精神回復系魔法だろうか。
治療を完了させたドレイニーはヘルバトスの方を向いた。
その顔を見て、ヘルバトスは完全に言葉を失ってしまった。
それもそのはず、あまりにも悲しそうな顔をするドレイニーに掛ける言葉がなかったのだ。
二人の間に静寂が漂う中、先に口を開いたのはドレイニーだった。
「どうやら・・・違かったみたい・・・」
「何が違うんだ?さっきからドレイニーの言ってる意味が・・・」
言いかけるヘルバトスの間に割って入ったドレイニーは、彼に探しているものを告げた。
「私、龍王の生まれ代わりを探しているの・・・ここ何百年の年月をかけて・・・」
「・・・龍王の生まれ変わり?」
「そう、だから彼女の力に可能性を感じてたの。死しても蘇るってことは、恐怖に怯えながらも蘇ろうとするだけの胆力があるってことでしょ?だから・・・」
するとドレイニーは、はにかんだ笑顔で、
「大賢者に奪われたユニークスキル、『根性』の持ち主である『氷龍王』が生まれ変わり、力を取り戻したのだと勝手に期待してたんだ」
ヘルバトスには分からなかった。
大賢者であるテレナシアが、ユニークスキル『根性』を奪った?
それに『氷龍王』の生まれ変わり?
何がどうしてそうなったか分からなかった。
今思い返してみれば、確かにドレイニーに初めて会ったあの日、大賢者にユニークスキル『根性』を奪われたと証言していた。
だが、歴史を振り返ってみてもどこにも奪われた要素はなかった。
それに『氷龍王』の生まれ変わりはヘルバトスであり、ユニークスキルも健在だ。
どこで話がこじれてしまったのだ?
ヘルバトスはドレイニーに歴史の過ちを告げようとしたが、突如浮上してきた一つの疑問によって、言葉が詰まった。
--なんで前々から龍王の転生を待ち望んでいるんだ?
普通に考えてみれば、生きている大賢者に再び対抗してもらうために龍王の力を持つ人が現れるのを待っているのだろうが、どうもおかしい。
記憶をいくら呼び起こしても、テレナシアは『氷龍王』バルカンと共に命を落とした歴史になっている。
そして、再び大賢者の存在を知らしめたのは、ドレイニーに初めて会ったあの日だ。
なのに、何百年からも龍王の転生を待ちわびているのは明らかに矛盾が生じていた。
--ドレイニーは一体・・・何を考えているんだ・・・?
前々から成し遂げたい野望があるのは確かだが、その内容が全く見当もつかない。
--俺が『氷龍王』の生まれ変わりとだけ伝えておくか・・・そうすればその野望の正体もわかるかもしれない。
ヘルバトスはドレイニーに真実をさらけ出した。
「ドレイニー、お前に言いたいことがあるんだ」
「ん?どうしたの?」
「俺・・・実は・・・俺は・・・俺が・・・!氷龍王の生まれ変わりなんだ!」
----言ってやった。
もう後戻りはできない。
ドレイニーから難題を吹っ掛けられようとも、どうにかして成し遂げなければならなくなってしまった。
下を俯くヘルバトスはゆっくり顔を上げていくと、ドレイニーは嫌悪丸出しの顔をしていた。
当然、なぜそんな顔をされなければいけないのかが分からない。
すると、ドレイニーは過去に使っていた上級魔法『ホワイト・ホール』を使い、ヘルバトスを遠くに佇む大木に打ち付けた。
--なんだ!?何が起こったんだ!?
吹き飛ばされる理由に、もちろん心当たりはない。
ドレイニーはゆっくりとヘルバトスに近づきながら一つの武器を取り出した。
剣のリーチの部分が細く、刺突用途に使われることが多い武器。
そう、ドレイニーはレイピアを取り出したのだ。
そのレイピアの先をヘルバトスの方に構え、
「貫け、『次元突』」
レイピアを突き出した先から空気圧のようなものが飛び出し、ヘルバトスを襲った。
--さすがに躱さないと・・・!
攻撃される意味が分からなかった。
ヘルバトスが『次元突』を躱そうと大きく横に回避したその時ーーーー
--グハ・・・!
躱したはずの攻撃が、ヘルバトスの腹を貫いた。
貫かれた腹から血が多量に分泌される。
--なんで・・・!なんでこうなったんだ・・・!
腹を抑えながら蹲るヘルバトスにドレイニーは近づき、暴言を吐き捨てた。
「お前が氷龍王なわけないだろうが!私の友達のお父さんはすごく強かった。お前みたいな弱虫とは、かけ離れた存在なんだよ!二度とその単語を口にするな!」
どうやら、『氷龍王』の生まれ変わりがヘルバトスという話の内容が許せなかったらしい。
--なんで・・・なんで信じてもらえないんだ・・・?どうしたら・・・どうしたら信じてもらえるんだ・・・?
どうにかしてでも説得をしようと試みたが、ヘルバトスの体に血液が足りていないようだ。
目の焦点が合わずに、ぼんやりする。少し肌寒くもなってきた。
理不尽にも、『氷龍王』の生まれ変わりであるヘルバトスが行く道は、一度命を落とす選択肢しか残っていないようだった。
本日も最後まで読んでいただきありがとうございます!
ブックマークをしてくださった読者様、本当にありがとうございます!
面白いと感じてもらえるよう、頑張っていきたいと思います!
今後ともよろしくお願いします!




