百二十五話 蘇る悪魔
アギレオンには理解できなかった。
一度死んだ人種が再び蘇るなど、今までに経験したことがないからだ。
いや、そもそも死人の蘇生は世の理を反している。
だから、ヘルバトスがなぜ蘇ったのかわからなかったのだ。
確かに胸の中心である、心臓を貫いていた。
--なぜだ・・・?
アギレオンが一体何に困惑しているのか察したヘルバトスは、『氷龍刀』の刃先を彼に向けて言い放った。
「まあ、そんな深く考えるな。今から死ぬ人間が知る必要のないことなのだから」
「死ぬ・・・?この俺が・・・?それはない・・・なんせ・・・こっちは正義の執行者で・・・お前たちは悪人なのだから・・・世の流れというのは・・・正義か勝つように出来ているのさ・・・お前の蘇生も、何かからくりがあるはずだ・・・それさえわかれば・・・造作もない・・・」
「お前・・・残念だけど、それを見つけ出す前に死ぬぞ?」
ヘルバトスは今までにないスピードで、アギレオンに斬りかかった。
アギレオンは紙一重の所で躱し、自身が元居た大木の方に目を向けると、大木は綺麗に真っ二つに切り裂かれていた。
一本の大木ならよかったのだが、それに留まらず、均等に植えつけられていた大木の四・五本が持っていかれていた。
この大木は相当な厚さだ。
四・五本を同時に切り裂くには、人間離れした力がないとできないものだった。
「ああ・・・お前・・・化け物だ・・・殺す・・・殺さなければ・・・殺さなければ・・・」
アギレオンは自分の片腕を再生させるために、アイテムストレージから回復ポーションを取り出し片腕の復活を果たす。
「どうした、そんなにこの力がおかしいか?貧相な格好をした俺がこの木を伐り落とすことがそんなに珍しいものだったか?」
「殺さなければ・・・殺さなければ・・・ボクは・・・正義の執行者・・・悪人は・・・殺す・・・殺す・・・!」
アギレオンは、まるで手品でもしているかのようにシミタールソードを片手に呼ぶ。
そして、何の前触れもなくヘルバトスに斬りかかってきた。
アギレオンは幾度となくシミタールソードをヘルバトスに振り続けるが、ヘルバトスは難なくそれを回避し続ける。
--なんでだろう・・・攻撃パターンが手に取るようにわかる・・・
アギレオンの攻撃スピードは相当なものだと、敵ながら称賛を送るほどだ。
やはり、普通の兵士とは桁違いに強いのだと改めて実感する。
だが、勇者とはこの程度のものなのだろうか。
正直言って、攻撃パターンが安直すぎる。
それとも、この勇者だけに限った話なのだろうか。
これでは、隙を突いて攻撃してくださいと言っているようなものだ。
ヘルバトスは、アギレオンの隙を突いた一撃を繰り出した。
『氷龍刀』を使用したのではなく、己の拳でーーーー
「グエ・・・!」
人間が発する声とは思えない奇声を放ちながら、アギレオンは五十メートル離れた大木へと吹き飛ばされる。
アギレオンの口内から、血が僅かずつ漏れる。
アギレオンは歯を食いしばりながら、
「この・・・悪人め・・・こうなったら・・・お前が守るもの・・・ボクの目的を達成するため・・・壊すまでだ・・・!」
するとアギレオンは、シミタールソードの剣先をミーレシアに向けて、
「殺す・・・!『漆黒断滅』」
シミタールソードの剣先に邪悪な黒いオーラが宿り、それをミーレシアに向けて切り裂いた。
黒いオーラは、その剣先をなぞるように刃へと姿を変形し、ミーレシアに向かって一直線に飛んでいく。
恐らく『漆黒断滅』で放った暗黒刃には、ミーレシアの肉体を滅ぼすだけの力がある。
その暗黒刃がミーレシアの命を狙い撃つ。
撃ったのだがーーーー
「な・・・なぜだ・・・なぜだ・・・なぜ刃が・・・通らない・・・?」
アギレオンは自身の目を疑った。
アギレオンの切り札であろう、『漆黒断滅』の暗黒刃が一瞬で消え失せたからだ。
そして、ミーレシアの目の前に生成されたのは、巨大な氷壁。
そう、ミーレシアの命を狙った一撃は、氷という障害物によって弾き飛ばされたのだ。
その創造者は言うまでもなく彼だった。
「まるで自力が違うな・・・俺にはわからない・・・なんでこんな弱い勇者にお兄ちゃんが負けたのかが・・・」
アギレオンがヘルバトスの顔色を窺うと、そこには鬼の形相をした敵の姿が。
「ちくしょう・・・お前は・・・ここで・・・殺さなければ・・・ならない・・・!」
「もう、黙れ」
その言葉と共に、アギレオンの足元からいきなり氷が現れ、彼を拘束した。
「この・・・!この・・・!」
アギレオンは必死にその氷獄から脱しようとする。
だがーーーー
「無駄だ。お前の力じゃ、この氷獄は壊せない」
「クソ・・・クソ・・・クソ・・・!」
「お前はなぜミーレシアを殺そうとする?そんなに彼女が憎いか?殺された奴の気持ちを考えたことはあるのか?」
ヘルバトスはゆっくりとアギレオンに近づく。
ヘルバトスはアギレオンを許せなかったのだ。
ミーレシアは死にたくないと主張しているのに、目的のためだけに本気で殺そうとしていることが。
何が目的だ?
ミーレシアは誰に対しても情けを掛けられる、優しい女の子だ。
そんな女の子が黙って殺されていいはずがない。
ヘルバトスの鬼の形相に逆らうように、アギレオンも彼を睨みつける。
「俺は・・・正義・・・だから・・・お前たち悪人を・・・殺さないといけない・・・悪人に・・・情けは無用だ・・・」
「そうか、悪を断つために優しい女の子を殺すか・・・それじゃあ俺も己の正義を遂行するまでだ」
氷獄に囚われるアギレオンの右腕を狙って、ヘルバトスは『氷龍刀』を貫いた。
『氷龍刀』は見事に右腕を貫通し、滴れる血が氷に反射する。
それはまるで、赤々と光り輝くルビーのようだった。
「グハ・・・グッ・・・この・・・」
「俺は決してこんな残虐なことをしないと思っていたんだけどな?どうやら、悪人には適応外のようだ」
「悪人だと・・・?お前が・・・悪人だろ・・・正義は・・・このボクだ・・・」
「素晴らしいほどの冗談だ。そんなお前に一つだけチャンスをやろう」
「チャンス・・・?」
復唱するアギレオンにヘルバトスは言った。
「俺の兄、サタルドスに六純天使の『呪い』をかけたのはどこのどいつだ?それと、シハルという鬼人族の情報を持っているようなら洗いざらい全て話せ。どちらか話せたら、この縛解いてやろう」
「だ、誰が・・・お前たち・・・悪人になんか・・・話すものか・・・」
「そうか、それは非常に残念だよ。そしたらお前とはここでお別れだな」
ヘルバトスは『氷龍刀』を力強く持ち直し、
「あの世にいったら、六純天使に懺悔するんだな」
「お・・・おまえ・・・一体何を・・・」
アギレオンは自身の身に起こっている異変にすぐに気が付いた。
体の内側から、氷のように全身が覚めていく。
そしてーーーー
「イッ・・・ツッ・・・!」
刺されていた右腕とは別の部位である、右足がいきなり大破した。
だが、すぐ氷で血を止血しているため、失血死する心配はなさそうだ。
ただ、痛みだけがアギレオンの体を襲う。
「お・・・お前・・・何を・・・」
「お前に言うことでもないだろ?それよりも痛みに耐えることだけに集中しないと・・・死ぬぞ?」
すぐさま左足が大破し、右足同様に氷で止血される。
大破の順番、ここまでくれば誰だってわかる。
そう、血液循環する順番に大破しているのだ。
だったら、次はーーーー
「グ・・・!グ・・・!」
アギレオンは力を振り絞り、自家熱で左腕を温めようと必死に足掻いた。
だが、大破の連鎖は止まることはない。
左腕も見事に大破し、次の大破が宣告される。
「次でお前の死は約束される。精々自分の行いを悔いることだな」
「クソ・・・クソ・・・クソ・・・」
アギレオンは死から逃れようと、氷獄の中で暴れ出す。
だが、右腕以外の損壊のせいで身動き一つ取ることはできなかった。
そして、アギレオンが死を覚悟したその時----
グホ・・・!
突如ヘルバトスが血を噴出したのだ。
一体何が起こっているのか、状況が全く理解できないアギレオン。
そして、ヘルバトスの胸元を見てみると、金色に輝くロングソードが頭を出している。
ーーまさか・・・!まさか・・・!
ロングソードはヘルバトスの胸元から引き抜かれ、ヘルバトスは『氷龍刀』を手にしたまま、その場に倒れ込んだ。
右腕から『氷龍刀』を引き抜かれたアギレオンの目の前に立っている人間。
見間違えようのない金色の長髪美女。
そんな麗人はゆっくりと口を開いた。
「大丈夫ですか?アギレオンさん」
「アルフェルト・・・!」
「まだそんな喋り方しているのですか?勇者が悪人だと思われてしまいますよ?」
金崎は自身が所有する回復ポーションをアギレオンに飲ませた。
すると、アギレオンが失った手足が戻る。
だが、肝心の氷獄が解けそうにない。
「凄い硬いですね。どうすれば溶かせるのでしょう?」
「なぜここにきた・・・?早く逃げた方が良い・・・あいつは・・・化け物だ・・・」
「何を言ってるんですか?もう殺したじゃありませんか。警戒する必要なんてどこにも・・・」
金崎の思考が一瞬停止した。
それもそのはず、殺したはずの相手の姿がそこにいなかったのだから。
そして、背後から気配を感じ取った金崎はすぐさまロングソードを引き抜き、背後に振るった。
『氷龍刀』とロングソードが火花を散らしながら交わり、不意打ちに失敗した敵は一度距離をおき、怒りが最高潮まで達したのか、高らかと叫んだ。
「上等だ!貴様ら二人とも早急に殺してやる!」
最後まで読んでいただきありがとうござます!
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