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『六宝剣』に選ばれなかった異端者  作者: うちよう
三章 ヘルバトス編
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百八話 デスマッチの開幕

 「『大賢者』・・・?」


 この時代には『大賢者』という概念が存在していないため、ベクトにはそれがどういうものなのか全く理解できなかった。

 だが、それを言ってしまえばテレナシアも同じことだ。

 テレナシアも『大賢者』という概念が存在しないこの世界で生きてきたために、言葉の意味をよく知らなかった。

 そんなテレナシアはベクトに、

 

 「ボク自身も『大賢者』?というのは分からないが、何となく賢そうだったから気に入ったんだー!」


 喜びを全身で表現しているテレナシアに、鉛でできた弾丸一発が彼女に目掛けて飛んでくる。

 その弾丸は惜しくもテレナシアの一歩手前で速度を落とし、ろうそくの火を消すように優しく吹きかけると、空気に紛れるように綺麗に消え去った。

 それとは裏腹に、テレナシアの心の中で不満だけが残っている。

 突然の不意打ちを食らわせられたのだ。

 文句の一つや二つを言ってやらないことには気が済まなかった。


 「ちょっと、人が気持ちよく歓喜の舞を踊っているというのに不意打ちはどうなのかな?」


 テレナシアの愚痴に、一切耳を貸さずに発砲を繰り返す。

 簡単に吹き消せるといえど、これほどまでに発砲を繰り返されては、かなりの労力を使ってしまう。

 テレナシアは魔法で半透明のバリアを張り、銃弾を回避し続ける。

 その隙を突いたベクトが、テレナシアへと接近し、強力な一撃を食らわせようと片手斧を大きく横に振るった。

 だが、テレナシアに攻撃は届かなかった。

 余裕の笑みを見せるとともに、銃弾を回避しながらベクトの攻撃を槍で受け止める。


 「さすがは六純天使と同じだけの戦闘力があるな?大したものだ」

 「これが君達の限界ですか?大したことありませんね?」

 「んなわけないだろ?それにいくらお前が強かろうと、龍王二人に攻撃され続けたらいつかは尽きるだろ?じっくり殺してやるよ」

 「ほう、それは楽しみだな?」


 二人が互いの攻撃を受け止め合っている中、メネツェアは再度リアラ達に命を下した。


 「逃げれないんだったら、どこかに隠れててくれ。それにゼクスシード。お前はもう『ユニークスキル』を使っておけ」

 「わ、分かった」

 「メネツェア様、本当にお父さんを・・・」

 

 リアラには見る絶えない光景だった。

 自分の父が仲間である龍王と本気で殺し合いをしているのだから。


 もし、父が死んでしまったら?そしたら、残された私とお母さんはどうなるの・・・?


 リアラの頭の中で不安が覆い尽くすが同情の余地はなかった。


 「あのな、さっきも言ったが、あのままアイツを生かしておいたらこの世があぶねーんだよ。私情は捨てろ。心も体も弱かったアイツの自業自得だ」

 「でも・・・・・」

 「リアラちゃん・・・」

 「ゼクスシード、リアラをしっかり守ってくれ。殺されでもしたら、龍王の名を汚すことになるからな?」

 「は、はい」


 落ち込むリアラのの手を取り、急いでその場から離れると、その数秒後にベクトが引き下がってきた。


 「どうだ?」

 「ああ、問題ない。とにかくアタイらはアイツをどうにかしなきゃだな?」

 「何か策はあんのか?」

 「ハ、あるわけねーだろ!」

 「お前に限ってあるはずないよなー」


 策がまとまらないベクト達に容赦なく炎の攻撃魔法を繰り出してくる。

 それを二人が躱したところで、今のところの方針を固めた。


 「考えずに突っ込む方が俺達らしいよな?」

 「ああ、そうだな?」

 「それじゃあ、ガンガン突っ込むということで・・・」

 「作戦は決まったかな???」


 余裕の笑みを浮かべるテレナシアに、ベクト達はそれぞれが手に持つ武器を構えた。

 そして、ベクトの掛け声と共に二人はテレナシアに攻撃を仕掛ける。

 メネツェアは、移動しながら二丁拳銃で鉛弾を発砲し続ける。

 そうすることで、テレナシアの意識をわずかながら彼女の方へ向けることができるからだ。

 案の定、テレナシアは後ろで素早くうろつくメネツェアに向けて先ほどと同じ炎の攻撃魔法を繰り出そうとするが、その隙を与えないようにするのがベクトの役目である。

 ベクトは、片手斧を軽々とテレナシアに振り下ろし、流れるように連撃する。

 大抵のやつは怖気づくところだろうが、どうやらテレナシアの脳内には『恐怖心』という単語は保存されていないらしい。

 攻撃の手を緩めない龍王に引けを取らず、左手のバリアで銃弾を防ぎ、右手の氷龍槍でベクトの連撃を受け止め続ける。

 もはや素人業ではなく、プロでもできないほどの神業だった。

 テレナシアの顔から余裕の表情が消えていない。

 どうやらまだ彼女を追い込めてはいないようだった。


 「なかなかやるようだが、そろそろ本気を出させてもらう!」

 「ああ、君の本気をボクに見せてくれないかな?」

 「ふん、あとで命乞いでもするんだな!」


 ベクトは回避を促していたテレナシアの槍を大きく振り払い、そこに生まれた僅かな隙を見逃さないようにすぐさま攻撃転換を行った。

 今までの通常攻撃ではなく、魔法を使った攻撃だ。


 「『雷龍王』ベクトの名において、上級魔法を召喚する!」


 片手斧を大きく見せるように構え、その後ろには不可解な文字で書かれた魔法陣が。

 次第に片手斧の周りに黒い稲光が走り、そして、


 「くらえ!黒雷全断!」


 黒の稲光で覆われた片手斧が、テレナシアの心臓を連れ去ろうとするように横切りで彼女に襲い掛かる。

 なお、彼女の余裕の笑みは消えはしない。

 一瞬の状況判断で、テレナシアは雷系統のスキルを無効にするバリアを展開した。

 これでベクトの攻撃は一切受け付けないと思われたが、まるでバリアがなかったようにテレナシアへと直撃する。

 ベクトの攻撃力は相当なものなのだろう。

 こっそり身を潜むリアラ達を戦場へと駆り出すような勢いの衝撃波が部屋一体に広がった。

 

 「これで終わったな?冥土の土産に教えてやる。これが俺のユニークスキル『性合』だ。相手が発動させたスキルと相性の悪いスキルに変換する能力だ」


 ベクトには殺したという感触があった。

 片手斧は確実にテレナシアの体へと入っていた。

 煙でよく見えないが、真っ二つだろう。

 戦闘も終わり、ベクトは片手斧を引っ込めようとしたが、


 ・・・・・は?なんで?


 いくら引っ込めようとしても、全くビクともしない。

 まるで何かに引っ掛かっているようだった。


 「クソ!何に引っ掛かってんだ!?」

 「なるほど、これが君のユニークスキルか。なかなか面白いものだね?」


 そう言いながら、晴れていく煙の中から姿を現したのはテレナシア本人だった。


 「なぜだ!お前は真っ二つになったはずじゃ?!」

 「君は重大な点を見落としている。よくボクの胴体を見てみなよ?」


 テレナシアに言われるがまま、ベクトは視線を落としてみると、彼女の胴体が真っ二つどころか掠り傷すら入っていない。

 片手斧は彼女の人肌の直前で完全に静止していた。


 「クソガァァァァァァァァ!!!!!」

 

 テレナシアに致命的な一撃を食らわせようとするが、ビクともしない。


 「いきなり大声を上げないでくれないかな?びっくりして心臓が止まるかと思ったよ?」

 「お前!一体何をした!」

 「ボクは特に何もしてないよ?強いて言うなら腹筋に力を入れてたぐらいかな?」

 「舐めんな!!!!」


 ベクトはその状態のまま、再び上級魔法を召喚した。


 「雷電の獄!!!!」


 片手斧から雷の残骸のようなものが飛び出し、数秒もしないうちに百万ボルトの電流がテレナシアの体に一気に流れる。

 さすがのテレナシアも掠り傷では済まないだろう。

 だが、またしても無傷でベクトの攻撃を防いだのだ。


 「君の攻撃は本当に上級魔法なのかな?ボクの詠唱魔法とあまり大差ないよ?」

 「黙れ!!!そんなはずない!!!!」

 「だったら、見せてあげるよ。しっかり目に焼き付けといてね?」

 「そうはさせるか!!!」


 ベクトが「黒雷全断」を使用してから攻撃の手が止んでいたため、すっかり彼女の存在を忘れていた。

 メネツェアは実弾を二、三発撃ったものの、テレナシアはバリアを張ることなく素手で弾き切った。


 「は?マジかよ!」

 「君、わかったかい?今のは詠唱魔法の『硬化』だよ?」

 「嘘をつくな!魔法は詠唱しないと使えないんだ!お前の体に何か組み込まれてんだろ!!!」

 「んー、信じてもらえないとは困ったものだね?」

 「よそ見すんな!!!」


 ベクトに気を取られていたテレナシアの顔面に、メネツェアの膝蹴りが見事に命中するはずだったが、紙一重の所でテレナシアは回避をした。 

 メネツェアは中距離攻撃専門。迂闊に近づけば『死』は免れない。

 一度距離を置くメネツェアにテレナシアは、


 「君、今は少し邪魔だね?しばらくそこで大人しくしててもらおうか」


 テレナシアはメネツェアの方を呼びを指し、相手の動きを止めるのに最適な詠唱魔法を唱えた。

 それはいつしかの誰かがかけられた魔法であり、


 「ステイト」


 優しい響きと共にメネツェアの身体は身動きが取れなくなる。


 「グ・・・っ!貴様!」

 「あとでたっぷり遊んであげるから君はそこで待っててね?先に君のお友達とお話ししたいから」

 

 身動きの取れないメネツェアに目をくれずに、今のテレナシアの瞳にはベクトしか映っていなかった。


 「さて、邪魔者は消えたし、少しお話でもしようか?」

 「詠唱しないと魔法は使えないはずだ!だがお前は詠唱をしていない。何かしらのからくりがあるんだろ!」

 「からくり?そんなものはないよ?それより、君は詠唱を唱えないと魔法が使えないと思っているのかい?」

 「どういうことだ?」

 「君は根本的に間違えている。詠唱は、魔法を使いやすいようにするための工程に過ぎないんだよ?だからボクからすれば考える時間をくれるありがたい時間なんだよ?」

 

 魔法を使用するのに詠唱は不必要?

 全く信じられない内容だったが、彼女は詠唱を唱えずに魔法を使っているわけで。

 ベクトの頭の整理が追い付かない中、テレナシアはある提案を持ち掛けた。


 「そろそろ一対一で殺し合いをしないかい?ボクは君とサシで戦いたいよ?」

 「望み通り殺し合いをしてやる、といいたいところだが、片手斧をどうにかしてもらわない限りはな?」

 「敵にどうにかして欲しいって、君は面白いことを言うね?殺すのが惜しいなー」

 「だったら俺がお前を殺してやるよ」

 「まあそれは無理だろうけど、とりあえず彼女に掛けた魔法以外を解いてみることにするよ」


 テレナシアがそう言った瞬間、先ほどまでなかった片手斧の重みがずっしりと伝わってきた。


 「どうやら何かの魔法に引っ掛かってたみたいだね?ボクにお礼はないのかな?」

 「ああ、これでようやくお前を殺せるよ。ありがとな?」

 「嬉しくないお礼をありがとう、これでようやく楽しみながら君を殺せるよ。せいぜいボクを楽しませてね?」


 そして互いは、互いが持つ武器を相手に向けて身構え、一対一のデスマッチの準備を整えるのだった。

本日も最後まで読んでいただきありがとうございます!

ブックマークを付けてくださった読者様、本当にありがとうございます!

執筆のレベルを向上させるためにも、感想の方を頂けると助かります・・・

今後ともよろしくお願いします!

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