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メリーゴーラウンド

「これであとは、人がいなくなるという噂だけですね」


 噂になったアトラクション以外も見るかと、ウラビィは男に聞いた。


「今日はもう、色々あって疲れた。また今度にしたい」


 ここの異常に多少は慣れたため、日を改めて他のアトラクションも見てみたい、と男は思っていた。ジェットコースターは事故が起こる設定では二度と乗りたくないが、それさえなければ面白い。


「分かりました。帰る前に、メリーゴーラウンドに乗って巻き戻りが起こらないようにしましょうか。……リピーターになって頂けると、期待していますよ」


 観覧車からメリーゴーラウンドへ向かう間に、ウラビィは人がいなくなる事について話し始める。


 この遊園地は普通の表と異常な裏のアトラクションを、一つの施設で提供している。それを実現する上で重要になるのが、ウラビィらの提供する時空間操作だ。

 これを利用したアトラクションが多いだけではない。ある無いはずのスペースを作り出し、危険な物品を距離という壁を隔てて収容する。


 これらを設計製作する職人たちは、表と裏の機能を両立する事と裏の姿を隠蔽する事までは出来た。彼らに出来なかったのは、使用者の操作ミスを防ぐ事。


「当園のスタッフはミスが多いと言いましたが、これは彼らの注意が散漫というだけではありません。アトラクションの操作が複雑で、ミスを起こしやすくなっているんです」


 開園当初には行方不明や事故が多発し、普通なら警察の介入があるはずだった。


「ちょっと待て。ここについては多少調べたが、そんなに行方不明者が出たなんて話は無かったぞ」

「そのまま放置していたら、そうなっていたでしょうね」


 儲けは度外視してこの遊園地を作ったオーナーは、当然そのような事態を許容出来ない。そこで、メリーゴーラウンドの機能が利用される事になった。


「巻き戻して無かった事に出来るのは、乗った奴の死だけじゃないのか」

「少々特殊な使い方ですが、あれはいわゆるタイムトラベルにも利用できます」


 メリーゴーラウンドの持つ、時空間に干渉する強大な力。それを利用して、事故がそもそも起こらなかったと過去を改変した。

 ドリームキャッスルや観覧車でやったように、別の時間や異世界に行ってしまった来園者を元の時間、場所へと戻す。必要ならば記憶の書き換えもしていた。


「別の時間、場所へ行っただけなら面倒はなかったんですが。……一つ厄介な場合がありました」


 特定の時間や世界ではなく、その隙間。亜空間に放り出された場合は、過去改変が通用しない。正確に言えば、改変を行った時点で被害者が二人に分裂する。放り出されなかった被害者が新たに発生し、放り出された側はそのままになるのだ。

 こうなってしまった人間を亜空間から救出しなければ、根本的な解決にならない。


「最初にお会いした時、私がメリーゴーラウンドを回していた事は覚えていますか?」

「ああ、あれか。」


 彼らとこの世界とのつながり、縁をメリーゴーラウンドの引力で手繰り寄せ、この世界へと引き戻す。ウラビィはその為にアトラクションを動かしていた。

 それが行方不明者を全て把握しているのは、救出後の処理も担当しているからだ。


「まだ結構な人数が見つかっていません。オーナーが『噂は残しておきたい』なんて言うんで、後始末が大変ですよ」

「残る、というか残せるのか」

「可能ではありますが、とても面倒です。これだけ色々やっているんだから、ボスももう少し給料上げてくれれば、……失礼しました」




 男は再びメリーゴーラウンドに乗る。操作するウラビィの方を向き、木馬に腰掛ける形だ。


「まずしないとは思いますが、回転が止まるまでは絶対に降りないでください」


 最初に乗ったときには、こんな注意はされていない。何故かと問うと、本当に危険で取り返しがつかないからだとウラビィは答える。メリーゴーラウンドは回転を始めた。


「普通の人には分からないでしょうが、回転中のメリーゴーラウンドには膨大なエネルギーが集中しています」


 そのエネルギーは、アトラクションの外と中を隔てる壁のような形で存在する。最初に乗ったときは、それに触れても異世界や別の時間、最悪でも亜空間へ飛ばされる程度で済んだ。

 今のメリーゴーラウンドは、最初とは違い人を引き離す形で動作をしている。この状態でエネルギーの壁に触れてしまえば、その人間はいなかった事にされてしまう。


「その人はいないという形で世界が再構築されるので、行方不明にすらなりません。」

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